(有)妄想心霊屋敷

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新転地はお化け屋敷 第十三章 侵入者くんの事情 四

2008-04-09 20:58:51 | 新転地はお化け屋敷
 何不自由なく平和に暮らしてきた、と言えば聞こえはいいけど、ちょっとだけ寂しい気もした。
「大丈夫だよ。それが無くたって、孝一くんがみんなと仲良くなったのには変わりないから。……もちろん、栞も大好きだよ。孝一くんの事」
「は、はい」
 他のみんなとは違う意味が込められているのは、言うまでもなければ言われるまでもない。言っておいて恥ずかしいのか、もぞもぞと姿勢が落ち着かない様子の栞さんは、とてつもなく可愛らしかった。
 が、今はそんなのろけ論を展開する場面じゃない。本当ならそこからもうちょっと話を展開させたかったところだけど、
「僕もですよ」
 現在の話題を考えて、そう短くだけ返事をしておいた。これだけでものろけてるような気がしなくはないけど。
 それに対して、若干恥ずかしそうだった栞さんはにっこりと表情で相槌を打ってくる。そしてそれにより会話に間が生じると、栞さん、こほんと咳払い。
「話、戻すね」
 僕は頷いた。そして、栞さんの話が再開される。
「孝一くん、覚えてるかな。ここに来た最初の日、楓さんに言われた事」
「と言うと?」
 ここに来た最初の日。あの日の事は、忘れられる筈もない。なんせ引越し初日の緊張に加えて幽霊というものを初めて知った、心的にとても忙しい日だったからだ。
 では、あの日のどの話でしょうか?
「幽霊が、意外とたくさんいるって事」
「ああ、はい。言われました言われました」
 まだあの日から一月経ってないとは言え、懐かしい。あの時のフレンドリーな説明があったかこそ、みんなと何の違和感もなく打ち解けられたんだろうな、と今になると思う。
 これはますます家守さんに頭が上がらないな、と思いつつ、そのおかげもあってかなりの勢いで打ち解けられた目の前の女性に対して「それでそれで?」とも思う。
「だからね、清さんが清明くんから距離をおいても、それで解決ってわけじゃないの。幽霊ってたくさんいるから」
「それは……確かに、そうですね」
 清明くんは幽霊を見る事ができない。清さんの奥さんは見える人だけど、そこは僕と同じで、普通の人と幽霊を見分ける事はできないだろう。――つまり清明くんは、幽霊を避けるすべがない。
 もっともそれ以前に、幽霊が本当に存在するという事すら知らないみたいなんだけど。
「でも清さん、それは仕方がないことだからって言ってたよ。どこへ行っても普通の人がいるのと同じで、どこに行っても幽霊はいるからって」
「……清明くんはその、治らないんですかね?」
 仕方がないのも、どうしようもないのも、理解できた。でも、それだけで諦められるだろうか? 僕から見たって可哀想に見えてしまうあの痛々しい光景を、それこそ父親である清さんから見た時、「仕方がない」でそれを済ませる事ができるのだろうか?
 恐らくはそんな考えを反映した陰りのある顔をしているであろう僕に、しかし栞さんはぱっと表情を明るくした。
「あ、それはね、時間が経てば良くなるんだって。今すぐ治すっていうのはちょっと無理みたいなんだけど、清明くんの体が幽霊に慣れればそれで治まるって」
「それは、家守さんが?」
「うん」
 こういう事態で頼りになるのは、やっぱりあの方。このあまくに荘の管理人であり、かつ我等が敏腕霊能者である、無闇にナイスバディな家守楓さんその人です。敏腕って部分は自称ですけど。
「かなり遅くても大人になるまでには治ってるらしいから、清明くんはもう、いつ良くなっても変じゃないんだって」
 そう言われれば「それは良かった」と言いたくなるところですが、そこでふとあの出来事を思い返してみると、素直にそうは返せませんでした。
「そうなんですか? 清明くんのあの痛がりっぷりは、とても治りかけには見えなかったんですけど……」
 もちろん、こんなのはただの素人考えだ。僕の疑問なんかがその道のプロ、家守さんの出した結論に影響を出すとは思えない。だけどその家守さんが今ここにいなくて、しかもその代わりにいるのが栞さんという事もあってか、そんな質問を口にするのにためらいはなかった。
 なんとなく――ごめんなさい、家守さん。
「あっ、あ、あれはね」
 家守さんに謝ってみたところ栞さんまでもが、謝りたくなるようなやや沈んだ表情に。
「ほら、あの時、栞達みんなが清明くんに駆け寄ったでしょ? 幽霊が急にたくさん集まっちゃったから、そのせいだと思う」
 言われてあの時の事を思い返してみれば――最初、近くにいたのは僕とジョンと成美さん。つまり、幽霊は一人だけ。その時は軽く頭を抑える程度だったけど、それを見て栞さんと大吾とサタデーが集まった。これで幽霊は、合計でいきなり四人に。そして清明くんは叫び声すら上げながらその場に伏せってしまって――確かに、栞さんの言う通りらしかった。
