(有)妄想心霊屋敷

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新転地はお化け屋敷 第四十九章 この恋路の終着点 九

2012-09-20 21:01:32 | 新転地はお化け屋敷
 …………。
 いやいやいかんいかん、だからってそれはないだろう。
 というわけで、どうしようもないあたしは今日の昼休みにさっちんが言っていたあの言葉を思い出していたのでした。
『そりゃ今みたいな話してりゃあ正直そういうこと考えないでもないし、そうでなくても寝る前くらいに――なんてのはやっぱ、まあ、なくはないんだよぶっちゃけ』
 風呂上がりのパジャマ姿でベッドの上に寝転がっているとはいえまだまだ寝る前というような時間帯ではないわけですが、しかし状況としてはほぼ同じというか、つまりはその、そういうことをしようと思えばできるテンションではあるのでしょう。
 ……ええ、テンションの問題なのでしょう。要はその、やらしい妄想を膨らませてしまうと、そういう話なんですし。
 みっちゃんだったら平時のテンションでもすらすら展開させるんだろうなあとか、そんなふうにも思いましたが、失礼なうえ大して話題逸らしにもなっていないのでそれについてはここまでにしておいて。
 今はこんなことを考えている場合ではありません。というか、意識してでもそういうことを回避すべきなのでしょう。なんせ明日はまた学校に行くわけで、それはつまりいつものように清明くんと顔を合わせる可能性があるというわけで、だったらあたしは、それまでに清明くんの顔を見ても平静でいられるようになっていなければならないのです。……いや、だって何事かと思われるじゃないですか。会った途端ににやにやされだしたりしたら。
 というわけで、やらしい妄想ではなくもうちょっと落ち着いた想像を膨らませてみようかと思います。ちょうど今日、うってつけの話題も出てきていたことですしね。
 ――付き合ってどうしたいか、どうなりたいか、どうされたいか。
「あたしは……」
 抱き締めていた枕を更に強く抱き締めつつ、栞さんから受けたその言葉を噛み締めます。
 あたしがもし、何の特別な事情もなくごく普通の成り行きとして清明くんを好きになっていたとしたら、今の時点でその言葉に返せる答えは一つもなかったでしょう。それ以前に、答えを返そうとすら思っていなかったかもしれません。
 でも実際にはそうではなく、あたしには特別な事情があります。特別な事情とだけ言うとなんだか良さげなものに聞こえてしまいかねませんが、もちろんそんなことはなくて、です。
 あたしは兄を亡くしました。
 あたしの好きな人は、父親を亡くしました。
 好きになってからそれを知ったならまだしも、それを切っ掛けに親しくなり、そうして付き合っているうちに好きになったのですから、切り離して考えるなんてとてもできはしないのです。したいとも思いませんし。
 と、そこまで考えを進めたところで、しないのはともかくどうして「したくない」のか、と自分に対して疑問が一つ。
 けれどそれは確認のためのものであり、なので回答は即座に用意できました。
 現状、あたしは清明くんとはそういう関係で居続けたいと思っているのです。そういう関係の延長線上に「好き」を置いておきたいと、そう思っているのです。もし付き合うことができたとしても今と同じように――そうなる頃には清明くんは幽霊がいるということ、あとあたしの兄と自分の父親のことを知っているはずなので、形が変わりはするでしょうけど――お互いのその「事情」を尊重し合うというか、そういう関係でいたいと思っているのです。
「…………」
 この理屈は結局、今の関係が心地いいからそれを崩したくない、というだけのことかもしれません。実際、付き合い始めたりしたら、そうも言ってられなかったりするのかもしれません。
「あはは」
 自分の考えが甘いものであるという自覚から、あたしはそこで笑いました。
 けれど、笑った後になってもまだ、その考えを捨てようという気にはなりませんでした。甘かろうが何だろうがこれが今のあたしの本音であって、本気なのです。清明くんとはそうありたいと、そういう関わり方で清明くんを好きで居続けたいと、真剣にそう思っているのです。
 甘い考えだから、という理由で本音を曲げるというのも、それはそれで甘いような気はしますしね。貫き通す努力くらいはしてみますとも、最低限。
 ――さて。
 それっぽい話を並べ立ててはいますが、しかし大元を辿ればこの話は「明日清明くんに会っても平静でいられるように」始めたものであって、ならばこの話をここで一区切りとするならその効果が出ていなければならないのですが、どうでしょうか。
 ちょっと清明くんのことを考えてみます。
 …………。
 あ、だめだ。「もじっ」てきた「もじっ」て。多分駄目だこれあたしまだ。
 …………。
 いや、まあ、でもそれだけではなくてですね? さっきまで考えていたようなことはなにもその場凌ぎ的なものではなくて、それはそれできちんと真面目に考えたことであって、だから無駄だったとかそんなことは全くないわけでしてね?
