(有)妄想心霊屋敷

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新転地はお化け屋敷 第四十九章 この恋路の終着点 十一

2012-09-30 20:47:36 | 新転地はお化け屋敷
「どうしたいか、か……」
 つまり、そういうことなのでしょう。栞さんに言われたあの言葉の、これがあたしなりの答えの一つなのでしょう。
 付き合って何がしたいか。
 あたしは、清明くんと清さんの関係を元通りにするお手伝いがしたい。もちろんできれば何でもいいというわけではなくて、彼女という立場から、です。
 一つの答えを出せたということなら自然、残りの二つも気になってきます。
「どうなりたいか」と、そして「どうされたいか」。
 しかしたった今、一つ目の答えを出した時というのは、栞さんの言葉を意識していたわけではありませんでした。気がついてみたら答えに当たるものを思い付いていた、というか。
 案外そういうものなのかな、なんて思ったあたしは、ならばそれに準じてあまり意識せずに考えを進めてみることにしました。気にし過ぎて答えが出ないというならまだしも無理に出そうとして本心でないものを本心だと思い込んでしまったりしたら、という想像は、なかなかに背筋が冷えるものだったのです。
 清さんについてを考えてみたということで、今度は兄ちゃんの方を考えてみることに。清明くんにはこれまで何度も兄ちゃんの話をしてきたわけですし、それを抜きにしてもやっぱり実の兄ということで、清明くん側としても関わらざるを得ないところではあるのでしょう。関わらざるを得ないって、なんか嫌がられてるみたいな言い方ですけど。
 で。
 あたしが言うのもなんですが、あの見た目だけは威圧感があると言えなくもない兄ちゃんです。暑さ寒さが気にならないからって年中タンクトップはどうなのかって話ですよ、しかもあのゴツい身体で。
 そして清明くんは見た目通りに大人しい人です。そのうえ、最初のうちだけとはいえジョンを怖がっていたらしいことを考えるに、ちょっと怖がりなところもなくはないのでしょう。
 ――となると兄ちゃんなんか、ええ、いっそ「あまり近寄りたくない」なんて思われても不思議ではないと思います。中身はあの通りお馬鹿さんなので、ジョンと同じく最初のうちだけだとは思いますけどね。
 しかしさて、すぐに中身が露見して怖がられることもなくなるだろうとはいえども、だからといって時間による解決を待つこともないでしょう。というかその妹として、橋渡し的な役割くらいは買って出るべきなのでしょう。
 橋渡し。
 とはいっても兄ちゃんは既に清明くんのことを知っているわけで、だったら清明くんに兄ちゃんを紹介するだけという、一方通行の橋になっちゃうんですけどね――とそれはともかく、その橋渡しについてはまあ、そんなに気を揉むほどの難題ということもないのでしょう。本当に見た目だけなんですしね、問題になるとしても。あれで奥さんを幸せにしてあげられる程度の器量はあるんですし。
 さて本題はここからです。清明くんが兄ちゃん、つまりはあたしの家族と交流を持つことは、あたしにとってどうなのか?――なんて、まあ、いちいち考えるまでもないことではないといえばないんですけどね?
 嬉しいですよ、そりゃあ。違う意味とはいえどっちも……ええ、どっちも好きではあるんですから、その二人が知り合って仲良くなるというなら、もちろんのこと。
 でもそれは多分、というか間違いなく、あたしだけが嬉しがるような話でもないのでしょう。兄ちゃんと清さん明美さんにしたって、元から知り合いだったとはいえこう、新しい繋がりというか……それこそ家族ぐるみの関係ということになるわけで、だったら「元から知り合いだから別に何も変わらないよね」なんてことにはならないと思うのです。
 逆に元から知り合いじゃなかったら「家族の恋人の家族」とまで関わりを持つことはそんなにないのかもしれませんが――ううむ、どうなんでしょうねそこらへん。みっちゃんに訊いてみましょうか、明日にでも。
 で、さて。意識せずにという割にはここまで一直線に来てしまったような気もしますが、付き合ってどうなりたいかという話については、これがあたしの答えということになるのでしょう。
 清明くん清さん明美さんの三人、つまりは楽家の人達と改めて、かつこれまで以上の関わりを持ちたい――というとなんだか薄っぺらいというか綺麗事過ぎるというか、重要性があまり感じられないのですが、まあ今回の主題に即して言い換えるなら「恋人としてはもちろん、互いの家族を通じて隣人としても清明くんともっと深い仲になりたい」といったところでしょうか。そりゃやっぱり清明くんなんですもんね、メインターゲットというか……いや、もうそれでいいや。今更上品ぶった表現を探すこともないでしょう。
 というわけで言い直しますが、メインターゲットは清明くんなんですから、できるだけ深く関わりたいわけです。「恋人」以外の関係だって持てるなら持ちたいのです、できるだけたくさん。
 そういったところで残りは一つ、付き合ってどうされたいか、です。
 いやまあ、今回も前二回と同じくあんまり意識しないようにはしてみるわけですが……なんていうか、ねえ?「あたしが清明くんにどうされたいか」って、なんかもうこの時点でやらしい雰囲気が醸し出されてませんか? あたし、何されちゃいますか?
