ひろむしの知りたがり日記

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皇居の門に名を留める忍者のボス・服部半蔵

2012年04月29日 | 日記
前回は徳川吉宗が創設した将軍専属の隠密、御庭番について書きましたが、江戸幕府に仕え、立身を遂げた隠密の先駆けといえば、なんといっても服部半蔵正成<まさなり>でしょう。

お父さんの半三保長<はんぞうやすなが>は、伊賀国(三重県)阿拝<あへ>郡服部郷の上忍(伊賀忍者の頭領)の家の出で、はじめは室町幕府第12代将軍足利義晴に仕えていました。それから三河国(愛知県)へやって来て、徳川家康のおじいさん松平清康に臣従し、以後、広忠・家康と3代に仕えました。

半蔵は天文11(1542)年、保長の5男として三河国に生まれています。初陣は16歳の時で、同国宇土城の夜討ちだとされています。ただしこの戦いは永禄5(1562)年というのが通説なので、誕生の年から換算すると、半蔵は当時21歳だったことになります。
彼は伊賀忍者6、70人を率いて城内に潜入し、見事武功を立てて家康から長さ7寸8分の持槍をもらいました。そうした働きぶりから考えると、16歳の少年だったというよりも、22歳の若武者であったと考える方が、自然なような気もします。
いずれにせよ、初戦でいきなり高ポイントを上げた半蔵は、その後も掛川城攻め、姉川の戦い、高天神城の戦い、三方ヶ原の戦いなどにおいて目覚しい活躍をし、勇猛果敢な戦いぶりから「鬼半蔵」と呼ばれました。


半蔵が優れた武将であったことは間違いないようですが、では、忍者としてはどうだったのでしょうか?

伊賀の上忍藤林長門守の後裔藤林左武次保武<さむじやすたけ>が著した忍術書『萬川集海<まんせんしゅうかい>』には、上忍は人に知られることなく巧みに任務を果たす者とあり、忍びの働きは音もなく、臭いもなく、名も知られず、勇名を馳せることもなく、その功は天地万物を創造した神の如しと書かれています。

痕跡を残さずに目的を遂げるのが忍者であり、半蔵が忍びとして優秀であればある程、当然のことながらそれを示すエピソードを残すことはないわけです。
強いて挙げるなら、竹庵という武田信玄の間者が徳川の家来になりすまして潜入しているのを見破り、討ち取ったという話が伝わっているぐらいです。


半蔵が家康の信頼を勝ち取ることになった決定的な出来事は、天正10(1582)年6月2日に起きた本能寺の変です。

家康はその時、信長に招かれて表敬訪問した後、和泉国堺(大阪府堺市)に滞在していました。信長の同盟者である家康も、言うまでもなく明智光秀軍の標的となりました。窮地に陥った家康を救うため、半蔵は伊賀者200人、甲賀者100人を動員して護衛の任にあたりました。そして峻険な伊賀の鹿伏兎<かぶと>峠を越えて、本国の三河岡崎へ無事帰国させたのです。

こうした功によって半蔵は遠江国(静岡県)に8,000石を与えられました。
家康はまた、逃避行に従った伊賀者200人を召し抱え、半蔵の配下に付けました。尾張国鳴海<なるみ>の地で取り立てたので、彼らは鳴海伊賀衆と呼ばれました。これが伊賀組同心の起こりです。
そして天正18(1590)年に家康が豊臣秀吉の命で関東に入国したのち、半蔵は江戸城の裏門である麹町御門(東京都千代田区麹町1)の外に伊賀組組頭として組屋敷を拝領し、先の伊賀者200人と与力(同心の指揮役)30騎の支配を任されました。
そのことに由来して、元江戸城である皇居西側の内濠に架かるこの門は、半蔵門と呼ばれています。甲州街道に直結し、万が一江戸城が陥落するような事態になった時、将軍は半蔵門から脱出し、甲州街道を通って幕府の天領である甲府に逃れる手筈になっていました。



上の写真は、門の北側の半蔵濠沿い設けられた千鳥ヶ淵公園から望んだ半蔵門の姿です。
現在も往時の姿を留める半蔵門は、さほど大きい門ではありませんが、半蔵濠と南側の桜田濠の間に挟まれ、周りを緑と水に囲まれた美しく穏やかな景観を有しています。

その佇まいからは、かつてのきな臭い役割など窺い知る由もありません。しかし皇居への出入り口の1つであるだけに、皇宮警察によって常に厳重にガードされています。


家康の信任厚く、武将として、忍びの頭領として抜群の働きをした服部半蔵ですが、彼の息子の代になって、服部家は悲惨な末路をたどることになります。
そのことについては、次の日記で詳しく見ていくことにしましょう。



【参考文献】
「角川日本地名大辞典」編纂委員会編『角川日本地名大辞典13 東京都』角川書店、1978年
国史大辞典編集委員会編『国史大辞典』第11巻他 吉川弘文館、1990年他
戸部新十郎著『忍者と忍術』毎日新聞社、1996年
清水昇著『江戸の隠密・御庭番』河出書房新社、2009年

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