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ひょっこり猫が我が道を行く!

カオスなオリジナル小説が増殖中。
雪ウサギが活躍しつつある、ファンタジー色は濃い目。亀スピードで更新中です。

恋慕と狂気

2010年02月13日 21時23分16秒 | 小説作業編集用カテゴリ
本編:白呪記
番外編:恋慕と狂気


 夢を見た

 女の子だ

 泣いている


「どうしたの」
「居なくなってしまったの。すごく大切なヒトなのに・・・」

 白い服を着た幼い女の子は、蹲ったまま動かない。だから私もしゃがんで訊いてみた。

「誰が居なくなったの? 私も一緒に捜してあげるよ」
「本当?」
「うん。二人で探した方が早く見つかるよ。ねっ、何を探したら良いの?」
「あのね、女の人で、黒髪で、私のお母さんなの」
 
 手の平で覆い隠していた顔を上げ、瞳を合わせてくれたその子の名前はエリシュマイルちゃん。
 私の手と彼女の柔らかな小さな手を繋ぎ、陽光がゆらゆら照らす蒼色の世界を二人で歩く。
 彼女が言う、お母さんの手掛かりとやらは見つからない。不安を露わにした彼女は、立ち止まって動かなくなった。

「お母さん・・・」
「ねっ、お母さんの名前はなんて言うの?」
「~~~、~~~っていうの! お母さんは、とっても優しいんだよ!」

 名前が聴こえなくて、もう一度訊ねると

「お母さんが居ないと、~~~~~~が寂しいんだって。勿論、わたしも寂しいから捜しに来たんだけど。やっぱりどこにお母さんが居るか分かんないよぉ」
「え、お母さんが分からないの? どうして「ねえ、お姉ちゃん」」

 私の言葉を遮り、疑問に答えないエリ・・・ちゃんは、手を後ろに回して微笑みながら訊いてきた。澄んだ青空を写し出したかのような瞳に、吸い込まれそうになる。

「お姉ちゃんの名前も、教えてくれる?」
「あっ、ごめんね、言ってなかった。私の名前は大泉理緒だよ。リオちゃんでも良いし、お姉ちゃんでもいいよ」
「リオおねえちゃん。ねぇ、私はエリーで良いよ。そう呼んで」
「分かった。エリーちゃん・・・だねっ」
「リオ、リオ!」
「あれ、エリーちゃん。私の事は呼び捨てで呼んじゃうの? もう・・・」

 私の手を、再び握るエリーちゃん。
 何か言いたそうなので、またしゃがみ込んで彼女の言葉を待つ。

「リオは、私が困ってたら、また助けてくれる?」

 不安そうな彼女に寄り添い、金髪の頭を撫でて背中を擦ってやる。
 表情がほぐれたのを確認してから、彼女を勇気付けた。

「~~~~~~が、~~~~~~~~の世界なんてどうでも良いって言ってたの。お母さんは『二つの世界を平和にしてね』って言ってたのに、アイツ、あんまり他の事には干渉したくないってさ。だから私が一生懸命取り持ってるのに・・・今度は~~~~~~が邪魔するんだよ」

