扉を押し開けると、そこには湿っぽい匂いが立ち込めていた。
ステンドグラス風の色をした窓からは少しの陽光が入り、床や通路を少しだけ照らしている。わりと視界がはっきりするので心底安心した。
「シャール、この広い建物の中をどうやって捜すんだ?」
「うむ、少しずつ奥へ進んでミッチを捜すしかないだろう」
「あっ、ねえ、先にこっちの道を進んででみようよ」
「リオちゃん、先に行っちゃダメだよ」
剣を持ったトーマスと体力の高いシャールさんを前衛に、一同は右側の奥にある暗い部屋へと入る。
後衛は猫の私、エレン姉さま、姉さまの妹サラちゃんでしっかりと組み込まれていた。突き進むと、一つの小さな部屋を見つける。
「・・・何だこの部屋は?」
「真ん中の床に小さい魔方陣があるね」
部屋の中に一同入る。
エレン姉さまが近づいた時、魔方陣の中の空間がいびつに歪んだ。
オォォォォ・・・
「な・・・なんだ?」
「! エレン、下がれ、早く!」
「え? うん」
シャールさんの焦った様な掛け声に、一同緊張が走る。
エレン姉さまが後ろへ下がり距離を取ると、魔方陣の中から人が現れた。両手を床につき、座り込んで身動きが取れないらしい。
「わっ、裸の女の人がいるよ。何か様子がおかしくない? 早く助けてあげなきゃ――」
「ばかっ、サラ、あいつの下半身をよく見ろ」
「え?」
サラちゃんが女の人に近づく前に、トーマスが素早く止めに入る。
人間にはあるはずがない蛇の胴体がくっついていた。
瞳は縦筋となり、舌がチロチロと出て、今にも襲いかかりそうな形相に様変わる。
「ギャオォォォッッ!」
「ひっ、な、な、なにあれ・・・怖い」
「妖精系に属する蛇、“ エキドナ ”だ。あいつに捕まるとまず生きては帰れない。
こちらに近づいて来れないのは、あの魔方陣を守護しているか、はたまた封じられてるかのどちらかだろう」
「むやみに近づけないな。仕方ない、別のルートを探るか」
「行くよ、リオ!」
エレン姉さまに「うん!」と返事をしてこの部屋を出る。
シャールとトーマスに促され、私達はまた一からのスタートになった。
***
獣人や骸骨系の比較的弱いモンスターと戦いつつ、長い長い階段を皆で下る。
細い通路に差し掛かった時、一匹の強面(こわもて)の鬼が徘徊していた。
山羊に似た形の角に、耳まで裂けた大きな口、筋肉が盛りあがった体、背中には悪魔のはねが付き、二足歩行でのしのしと歩いている。
「ここまで来て羅刹とは・・・」
「この五人で勝てるかどうかだな」
「ニャ、私も頑張るよ!」
奮起して戦う意思を表示。
シャールは苦笑いし、トーマスは頭を撫でてくれた。
「よし分かった、この中で一番素早いのはリオだ。お前の脳天割り、期待してるぞ」
「任せてちょーだい!」
みんなの歌プリーズ!! と叫びながら羅刹に突っ込む。何の事やらさっぱりらしい面々は反応してくれなかったが、即戦闘に入りこめるように各々配置していた。
「脳天わ――っ?」
高い身体能力を生かし跳躍すると、羅刹の頭めがけて棍棒を振り下ろす。
「ポコンッ!」とおかしな音がしたが、豪腕な腕で防御されてしまった。 羅刹が攻撃へと転じる前に、後ろへ素早く跳び下がる。
皆の期待を無碍になんてしたくないので、何か良いアイデアは無いかとちっぽけな脳みそを回転させた。
「リオッ! くそっ、これでどうだ!」
剣技・十文字斬りを叩き込むトーマス。
羅刹はトーマスの攻撃に怯みはしたが、トーマスの剣を持つ反対側の手を掴み、ここぞとばかりに大口開けて火炎を浴びせてきた。辺りは熱気が籠り、熱さがこちらまで伝わる。
ゴオォォォッ
「グアアアアッ!」
「いやぁぁぁ、トーマス!」
「トーマス! このっ、トーマスを離せ・・・!」
いきり立ったエレン姉さまの右足に稲妻がほと走る。
モンスターとの戦いで先程習得したばかりの稲妻キックを、羅刹の頭に強く叩き込んだ。
ふらふらとよろめいてる間に、上半身に大火傷を負ったトーマスを羅刹から引き剥がすと、シャールの近くまで移動する。
「炎を塞ぎ、我らを援護せよ、ファイアウォール!!」
朱鳥術を発動させたシャールが炎の壁を作る。
炎の攻撃を和らげる効果を持つ壁が、一時だけ火炎攻撃から身を守ってくれた。その間に、サラちゃんが傷薬でトーマスの傷を回復するが全回復とは至らない――急がなければ!
「ニャオー・・・閃いた!」
ピコ―ンと頭の上で電気が光り、またまた羅刹に突っ込んでみる。
高く跳躍し、ある技を繰り出した。
「リオ専用・かめごーら割り!!!!」
防御した腕に接触した瞬間、羅刹の体に異変があった。
膜のシールドが体全体を覆い、ピリピリと音が鳴って力を奪う。奴の防御力を大幅に下げる事に成功したようだ。
私が容易に扱えたのは、身体能力だけしか下げれない未完成の技だ。大技なのに致命傷を与える事は出来なかった。
「サラちゃん、お願い!」
「分かった! ――混倒滅殺・イドブレイク!」
膝を床に付けて立ち上がった所を見逃さず、一瞬動きの鈍くなった羅刹の腕に弓矢を打ち放つ。混乱しているのか、こちら側に攻撃してこなくなった。
「リオ、行くぞ!」
「うん!」
シャールに相槌をうち、羅刹との間合いを一定の距離で取る。
彼は槍を持ち、私は棍棒を両手に持って二人一緒に時間差攻撃を繰り出した。陣形技の一つ、エックス攻撃だ――!
「グオォォォォォッッ!」
「やったね、シャール、リオちゃん!」
「ああ」
「ニャ!」
雄叫びを上げて地に倒れた羅刹を見て、一同はやっとひと心地つく。
トーマスの上半身火傷が酷かったので、ポドールイの洞窟で手に入れた生命の杖で回復した。
杖を持ち、治れと念を込めると、緑色の淡い光がトーマスを優しく包み込む。
「・・・ん? あ・・・リオ?」
「トーマス、大丈夫?」
「・・・もう死ぬかと思ったよ」
トーマスが体を起き上がらせると、サラちゃんとエレン姉さまは泣きながら喜んでいた。
シャールさんがトーマスを立たせて、先の事を話しだす。少年ミッチの居る場所へ辿り着かねば、魔王殿を出るわけにはいかないと渋い顔で言いだした。
「オレはもう大丈夫だ。リオの回復技のお陰で体に支障はない」
「悪いな、ミッチ救出が優先なんだ」
「私達もそのつもりで来たんだから、謝らないでよ」
「そうだよ、もうちょっと先へ進まなきゃ!」
エレン姉さまが諭し、サラちゃんも元気よく言って男性二人の背中を押し出した。ミッチ救出まで後少し――
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