 というわけなので、「意識しない」からはやや「意識して意識しないようにする」側に傾いたような状態で考えを進めることになりました。こればっかりは人間の精神というものの限界でしょう。多分。
 えー、清さんの話と兄ちゃんの話が終わって、そこから更に家族ぐるみのお付き合いというような話まで進みました。が、忘れてはならないというか忘れようがないのですが、家族ぐるみのお付き合いという割には二人ほど欠けている人がいます。……いや、今だともう三人ということになるでしょうか?
 ともあれ、その二人というのはあたしのお父さんとお母さんです。ちなみに後から思い付いた三人目というのは成美さんなのですが、しかしどうでしょう、同じ扱いにしようとしたところでそうなりようがない気がしないではありません。というのも、お父さんお母さんと成美さんは共に、それぞれ別の事情のほうが強いのです。
 成美さんの場合は、もちろんのこと清さんや兄ちゃんと同じく幽霊であるということです。実は元猫だという話もまあ――まあ、関わってこないということもないのでしょう。猫じゃらしに弱いことくらいしかそれっぽさがないので、普段はあまり気になりませんけど。
 で、対してあたしのお父さんお母さんですが、こちらは事情がないのが事情というか、つまり世間一般でそう思われているように「幽霊なんか本当にいるわけがない」という立場の二人なのです。いや、別に「幽霊って本当にいると思う?」なんて尋ねたりしたわけじゃないですけど、尋ねるまでもなくそうなのでしょうやっぱり。
 ここで少し兄ちゃんの話をしますが、兄ちゃんがあたし達の家に戻るのではなくあまくに荘に住み始めたのは、あたし達から離れようとしたからです。もうちょっとキツい言い方をすれば、あたし達と関わらないようにするため、でしょうか。
 結局のところあたしだけは関わってしまいましたが、どうして兄ちゃんがそんなことをしたのかというと、そこはさっきの話です。幽霊が世間一般では存在しないものとされているからです。
 皆までは言いませんが、まあ、白い目で見られるくらいのことはするのでしょう。存在しないものと関わっていれば、いずれは。
 あたしはあたしの我儘からそんな兄ちゃんの配慮をぶち壊しにしてまであまくに荘をちょくちょく訪れていますが、でもやっぱり兄ちゃんの気持ちも分かる――分かっているつもりなので、お父さんとお母さんまでこちらに引き込もうとは思っていません。自分だけ我儘通しといて何を、と自分でも思わないではないですけど。
 ともあれ、で、ならば何がどうなるか。
 清明くんとあたしが付き合い続けていれば、いずれ清明くんはあたしのお父さんお母さんとも関わりを持つことになるでしょう。けれどお父さんとお母さんは幽霊というものに全く触れていないし触れさせられないわけで、だったら二人には伝わらないわけです。清明くんのお父さんのことは。
 父親を亡くした親一人子一人の家庭。お父さんとお母さんからすると、清明くんはそういう事情を抱えているということになるわけです。実際とは違って。
 あたしはそれを清明くんに強いらなければなりません。……ええ、誰が強いるのかと考えれば、それはやっぱりあたしなのでしょう。あたし達家族から離れようとした兄ちゃんではなく、何も知らないまま暮らしているお父さんお母さんでもなく、それを強いることになると分かったうえで清明くんと付き合っている(付き合いたいと思っている)、あたしなのでしょう。
「きっついなあ……」
 今現在ついている嘘。それが解消したと仮定しての想像だというのに、また別の問題が出てきてしまいました。しかも付き合うとなったら絶対にこうなる、回避不可能な問題でした。
 清明くんは、それを受け入れてくれるでしょうか?
