6月6日2

2007年06月06日 | Weblog
不明年金対策 これでも不信不安は消えない (毎日新聞)
 年金不信は高まる一方である。本来もらえる年金が記録不備で額を減らされていたら、だれもそんな制度など信用しない。あわてた政府は急きょ、だれのものかわからない5000万件の不明記録対策をまとめた。

 対策の骨子は(1)来年5月までに5000万件の不明記録について名寄せ作業を完了(2)不明記録の該当者である可能性が高い人への通知は、60歳以上の受給者が同年8月まで、59歳以下の被保険者は再来年3月までに終了(3)総務省に原因究明や責任を追及する検証委員会の設置--などだ。

 安倍晋三首相の指示を受け、自民党は党内議論もほとんどなく参院選公約にこうした対策を盛り込んだ。わずか4時間の審議で衆院での強行採決に至ったのと同じように、安倍内閣の焦りが表れている泥縄方式である。拙速による急場しのぎが透けて見える。年金公約が単なる選挙向けのリップサービスであってはならない。

 対策は、当初の照合スケジュールを前倒しした。だが、この日程でスムーズに作業が運ぶのか、疑問視する向きが多い。

 開発する照合用プログラムといっても、氏名、生年月日、性別の3要件を頼りにコンピューター内で照合し、不明記録を同一名義に絞り込む手段にすぎない。やっかいなのは、社会保険庁の職員が手書き台帳から電子データ化した際の入力ミスだ。保存データが間違っているのだから、誤入力の見つけ出しは人力に頼るしかない。

 市町村に残る原簿記録や社保庁保管のマイクロフィルムと突き合わせるのは膨大な作業となる。昨年8月から今年3月、社保庁が記録訂正に応じた24万件の12%は入力ミスによるものだった。

 記録の訂正は、最終的に本人の確認が必要で、社保庁が勝手にやるわけにいかない。郵便で「年金記録に漏れの可能性があるので確認してください」と通知するにしても、あて先不明で戻ってきたり、同姓同名の別人へ送られる可能性もある。5000万件すべての不明記録が解消される保証はまったくないのである。

 保険料の納入を証明するものがない人への救済策も、政府の説明はあいまいなままだ。弁護士らによる第三者委員会が「合理的」に判断するというが、何をもって「合理」とするのか、基準が示されていない。地域によって判断にばらつきがあると、かえって混乱することになりかねない。

 10年間も不明記録を放置してきた行政の怠慢と無責任ぶりは怒りを通り越してあきれ果てる。その原因究明と社保庁幹部の責任追及を検証委員会にゆだねたが、国民が納得する結論を出さなければ不信は増幅する。民間ならとっくに引責辞任するケースである。

 「1年で名寄せ完了」と政府・自民党がスローガン風に宣伝しても、実施する上での不明部分はまだ多い。参院の審議では、問題点を洗い出し、丁寧に議論を尽くしたうえ、国民が納得できるような対策に仕上げなければならない。それこそ国会の責務である。


MD東欧配備 「新たな冷戦」招かぬ努力を (毎日新聞)
 東欧へのミサイル防衛(MD)配備をめぐりロシアと米国が険しく対立している。米国が配備を強行した場合、ロシア側は種々の報復措置も辞さぬ構えだ。折からドイツでは主要国首脳会議(ハイリゲンダム・サミット)が開かれる。米露はもとより各国首脳は「新たな冷戦」を招かぬよう知恵を絞ってほしい。

 この配備構想は04年暮れごろ明るみに出た。米国の計画では、2012年までにポーランドに迎撃ミサイル10基を配備し、チェコに高性能レーダー基地を置くという。イランの脅威への対抗措置とされるが、イランから欧米へのミサイル攻撃は考えにくく、にわかには理解しがたい構想だ。

 だが、「テロとの戦争」とMD開発・配備は、その是非はともかくブッシュ政権の「金看板」ともいえる。昨秋辞任したラムズフェルド前国防長官はMDの推進者であり、イラク戦争に反対したフランスやドイツを「古い欧州」、協力的だったポーランドなどを「新しい欧州」と呼んだ。MDの東欧配備は、欧州の親米国を取り込んで影響力強化をめざした前長官の「遺産」ともいえそうだ。

 配備を望むポーランドとチェコの意向は尊重されるべきだが、一方でロシアと米国は長年にわたる軍縮・軍備管理交渉のパートナーだ。北大西洋条約機構(NATO)が旧ソ連圏を包み込んで東方に拡大した時も、MD開発・配備の障害になるとしてブッシュ政権が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約から脱退した時も、プーチン政権は我慢を強いられた。

 このうえ近隣国へのMD配備を受け入れろと言うのか、とロシアが怒るのも分からないではない。米議会も軍事的な悪影響を懸念して、東欧配備に慎重だ。プーチン大統領は配備の対抗措置として、今は外してある欧州向け核ミサイルの照準を元に戻し、欧州通常戦力(CFE)条約の修正を通じてロシアの兵器保有枠を拡大する構えだ。80年代に米ソが結んだ中距離核戦力(INF)全廃条約を見直す可能性もにおわせる。