 というわけで、今暫く。
 もし、です。もし本当にさっちんが言う通り、清明くんの好きな人というのが実はあたしだったとして、じゃあ清明くんは、あたしのどこをどう好きになったのでしょうか?
 今日話した限りでは、清明くんは好きな女の人についてこう言っていました。
『その人にはすっごくお世話になってて、いっぱい優しくしてもらってて、そうしてるうちに……その、ええと、好きになってたんです』
 口籠り具合まで完璧に覚えてるなんて、一体どれほどショックだったんでしょうかあたしは。それが今では思い出してにやけそうになってるなんて――と、そんな話ではなく。
 その話はもしかしたらあたしを指していたのかもしれない、ということににやけそうになりこそすれ、でもその一方で、納得できない部分もなくはないのでした。
 お世話になってて、という部分です。その話を聞いた時にも自分に置き換えるならという形で考えはしたのですが、清明くんがあたしに対して「お世話になっている」なんて言葉を使うとすれば、それは清さんの話を聞いたり兄ちゃんの話をしたりということについてなのでしょう。
 でもあたしは、それを「お世話している」なんてふうに思ってはいないのです。楽しくて嬉しい、ただそれだけなのです。清さんの話を聞かせてもらえるのも、兄ちゃんの話を聞いてもらえるのも。
 特にお世話になっていなくても年上にはそんなふうに言う、とさっちんは言っていました。けれどそれについても、そりゃあ実際にはこちらが年上とはいえ、そこまで堅苦しく年上年下の関係ではありたくないというか、その発想自体が全くありませんでした。
 どっちだったとしても意外というか、正直に言えば心外なのです。つまるところ。あれが「お世話」だと思われるにしても、いかにも年上然とした扱いをされるにしても。
 ……でも残念ながら、現時点ではそのどちらかだとしか言えないわけでもあります。
 話がしたいなあ、と、そう思いました。もちろんのこと、清明くんとです。
 ついさっきまでさっちんと話をしていた携帯電話に目が行きました。が、あたしは清明くんの携帯の電話番号を知りませんし、そもそも清明くんが携帯を持っているかどうかすら把握してはいません。あまり守られていないルールというのが実情ではありますが、一応は携帯電話持ち込み禁止なんですよね、うちの学校。じゃあ外で会った時に訊いとけば良かったのにって話ではあるんですけど……まあ、毎度そんな発想に至る余裕がないというか、至ったところでそんなこととても訊けないというか。好きになる前だったら何の気もなしに訊けてたんでしょうけどね。
 ――訊いてみる? 次、会った時にでも。訊いちゃう? 訊いてみちゃう?
 ……あー、えー、いやいや今考えるべきはそんなことじゃなくて。余計にやけかねん話をしてどうすんだあたし。
 ともあれです。『すっごくお世話になってて、いっぱい優しくしてもらってて』の結果として好きになったというのならそれは、なんというかこう、あたし自身ではなくあたしと清明くんの立場の差を好きになられたというか、上手く言い表せませんがそんな感じなのではないでしょうか。別にそれがあたしである必要はなかったというか。
 あたしである必要はなかったというか。
「…………」
 そもそも好きな人があたしであると確定したわけでもないというのに自分で考えて自分でへこんでしまいますが、それが馬鹿らしいことだというのは自分でも分かっているので無理矢理スルーしておきます。
 だとすれば!
 と無理矢理気力を振り絞りつつ、だとすれば、です。もし本当に清明くんの好きな人があたしであったとしても、この現状はまだまだ満足に足るものではないということになりましょう。「お世話」を除いてしまえば特に好きになる要素はないなんて、それはとても手放しで喜べるような状況ではないでしょう。清明くん、好きな人については「お世話になってる」以外のことはあんまり話してませんでしたし……
『あ、そういえば怒橋さんって、何かスポーツとかしてるんですか? 部活とか』
 はっ!
『い、いやその……それっぽく見えるなって……』
 ああっ!?
『細くて綺麗ってことよねえ?』
 へああっ!
