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NPO法人POSSE(ポッセ) blog

【解説】「自分の都合で離職する若者」が多いって本当?〈4〉 ~自己都合退職はハローワークで作られる~

5月28日、内閣府の「雇用戦略対話ワーキンググループ(若者雇用)」の最終会合が開かれました。若者の雇用不安を「早期に自分の都合で勤め先を辞め」ると報じる向きもあるようですが、果たして若者は本当に自分の都合で職場を辞めているのでしょうか? 早期離職の内実について、数回にわけて解説します。

第一回「第三のバックラッシュを許すな!」 http://bit.ly/KZAPrK
第二回「データ不在の「自分勝手に辞める若者」」 http://bit.ly/L4SJG1
第三回「「自己都合退職」の大半が偽装」 http://bit.ly/KcaHKV


第四回 自己都合退職はハローワークで作られる


本来、「自己都合退職」ではないはずの人たちが、なぜ「自己都合退職」として扱われてしまうのでしょう。それは、一言で言うと、離職理由を報告するのが企業だからです。

会社を退職する際、労働者は使用者から離職票[1]を発行してもらいます。その離職票に、使用者が離職理由を書き込む欄がありますが、これを書くのが使用者であるため、企業にとって不利になる離職理由が書かれないという問題があります。POSSEの調査からは、まさにこのズレが大半を占めていることが明らかになりました。

#1 離職票の書式(PDF) http://bit.ly/JKQGLP

では、企業にとって自己都合退職以外の離職理由が不利になるのはどういう点でしょうか。まず、会社都合退職や解雇で労働者を辞めさせた場合、雇用調整助成金やトライアル雇用の奨励金など、雇用維持・雇用創出によって得られる助成金の受給資格がなくなります。これは当然の措置だと思いますが、これを嫌う企業が多いのです。

しかし、デメリットはその程度しかありません。むしろ事例としては、企業自身も、何がデメリットになるのかを理解せず、とりあえず労働者が自分の都合で辞めたとして扱っている場合が多いようです。また、会社を辞めた人間を「自己都合退職」として辞めさせることで追い討ちをかけたり、残っている人間に対して見せしめにしたりと、悪意からそのように書き込んでいると推察される事例もあります。

企業に雇われた社労士が、基本的に自己都合退職の方が無難だというアドバイスを会社にしている場合もあります。退職勧奨をした使用者が「会社都合にします」と言っていたのに、社労士が「特別な事情が無い限りは自己都合退職にした方がいい」とアドバイスして、紛争になったケースもあります。そのときは、結局、調べてみると全く企業にとってのデメリットは無く、それを労働者が使用者に説明しただけで会社都合退職になりました。もちろん、勧奨退職をしたにもかかわらず、デメリットを避けて自己都合退職にしようとした使用者にも問題はありますが、社労士が適当な回答をしたためにあと一歩で3ヶ月間も生活費が入らない窮地に追い込まれるところでした。

「自己都合退職」の離職票が出た場合、異議申し立ての機会が法律で保障されています。労働者から異議が示された場合、ハローワークがその精査をすることになっていて、厚生労働省を通じて必要な証拠資料なども事細かに示されています。

しかし、こうした法律知識を多くの人は知りません。それに輪をかけて問題になっているのが、不本意な離職票が出たことでハローワークに相談に行ったにもかかわらず、門前払いに遭う人が後を絶たないということです。その場合、だいたい「ハローワークでは使用者に確認することしかできません。離職票が出る前に労使できちんと話し合ってもらわないと、うちとしては何もできません」と言われます。これはマニュアルがあるのかと思うぐらいよく聞きます。

労働者にとって死活を決定する問題なのに、使用者に書き間違いでないか確認することしかしないのは怠慢だといわざるを得ません。偽装「自己都合退職」の問題を指摘した紺屋博昭は、「離職理由の内部強要がないかどうかを見抜く慧眼が求められている」[2]としています。

#2 紺屋博昭「雇用保険被保険者離職証明書等の離職理由をめぐる判定手続過程と法的諸問題」(『労働法律旬報』1531号、2002年) http://bit.ly/KTkgrS

とはいえ、ハローワークに労働実態を調査する権限などありません。であれば、正当な理由の無い自己都合退職者にペナルティを課す正当性は担保されていないだろう、というのが私見です。この点についても、雇用保険制度を今後どうしていくのかを考えなければいけません。が、これは上記のような実態を認識することで初めて出てくる問題意識だと思います。

このように、「自分の都合で辞める」若者は、データ不在の状況で勝手に論じられてきたというだけではありません。使用者の作為とハローワークの不作為によって、現実に生み出されてもいるわけです。

しかし、ハローワークでの調査を行ってみて、もう一つの要素を考える必要が出てきました。当の「自分の都合で辞める」とされる若者たちは、どう考えているのか、ということです。
(つづく)


NPO法人POSSE事務局長・川村遼平


(書誌情報)

『POSSE vol.9』(特集:もう、逃げ出せない。ブラック企業)


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NPO法人POSSE(ポッセ)は、社会人や学生のボランティアが集まり、年間400件以上の労働相談を受け、解決のアドバイスをしているNPO法人です。また、そうした相談 から見えてきた問題について、例年500人・3000人規模の調査を実施しています。こうした活動を通じて、若者自身が社会のあり方にコミットすることを 目指します。

なお、NPO法人POSSE(ポッセ)では、調査活動や労働相談、セミナーの企画・運営など、キャンペーンを共に推進していくボランティアスタッフを募集しています。自分の興 味に合わせて能力を発揮できます。また、東日本大震災における被災地支援・復興支援ボランティアも募集致します。今回の震災復興に関心を持ち、取り組んで くださる方のご応募をお待ちしています。少しでも興味のある方は、下記の連絡先までご一報下さい。
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