フランスに揺られながら DANS LE HAMAC DE FRANCE

フランス的なものから呼び覚まされることを観察するブログ

J'OBSERVE DONC JE SUIS

谷口ジロー

2005-05-18 20:12:53 | 出会い

ブックマークしているサイトに、パリジャンが創っている L'homme qui marche (歩く人) というのがある。一瞬、ロダンに関係があるのかと思ったが、自己紹介を読んでいて、谷口ジローの漫画に捧げたのだということを知った (Le titre "L'homme qui marche" est un hommage au manga de Jiro Taniguchi.)。漫画は子供時代の「サザエさん」以来目にしていなかったので、早速ネットで調べたところ (「ジロー」に行き着くまでに少々時間がかったが)、彼の世界が何となくよさそうなので、「遥かな町へ」、「父の暦」、「凍土の旅人」、「孤独のグルメ」 を仕入れた。

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「遥かな町へ」を読んでみた。何とも切ない、懐かしい思いを呼び起こしてくれる。時間、空間による絶対的な制約を越えて数日(現実では。過去においては、中学生の一時期を)生きた主人公、夢か現実かわからない、おそらく、すべて頭の中で起こったことだろう、これらすべてが真実 la vérité であると言っているようでもある。最後はカタルシスで終わるこのお話に、完全に引き込まれてしまった。著者は団塊世代。人生をある程度歩み、振り返る余裕ができた年代でなければ書けなかったであろう珠玉の作品に出会うことができた。

このお話は、Paul Auster の小説でも取り上げられていたテーマにも通じるものがあるようだ (15 avril 2005)。今いるところが現実なのか、現在なのか過去なのか、時間を越えて飛び回る想像、どこかに紛れ込む感覚。時間とともに人は老いてゆくが、われわれの中にある子供は変わらずにそこにある。

また、「ここではないどこか」、「自分の心の奥にある本当の欲求を満たすために」というテーマも出てくる。こちらがメインか。父がなぜ失踪したか、という疑問を心のどこかに引きずって暮らしていた中年の主人公が、過去に戻って生き直すことでそれを知ろうとする。そして本当の理由を父から聞かされる。自分を取り巻く状況のために心の奥底に潜む欲求を抑えて暮らしていた父が、ついにそれを抑えきれなくなり、すべてを捨てて旅に出た、ということを。子供の時には理解できなかったであろうその答えを、現実に戻った主人公は自分に重ねて納得しようとしているようでもある。似たようなテーマを先日 (13 mai 2005) も触れていた。このように事が繋がってくるのは不思議な感じがする。

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続けて 「父の暦」 も一気に読んでしまう。脱故郷、父親との緊張関係(確執)、守られて、幸福だった子供の頃の思い出。父親の葬式で知る故郷のやさしさや父親の知らなかった素顔に触れる。そして今はいない父親を近くに感じ、主人公の中でわだかまりが消えていく。現在と過去が交錯して語られるこの物語を読みながら、自らの経験が頭を駆け巡る。身につまされる。

谷口の漫画は、ある程度人生を歩んだ人であれば、どこかに共感させられるところがあるように思う。お勧めしたい。

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