「え? へ、は、ええ? ももももしかしてあれってそういうことだった?」
 好きな人については確かに、「お世話になってる」以外のことはあんまり話していませんでした。けれど清明くん(と明美さん)は、あたしについてなら、そんなことを言っていたのです。そして今この場では、「もし清明くんの好きな人があたしだったら」という勝手な前提を盛り込んだうえで話を進めています。
 …………。
 やばい。
 にやけるどころじゃないぞこれは、まともに顔合わせられないかもしれない。
 だって――す、好きな人に綺麗って言うのとそうじゃない人に言うのとじゃ、全然意味違いますよね? 実際に言ったのは明美さんですけど、清明くん怒ってましたけど、でも否定はしてませんでしたし――ああ、ええ!? うそ、ホントに!? あ、あたしがききき綺麗って!? 清明くんが!? そういう意味で!?
「ええい! 落ち付け落ち付けそうじゃないだろあたし!」
 しつこいようですがこれは明日以降、もし清明くんと会っても平静でいられるようにとあれこれ考えを巡らせているわけです。それがどうですかこの体たらく、明日以降平静でいられるどころか今現在大興奮じゃないですかあたし。
 もしそうだったとするなら非常に、これ以上ないくらい嬉しいことなのは否定のしようがないわけですが、だったら今はそれを避けて通るべきなのです。嬉しいことだという結論だけを横目でちらりと確認する程度にしておいて、真正面から受け止めるとかましてやその中身に思考を及ばせるとか、そういったことは控えておくべきなのです。
「……ふう」
 というわけであたし、落ち着きました。抱き締めるどころかギッチギチに締め上げていた枕を一旦放し、普通に頭の下に敷く枕として使用し直します。
 落ち着いたのなら今度はどうするのかと言いますと、しかしさっきの続きなのです。清明くんの言葉を思い出して一人悶々とし――てはいませんがしそうになっていたのを受けて、じゃあ他にはどんなことを言っていたかなと。
『見掛けなくても気が付いたらその人のことばっかり考えてるんです、最近』
 ああ、これはパス。落ち着いた意味が無くなっちゃう。
 なんだっけ、確かこの後告白がどうとかいう話になって――。
『告白って、上手くいったら付き合うってことじゃないですか』
『お世話になりっ放しでいる間にそういうことになるのって、何か違うんじゃないかなって』
 ああ、言ってた言ってたこんなこと。お世話……うん、やっぱりそこだよなあ。なんとかしてこっちはそんなふうに思ってないってことを伝えられないかなあ。この話はあたしでなく「好きな人の話」だから、それと関連させられないのが難しいところだけど。
『いや、上手くいったらなんて、そんな想像をすること自体が違うのかもしれませんけど』
『好きな人がいるらしいんです、その人も』
『なのに僕なんかにそんな想像されるって、多分、その人からしたら嫌だろうなあって』
 ……もし清明くんの好きな人が本当にあたしだったとしたら、これについてはギャグを通り越して腹立たしくすらありました。
 とはいえそれは清明くんに対してのものではなく、だからといってあたし自身に対するものでもなかったので、誰にもぶつけようがないんですけどね。あたしと清明くんが置かれている状況に対してのものなんですし。
 腹立たしいということで当然いい気分ではないわけですが、けれど本来の目的を考えればこれはこれで良い調子です。なんて、慰めになっているのかどうかあたしにも分かりませんでしたけど。
 さてそれはともかく続きです。
 清明くんはその後、清さんと明美さん――自分のお父さんとお母さんがどれほど仲が良かったかを語った後、こんなことを言っていました。
『告白して、もし付き合えたりしたとしても、お世話になりっ放しのままじゃあそんなふうにはなれないんだろうなって。多分、そのままお世話になってるだけなんだろうなって』
 要するに清明くんにとって「異性と付き合う」ということは、自分の両親の在り方をその理想形とするものということなのでしょう。今から思いだすとこっちが恥ずかしいくらいだった、なんてことを言ってはいたものの。
 で、お世話になりっ放しのままじゃあそんなふうにはなれないと。確かにそうでしょう、絶対に無理です。清明くんが考えている以上に、それを「お世話」と称されるだけでこっちは気分を悪くする――というほどではないですけど、ちょっと引っ掛かる程度のことはあるわけですから。
「引っ掛かるとか、勝手な想像で何言ってんだって話ではあるんだけどね」
 自嘲の笑いを浮かべつつ、そんな一言を差し挟むあたしでした。もちろんのこと、それは言い訳のつもりです。分かったうえで言ってるんですよと、逃げ道を作っているだけのことです。
 それは逆に言って、そんな言葉を口にしなければならないほど、あたしはこの想像を信じ込み掛けているということなのでしょう。実際にそうである確率というものを度外視してまで。
「……いいか、今更」
 それを恥とするのならあたしはとっくに恥にまみれているわけで、だったら今更ここで立ち止まることには何の意味もないのでしょう。もちろん明日以降は「かもしれない」に戻さなくてはいけないのですが、少なくとも今この時点では、信じ込んでしまうことにしましょう。どーせここにはあたし一人しかいません。
 そうして気持ちを新たにしたところで、続きです。
 お世話をしているつもりはない、ということではあるのですがしかし、それをあたしのほうから主張したところで逆効果のような気はするのです。一応、事実としては、あたしのおかげで清明くんが清さんのことに前向きになれ始めたとか、そんな話もありはしましたしね。それだけを取り上げるならあたしからしても嬉しい話ではあったんで、そう強く否定なんかもしませんでしたし。
 ともあれ、ならばどうすればいいのか?
