ぽんしゅう座

優柔不断が理想の無主義主義。遊び相手は映画だけ

■ 怒り (2016)

2016年09月25日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」
怯えた目をした男は「信じてくれてありがとう」とはにかむ。伏し目がちな男は「信用されて嬉しいです」と伝言を托す。世間の上辺を彷徨う男は「俺には、俺を信じようとする奴がすぐに分かる」と挑発する。そして、裏切られた者の「怒り」は心底の深く内向し、ときに爆発する。

人は誰しも安心を求める。安心は信じることから生まれれる。疑いながら、あるいは、疑われながら生きることほどつらいことはないだろう。それなのに、どうして「信頼」とはこんなに脆弱なものなのだろう。

私たちは、相手の信頼に応え続けることや、相手を信じ続けることの難しさを知っている。少しの破綻が小さな疑念を生み、雪だるまのように巨大な不信へと膨らむ。誰もが、そんな経験を山ほどしていることだろう。

信じ、信じられながら過ごせる平穏な100パーセントの状態を求めて、20パーセントしかない「信頼」を懸命に信じ、80パーセントの「不信」が渦巻く世間に抗い続ける者たち。そんな、危うい私たちの姿を、この映画は映し出す。

(9月24日/TOHOシネマズ)

★★★★
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■ だれかの木琴 (2016)

2016年09月23日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」
ある事件が起きる。平凡で小さな事件でいい。周りから声が聞こえる-まさか、あの人がそんなことをするなんて・・・。ときには家族からも。

あなたに関心がなかった分けではない。あなたを理解したいと思っていたはずだ。でも出来なかった。あなたにも自分が分からないように。

悪意も、狂気も感じさせない自然体の常盤貴子が不気味であり、愛おしくもある。それは、まさに「音楽」という完成形を求めて、さまよい続ける木琴の単発の「打撃音」が持つ純朴さと同じだ。

カタチを結ばない「音」の連打とは、永遠に結論にたどり着かない純粋な「行為」のことだ。小夜子(常盤貴子)が連打する単発の「愛」は成就することにではなく、発信され続けることに意味があり「行為」の実行そのものが安らぎなのだ。

だがら彼女は、穏やかで美しいのだ。

(9月19日/シネマート新宿)

★★★★
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■ オーバー・フェンス (2016)

2016年09月21日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」
生きものにとって求愛ダンスとは、互いに愛し合う対象であることの確認行動であり、自らの存在の意味を発信する懸命な本能の発露だ。他人の人生を壊してしまった男が、自我が壊れてしまった女の、そんな生命のあがきに無意識に救いを見出すのは当然の帰結だった。

そして、蒼井ゆうのダンスは、またも映画も救う。

手作りの紙コップ製トウシューズでバレエを舞いオーディションで夢をかなえる『花とアリス』(04)の女子高生。プロダンサーとして斜陽産業に喘ぐ地元の復興を担う『フラガール』(06)の田舎娘。今回の地方都市の閉塞と周囲からの蔑視に「押しつぶされた女」は、起死回生への無意識の発露として鳥の求愛ダンスを踊る。

脚本の高田亮と山下敦弘演出によっておそらく映画用に創作され、蒼井ゆうによって舞われる「魂の求愛行動」というアイディアが、不器用な恋愛物語としてのこの映画の魅力を支えている。

(9月19日/テアトル新宿)

★★★★
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■ アスファルト (2015)

2016年09月18日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」
狭く区切られた壁に閉じ込められたように暮らす人たち。自分が孤独であることすら忘れ淡々と日々をやり過ごす。幼児の泣き声。虎の叫び。悪魔の囁き。風の音にめぐらせる空想に小さな不安が滲む。そんな彼らが秘めた「人恋しさ」が顔を見せる瞬間、温もりが蘇る。

(9月14日/シネマカリテ)

★★★★
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■ グッバイ、サマー (2015)

2016年09月17日 | ■銀幕酔談・感想篇「今宵もほろ酔い」
コトコトと覚束ない足取りで公道を走る自作の車が、なんとも危なっかしくも微笑ましい。まさに窮屈になった小世界から、不安と好奇心に揺れながら、大人の世界へ足を踏み入れる14歳の少年の姿そのもの。立ちはだかる壁も、現実と夢が入り混じったように「淡い」のも青春の証し。

(9月13日/シネマカリテ)

★★★★
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