
本編:白呪記
番外編:フリージアと陛下のある一日 01
「フリージア」
「お父さま?」
あらゆる不浄を清めるという意味で建てられた白亜の王宮、“パンナロッタ”。
六種の精霊を統べるファインシャートの統括精霊・パンナロットの名前を一文字変え、立派な建築物としてディッセント国に君臨する。
強固な鉄壁と、名実ともに最強の名を世に広めた我が国屈強の騎士団率いた元最強魔法騎士である現国王陛下、ハシュバット・イリオス・ディッセントは荒ぶる国々を地に伏す事に成功し、ファインシャート一のディッセント大国を建国した。
「フリージアも年頃だしな。誰を自分の夫とするんだ?」
「えっ・・・」
手から本がこぼれ落ちる。
いきなり質問されて体が硬直してしまった。
「勿論、お前はこの国の女王にと定めている。だから婿を取るんだが・・・お前のおめがねに適った奴は居るのか」
表情は至って柔らか。しかし腹の中で「フリージアを妻に娶るんだ。軟(やわ)な奴は、私自ら鍛え直してやろう」と、邪な考えを持つ自分の父親。
美男子で男前な上に、優しい声とにこやかな表情でさらに恰好良く映る半面、未来の舅ぶりが見え隠れしている。
前髪をさわさわと撫でてくれる父は、幼い頃に遊んでくれた、優しい父の大きな手と変わらない筈なのに。
「あの・・・、お父さま?」
「知・武・精神、この三つを完璧に兼ね備えた人物じゃないとな。まず、この私を倒せるくらいの気概を持った男じゃないと――」
(お父さまを超える男の人なんて、この世界には存在しませんっ!)
「私は光の精霊・コンドルフォンと、風の精霊・ウィンクルを使役するからな。どれか一つ、精霊を喚び出して貰わないと。
後、私を守る守護獣はディルもいる。殺傷力に長けていないとはいえ、気性は激しいからな。間違えて噛み殺されなきゃいいが・・・まこと、お前の夫となる人物は大変、大変」
うんうんと、一人相槌を打つ父親。しかも瞳は生き生きとして、今にも狩って来ますとでも宣言しそうで怖い。
(精霊を喚び出せる人なんて滅多に居ませんよ。ディルに噛み殺されるって・・・お父さまってば、本当に婿なんて取るのかしら)
「で、お前が好きな輩(やから)は居ないのか――?」
「うぅーー・・・そ、それはですねぇ・・・」
「本当の事を言いなさい。父親である私が、全て良い様に仕留めてやるから」
(し、仕留めるって? )
「ラビアボロウで的の射撃訓練、フランテスタで一撃必殺訓練人形、タナディノスで私自ら鞭打ちの刑――さあ、どれにする?」
(く、国の宝武器で訓練とは名ばかりの刑って・・・相手が死んでしまいますよぉぉ)
本腰入れて真正面から探ってきた自分の父。険を纏った焦げ茶色の瞳が、目を反らす事を許さない。
目頭が熱くなり涙が零れそうになったが、人差し指で拭ってくれた。
物騒な言葉の単語をなんとか頭の隅に追いやった後、頭の中を張り巡らす。訓練を無事に通過する事の出来る人物とは・・・
「あ・・・っ」
「むっ、誰か気に入る相手がいるのか。さあ、私に包み隠さず言ってみなさい」
非常に困った。なんせ、相手は自分の父も知るあの人だからだ。
親子でジリジリと腹の探り合いをしている時、部屋の扉から音が聴こえた。
「失礼します。国王陛下がフリージア姫と書斎室に居られると伺い、仰せ仕りました」
この国の宰相エヴァディスと、その親戚にあたるイールヴァだった。
宰相と同じ銀髪、灰色の瞳、貴族の爵位を持つイールヴァ。王族の近衛騎士を務めるほどの将来有望な幼馴染み。精霊を喚び出すのは無理でも、宝武器と並び、衝撃に耐え、雷の力を宿したホンバーツ家の宝剣・カルナックの所持者でもある若き使い手。
ライウッドと友でもあるこの二人の幼馴染みなら、親バカな父親のスパルタ攻撃から生還できそうだと思った。
「エヴァディス、悪いな。今立て込んでるんだ。もうちょいでフリージアの想い人が分かるから、後にしてくれないか」
「はっ・・・、その、・・・謁見の間でバルンムルクス国の第一王子が使者と共に陛下にご挨拶をと、伺いに来られたみたいで」
「バルンムルクス? 第一王子が、わざわざ遠い所からか。用件は何だ」
「フリージア姫を、自国の妻に迎えたいとの所存らしいのですが・・・今は王妃・マトリカリア様が話しをされてるようで・・・」
ザシュッ! ザシュシュッ! ドゴンッッ!!