 うーん……否定するのが駄目ならこっちからすり寄ってみるとか? お世話になってるのはお互い様、みたいなことを言ってみて、お互い様だから貸し借り無しってことで、みたいに締めてみるとか?
「自分は最近そういう話をしても平気になった」ということを指して、「庄子さんは初めからそうだった」というようなことを清明くんが言っていました。しかし既に平気だからといってそういう話ができることが喜ばしいことであるのは変わりないわけで、そしてそれは多分、それと同じく最近はもう平気だという清明くんも身を以ってそう感じてくれていると思います。
 ということであるなら――ふむ、この案、なかなかいいんじゃないでしょうか? ぱっと思い付いただけにしては。そもそもあれはお世話じゃない、と思っているあたしとしては、妥協案みたいなものだったりしなくもないですけど。
 一応の最終確認ということで今一度「かもしれない」に立ち返ってみたところ、さっきもそこで引っ掛かったのと同じく、好きな人でなくあたしの話として「お世話になっている」という話に持っていくのは少々難しそうです。が、しかしまああたしと清明くんが顔を合わせればほぼ間違いなく兄ちゃんや清さんの話になるわけで、だったら自分から仕掛けなくてもいずれはそういう展開にもなりましょう。
「…………」
 そうやって時間の問題ということにしてしまえるのは、明確な答えを得たことによる安心感から、ということになるのでしょうか。だとすればそれはそれで、得るものがあったということにしておきましょう。一歩前進です。
 というわけで次、清明くんはあの時なんて言っていたかシリーズの続きですが。
『清明くんがお世話になってる――清明くんが好きな女の人は、そんな顔されるためにお世話してるんじゃないと思うよ』
 …………あれ?
『お世話になりっ放しなんて、そんな顔で言われちゃったら、その人にとってそれは絶対悲しいことだよ。他に好きな人がいるにしたって、お世話なんかするってことは清明くんを大事に思ってるんだと思うよ? その人』
 あれっ!?
『ごめんなさい』
『いや、あたしはいいんだけどね』
 ちょっと待ってよくないよそれあたしの話だよあたし!
「…………」
 部屋で一人、恥ずかしさから顔を手で覆うあたしがそこにはいました。
 清明くんはあの時なんて言ってたかシリーズの筈があたしの言葉ばかり思い浮かべてしまいましたがそれは今どうでもいいとして、あたし、好きな人に代わって怒ったつもりが自分に代わってたというか、それってつまり代わるも何も普通に怒っちゃってたってことですよね? これって。
 ええと、じゃあつまりそれって、清明くんの立場からだとどういうことになるんでしょうか?