「『ごめんなさい』も伝えられないのって、ちょっと嫌になるね。あはは」
 栞さんが笑う。ただし、力無く。
 でもそれは、誰を責めるべきでもない結果の筈だ。あの時点で誰も目の前の男の子が清明くんだって気付いてなかったんだし、だったら「近寄るのは避けておこう」なんて考えには、到底及ばない筈だから。
「そう思ってるだけ充分、って事にしておかないと仕方ないですよ。こればっかりは」
「うん……」
 首を縦に振る、と言うよりは力が抜けて垂れる、栞さんの首。言葉では肯定しているものの、もちろん納得はできないのだろう。
 人柄の良さが仇となるというのは何ともこう、どう声をかけていいものやら難しい。
「声は一つも掛けられないのに、痛い思いだけさせちゃって。……みんなが孝一くんや楓さんみたいに、幽霊が見えたらいいのにね」
「そうですね。本当に」
 僕は幽霊が見える。その事はつい最近になって初めて判明したんだけど、しかもその際驚いて気絶までしたけど、とても良い事だと今は思う。
 だから、それが当たり前だったら。
 誰もが幽霊を見る事ができて、誰もが最初から「自分は幽霊が見える」と常識として知っていれば、ここへ来てからの僕のようにもっと楽しく過ごせるのではないだろうか?
 ――無論、そんなのはただの夢物語だ。突っ込みどころが多々あるのも分かってる。だけど今はそう考え、栞さんへ頷いて見せた。
「あっ……」
 すると栞さんは小さく声を上げ、顔を伏せる。一見すればそれは、何かを恥ずかしがって俯いた時のような動きだった。……だけど、そうではない。
「ご、ごめん。ごめんね、孝一くん」
「いえ……」
 栞さんの目から頬にかけて、一筋の透明な線が伸びていく。
 それはもう、何度か経験済みの事態だ。泣く場面ではないところで栞さんが泣きだしてしまうというのは。
「こんな時に何言ってるんだろうって感じだけど、孝一くんが」
 流れる涙を手で払うと、潤んだ瞳ともに、そんな上ずった声をこちらへ向ける栞さん。そしてそこでしゃっくりのような大きな息継ぎをし、
「孝一くんが、見える人で良かったなって。そう思っちゃったら……」
「それはまた、今回は随分テクニカルですねぇ」
 こうなった時に僕は、一緒になって沈み込まないようにしている。と言ってもそれを意識してるわけじゃなくて、毎回なんとなくそうなってしまうだけなんだけど。
「あはは、そうだね本当に。清明くんの話だったのに、こんなこじ付けみたいな理由で泣いちゃうなんてね」
 その「こじ付けみたいな理由」という栞さん自身の認識が幸いしているのか、涙を流してはいるものの、それは笑って返事ができる程度のもののようだった。場合によっては嗚咽しか発せられなくなるほど本格的な泣きに入ってしまう事もあるんだけど……一応、一安心。
「何か、顔拭けるもの持ってきます」
「あ、ありがとう。じゃあティッシュ一枚、貰えるかな」
 こういう時は黙ってハンカチを差し出すのが定番なんだろうけど、あいにく僕のポケットにはそんなものが入っている事はありません。もし入っているなら、今まででこうなった時に差し出してますって。
 ――なぁんてふざけた事を考えてられるのも、今回の栞さんの落ち着きようがあってこそ。
 そのおかげで、僕の背後にあるテレビ、その隣に置いてあるティッシュの箱への一歩半を歩み寄りながら、「余裕があると、泣き顔も結構可愛いく思えるなあ」なんて事すら。
 泣いてる本人を目の前にして言っていい事なのかどうかは難しいので、言いはしませんが。
「どうぞ」
「ありがとう」
 気楽な心地のままティッシュを栞さんに渡した僕は、その隣へさも最初からそうだったように腰を落ち着ける。そして栞さんも、最初からそうだったように何も言ってこなかった。
 渡したティッシュは端を揃えられて綺麗に二つ折りにされ、栞さんの目元へ押し当てられた。水分を吸った箇所からじわりと半透明になっていき、最後には丸められてゴミ箱へ。
「もう大丈夫……かな。えへへ、お騒がせしました」
「いえいえ」
 テーブルを挟んでいた時よりぐっと近くなったその笑顔は、相変わらず場を和ませる。
 今回はさっと治まったけど、これがどんなに深く泣いていたとしても最終的にはこうなれるのだから、栞さんは結構凄い人だと思う。引きずらないと言うか、立ち直りが早いと言うか。
 もちろん、そもそもの「泣いてしまう原因」はずっと引きずっているわけだけど、それについては言いますまい。根の深さが段違い過ぎる。
「手、繋いでいい?」
「はい」
 それは今のこの状況にはふさわしくない振舞いのような気もするけど、それを言うなら栞さんの隣に座った僕だってそうだ。つまり、理屈がどうあれ僕は「そういう振舞い」を望んでいるのだろう。
