心理学の本(仮題)

【職場に】心理学書編集研究会(略称:心編研)による臨床心理学・精神医学関連書籍のブックレヴュー【内緒♪】

科学をわしも考えた~現代と科学とconflict of interest PART2

2007-02-14 12:59:18 | 効果・実証・エビデンス関連
●関連エントリ
現代と科学とconflict of interest
すべて偉大なものは単純である~現代と科学とconflict of interest PART3
説得NTあるいはオカルト~現代と科学とconflict of interest PART4


ま,というわけで,アルヨアルアルアルアル(ry問題,ずっと気になってるわけです。

どんどん捏造が発覚して,疑惑が飛び火して,そらそうだよなと思いつつ,やれ第三者機関だとか法律規定だとか啓蒙だとかリテラシーだとか大事ですけどね,なんか釈然としないわけでして,ま,せっかくなので,それに類する本を読んでみようかと,読んでるわけですね。


科学革命の構造科学革命の構造
トーマス・クーン 中山 茂

みすず書房 1971-01
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で,いまさらなんですが,これを。そういやこれ読んだことなかったけど,現代科学論の古典であり「パラダイム」という言葉を大流行りさせたクーンさんです。既に古典である以上,すなわち,あらゆる人が意識・無意識に引用しまくってるわけで,読まなくても知っている,みたいな部分もあるけれど,やっぱオリジナルは違う。コクとキレが違う。やっぱ古典は読んどくべきです。

ま,「パラダイム」という語の一人歩きについて,その後,「専門母体(disciplinary matrix)」なんていってますけどね,この訳語はどうかと思いつつも,ディシプリンのマトリックスと言われると,確かにシックリくるね。それはさておき,この「一人歩き」ってヤツね,図らずも,アルヨアルアルアルアル(ry問題と共通してるとは思いませんか,みなさんッ。

数字にしろ概念にしろ,衝撃的であればあるほど,「一人歩き」性が高まるわけで,それに対して,「本当の○○はそんなもんじゃない」とか「○○は本当には理解されていない」とか「○○は本来それを意図していない」とか,もうこれ,なんにせよ,あらゆるところで,使われるフレーズですが,そんなおためごかしはもうたくさんなんだよ。

「本当の自分」を探すには,地球四周以上回るだけの財力が必要だ,ということが示された今,「本当の○○」と「誤解されてる○○」を二元論的に分断するのは止しにしませんか,みなさん。それも含めて「○○」だろうが,バランスがいびつだろうと,それが「本当の」なんですよね。閑話休題(長いな)。

これも読みました。


科学が作られているとき―人類学的考察科学が作られているとき―人類学的考察
ブルーノ ラトゥール Bruno Latour 川崎 勝

産業図書 1999-03
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科学は科学の定義する科学的実験において客観的とのコンセンサスを科学者のなかで得られたものを科学的知見としてるわけですが,その科学者社会自体の内部には,当然,一般社会と同様,さまざまなダイナミズムが働いてることはちょっと考えれば分かるわけですし,科学者社会を包含する一般社会の内部でも同様に他の専門者社会とのダイナミズムが働いているということであります。当たり前といえば当たり前なんだけど,それをそうというのは意外と難しいんですよね。なぜなら当たり前だから。

平たく言えば,永田町の論理は一般国民にはわかりにくいことになっているのと同様,科学社会の論理は一般国民にはわかりにくいことになってます。なっている,と書いたのは,マスコミがそう言ってるからでして,同様にマスコミの論理は一般国民には分かりにくいことになるだろうことは想像に難くありません。ディスコミの嵐,ですな。


などと,関係あるようなないようなことをついつい書きつらねてしまうわけですが,上記はいわば科学に対する相対主義的な視点を提供しているわけですが,30年前ならともかく,情報氾濫の現代社会,相対主義というものも相対的にみる必要があるとも思うわけですね。ま,これ単なる言葉遊びではなく,もちろん相対主義というのも,絶対的な相対主義などありえるわけもなく,ある文脈における相対的な視点を提供するのが,相対主義の使命なんですけどね。