 聴き取れない言葉が多くて、彼女が言い終わるまで待つ。

「~~~~~~は、黒くてキライ。
 ~~~~~~から産まれたくせに私と力が同等なんて、これじゃあ何も出来ないよ。しかもアイツの方は、私より力が上なの。あくどい白猫をたしなめるなんて、私にはムリなんだもん」

 うわーーん、と大泣きするエリーちゃん。
 泣き止まそうとするが、なかなか涙は止まらない。 

「じゃあ、お姉ちゃんがエリーちゃんの助けになるよ。あくどい白猫なんて、私が躾けてあげる!」
「リオが助けてくれるの?」
「困ってるんでしょ。動物の躾けなら、任せてよ」
「プッ、動物って。アイツが聴いたらなんていうか・・・アハハッ! リオ、ありがとうっ!」

 エリーちゃんと話していると、私の影が伸びて下に引きづり込まれた。
 地面にお尻から落ちた私は、痛みに耐えながら周りを見回す。そして、エリーちゃんが居ない空間を見て戸惑った。

「ニャー」
「あの子を探さないと・・・あっ、ね、猫・・・?」

 影に引きづり込まれた私は、エリーちゃんと離れてしまった。
 何もない白い空間だけど、優しい雰囲気はどこか懐かしい。ふと前を見ると、金色の瞳が特徴の白い猫がこちらを向いて座っていた。

「ウニャアーー」
「わっ、可愛いニャンコちゃん、こっちおいで」
「ゴロゴロ」

 擦り寄る白い子猫を抱き寄せ、頬ずりを繰り返す。
 こんな柔らかくて天使みたいな子が、エリーちゃんの言う“あくどい白猫”なのか。

「め、メチャ可愛いよぉ。ね、ニャンコの名前は? って、言葉を喋る訳ないかぁ」

 私の言葉を聴き、瞬きを一回繰り返した白い猫。
 ウニャア、と一鳴きして口を開いた。

『ワレはパンナロット。そういうお前こソ、シャラの生まれ変わりだろウ?』
「うええっ!」

 驚いて、思わず子猫を落としそうになったが踏み止まった。
 白い子猫は地面に落ちまいと、私の制服に手足を伸ばして必死にしがみついていた。

「はわわっ、猫が喋った!」
『喋る事など造作もなイ。それよりも、今のシャラの名前を教えて欲しイ』
「へっ、しゃ、シャラ・・・?」
『お前の名前を聴きたイ』

 胸の前で擦り寄る甘えん坊な子猫は、私の名前を聴きたがった。
 毛むくじゃらの白い手で、ポスポスと胸の部分を叩かれる。

「ニャンコちゃん、私の名前は理緒・・・大泉理緒だよ」
『オオイズミリオ。リオだナ。良い名だ、リオ』
 
リオ、リオと、何回も繰り返すニャンコ。
 ヒゲをピクピクと動かして、鼻先を擦りつけて来る。

『リオ、ワレの名は“パンナロット”ダ。覚えて欲しイ』
「パ、パンナロット・・・」
『そうダ。ああ、リオ、リオ・・・』

 うっとりして呟く白猫に、ついうっかり見惚れてしまう。
 しかし、先程のエリーちゃんとの約束を思い出して自分を叱咤した。
 
「ねっ、パンナロット。あなた、エリーちゃんを困らせてない?」
『何の事かワレには分からなイ』
「エリーちゃんは困ってたよ。私には何の事か分からないけど、とにかくアナタを躾けないといけないの」
『ホォ、リオがワレに躾けヲ? 一体どの様にしテ?』

 しらばっくれる白い猫に“あくどい”という言葉は使わず、エリーちゃんからの要望を伝えた。この子を躾ける事に成功すれば、エリーちゃんはきっと笑顔をみせてくれると思ったからだ。
“躾け”の単語を聴いた白い猫は、興味深々と言った風に金の瞳を丸くさせて訊いてきた。

『“躾け”というからにハ、勿論ワレと共にずっと一緒に居てくれるのだろウ? 楽しみな事ダ』
「ずっとって、そんなに長くは・・・パンナロットは・・・ああもう、長い名前! パン・・・パロ・・・パット・・・どれもしっくりこないなぁ」

 エリーちゃんの名前も呼びやすい様に略したので、パンナロットの略称も考えたが、不可能のように思える。唸っていると、パンナロットはペロリと私の頬を舐めて来た。

『リオ、無理に略す必要などナイ。ワレの名前には、シャラが力を込めた最高の言霊(ことだま)が宿っているのだかラ』
「え・・・」
『“あらゆるものを制する統括精霊”。この名前があるから、ワレはファインシャートで一番の精霊・・・統括精霊を名乗れるのダ。ワレも、この名前が気に入っていル。しかし、リオだけなら別の名前を使っても良いカ・・・なら、』
「んっ、な、何?」
『何を代償にすル?』

 頬ずりされ、金の瞳と目を合わせた。
