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ひょっこり猫が我が道を行く!

カオスなオリジナル小説が増殖中。
雪ウサギが活躍しつつある、ファンタジー色は濃い目。亀スピードで更新中です。

032 デルモント観光 前編

2010年03月21日 00時03分24秒 | 小説作業編集用カテゴリ
「ニャッ、ニャアアッ(アブッ、アブッ・・・!!)」 
「リオッ、落ち着け。オレが付いてる!」

 今の私達は、穏やかな紺色の海を泳いでいる。
 猫掻き中の私は短い足が地面に届かないため、裸のガウラに必死にしがみつく。ソルトス王子改め、塩王子は海の上で腕を組み、仁王立ちして私達を上から見下ろす。金髪の髪だけが空間に映え、王族の気品さを漂わせる雰囲気は、ファインシャートに居る傲慢な王様を思い出した。

「覇者の守護獣と云えど、自らの適性に合った属性じゃないと上手く発現する事も出来ない。しかも精霊と契約していない者が唱えられる魔法は、所詮は初級止まりだけと覚えておけ」 
「ニャボボボボッ!!(何一人だけ、ふんぞり返って喋ってんのぉぉ・・・!)」
「リオッ、頼むから暴れるな」

 ガウラから離れて波しぶきを激しく立てると、海の中へ危うく沈みそうになった。彼だって両手を使わないと泳げないから、片っぽの手にしがみ付くしかないんだ。

「ルビリアナを待つ間、このデルモントを案内しようと考えて、近場から見て行こうかと思ったんだが・・・いけなかったか?」
「ニャバッ、ニャバババッ(当~た~り~前~でしょ~~~っ!)」
「もうここはいい・・・っ。オレ達は陸へ上がるからな!」
「そうか、残念だ・・・あ、今動くと危ないぞ」
「「?」」

 悪気が全く感じられない塩王子に唐突に言われ、周りを見回す。するとサメと思しきヒレが一つ、私達の周りを旋回していた。

「ニャアアアアッ(ジョーズに食べられるゥゥ!)」
「貴様・・・っ、くそっ! リオだけは何があっても守らないと」

 手足をバタつかせ慌てる私に、一生懸命なだめようと背を撫でてくるガウラ。
 たゆたう周辺の波だけを凍らせ、幾多もの鋭い氷を海中で作り出し攻撃に転じる。サメからの頭突きや体当たり、噛み付きを防ぐ見事な防御ぶりは、彼が普段魔法が使えない様には到底見えない。

 ガウラからのツララ攻撃を掻い潜るサメ。大口開けた、幾重もの鋭い歯が間近に迫った時――

「その獲物イタダキ―――ッッ!」

 紺色の波の上を自らの腹で、凄い勢いで滑る生き物がサメ目掛けて突撃していく。
 近くまで来ると空高く跳び上がり、先手を掛けるかの如く手に持つ包丁でメッタ刺した。力尽きたサメの体が海に浮かび上がり、白い腹が丸見えになる。

「やった! 殺人怪魚(パックンワーム)一匹獲得!!」 
「兄上、ずるいーーっ!! そのパックンは、僕が見つけたのにっ!!」
「僕んだよっ。何言っちゃってんだか。うう、折角ルビお嬢様に褒めて貰おうと思った、のに・・・?」

 ハレ??と、ペンギンに似た三匹は、可愛く首を傾けこちらを振り向く。
 兄上と呼ばれたペンギンは、包丁片手に海の上に立ってサメらしき巨大魚を難なく背負い、二秒ほど塩王子を凝視した後、頭を低くして恐れおののいた。

「ひょ、ひょえっ、ソルトス殿下! あわわわっ。殿下がこちらに居られるとは露知らず、御挨拶も無しに御前を通り過ぎた事、お許しください~~!!」
「僕らからもお願いしますぅ・・・兄上を殺さないで下さい! お馬鹿でアホなマルル兄上だけど、こんな奴でも身内なんですぅ~~!!」
「ソルトス様、これでも兄貴は僕らの家族なんですっ! せめて、せめて殺されるなら僕、ルビお嬢様に甚振られながら殺して貰いたいです・・・」
「ルビお嬢様に殺されるのは俺だっ。モモチは関係ないだろ~~」

 赤くなった自らの顔を、ヒレの様な平たい手で押さえてもじもじする弟ペンギン。
 お前、何ぬけがけしようとしてんだっ!と、二人の兄からの体当たりに耐えられず、波の上で引っ繰り返った。すると、その黒い瞳と目が合う。 
 
「ん? 白い猫と・・・人間??」
「ニャ、ニャバババッ(海の中からこんにちは。リオでっす!)」
「リオの守護獣ガウラ。オレの女だ」

 ガウラの台詞をスルーして、彼らの反応を待つ。三人の黒い瞳が一斉に輝き、塩王子に尋ねた。

「ソ、ソルトス殿下はまだこちらで遊ばれますか?」
「いや、海の中は不評らしい。これからどこへ連れて行こうか、決めあぐねている所だ。お前達、デルモント観光にピッタリの場所は何処だと思う?」 
「そ、そうですねぇ~~、じゃあデルモントの世界の神様を祀ってる、“シャラ・ステア”様の御神殿など如何でしょう?」  
「ニャ、ニャバババッ?(え、しゃらすてあ??)」