机の上に置いてあった、一冊の歴史書が突然現れたカマイタチによって無残な状態にされ、壁の方へ当たって床に崩れ落ちた。一番手前にある本棚の本が全部落ちていた。
書斎室では、嫌な空気が流れ・・・
「マトリカリアに・・・分かった。その小僧・・・じゃなかった。第一王子の要件を伺いに行こうか。フッ、血が騒ぐ・・・」
片手をならして、既に狩りをする人物へと豹変した我が父。
戦前で使い慣らした光属性の長剣・アクラシャスを腰から抜き取り、一振りしている。それを見た二人の部下は、自分が仕える主を一身に諭し始めた。
「陛下、仮にも相手は王族の第一王子です。雑に扱われるなど、この国の威信に係わります」
「この私相手に暴虐を働かれたとでも何処ぞにぬかし、戦争にでももつれ込ますか?
国の貴重な資源と兵士を使うわけにはいかないし、万一な時は私自ら精霊の同時使役と守護獣ディルで乗り込むか」
国王が他国に乗り込むと言う言葉に、内心焦りまくりのエヴァディス宰相。
頭を下げて早口言葉で喋っている様子からは、焦った雰囲気にも取れる。
――ああもう、これはマズイと長いスカートをむんずと両手で掴み上げながら、近くに居る幼馴染の近くまで寄った。
「おっ、お父さま」
「フリージア、ちょっと今から狩って来るから、大人しくしてなさい」
「(目が本気だわ!)あのっ、私の気になる人は・・・」
力強く相手の片手を両手で握って、父に見せつけた。
「イッ、イールヴァ! 幼馴染のイールヴァと、もう一人の幼馴染ライウッドなの! 彼らが、と~~っても気になるんです!!」
「なっ、なっ、一体何なんだ??」
一瞬の沈黙。
その後、父の顔が引くついた。
「ほぉ、イルとライか。一人じゃなく、二人を好きになったのか。さすがフリージア。お前なら一妻多夫制も夢じゃないだろう」
「えっ、えっ? 多夫制って・・・」
「よし、イールヴァとライウッド、バルンムルクス国の王子をまとめて私が相手しよう。剣と鞭はもう持ってるし、そうだな。エヴァディス、長弓ラビアボロウの準備を」
「へっ、あ、あの、陛下? 俺とライまとめてって・・・まさか」
にやりと笑みが零れている。父がよからぬ事を企んでいる顔だ。
「三人で一片にかかって来い。フリージアの未来の花婿候補として、私が自ら詮議し鍛え直してやろう!」
「「えええぇぇぇ――!!!」」
「・・・」
二人も気になる人が居ると父に進言すれば、馬鹿なことを考える余地は無いと思ったのに。最早、四つ巴の戦を止めることは出来ないと悟ってしまった――
書斎室を出て、前に父と私、後ろをエヴァディス宰相とイルの四人で通路を歩く。
「エヴァディス、お前も加わるか? お前なら、私に一太刀は浴びせれるだろう」
「冗談はお止めください。私が加わるなら、陛下側につくだけです。私は間違っても、陛下に刃は向けれません」
「そうか、お前にもチャンスをやったのに。フリージアにイイ所を見せて、好きになってもらったりすれば大逆転のチャンスが・・・」
「陛下、私は参戦出来るほど若くは無いのですから」
「強い上に賢くて美男、おまけに王宮お抱えにある地位の貴族で私の側近なら、安心して任せられるのはお前ぐらいだというのに・・・残念だ」
大人二人でチャンスがどうのこうのと喋る父に、嫌気がさして終始無言のフリージアとイールヴァ。
娘を賭けた名ばかりの訓練は、途中参戦のライウッドも加わることとなり、合計五人でする事になった。現国王の父と宰相エヴァディス対、近衛騎士イルとライ、バルンムルクス国の第一王子。
しばらくして数時間で根を上げたのは、若者たちだったという事を風の噂で聴いたとかいないとか。
番外編:フリージアと陛下のある一日 01
「フリージア」
「お父さま?」
あらゆる不浄を清めるという意味で建てられた白亜の王宮、“パンナロッタ”。
六種の精霊を統べるファインシャートの統括精霊・パンナロットの名前を一文字変え、立派な建築物としてディッセント国に君臨する。