 獲物(わたし)を捕えようとする、獰猛な瞳。

「何って・・・」
『ワレの名を、リオが呼びやすい別の呼称で使えば良イ。ワレの名は、特に大きな意味を持ツ。リオ以外の奴がやたらに略してワレを呼ぶなド、そいつを焼き殺して嬲り殺シ・・・ああ、悪かっタ。今のは聴かなかった事にしてくレ』
「なぶり殺しって・・・この子猫は!」

 腕の中に居る彼をペチペチと頭を優しく叩いてやったら、少ししょげていた。
 甘えるように、ニャアニャアと鳴きわめく。

「略すのは止めとくよ。と、とにかく、言葉遣いの悪いパンナロットは、やっぱり躾けてあげないとね!」
『リオ、ワレを躾けてくれるのカ。そうカ、そういう事なラ・・・』
「えっ、コレ何?」

 頭の上から金粉が体中に舞い落ち、体の中に浸透して消えていく。

『リオが、ワレの居る世界に躾けに来イ』
「へっ? ちょ、ちょっとぉぉ!」
『ワレは“あくどい”白猫なのだろウ?』
「知ってるんなら直せばいいじゃないっ」
『エリシュマイルとも約束したみたいだしナ。リオがこちらに来るのを待ってル』
「ど、どうやって」
『リオが来るときハ、目印としてファインシャートには一匹として居なイ、純白の猫の姿になってもらウ。ワレと同じ白い猫。きっと美しいメスなのだろうナ。交じり合いたイ・・・』
「ちょ、ちょ、猫で交じり合うって・・・それは聴き捨てならない――!!」

 生意気な白猫の首根っこを掴み損ね、私の腕から素早く離れたパンナロット。
 ふわふわの白いシッポを名残惜しそうに振って、こちらに振り返る。

『ワレのあくどい行動ヲ、窘(たしな)めてみロ』
「の、望むところだよ!」
『イバラの道を辿ろうともカ?』
「え、エリーちゃんが困ってるんだもん。私がイバラの道を切り開く!」
『言ったナ』

 ニヤリと口の笑みを浮かべるパンナロット。
 白い空間が、端の方から崩壊を始めて来た。上下左右に震動する。

「わわっ、く、崩れるぅぅ――」
『リオが現実の世界に戻った時、今のワレと喋った記憶が無くなるようにしタ。もう一度エリシュマイルに会った時、今のセリフが言えるかナ?』
「も、勿論だよっ! ただ、忘れてたら思い出させて欲しいんだけどな――・・・」
『リオでもその願いは聞けない。賭けの代償は“リオ”だからナ。猫のお前が無事にワレの元まで辿り着キ、“躾け”が出来ればワレは二つの世界を平和に導く。反対にその道中、リオが挫けてワレの元まで来ぬ場合ハ』

 舌舐めずりする白猫は、金の瞳を妖しく光らす。
 子猫に見せかけ、鋭い牙をチラつかせた。

『ワレがお前ヲ連れ去リ、二度と人間に転生出来ぬように施ス。老いを知らぬ世界デ、ワレと無限の時を暮らすのダ。世界も、どちらか一方だけを崩壊させル』
「パンナロット! そんな事したら許さないから――――!!」

 地盤と呼ばれる、白い床が崩れ落ちてまた落ちる。
 そして今度こそ、私は深みに沈んでいった。

『ワレとエリシュマイル、未だにリオを欲しているのダ。お前が過去を思い出ス、思い出さのうト、必ず迎えに行くヨ。リオを欲するのハ、ワレもアイツも同じなのだかラ』
「こんのお馬鹿ネコ――――!!!!!」



 覇者としテ、純白の猫の姿でワレの元まで挑んでみロ!




****


「――、――さん、大泉さんっ!!」
「ほわ?」

 じっとりとする温度。
 額に汗を浮かべて目を覚ませば、自らがいつも授業を受ける教室。
 窓の開いた場所から風が吹き、日差し除けのカーテンがひらりと揺れる。
 クラスメイトからの驚くような視線と、鬼ババ先生の殺されそうな視線にも負けずに、私はぐっすり眠りこけていたようだ。

「ほわ? じゃありませんっ! あなたは、また居眠りなんかして。宿題はやって来たのですか?」
「はわわっ、しゅ、宿題って・・・何でしたっけ?」
「けっこう、放課後までに提出するように」
「馬鹿だな――っ、大泉。鬼ババの授業に宿題忘れて眠るなんて。度胸あるぜっ」
「あはっ、言えてる――っ!」
「「「「ギャハハハッ!」」」」

「今笑った人全員、宿題をさらに追加するザマス!」
「うあぁぁぁ――――!」





 
 恋慕と狂気 番外編(終)



(後書き)
 リオが、中学生くらいの時です。
 




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