フランスに揺られながら DANS LE HAMAC DE FRANCE

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誰がパンテオンへ QUI EST PENTHEONISE, DREYFUS OU BLOCH ?

2006-07-01 16:35:53 | 海外の作家

最近の Le Point に IdéesPolémique というセクションがあり、今年パンテオン Panthéon に誰が入ることになるのか (panthéonisation, panthéoniser)、という問題を扱っている。数ヶ月前から名前が挙がっている二人のどちらが適格なのか、論争が起こっているようだ。一人はドレフュス事件で有名な Alfred Dreyfus、もう一人は知名度は落ちるが歴史学者でアナル派の開祖 Marc Bloch。いずれも愛国者ではあるが、国家・歴史の犠牲になった人。しかも二人ともユダヤ人である。

アルフレド・ドレフュス
Alfred Dreyfus (9 octobre 1859 - 12 juillet 1935)
マルク・ブロック Marc Bloch (6 juillet 1886 – 16 juin 1944) [ブロックについての詳細はこちらへ。]

ドレフュスについてはエミール・ゾラの J'accuse のこともあり、何となく知っている程度だったが、フランス語を始めてから聞いた Les Misérables の簡易版CDの中で、ヴォルテールが死後名誉回復に乗り出したカラス事件とともに紹介されているのを不思議だが鮮明に覚えている。

マルク・ブロックについてはほとんど知らなかったので、ネットをサーチしていたらこのブログの記事が引っ掛かってきた。以前に、中世学者のル・ゴフさんの語った言葉として彼の名前を引いていたのだ。今回ウィキペディアで読んでみると、人間として (en tant qu'homme) 歴史に関わった人物として感銘を受ける。熱いものを心のうちに秘め、何かのために燃えるエネルギーを備えていた人物ではなかったのか。1939年、家族を抱えた53歳が関節炎の身をおして志願兵となったという。1943年には南部が侵攻されたのを見てレジスタンスに加わるが、翌年3月8日にリヨンでゲシュタポに捕らえられ、拷問を受け、6月16日に銃殺された。

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誰をパンテオンに葬るのか、結局のところ大統領の意思による。そこには両陣営のいろいろな思惑や運動もあるようだ。ただ誰が入るかという論争や長続きしないその場限りのお祭り騒ぎより、ドレフュス事件の歴史を教え、マルク・ブロックの作品に触れさせることの方が、共和国の価値観が蔑ろにされている現状を考えると、もっと重要で緊急を要するのではないか、というのが結論のようであった。

« Peut-être est-il plus urgent d'enseigner l'histoire de l'Affaire Dreyfus et de faire connaître l'œuvre de Marc Bloch que de les célébrer au cours de cérémonies qui risquent d'être sans lendemain. »

« Marc Bloch au programme, c'est plus important que son corps au Panthéon. »

今回、彼の著書に、「パパ、歴史って何んになるの、教えて」 « Papa, explique-moi donc à quoi sert l'histoire. » という子供の問いかけに答えるために書かれたという晩年の "Apologie pour l'histoire ou métier d'historien" (歴史のための弁明あるいは歴史家の務め) があることを知る。ネットで読めるのでいずれトライしてみたい。

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この記事には以下のような本が紹介されている。

Alfred Dreyfus : L'honneur d'un patriote de Vincent Duclert (Éditeur: Fayard; 19 avril 2006; 1259 pages)

L'Histoire, la Guerre, la Résistance de Marc Bloch, Annette Becker (Préface), Etienne Bloch (Préface) (Éditeur: Gallimard, Quarto; 19 janvier 2006; 1094 pages)

L'Etrange Défaite de Marc Bloch (Éditeur: Gallimard, Folio; 1 janvier 1990; 326 pages)

Les Lieux de mémoire, tome 1 par Charles-Robert Ageron et Pierre Nora (Éditeur: Gallimard, Quarto; 23 mai 1997; 1642 pages), tome 2 (23 mai 1997; 3014 pages), tome 3 (23 mai 1997; 4751 pages)

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ところで、「マーク・ブロッホ」 の日本語情報をリンクしようとして再度探してみたが、驚くべきことに見つからない。翻訳もされていないようだが、ひょっとすると日本では知られていないのか、研究している方もいないのだろうか。あるいは私の探し方に問題があるのだろうか。この分野に詳しい方のご教示をいただければありがたい。

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(3 juillet 2006)
Marc Bloch の日本語訳が 「マーク・ブロッホ」 ではなく 「マルク・ブロック」 であることを Lys 様から教えていただきましたので、そのように全文訂正いたしました。ありがとうございました。

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3 コメント

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マルク・ブロック (lys)
2006-07-02 23:49:35
「マルク・ブロック」で検索すればたくさん出てきます。ちなみに長い間東京日仏学院でも教えておられたブロック・坂井先生はその係累の方とお聞きしたことがあります。すばらしい先生でした。現在はそのお嬢様方が立派な学者になられていると思います。
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Unknown (lys)
2006-07-03 18:42:59
常々思っていることですが、「歴史」などの分野でなかなか魅力的な翻訳(あるいは読みやすい翻訳)に出会えないということがあります。今回、検索してみて最近「新版 歴史のための弁明」が出たことを知りましたが、もともとこの本はpaul様も引用されているように「パパ、歴史がなんの役に立つのか教えて」という子供の問いかけに答えるために書かれたもの。私が学生時代に読んだこの本の翻訳(旧版)は、とてもとても読みにくいものでした。新版がどのようなものか分かりませんが、原文(フランス語)で読むのが正解、という気がします。
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ご教示ありがとうございます (paul-ailleurs)
2006-07-03 21:04:30
日本に彼の係累の方がおられたとのこと、先日のカンディンスキーのこともあり、世界は狭いものだと改めて思っています。

ご指摘のように歴史や哲学など、翻訳ではぴんと来ないことが多いような気がしています。それほど読んでいるわけではありませんが。最近現象学との関連で少し読んでいますが、同じことを感じています。また解説書を読むことなしに原典に当たるのが意外とお勧めかもしれません。特に自分の考えが言葉になっているような時にはそう感じます。

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