紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

「事故係生稲昇太の多感」首藤瓜於

2005年05月18日 | さ行の作家
脳男」から一転、人間くささが妙に心に残る素敵な作品です。

正義感たっぷりで、直情型の交通課巡査・生稲昇太22歳。
彼は、自分の顔がゴツイことを知っていて、愛宕署のマドンナ・
大西碧とはつり合わないという自覚はある。でも、淡い
恋心を抱きながら、事故処理のプロを目指すけれども、
なかなかうまくいかないことばかりで…。

簡単に言ってしまうと、“交通係の日常”といった感じ
でしょうか。でも、そんなに簡単なモノではなく、
大きな事件が起きるわけではないけれども、昇太が扱う
交通事故というものにはいろいろあって、人身、物損、
ひき逃げ、死亡事故…と事故の数だけその背景にある
当事者たちの事情も違うわけで。それを、不器用だけれど
心は熱い昇太の目を通して語られると、ぐっと心に
迫ってくるものがあるのです。

正義感から、不当な者を罰しようとする昇太の前に立ち
はだかるのは、トリックとかアリバイとかではなく、
“警察”という組織だったりします。尊敬する先輩に対して
不満を抱いたり、自分の居場所を見失ったりと、昇太は
“多感”なだけに、さまざまな壁にぶち当たります。
しかも、それをまた不器用に乗り越えていくから、
母性本能をくすぐられるのです(笑)。

連作短編というカタチで、昇太の多感っぷりが披露されている
ように見えて、実はハードボイルドな“刑事モノ”なんですよね。
刑事じゃなくって、事故係なんだけど。そういう意味でも、
今後、昇太がどういう風に成長していくか、見守りたいのです。


事故係生稲昇太の多感」首藤瓜於(講談社文庫)