 という事で、栞さんの提案にあっさりと頷いた僕は、開いた手を差し出した。
「話、脱線してばっかりだね」
 手を重ね合わせておきながら、悔いるような半笑いを浮かべる栞さん。
「悪くはないですけどね」
 確かにその通りですけど、別に急いで話すべき話でもないんだからいいんじゃないでしょうか? と半分でないただの笑みを浮かべる僕。
 どうやら、「場をわきまえない度」は僕のほうが上なようで。
「そう? でも、元に戻すね。また脱線するかもだけど」
「どうぞどうぞ。どっちも歓迎です」
 ふざけ半分にそう返すと、栞さんは表情を緩ませ、空いているほうの手を口元に運ぶ。その手の向こうから漏れてくる「くすくす」という声からして、どうやら今度の笑いは半分ではないらしい。
「こういう時の――栞を慰めてくれてるかもしれない時の孝一くんって、やっぱりちょっと変だなあ」
「……僕が変って言うのは、まあ置いておきましょう。で、『かもしれない』って何なんでしょうか?」
 笑いを隠さないまま声だけを呆れさせる栞さんへ、あからさまに不審がった表情を向けてみる。
 しかし栞さんは動じず、「だって変なんだもん」と一言だけ。
 その一言に対する更なる物言いは、「じゃあ、長引いちゃう前に話戻すね」とその暇を与えられなかったので口にできず仕舞い。なんとなく負けたような気分に陥りつつも、仕方がないので素直へ耳を傾ける事にした。
 そして、それまでの楽しげな表情から少しだけその気を抜いたような、穏やかな雰囲気を作り上げた栞さんの口が開く。
「えっとさ、清明くんは幽霊の事を知らないって言ったよね? お昼に」
「ええ、聞きました」
「どうして教えないんだと思う? お父さんが、清さんが幽霊だっていうのに」
「えーっと……」
 ここへ来て問答形式になるとは思っていなかったので、返答をするのに多少の準備時間を要してしまった。
 そしてそんな時間を消費して出した答えというのが、
「見えない人にそれを伝えるのは難しいっていう……?」
 こんなどこか覚えのある内容なのでした。
「うん、それもあると思う。前に公園で異原さんに会った時も、そうだったもんね」
 どうやら栞さんの記憶にも残っていたようで。
 そう、あれは栞さんとチューズデーさんと僕の三名でやたら大きな公園に出掛けた時の事。幽霊が見えないながらもその存在を感知する事ができるおでこ丸出しの先輩に、栞さんとチューズデーさんの存在を教えるかどうかといった問題になった時の話。その時に今僕が言った意見が出て、「教えない」って事になったんだよね。
 ――だけど、それ「も」なんだそうで。
「でもほら、そうなったとしたら清明くんに教えるのってお母さんになるでしょ? ちゃんと説明すれば、すんなりとはいかないだろうけど分かってもらえると思うの」
「ああ、それは……そうですね」
 そうだ、僕と異原さんの時とは違う。あの時はまだ初対面で赤の他人も同然だったけど、清明くんと清さんの奥さんなら「何言ってるんだこの人?」とはならないだろう。
「それでね、本当の理由は、『社会的に言えば幽霊はいないのが普通』だからなんだって」
「あぐ……」
 聞いた瞬間、妙な声が勝手に喉の奥から漏れ出した。その時自分がどんなに気まずそうな顔を栞さんに向けていたのかは想像したくもないけど、
「大丈夫。栞だってそのくらいは分かってるから」
 それを察して声を掛けてくれる栞さんは、穏やかな表情のままだった。
 僕は、まるで何かに怯える子どものような心境で、繋いだままの手に込める力を少しだけ強くする。すると栞さんも、同じくらいの力で握り返してくれた。
「変になったり、優し過ぎたり、極端だよ。孝一くんは」
 そう笑い掛けられているのに、笑い返すこちらの声は掠れる。
「ですか、ね」
 ――これを、こんなものを優し過ぎると言うのなら、それに微笑み掛けてくれる栞さんはそれどころじゃない気がする。「いないのが当たり前」だなんて、事実であっても言われていい気がする言葉じゃないのは確実なのに。
「ああ、駄目だなあ。どうしても話が脱線しちゃうよ」
「……すいません」
「まあ、今のが話の最後だったんだけどね。だから――」
 顔だけこちらを向いていた栞さんは、手を繋いだまま体全体をこちらに向けた。
 繋いでいない方の手を床につき、それを支えにして腰を浮かせ、上体をこちらに伸ばしてきた。
 僕は微動だにできない。
 栞さんの顔が僕の顔に近付いてくる。
 そしてそのまま。
「――だからここからはもう、変だったり優し過ぎたりする孝一くんは大歓迎だよ」
「あ、あ、えっと、はい」
 初めてだというわけでもないのに、ほんの僅かな間だけ重なっていた唇の感触に動揺を隠し切れない。そんな情けない僕を見て、栞さんはいつものようににこにことしていた。


