紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

「チャイ・コイ」岩井志麻子

2005年05月12日 | あ行の作家
私が、いちばん岩井志麻子らしいと考える作品はやはり、
タイトルを口にするのも憚られる「魔羅節」でしょう(笑)。
そういう作品をくすくす笑いながら読んでいる私も、
ハッキリいって変でしょうが(自覚はある)、なんというか
岩井志麻子の“心意気”というか“醍醐味”というのを
感じられる作品を読むことに喜びを感じるわけです。
そういう観点からすると、本作はちょっと毛色が違います。
というか、たぶんこっちの方が一般的に受け入れられるでしょう。
第2回婦人公論文芸賞受賞作です。

もし、志麻子ねーさん以外の人がこういう作品を書いたとしたら、
私はたぶん読めません。いわゆる“純文学”というものが苦手なのです。
(それは、高校時代に読んだ「ノルウェイの森」に起因します(笑))
そこに謎があるわけでもなく、殺人事件が起こるわけでもなく、
ましてや警察はおろか、探偵なんて絶対登場しませんしね。
それでも、小川洋子なんかはよく読んでますが、それは私の好きな
“残酷さ”なり“痛さ”なりがちりばめられているから。
志麻子ねーさんでいうならば“エグさ”といったところでしょうか。

本作はホラーではないので、そこまで“岩井節”を期待していた
わけではありませんが、仄かに香る彼女の残り香が、
なんともいい感じに、私寄りに風味づけしてくれてありました。
ひと言で言ってしまえば、これは私小説ではないのか?という
ような感じ(笑)。小説家である主人公の女性が、ひとり旅で
訪れたベトナムで恋に落ちる物語。その“恋”が、思いっ切り
志麻子ねーさんのテイストですね(笑)。一目見て、狂おしいほどに
「この男と寝たい」と思った彼女の恋。この物語の主人公には、
女にありがちな“ずる賢さ”が見えず、ずるくても賢くはないところが
妙に生々しくて好き。後から味わう“苦さ”を知っていても、この
恋の衝動に抗えない彼女の弱さは、昔の自分を見ているようで(笑)、
心底イヤな気分にはなるけれども、どうしても憎めない。
これが不思議なもので、他の作品でこういう女性が出てくるだけで
イヤになって読めなくなるのに、志麻子ねーさんだから許せる。
ここの、この微妙な違いが、他の作品とは大きく違うところ
なんじゃないかと思ってみたりしています。


チャイ・コイ」岩井志麻子(中公文庫)

1 コメント

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初めましてー (さおり)
2006-08-07 00:44:59
私も岩井志麻子センセのチャイ・コイを読みましたー。あの小説を見て私もベトナムへ行きたくなりますよ。チャイ・コイの続編を書いてほしいですね。