 なんとも物騒な話だが、ロシアが再び中距離核ミサイルを配備すれば、その影響は欧州だけにとどまらない。世界に先駆けてMDを導入した日本に対する北朝鮮や中国の出方もからんで、東アジア情勢の険悪化も予想される。クリントン政権時、米国のノーベル賞受賞者50人がMD開発・配備に反対する書簡を大統領に出したのは、MDの技術的可能性への疑問とは別に、配備によって逆に戦略環境が悪化する事態を恐れたためだ。

 プーチン政権下のロシアは、豊富な石油資源を背景に、米国と張り合う大国の地位を固めつつある。その半面、言論弾圧などへの批判として「ソ連に逆戻りしたようだ」との声も聞かれる。米国の一極支配とナチスの侵略主義を対比したプーチン演説も米国の神経を逆なでしてきたが、大量の核兵器を持つ米露が感情的な対立に陥ってはなるまい。時間は十分ある。賢明かつ穏便な解決を求めて、とことん話し合うべきである。


G8サミット 地球環境で合意の道筋を (産経新聞)
 ドイツのハイリゲンダムで主要国首脳会議(G8サミット)が6日から始まる。最重要テーマが地球温暖化問題だ。サミット史上、温暖化対策がこれほどの関心を集めるのは初めてのことである。

 来年からは日本や欧州などの先進国で、京都議定書に基づく二酸化炭素の排出削減を定めた第1約束期間(2012年までの5年間)が始まる。今回のサミットでは、13年以降の「ポスト京都」の枠組み作りで、首脳間の交渉が展開される。環境の悪化を食い止めながら経済成長を可能にする賢明な道筋を見つけ出してもらいたい。

 干魃(かんばつ)で農地が荒廃する一方で、豪雨が洪水を引き起こす。熱波が都市を襲い、熱帯低気圧が猛威を振るう。山岳氷河は後退し、北極の氷も減少傾向を見せている。こうした異常気象の顕在化と、国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の報告書で、地球温暖化は人間の社会活動に起因することが確実になった。

 世界一の二酸化炭素排出国で、京都議定書を離脱している米国が対策に前向きの姿勢を取り始めたのもその結果である。温暖化防止への努力を実効あるものとするためには、米国と排出量第2位の中国の参加が不可欠だ。

 中国やインドは、途上国という位置づけによって京都議定書による削減義務を免れている。米国とこれらの新興途上国は互いに相手方を不参加の根拠として背を向けてきた。

 米国の変化に加え、中国も「気候変化対応国家プラン」で省エネ計画を示すなどの動きをみせ始めている。うまく進めば、二酸化炭素の本格的削減への第一歩につながるだろう。

 しかし、サミットでの議論の行方は平坦(へいたん)でない。議長国のドイツは、宣言に明確な数値目標を盛り込みたい意向で、米国の強い反発が予想される。

 そこで、初参加ながら安倍晋三首相の手腕に期待したい。首相は先に「世界全体の排出量を現状に比して2050年までに半減する」という独自の長期構想を発表した。京都議定書の基本精神を発展させながら、米中印参加体制の構築を目指してもらいたい。仕上げは来年の北海道洞爺湖サミットで行われることになるだろう。

 人類の存続にかかわる環境外交の果たす役割は限りなく大きい。


脱北者と覚醒剤 法治国家の姿勢を示そう (産経新聞)
 青森県に漂着した北朝鮮からの脱北者家族の所持品から少量の覚醒(かくせい)剤が見つかり、警察当局は覚せい剤取締法違反(所持)容疑で書類送検する方針だ。脱北のケースでない通常の入管難民法違反(不法入国)事件なら、強制捜査の対象になる重大事犯である。任意でも法治国家として厳正な捜査が必要である。

 覚醒剤所持を認めた家族の一人である20代後半の二男は「北朝鮮で覚醒剤は簡単に入手できる。長旅なので、眠らないようにするため持っていた」と話している。密売目的ではないにしても、捜査当局はどこでどのようにして入手したかを詳しく聞くべきだ。

 北朝鮮では、国家機関が外貨獲得のために覚醒剤を製造・密売している。北朝鮮ルートの覚醒剤密輸は平成9年ごろから急増し、海上で大量に取引されている現場などが摘発された。日本の警察当局は、今回の脱北者4人が出航した清津付近など3カ所に覚醒剤製造工場があるとみている。

 最近は、国際的な取り締まりが強化されたこともあって、大量に余った覚醒剤が北朝鮮の国内に出回っているといわれる。こうした北の内情も、今回の脱北者は知っているだろう。

 6年前の平成13年5月、金正日総書記の長男、金正男氏とその家族とみられる4人が偽造旅券で不法入国し、東京入国管理局に身柄を拘束された。しかし、当時の日本政府は4人を事情聴取しただけで、北京に強制退去させる処分にとどめた。

 日朝関係に悪影響を与えたくないとする当時の外務省などの判断が働いたといわれる。厄介払いするかのような対応は、「主権国家としての任務を放棄した」「北朝鮮との外交カードを失った」などと批判された。このような愚を繰り返してはいけない。

 今回の脱北者4人は、昨年成立した北朝鮮人権法に基づき、希望する韓国への亡命が実現するよう、外交努力が行われている。麻生太郎外相は5日の閣議後会見で、4人の韓国移送について「武装難民でなかったことははっきりしているが、偽装難民でないという保証はない。きちんと捜査当局が調べたうえでの話だ」と述べた。

 覚醒剤に限らず、脱北の動機やその準備、費用などについても、十分に時間をかけて事情聴取すべきである。