スノーマン見聞録

ジャンルも内容も気の向くまま~“素浪人”スノーマンの見聞録

寂しい写楽

2015年02月05日 | 雑感
≪ 東 洲 斎 写 楽 ≫

宇江佐真理 著 『寂しい写楽』を読んで≪写楽≫にハマり、写楽に関する本を数冊乱読してみた。



邪馬台国に匹敵する国民的謎の一つといわれ、寛政の世、江戸の町に忽然と現れ140余りの浮世絵を書き、
十ヶ月足らずで消えた幻の浮世絵師。 その前後には一つの作品も世に出していない不思議な人物≪写楽≫ 


写楽っていったい誰? 「写楽殺人事件」で第29回江戸川乱歩賞を受賞した高橋克彦氏によれば、
”写楽は誰か”について三十一の説まであるという。

有名なところを言うと、、、。
松本清張・今 東光氏は斎藤十郎兵衛(能楽者)説。 梅原 猛氏は歌川豊国(浮世絵師)説。
石森章太郎氏は喜多川歌麿(美人画)説などがあり、その他にも
版元の蔦屋重三郎説、円山応挙説、葛飾北斎説、山東京伝説、十返舎一九、外人説まで。
 
写楽を世に出した版元の蔦屋重三郎が、かん口令をひいたか否かは定かではないが誰も写楽を語っても
おらず、文献もないのです。


江戸末期に斎藤月岑(げっしん)という人が『浮世絵類考』という書で、写楽のことを、、、
 「是また歌舞伎役者の似顔を写せしが、あまりに真を画かんとて、あらぬさまに書なせしがば、
  長く世に行れず一両年にて止む」
と記したのが唯一の文献とのこと。

いまや写楽といえば、知らぬものもいない世界的にも有名な浮世絵師ですが、世に出でた時は評判も悪く
売れ行きも惨憺たるものだったようです。

当時、浮世絵は<醜を捨て美をとる>のが主流。 写楽はたとえ人気者であろうと美化せず顔の欠点や
老化のようすまでも描いた為、役者からも誹謗され気色悪いとまで不評を買い、お蔵入り。


もし評判がよく売れ行きも良好だったなら、写楽はもっと語られ、もし影武者がいたとしたならば
≪写楽は誰?≫が判明したかもしれないですね。

浮世絵は明治・大正に日本人にとって文明開化に翻弄され、一刻も早く忘却の彼方へとの思いと共に
二束三文で欧米へと流れていったという。 その価値を認めたのも海外の美術家とは、なんとも情けない。


● 宇江佐真理 著 『 寂しい写楽 』 を少し紹介します。

     
江戸・寛政の時代世相を巧みに調べ上げ、ここまで登場人物を見事に描いた作品はさすがである。

田沼意次の放漫政治の反動として老中に就任し、緊縮政治に舵を切ったのが松平定信。
就任した1787年(天明7年)から1793年(寛政5年)までの6年間、世にいう寛政の改革の時代だ。

町民には非常に厳しい政治でもあったようです。
政治批判はもとより、華麗・高価仕立ての出版物及び好色本も当然の如く禁止。
 

芝居の終演は夕方の七つ(午後4時頃)までとし、灯りをともしての芝居も禁じられたとのこと。

時事風刺した黄表紙なども発行していた版元・蔦屋重三郎らに対する処罰も下ったようで、起死回生を
夢み、≪写楽≫の出現に賭けたともいわれている。

(処罰は【身分半減の刑】といわれるもので、店の資産・面積なども半分とする厳しい処罰だ)

この小説では定説の主流でもある斎藤十郎兵衛なる能楽者を≪写楽≫とみて物語は展開する。
(写楽初期作品では大首だけを写楽が描き、他は京伝・北斎それに一九が加わり作成されたとの構成)

春朗(後の葛飾北斎)と幾五郎(後の十返舎一九)が写楽が去ったあとを振り返り、語る場面がある。
(小説はこの二人と山東京伝が写楽浮世絵に手を加えたという設定)

  『 見る者の背中を ざわざわと粟立たせるような 寂しい絵 』

  『 あれを 寂しいと言わずに なんと言う』

  『 つまらねぇじゃなくて 寂しいと・・・寂しい男ですよ 』

  『 だからな 写楽はあれでよかったのさ 評判なんてどうでもいいんだ 』

  『 おれ達は 写楽の絵の中に 手前ェの寂しさを 放り込んだのよ・・・』

  『 先のことなんざ 誰にもわかりゃしねぇよ わかっているのは 今の今だけよ 』

                                         (順不同抜粋)

この語り。 寂しいという言葉。 凄いと思った。 

先月10日に発売した≪文言春秋2月号≫に宇江佐真理さんの【ガン病闘記】が載っていた。
乳がんと闘いながら創作を続ける本人の記だ。

 ≪死ぬことは怖くない けれど、ただ訳もなく 寂しい≫ とあった。

この 寂しい という言葉・・・人として 懸命に生きている 証(あかし) なのかも知れないですね。
                                             負けるなよ!!

『寂しい写楽』の(登場人物)
写楽を世に出した版元の蔦屋重三郎・山東京伝(戯作者・絵師)・葛飾北斎(浮世絵師)・
滝沢馬琴(読本作家)・歌川豊国(浮世絵師)・大田南畝(狂歌師)・十返舎一九(滑稽本作家)・
斎藤十郎兵衛(能楽者・写楽?)他



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