強固な鉄壁と、名実ともに最強の名を世に広めた我が国屈強の騎士団率いた元最強魔法騎士である現国王陛下、ハシュバット・イリオス・ディッセントは荒ぶる国々を地に伏す事に成功し、ファインシャート一のディッセント大国を建国した。
「フリージアも年頃だしな。誰を自分の夫とするんだ?」
「えっ・・・」
手から本がこぼれ落ちる。
いきなり質問されて体が硬直してしまった。
「勿論、お前はこの国の女王にと定めている。だから婿を取るんだが・・・お前のおめがねに適った奴は居るのか」
表情は至って柔らか。しかし腹の中で「フリージアを妻に娶るんだ。軟(やわ)な奴は、私自ら鍛え直してやろう」と、邪な考えを持つ自分の父親。
美男子で男前な上に、優しい声とにこやかな表情でさらに恰好良く映る半面、未来の舅ぶりが見え隠れしている。
前髪をさわさわと撫でてくれる父は、幼い頃に遊んでくれた、優しい父の大きな手と変わらない筈なのに。
「あの・・・、お父さま?」
「知・武・精神、この三つを完璧に兼ね備えた人物じゃないとな。まず、この私を倒せるくらいの気概を持った男じゃないと――」
(お父さまを超える男の人なんて、この世界には存在しませんっ!)
「私は光の精霊・コンドルフォンと、風の精霊・ウィンクルを使役するからな。どれか一つ、精霊を喚び出して貰わないと。
後、私を守る守護獣はディルもいる。殺傷力に長けていないとはいえ、気性は激しいからな。間違えて噛み殺されなきゃいいが・・・まこと、お前の夫となる人物は大変、大変」
うんうんと、一人相槌を打つ父親。しかも瞳は生き生きとして、今にも狩って来ますとでも宣言しそうで怖い。
(精霊を喚び出せる人なんて滅多に居ませんよ。ディルに噛み殺されるって・・・お父さまってば、本当に婿なんて取るのかしら)
「で、お前が好きな輩(やから)は居ないのか――?」
「うぅーー・・・そ、それはですねぇ・・・」
「本当の事を言いなさい。父親である私が、全て良い様に仕留めてやるから」
(し、仕留めるって? )
「ラビアボロウで的の射撃訓練、フランテスタで一撃必殺訓練人形、タナディノスで私自ら鞭打ちの刑――さあ、どれにする?」
(く、国の宝武器で訓練とは名ばかりの刑って・・・相手が死んでしまいますよぉぉ)
本腰入れて真正面から探ってきた自分の父。険を纏った焦げ茶色の瞳が、目を反らす事を許さない。
目頭が熱くなり涙が零れそうになったが、人差し指で拭ってくれた。
物騒な言葉の単語をなんとか頭の隅に追いやった後、頭の中を張り巡らす。訓練を無事に通過する事の出来る人物とは・・・
「あ・・・っ」
「むっ、誰か気に入る相手がいるのか。さあ、私に包み隠さず言ってみなさい」
非常に困った。なんせ、相手は自分の父も知るあの人だからだ。
親子でジリジリと腹の探り合いをしている時、部屋の扉から音が聴こえた。
「失礼します。国王陛下がフリージア姫と書斎室に居られると伺い、仰せ仕りました」
この国の宰相エヴァディスと、その親戚にあたるイールヴァだった。
宰相と同じ銀髪、灰色の瞳、貴族の爵位を持つイールヴァ。王族の近衛騎士を務めるほどの将来有望な幼馴染み。精霊を喚び出すのは無理でも、宝武器と並び、衝撃に耐え、雷の力を宿したホンバーツ家の宝剣・カルナックの所持者でもある若き使い手。
ライウッドと友でもあるこの二人の幼馴染みなら、親バカな父親のスパルタ攻撃から生還できそうだと思った。
「エヴァディス、悪いな。今立て込んでるんだ。もうちょいでフリージアの想い人が分かるから、後にしてくれないか」
「はっ・・・、その、・・・謁見の間でバルンムルクス国の第一王子が使者と共に陛下にご挨拶をと、伺いに来られたみたいで」
「バルンムルクス? 第一王子が、わざわざ遠い所からか。用件は何だ」
「フリージア姫を、自国の妻に迎えたいとの所存らしいのですが・・・今は王妃・マトリカリア様が話しをされてるようで・・・」
ザシュッ! ザシュシュッ! ドゴンッッ!!