 キスをしたからと言っていつも以上にイチャイチャし始めるという事も(やや残念ながら)なく、清さんと清明くんの話の感想や、何の損得もない日常会話。あとはテレビを見たりなんだりで、一時間ほどがあっと言う間に過ぎてしまった。
「じゃあ、また明日ね」
「お休みなさい、栞さん」
 ――そして、今日もこの時間になる。門下生またはお客さん交えた夕食を終え、そこから立場を恋人に変更したお客さんの一人を見送り、あとは風呂に入って寝るだけの時間に。
 という事で、風呂を沸かしてる間にまたテレビでも見ますかね。


 そうしてテレビを見る――と言うよりはぼけっと眺めているだけの間、僕は栞さんとの遣り取りを反芻していた。どの辺りの遣り取りかと言うと、キスから後の部分。つまり、清さんと清明くんの話が終わった後。

「さっきの『それくらいは分かってる』っていうのは、やっぱり実体験からなんですか?」
「んー、そうだね。誰かからそう言われたってわけでもないし」
「何があったかはわざわざ訊きませんけど、その時、辛くはなかったんですか?」
「そりゃあ、ちょっとはね。でも栞には――ううん、みんなには、ここがあるから。外の人達が栞達を『いない』って事にしたって、楓さんも成美ちゃんも、大吾くんも清さんも、ジョンもサタデー達も、みんながみんなを『いる』事にしてくれるから。少し前からは孝一くんも、だね」
「ですか」
「ですよー。どういうわけだかみんな優しい人達だもんね。だから、ここに住み始めてから寂しいと思った事は一度もないよ? 楓さんと二人だけだった時からずっと」
「……本当、ここって良い所ですね」
「うんっ」

