スノーマン見聞録

ジャンルも内容も気の向くまま~“素浪人”スノーマンの見聞録

ふるさとを創った男

2015年07月04日 | 雑感
あいかわらず≪童謡・唱歌の旅≫を続けている。  読書の旅でもけっこういい出会いがあるものです。

瀬戸内晴美(寂聴)著『ここ過ぎて』で北原白秋とその三人の妻(俊子・章子・菊子)に出会い、
そして今度は猪瀬直樹 著『唱歌誕生』(ふるさとを創った男)で高野辰之と岡野貞一という男ふたりを知った。

猪瀬直樹。 政治の世界では5千万円という毒まんじゅうを喰って散々たる末路を終えた人ではあるが、
ノンフィクション作家として、緻密な資料調査により三島や太宰などをも論評するなど、その着眼点・力量はピカイチだ。


下に紹介するのは、すべて作詞・高野辰之、作曲・岡野貞一の作だ。 この著作で二人の名が一躍広まったとも
言われている。 高野は有名な国文学者でもあり、岡野は作曲家・クリスチャンでもあったという。

この二人の生い立ちや接点を軸に、島崎藤村・大谷光瑞などとの数々のエピソードを絡め、文部省唱歌の生れる
歴史背景、西洋音楽と日本伝統音楽との音階の違い・比較なども緻密に分析した力作だ。


       
                       (美しい詩ですね)   

「故郷」     ~ うさぎ追いし かの山~ ♪  こぶな釣りし かの山~ ♪  

「もみじ」    ~ 秋の夕日に~ ♪  照る山~ も~み~じ ♪

「春が来た」  ~ 春が来た 春が来た どこに来た~ ♪  山に来た 里に来た 野にも来た~ ♪

「春の小川」  ~ 春の小川は さらさらいくよ~ ♪ 岸のすみれや れんげの花に~ ♪

当時文部省唱歌は、なにがしの報酬を払い、名は一切出さず、作者も口外しないとの契約を交わしたという。
ゆえに唱歌をいつも口ずさむ親戚縁者でさえ、その作者が誰かとは知らなかったようです。

作者意識も薄かった時代でもあり、日露戦争後インフレで株価も暴落、国民の不満のたがを唱歌で結びつけよう
との文部省の意図、権威づけに利用されたともいわれている。


明治末にあわただしく創られた国家権力による仮構されたふるさとのイメージだったとは、なんとも情けない
気もするが、とは言うものの、なんとも素晴らしい詩・メロディばかりです。
 

≪エピソード≫
島崎藤村は「破戒」の舞台・長野県飯山にある真宗寺(小説では蓮華寺)に執筆のため長期滞在していた。
その真宗寺に初恋「まだあげそめし、前髪の林檎のもとに見えしとき・・」という藤村の詩のモデルと
言われる8歳の少女がいて、高野辰之がその寺に12歳で下宿し。後にその女性と結婚したという。

上京した高野が師事した国文学者・上田萬年の娘に円地文子がいたり、岡野とは東京音楽学校で音楽を
学ぶのであるが、そこに島崎藤村や滝廉太郎なども在学。当時の交友やらを知る史料ともなっている。
(島崎藤村は日本語の韻律をつきつめる為に、ピアノ科で音楽を学んでいたともいわれる)

猪瀬さん 悪魔に毒饅頭を食べさせられ 残念ながら ≪月光仮面になれなかった男≫でしたね。
政治は引退するそうですが、是非これからもノンフィクション作家として このような名著、期待しておりますよ。 

          
                                       えっ 知らない?

最新の画像もっと見る

コメントを投稿