「…………」
 多分、受け入れてくれるんだと思います。希望的観測でなく、大人しくて優しい清明くんの人となりを鑑みるに。けれど、だからといって素直に喜んでいいということでもないのでしょう。人となりを鑑みてそういう結果を思い描いたということは、人となりにつけこんだということになるわけですからね。もちろん、敢えて悪い言い方をするなら、ということではあるんですけど。
 で、ならば今度は立場が逆転するわけです。
 あたしはそれを受け入れられるだろうか、という話になるわけです。
 ……まあその、あまり遠い将来のことまで具体的に考えるつもりはありませんが、一生ものの話ということになります。あたしと清明くんが付き合い続ける以上、清明くんはあたしの両親と関わり続けることになるわけですしね。
 一時だけの話であればまだよかったのですが、そうなってくると深刻にならざるを得ません。あたしの話であるならまだしも、これはあたしが清明くんにそれを強いるという話なのですから。
 となると、こんな考えも頭をよぎってしまうわけです。
 あたしと付き合うということは、清明くんにとって良いことではないんじゃないだろうか?
 と。
 ――なんてことを考えてもあたしはまだ清明くんと付き合いたいと思い続けているわけですが、どうしてそこまでと言われれば、好きだからです。細かい話をしたところでそれらは「好きである理由」でしかなく、ならば必要のない説明ということになるのでしょう。
 好きだから。
 それだけです。それだけのためにあたしは、清明くんに不都合を押し付けようとしているということになります。誰がどう見たってそれは我儘でしかないわけですが、だったらそれは果たして、許されることなのでしょうか?
『押し付けがましいなんて言っちゃったら、好きって気持ちなんかまさにそれだよ?』
 思い浮かんだその言葉は、今日、栞さんに言われたものでした。言われたその場でも「ああそうかも」程度に納得してはいましたが、今ではもう、胸に刺さってくるほどはっきりとその言葉を理解できてしまうのでした。
 ――が。
 が、です。それがあたしにとって悲観すべき話であることに間違いはありませんが、でもだからといって、悲観するばかりの話ということもないのではないでしょうか。だってあの時、栞さんはそれを嬉しそうに語っていたんですから。自分だって日向さんとあたしが知らないいろんなことを押し付け合っているだろうに、平気でそんなことを話せていたんですから。
 ……押し付け合う。
「あ」
 そういえばそうでした。栞さんが話した時にもそんな話になりましたが、これは一方的な話ではなく、お互いにそうし合うという話でした。
 ならば、今回のこれが「もし付き合えたら」という仮定のもと進められている話である以上、この話の中ではあたしと清明くんは好き合っているわけです。
 と、いうことは?
「……うわー」
 さすがに自分本位な考えに過ぎてあたし自身引いてしまいましたが、こんなふうには考えられないでしょうか。
 あたしにこんな悩みを抱かせてでも付き合っていたいと、清明くんはそう思ってくれている。
「……うわー」
 もう一回引きました。可能性の話としてはアリだとしても、こんなこと、絶対に自分で考えるようなものではありません。
 でもやっぱり可能性の話としてはアリである以上、あたしとしてはそれにすがりたくもあるのです。今のところそれが唯一の、前向きに事を進められそうなシミュレーションなのですから。
 でもそれってただ好かれてるってだけじゃ足りないよね――とそりゃまあ弱気にもなろうというものなのですが、しかしそこで思い出したことがありました。
 付き合ってどうされたいか。
 ……いや、意識しないようにということではあったにしても、忘れちゃいけなかったんでしょうけどね?