 僕はまだ、生きている。だから、栞さんの気持ちを完全に理解するのは難しいかもしれない。世間が突然自分の存在を無い事にした時に、どう思ったか。家守さんとあまくに荘という自分の存在を認めてくれる場所に出会った時に、どう思ったか。
 そして、今日の事件。頭を抱えて痛がる清明くんによって「存在を無い事にする」どころか「一方的に害だけを与える存在」とされてしまった時に、どう思ったか。その辺りは、悲しかっただろうなあとか嬉しかっただろうなあといった大雑把で曖昧な表現を用いてしか、幽霊でない僕には表現できない。でも僕はここに住んでいて、ここのみんなが大好きだ。栞さんが言った通り、そして言った本人の栞さんも含めて、みんなとても良い人だから。
 だから僕は、僕にとって「いる」存在であるみんなの気持ちに、もうちょっとだけでも近付きたい。自分が幽霊でない限りはただ近付くだけで重なる事はないんだろうけど、それでも。
 ――僕より数段近い所にいるであろう、年齢を除いても幽霊に関しての大先輩である家守さんが、ちょっとだけ羨ましくなった。手前勝手な理屈で羨ましがられても、本人からすれば「へ?」な事態なんだろうけど。
 そんな事を考えている間に風呂が沸いたであろう時間になったので、早速向かう事にした。


「ふう……」
 熱いお湯が張った風呂桶に浸かれば、自然とそんな声が漏れる。そしてこの状況は、非常にリラックスしたまま考え事をするのに適した状況でもある。という事で、テレビを眺めながらに続いてまたも思案。ああ、気持ちいい……ではなくて。
 明日、清さんの奥さんがやってくる。それはもちろん、今日の清明くんの出来事について清さんと話をするために。どんな人なんだろう? とかいう疑問はまあ置いておくとして。
 清明くんは、幽霊が存在しないとする立場の人間に分類される。とするならばもちろん、今日忍び込んだお化け屋敷が本物だなんて事は思いもよらないのだろう。ましてや、その本物の幽霊の中に自分のお父さんがいるだなんて。
 でも、それでもここは「お化け屋敷」と呼ばれている。本物のお化け屋敷である事を知っている人は殆どいないだろうに、だ。父親を亡くしてしまった子どもがそこへ入ろうとする時、その父親を意識せずにいられるものだろうか? ……僕が考えるに、それは恐らく無理だ。父親が亡くなったのが遥か昔の話ならともかく、中学生になりたてという清明くんの年齢を考えれば。
 清さんの現在を知らない筈の清明くんは、どんな思いでここへ踏み込んだんだろう? 大きいとは言え大人しいジョンをすら怖がっていたというのに、それよりは怖いだろうこのお化け屋敷に入ってきたのは、本当に「興味があったから」というだけなんだろうか?
 ……と考えるからには、「そうではないのだろう」と思っている節があるわけで。「もしかしたら、清明くんは清さんの事に気付いているのではないだろうか?」なんて。
「さっ……て」
 風呂桶に浸かったままずっとこうしているとのぼせてしまいそうなので、いったん上がって小休止。たまには限界まで浸かり続けるのもいいかな、なんて思ったけど、後々辛くなるのは目に見えてるのでやっぱり遠慮しておく。それに、僕がこの場でいくら考え事をしたってそれほど大した結論は出せそうにないしね。
 さあさあ。外野なりにいろいろと考えたりしてみましたが、明日はどうなる事やら。

 大学の祭りに行くか清さんの奥さんに会うのかは分からないって話が出てたけど、多分清さんの奥さんが優先なんだろうなあ、あの時大吾が言ってた通りに。
 シャンプーで泡立った頭をガシガシと引っ掻き回しながら、明日も当然のように「いる」みんなとの時間を考えると、期待に胸が膨らむ。
 清明くんの件もあって今日は「幽霊とそうじゃない人」な話がちらほら出てきてしまったけど、結局のところ僕にはあまり関わりのない話だ。なんせみんなは――
 ああ、明日も楽しみだ。


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