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 緑の指(仮)閻魔様の涙。

2015-10-06 15:23:25 | 日記

今日は 全てが 狂ってしまった

商いは うまくいかない

別れた旦那が 珍しく送金してくれた

それで 娘に 食べさせる




小説、下げておきます。

閻魔大王の、話、

興味のある方だけ、読んで下さい。

娘が、描いてくれた絵もアップしてありますよ~。



















緑の指(仮)閻魔様の涙。





今日も、凛が、夏ちゃんと一緒に帰ってきた。

夏ちゃんのお母さんが、仕事で7時までかかるから預かって欲しいというので、

快く、承諾。

二人は、帰るなりヒソヒソと内緒話した後、

「母さん…」と、一冊の絵本を見せてきた。

「借りてきた、凄い怖い本なんだけど…」

なんと。地獄の絵本だ。

「ここに描いてあるのは、本当の事ですか?」

恐怖に怯える、実にいい顔だ。

「閻魔王は、本当にいますよ」

絵本を受け取りながら云うと、ふたりの恐怖心はヒートアップ。

「では、地獄は、存在するんですね」

夏ちゃんが、真っ青な顔をしていて、面白くてしかたなかった。

「無意味に、生き物の命を奪うなどをした者が落とされる地獄、等活地獄。

一番浅い階層の地獄です。

ここに落とされた者は互いに武器で殺し合い、

また殺し合わない者も鬼によって体を引き裂かれます」

夏ちゃんが後を続けた。

「黒縄地獄…殺人や盗みを犯した者が落とされる。

墨縄という木材に線を付ける道具で体に幾重もの線を付けられ、

その線に沿ってのこぎりで切られる、という罰を受けます…」

「嘘をついたら、舌を抜かれます。…私は、もう、嘘をついてます」

凜が、真っ青になって云った。

へええ、凛が、嘘を? でも、それって、優しい嘘、じゃないの?

私は、とりあえず、ふたりにかばんを降ろさせて、落ち着かせた。

パンケーキを焼いてやる。それと、甘い、ミルクティー。

涙ぐんでいる二人を、愛しく想う。

「私、閻魔様に出会ったことあるの。聞く?」

ふたりは、顔を見合わせて私を凝視した。

「本当?」

「閻魔様は、人として初めて死を体験し、死後の世界を最初に見たひと。

私は、4才の時に、彼に会ったわ」



そう、あれは、

高尾山で、初めて滝行したとき。

真冬で、水は、身を切るように冷たくて。

本当に、刃物で背中を裂かれるように痛かった。

耐えていられる時間は少なく、あっという間に目の前が、真っ白になった。

私はその場で意識を失い、

三日間、意識を失っていたのだ。

閻魔様に出会ったのは、その時だった。





閻魔様は、想像とは全く違った。

とても、美しく、

優しい方だった。

鳳凰が浮き彫りにされた、赤に染められた衣を、綺麗に着こなされ、

漆黒の髪がお似合いだった。彼は、馥郁たる白檀の香りを纏い、

きれいに整理された長机に着いていた。

優しい面差しで、私をみていた。そして、その声は、人を恍惚とさせる。

私は、たちまち、その方の声に、酔ってしまった。

「骨の髄まで冷え切っているが、おまえは、まだ生きる」

あの時の私は、厳しい修行に嫌気がさして、

「嫌です」

と、駄々をこねた。

「こんな苦しい修行は、我慢できません。私をこのまま、極楽へ送って下さい」

閻魔様の声は、透き通る、極上の音楽。

「おまえは、まだ、犯した罪もなく、得もない。

その時ではない。少しここで休んで、…生きるのだ」

生前の罪を浮かしぼりにする浄玻璃の鏡には、なにも映ってなかった。

「修行は厳しいものだ。しかし、おまえには、

業がある。完成させなきゃならない、業が。耐えて、生きよ」

私は、絶望感で脱力し、その場に崩れ落ちた。

閻魔様はゆっくり立ち上がり、

着物の袂を鳴らしながら、傍にきた。

私を抱き寄せるその手は、とても、

とても、暖かかった。

「しばし休んで、この場で何が起こるのか、学びなさい」

閻魔様は多忙で、次々現れる亡者を、裁いた。

私は、三日間、彼の膝の上で、裁きを見届けた。

貧しくとも、美しく生き抜いた人。

己の欲で、人を殺め、死罪になった者まで。

浄玻璃の鏡の前では、誰もが嘘をつけなかった。

全ての罪人が、罪を悔やみ、自分の身の上を嘆いた。

「地獄は、嫌だ! 嫌です、閻魔様!!」

怜悧無情な声が、罪人を悟らせ、地獄へと、堕とす。

無明世界で、存分に楽しんだのだろう?

ただ、幻の中を、おまえは、好き勝手にやっただけ。

どうだった? 愚かな、その世で溺れた、愚者よ

鬼が、罪人を、地獄へと運んだ。

閻魔帳と呼ばれる帳簿に、黙々と判を押しながら、

閻魔様の手は、震えていた。

振り返ると、彼は、泣いていたのだ。

ゆるい刑でも、釈放まで9125年 。

閻魔様は、地獄で、死者を裁く裁判官の10人(十王)のお一人。

とてつもなく美しく、

優しいお方だった。

その方の涙を、私は、この頬に受けたのだった。

「何故、泣くのです?」

「あのような過酷な場所に人を送ることは、辛いのですよ」

「地獄、にですか」

「人が想像して作り上げた地獄はありません」

閻魔様は、少しお疲れのようだった。

「あれは、人の妄想。実際にある、地獄と云われるものは、あんなものではありません」

もっと、残虐で、恐ろしく、惨い場所です。

私は、その言葉にゾッとなった。

「とても、正気を保って送れるような場所ではありません。

私にも、耐えられない夜が、あるのですよ」

「意外です…」

閻魔様が心痛に悩まされること。

自分が知っている地獄とういう場所が、はるかに恐ろしい場所であったこと。

「人の子よ」

閻魔様は、そっと私を抱いてくれた。

「おまえにも、春が来る。花を咲かせる春が」

「信じられません。きっと、私は、厳しい修行の途中で、のたれ死ぬのです」

「そんなことはないよ」

閻魔様が、ふっと笑った。白檀の香りが、僅かに強く通った。

「花を咲かせなさい。私は、ここから、おまえを見ているよ」

そして、続けた。「辛い事があっても、罪を犯さぬように。間違いを犯すようなら、

その場から、お逃げ。…決して、罪を、犯さぬように」



それから、私は、人間世界で眼を覚ました。

暖かな布団。暖かな風。澄んだ流水音。

でも、閻魔様がいないことが辛くて、私は泣いた。

それに気づいた、山伏が、「重湯を拵えよう」と立ち上がった。

美しくも、残酷な優しい世界。

存在するのだ。

私は、知ってしまった。

閻魔様の、強さと弱さを。




閻魔様、蠟梅の咲くこの季節に

貴方は、確かな、春を届けてくれた。

この花の美しさを、私は、知ってしまった。

生きねば、ならぬ。

生きねば…

『生きる』ことに、皆が辛労するのですね。

私だけに、限ることではなく…。




ふたりは、しばらくポカンとしていたが、

私は、想う。

生きることに、甘美な罠が張りめぐらされた、この世に、

服従されてみるがいい、と。


私は、いつものように、紅茶を淹れる。



覚醒するまで、ひとは、愚かに繰り返す。

この、私もまた同じ。

美しい波動を放つものに、ただ酔いしれ、

一時、浮世の裏側を、

忘れるのだ。








緑の指(仮)閻魔様の涙






















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