 で、それに対する答えですが、
「もっと好かれたい」
 口にしてみました。
「…………」
 ちょっと後悔しました。
 でもそれは嘘ではなく、ならばまあ本心ではあったわけです。
 好き合っているから付き合って、付き合っているうちにもっと好き合う。現実に即しているようでいて夢見がちな話であるようにも聞こえる理屈でしたが、しかしどうやら今のところ、あたしはそれを目指さなければならないようでした。
「あっちから告白させりゃいいじゃん、か」
 みっちゃんの言葉を思い出すあたしでした。付き合った後にそれまでよりもっと好き合う、という話であって、そんな告白以前の話ではなかったのですが、でも、それくらいの気概で臨んだほうがいいんだろうな、なんて。
 それはともかくさてさて三つの答えが出揃ったところで、と気持ちを切り替え、枕に顔をうずめた状態から再び仰向けに。なんとも落ち着きがありませんがそれはさておき、改めて三つの答えを思い浮かべてみます。
 付き合ってどうしたいか。清明くんと清さんの関係を元通りにするお手伝いがしたい。
 付き合ってどうなりたいか。隣人としても清明くんともっと深い仲になりたい。
 付き合ってどうされたいか。もっと好かれたい。
 ……後になるほど単純になっていくというのは我ながらなんだか間が抜けた感じでしたが、しかし別にこの三つは順番がどうのこうのという話ではないので、ならばこれについてはたまたまそうなっただけということにしておいて問題はないでしょう。
 で、もちろんながらこの三つの答えというのは「今の段階ではこう思う」という程度のものであって、何があってもそれらに固執しなければならないとか、そういう話ではありません。そりゃあ実際に付き合うなんてことになったらいろいろな状況が一変するわけで、だったら考え方の一つや二つ、あっさり変わるぐらいのことはするんでしょうしね。そうでなくたって「一変した状況に合わせるべき」なんてこともあるかもしれませんし。
 ――なんてことを考えながらあたしが思い浮かべていたのは、これまた兄ちゃんなのでした。丸くなりましたもんね、成美さんと付き合い始めてから。しかも成美さんに対してだけというなら「そりゃそうだ」で済んでしまいそうなところですが、そうじゃなくて他の人に対しても、なんですしね。
 それについて、張り合いが無くなった、なんて無理に残念がることもできなくはないですけど、それが成美さんと一緒になった影響だっていうならあたしにとってはやっぱり嬉しいことです。なるべくしてそうなったんだなあというか。
 となると、あたしもそんなふうになりたいなあ、なんて。いや、こればっかりはもうただの憧れでしかないわけですけど、好きな人と付き合っていく中で自分が変わっていくって、もっと言えばいいほうに変わっていけるって、なんだかよさげな響きじゃないですか。そんなもん付き合うどころか告白すらしてない段階で考えることじゃねえだろっていうのは、否めないところではあるんですけど。
 ――まあだからといって変わる前、つまりは兄ちゃんと成美さんが付き合い始める前までのあの顔を合わせれば口喧嘩ばかりしていた頃のことまで憧れるわけじゃないですけどね、そりゃ。あたしには似合うかもしれませんが(なんて自分で言うのもどうかと思いますけど)、清明くんには無理があるでしょうしね。もちろん勝手なイメージなんですけど。
 ……話を戻して三つの答えについてですが、それらが「今の段階ではこう思う」というだけの話であることは間違いないものの、でもだったら少なくとも今のあたしは、それに従って行動するしかないわけです。『人間なんてまず頭で考えなきゃ行動できないわけだしさ~』なんて言ってる人もいましたしね。
 ということであるなら、あたしは明日からどうすればいいのでしょうか? どういう行動を取れば、三つの答えに沿うことができるのでしょうか?
「ふむ……」
 清明くんと清さんの関係を元通りにするお手伝いがしたい。これについては、今すぐどうにかできるというものではないでしょう。清明くんが幽霊のこと、そして清さんのことを知ってからの話です。
 では残る二つですが、
 隣人としても清明くんともっと深い仲になりたい。
 もっと好かれたい。
 これらは今からでも何とか働きかけようがありそうです。「もっと好かれたい」というのは恋人として付き合い始めた後それ以上に、という話ではあるのですが、その下地作りとか、そんな感じでなら。
 そこで目についたのは、さっきまで友人二人と繋がっていた携帯電話。そういえばいろいろ考えてる途中で同じことを思い付いていたような気もしますが、
「訊いてみよっか、携帯の番号」
 前回は「してみるかどうか」といったところだったように思いますが、今回はもう決定なのでした。別にメールアドレスでもいいですし、そもそも携帯を持ってないとかだったら自宅の番号でもいいですし。それだと場合によってはご家族の迷惑になったりするかもしれませんが……まあ、明美さんなら、囃し立てこそすれその逆はって感じですしね。それでも清明くんとしてはしんどいかもしれませんけど。
 ともあれ、電話一本でも構いません。今は繋がりを増やすべきです。いろいろ都合のいい想像をしてきましたが、そもそも清明くんの好きな人があたしであるということからして想像でしかないわけですしね。好かれているならもっと好かれるために、そうでないならまず好かれるために、あたしはこれまでよりもうちょっとだけ、清明くんとの関わりを強めてみようと思います。
 あたしと清明くんが好き合って付き合って、そしてそれを通じて互いの家族が、今よりもっと幸せになる。
 目標は、そんな「都合のいい想像」の終着点です。
 今のところは、ですけどね。


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