 普通に怒られたってことですよね? これもまた。
「うわちゃー……」
 他の誰かに代わっていようがそうでなかろうが、それがあたしの本音であるという点についてはまあ問題はありません。少なくとも見当違いのものではないわけですしね。
 でもその好きな人があたしであるというなら、そしてそれを最初から知っていたとするなら、もうちょっと話の流れとかタイミングとか考えるべきところじゃないですか。あと心の準備とか。
 好かれているのが自分だなんて微塵も思わないまま好きな人に本音をぶつけてしまったというのは――実際、それで何がどうなるということでもないというのに、どういうわけだかでっかい後悔が発生するのでした。ぐふう。
 日向さんを指して「時々喧嘩もする」なんて話を栞さんから訊いてはいましたが、しかしそれは付き合い始めてからの話なのでしょう。付き合う前――正確には前の前くらいなのですが――からこんなことになるって、正直どうなんでしょうか。付き合いが長いのならそんなことの一度や二度はあるものなんでしょうけど、あたしと清明くん、ぶっちゃけまだ知り合ったばっかりなんですし。それに喧嘩ならまだしもこっちから一方的に怒ったなんて――と、それが「まだしも」なんて表現に相応しいことなのかどうかは、正直よく分かりませんでしたけど、それはともかく。
「相性悪い?」
 身体を反転させてうつ伏せになり、枕に顔をうずめながら、それゆえに開け辛くある口でもごもごとそんなことを呟いてみます。もちろん、返事をしてくれる人なんていませんけど。されるとしたら可能性があるのは今家にいるお父さんかお母さんなわけで、もしそんなことになったらちょっといろいろ無理ですけど。
「うう……」
 なんか割と深刻にへこんでしまいましたが、とはいえこんな調子でばかりはいられないというか、だからこそ気分を入れ替えなければならないというか、そういうわけで取り敢えずは話の続きを……しようと思ったのですが、あの時のあたしはその後、お手洗いに逃げ込んで軽く泣いた後、今と同じようにその気分を逸らすため、話題を兄ちゃんと清さんに移したのでした。
 というわけで実に宜しくないことに、清明くんはあの時なんて言ってたかシリーズはここで終わりです。こんなところで。
 ああ、あの時のあたしの馬鹿。思い込めとは言わないまでも、もしかしたら自分のことなのかもしれない、くらいは思っとけよぉ。……いやまあ、普通に考えたらそんな想定絶対しないだろうけどさあ。好きな人が目の前で言った「好きな人がいる」って話に該当するのが自分だなんてさあ。
「はあ」
 で、どうしましょうかこっから。

『あいよ~』
「単刀直入に言う、あたしを癒してくれみっちゃん」
『うわ~藪から棒にエロ~い~』
「ちょちょちょ」
 なんで考えるような間を一切挟まずにそんなリアクションができるんだあんたは。全くの想定外だったのに何を言っているのか即座に理解出来たあたしもどうなのかとは思いますけど。
 というわけで、みっちゃんです。慰めてくれとは言いません、癒しをください。
『で~? 癒してくれってからにはなんか傷付くようなことでも~?』
「それがさあ……」
 なんせ好きな人が誰かということに限らず勝手な想像だらけな話なのでちょっと説明に躊躇わないでもないでしたが、でもそれは結局、救いが欲しいという願望には及ばないのでした。
 というわけで。
『あ~らま~。いやいや~、もっと早く知ってればねえ~』
「へ? な、何を?」
 早く知っていれば何がどうなったというのでしょうか? みっちゃんは今日の昼休みに初めて清明くんと会ったばかりだというのに。
『わたしと同類だったんだね~。しょーったらも~、今までは恥ずかしくて言えなかったのかな~?』
「……いや、ごめんだけど、そればっかりは絶対違うと思う」
 みっちゃんのことは好きですが、自分がみっちゃんみたいになりたいかと言われたら、ねえ? 誠に失礼な話ながら。
『あっはっは~、じょ~だんだよもちろんね~。妄想の対象が自分な時点であたしとは別もんなんだしね~』
「そういや言ってたねそんなこと、今日の昼休みにも」
 自分なんか小説に出さないし、でしたっけ。
『そうそう~。だからわたしは何をどう妄想しても~、それで落ち込んだりは絶対にしないのさ~』
「ほー」
 普段なら「相変わらず個性的だなあ」とかそんなふうに思う話なのでしょうがしかし、まさにそうして落ち込んでいる今のあたしからすると、それは見習うべき話に聞こえてくるのでした。聞こえてくるだけであって、本当にそうなのかどうかまでは深く考えてないんですけどね。
『逆に興奮することはあるけどね~』
「いやいやいや。しちゃうの? そういう話」
『エロスじゃなくてエキサイトのほうだよ~?』
 …………。
「見事に引っ掛かった感じ? あたし」
『イエ~ス』
 口調が変わらないのはいつものことでしたし、表情もやっぱり変わってはいないんでしょうけど、でもみっちゃんは今電話口の向こうで喜んでいることなのでしょう。ううむ、悔しがるべきなのか恥ずかしがるべきなのか。
『まあでもこんな時間だし~、別に本当にそういう話しちゃってもいいけどさ~』
「いや……」
『例えばしょー、今どんな格好してる~?』
「え? パジャマだけど。もうお風呂入ったし」
『こっちはバスタオル巻いてるだけだよ~』
「……ごめん」
 どうやらタイミングが悪かったようで。


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