 大きく目を見開いて言葉に詰まる。
 ファインシャートで言う女神さまとは、エリシュ・・・何とかって言う名前だと記憶に残っていたからだ。その人に呼ばれて、私は日本から別の世界へやって来たのに。隣で泳いでるガウラも、一体何の事か分かっていないみたいだし・・・
 口元に手を当てて、考え込んでいる塩王子は一度頷き、私達に促した。その顔はいつもの顔より嬉しそうで、口元は少し笑んで見えたのは気のせいじゃないだろう。






 ―― デルモント神殿 ――

 海から出た私達は灰色の飛竜さんの背に乗り、幾多の建物から遠く離れた神殿に降り立つ。森の中の少し小高い場所にあって、横には大きな滝があり、少しばかり虹が出来ていた。
 紫色に発光するホタルみたいな虫や蝶が葉っぱに止まり、下流へと流れる脇の土や岩には、何羽かの渡り鳥が止まって川魚を啄ばんだり水を飲んだりして羽を休ませている。黒水晶で出来た、台形の巨大な建物の中へ私とガウラ、塩王子が入ると部屋が一瞬で淡い紫色となった。

「ニャ、ニャアアッ(ホ、ホワアア! デルモントもすごいね。電気が無くても充分生活出来るんだからっ!)」

 ガウラより先に出て、よく磨かれた紫色の床の上をポテポテ歩く。彼が慌てて後ろから付いて来て、またいつもの定位置に抱き上げられた。 

「ニャアァ・・・(たまには歩かせてよ・・・太るじゃん)」

 スキンシップ過多の彼に、喉を優しく擦られ悦に入る。気持ちが良いから、それ以上文句が言えなくなってやり込められるんだ。既に私のツボを押さえてる彼は、御満悦な顔でキスして来る。

「リオ、“でんき”とは何だ?」
「ニャ、ニャアアアッ(簡単に言うと魔法が使えない国が発明した、便利な世界の力の事だよ! “電気”のお陰で四六時中部屋の中が明るいし、テレビや電話と言った、遠く離れた人物との情報伝達なんかもお手軽に出来たんだよっ・・・ ガ、ガウラ??)」

 自分の世界の事について懸命に喋っていると、眉を下げたガウラが落ち込んでいる。琥珀色の瞳が不安そうに揺れ、今にも泣き出しそうだ。
 
「リオの言う便利な“でんき”とやらは、このデルモントやファインシャートには無い。オレと過ごすのに不便を感じさせてしまったらと思うと、オスとして情けなく思う」
「ニャ、ニャア・・・(そんな事・・・)」
「だからと言って、リオを離す気など毛頭ないからな。他の分野で、お前を満足させる。狩りや食べ物、勿論オスとしてもだ。リオが欲しがるモノは、全部与えてあげたい――」

 スリスリと頬ずりするガウラ。
 KY<空気読めない>ガウラが、そんな事で悩むのか。彼の頭の中は一体どうなっているのか覗いてみたくなる。

 ガウラからの愛の告白を聞きながら、塩王子の後を続くと、大広間に出た。
 透き通った水晶の部屋が前後左右、天井も高く視界に大きく広がる。
 黒水晶が土台となり、巨大水晶を上に乗せている祭壇と思しき最奥への道を塩王子が進む。
 鉱物に手を這わし私達の方へ振り向いた顔は、海の上で見た時よりも嬉しそうな表情で微笑んだ。

「この神殿で祀られている、“シャラ・ステア”だ」
「ニャ、ニャアア・・・(はっ・・・?)」
「水晶の中にヒトが入って・・・? 何でこんな事を・・・」

 瞳は閉じられ、黒い髪が背まである女のヒト。
 白い布の服を纏い、頬や唇はうっすらと赤く色付き、しなやかな手足は、彼女を若く見せる。
 でも、待って。この吸い寄せられる感覚は・・・

「全ての精霊を統括する白精霊<パンナロット>に愛され、ファインシャートの女神<エリシュマイル>を作り出した我らの母神、シャラ・ステア――今は魂だけが抜けた状態で、永久保存している」

 日本の・・・故郷を恋う想いとは違う懐かしさ
 忘れなきゃと、全ての記憶に蓋をして
 自らの力を全て封じて、存在を消滅させた

「お前は・・・いや、貴女は猫に転生したのか? シャラ・ステア・・・リオ?」

 彼らに必要とされる女神は、一人でいい・・・
 エリーちゃん、ファインシャートを頼むよ

「女神の力は、残って無いんだな。やはり、パンナロットは祭りでしか呼び出せないか」
 
 どこに居たって、エリーちゃんを愛してる
 もちろん、パンナロットもね

「パンナロットを上回る力を、今のエリシュマイルは持っていない。だから召喚出来たのは、猫のリオ――貴女だけだ・・・」

 二人とも、私の愛する子供だよ
 だから協力して、二つの世界を平和にしてね

「シャラ・ステア・リオ・・・デルモントを見限り、自らの亡骸を今だに曝され、そこで猫となって眺める今の心境はどうですか? ・・・今度こそ、我ら魔族を見捨てないで下さい」


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