机の上に置いてあった、一冊の歴史書が突然現れたカマイタチによって無残な状態にされ、壁の方へ当たって床に崩れ落ちた。一番手前にある本棚の本が全部落ちていた。
書斎室では、嫌な空気が流れ・・・
「マトリカリアに・・・分かった。その小僧・・・じゃなかった。第一王子の要件を伺いに行こうか。フッ、血が騒ぐ・・・」
片手をならして、既に狩りをする人物へと豹変した我が父。
戦前で使い慣らした光属性の長剣・アクラシャスを腰から抜き取り、一振りしている。それを見た二人の部下は、自分が仕える主を一身に諭し始めた。
「陛下、仮にも相手は王族の第一王子です。雑に扱われるなど、この国の威信に係わります」
「この私相手に暴虐を働かれたとでも何処ぞにぬかし、戦争にでももつれ込ますか?
国の貴重な資源と兵士を使うわけにはいかないし、万一な時は私自ら精霊の同時使役と守護獣ディルで乗り込むか」
国王が他国に乗り込むと言う言葉に、内心焦りまくりのエヴァディス宰相。
頭を下げて早口言葉で喋っている様子からは、焦った雰囲気にも取れる。
――ああもう、これはマズイと長いスカートをむんずと両手で掴み上げながら、近くに居る幼馴染の近くまで寄った。
「おっ、お父さま」
「フリージア、ちょっと今から狩って来るから、大人しくしてなさい」
「(目が本気だわ!)あのっ、私の気になる人は・・・」
力強く相手の片手を両手で握って、父に見せつけた。
「イッ、イールヴァ! 幼馴染のイールヴァと、もう一人の幼馴染ライウッドなの! 彼らが、と~~っても気になるんです!!」
「なっ、なっ、一体何なんだ??」
一瞬の沈黙。
その後、父の顔が引くついた。
「ほぉ、イルとライか。一人じゃなく、二人を好きになったのか。さすがフリージア。お前なら一妻多夫制も夢じゃないだろう」
「えっ、えっ? 多夫制って・・・」
「よし、イールヴァとライウッド、バルンムルクス国の王子をまとめて私が相手しよう。剣と鞭はもう持ってるし、そうだな。エヴァディス、長弓ラビアボロウの準備を」
「へっ、あ、あの、陛下? 俺とライまとめてって・・・まさか」
にやりと笑みが零れている。父がよからぬ事を企んでいる顔だ。
「三人で一片にかかって来い。フリージアの未来の花婿候補として、私が自ら詮議し鍛え直してやろう!」
「「えええぇぇぇ――!!!」」
「・・・」
二人も気になる人が居ると父に進言すれば、馬鹿なことを考える余地は無いと思ったのに。最早、四つ巴の戦を止めることは出来ないと悟ってしまった――
書斎室を出て、前に父と私、後ろをエヴァディス宰相とイルの四人で通路を歩く。
「エヴァディス、お前も加わるか? お前なら、私に一太刀は浴びせれるだろう」
「冗談はお止めください。私が加わるなら、陛下側につくだけです。私は間違っても、陛下に刃は向けれません」
「そうか、お前にもチャンスをやったのに。フリージアにイイ所を見せて、好きになってもらったりすれば大逆転のチャンスが・・・」
「陛下、私は参戦出来るほど若くは無いのですから」
「強い上に賢くて美男、おまけに王宮お抱えにある地位の貴族で私の側近なら、安心して任せられるのはお前ぐらいだというのに・・・残念だ」
大人二人でチャンスがどうのこうのと喋る父に、嫌気がさして終始無言のフリージアとイールヴァ。
娘を賭けた名ばかりの訓練は、途中参戦のライウッドも加わることとなり、合計五人でする事になった。現国王の父と宰相エヴァディス対、近衛騎士イルとライ、バルンムルクス国の第一王子。
しばらくして数時間で根を上げたのは、若者たちだったという事を風の噂で聴いたとかいないとか。
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