というわけで,これ。


「知」の欺瞞―ポストモダン思想における科学の濫用「知」の欺瞞―ポストモダン思想における科学の濫用
アラン・ソーカル ジャン・ブリクモン

岩波書店 2000-05
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現代思想をコケにしまくった「ソーカル事件」の立役者,ソーカルさん。例の論文の翻訳も載ってます。相対主義のカウンターに対するカウンター。いわばウルフ金串。

ちなみに,


相対主義に関するよくある質問


というのもあります。要は,知らないヤツがとやかく言うな,ってことでしょうか。ま,でもそれ言い出すと,文学批評も小説書ける人でなくてはダメで,音楽批評も音楽専門家でなくてはダメなことになってしまうから,生産性のない批判についてはともかく,生産性のある批判については,耳を傾ける必要もあるだろうなと,きわめて常識的なことしかいえないわけですし,そんなことは上記に書いてあるんですけどね。

とはいえ,


二重らせん二重らせん
ジェームス・D・ワトソン 中村 桂子 江上 不二夫

講談社 1986-03
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事実誤認が指摘されまくってるわけですが,この強烈な生々しいダイナミズムは自伝(自伝的フィクション?)として一読の価値ありと思います。これを読んでると,科学的な発見というのは,現場で起こってるんじゃない,現場を取り巻くコンテクストの中で起こってるんだということを思います。ワトソンはフェアじゃないだとか,そういう批判は道徳的にはありかもですけど,なんていうかそういうことじゃない。これぞ科学的パラダイムの力,と思います。

ま,科学の構造が云々なんて難しいこと言わなくても,科学の現場にいる人,すなわち研究者たちは,科学的絶対的真理があるとは思ってないと思う。先にも書いたけど,科学者間のコンセンサスを得ることの方が大事なんですよね。

というと,なんか結局,科学も政治かよと思っちゃいがちですけど,よく考えてみてください。われらの生活,科学によって成り立ってるわけですよ。同時に,自民党政治によっても成り立っており,また,USAの世界政治によっても成り立ってるわけで,コンセンサスを得るのは大事だし,そのコンセンサスが一定の機能を果たしていることは疑いがないわけですよね。

とはいえ,科学者の日常感覚で言えば(多分に他聞),○○大学だと学位をとりやすいとか科研費とりやすいとか学振とりやすいとか,共同著者が××だとインパクトファクターの強い△△誌に通りやすいとか,もうね,科学関係ねえっていう,きびしい現実に晒されてるわけでして,とても純然たる科学的絶対的真理の追究者であると,楽観的に考えている人はおりますまい。いたとしても,とても熾烈な科学競争を勝ち抜けますまい。いいんだ,自分は地道に研究を続けるんだ,なんて公務員的安定志向的求道的研究者に,もはや大学は優しくないです。それが良いことなのか悪いことなのか分からないけれどね。となると,成果主義に走り,ゴッドハンドと呼ばれ(ry

…………

ま,科学もイデオロギーである,というのはある種新鮮だったのだと思うのですが,宗教はイデオロギーであるといっても誰も吃驚しない。それはなんででしょうかね。

要は,難しい科学論はそれはそれで結構だと思いますし,それに対する科学側の反論もそれはそれで結構だと思うのですが,パラダイムというと無闇とカッコイイわけですが,平たく言えば「流行」なわけでして,流行には,発信源があり,コンセンサスがあり,自走性があると,そういうことですな。科学だけじゃなく,宗教もそう。ポストモダン思想もそうね。

ポストモダン思想が支配的な流行下において,ポストモダン以外の思想は,儀礼的にはともかく事実上封殺されるわけでして,そういうポストモダン思想の構造を指摘したところで,で?っていうね。その価値は変わるものではないわけで,同様に科学の構造を指摘したところで価値が変わるものでもない。もっといえば,何も変わらない。そして,矛盾と葛藤と軋轢だけが増えていくわけですけど,まあ,人生もそんな感じね。だからどうということもない。

もちろん,ある局面において,何らかの視点が有用な場合もあり,しかしそれは流動的であり,絶対的ではない。そらそうだ。だからといって虚無的になってはいけません。deny everythingでない,矛盾と葛藤と軋轢を抱えたままの人生 goes on。

ま,最後に,


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リチャード ローズ Richard Rhodes 神沼 二真

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機会があったら読んでみてください(品切れっぽいけど)。


そして,またもやさらに続く。


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