先日取り上げた Figaro Littéraire の対論で話題になっていた Diam's。読んでいる時は飛ばしていたが、ラップの歌手で聞いてもわからないだろうとR さんに言われていた人である。その日歩いているうちにどんな感じの歌なのか気になりだしていた。近くの店に行くもなし。店員に聞くとすぐに売り切れるのだという。それからメトロでクリュニ・ソルボンヌまで出て、CD を売っていそうな店を探す。丁度 Gibert Jeune が目に入ったので中に入る。
rappeuse の Diam's があるかどうか聞いてみると、少し怪訝そうな顔をしながら、それなら地下にありますよという。行ってもなかなか見つからない。ラッパーのイメージから男を捜していたからである。再度店員に言うとそんなはずありませんよと言わんばかりに、颯爽とその場所まで案内してくれた。そこで R さんの口から出た言葉を考えずに使っていた rappeuse の意味が一気に氷解。これだから困るのである。中古でお得な2枚組みを仕入れる。その後聞いてみたが、言葉の意味はさすがにわからないものの、音楽としては新鮮で結構楽しめる。
それからソルボンヌへ。例の建物の前には広場があり、向かって右にはレストランが並び、左には本屋がある。その中に昨年暮に別のところで出会っていた J. Vrin (哲学書専門店) があったので入る。去年のよりは数段美しく品揃いしている。先日講義で聞いた Ernst Mach の "Analyse des sensations" があるかどうか聞いてみたが、1998年訳のものがもう絶版になっているという。読む人がいないのだろうか。そうして痩身の老練そうな店員が低い通る声で、「それじゃドイツ語で読むしかないですね。Pourquoi pas !」 と事も無げに付け加えていた。それから近くのカフェで、Crudités というトマト、卵、ハムのサンドとまたしてもコーラ (しかもそれがビンで出てきて、何と4.20Eで主食より高い) で昼食。
カフェの近くの La Librairie Compagnie という本屋に入ると、地下に充実した哲学セクションがあった。ニーチェの本がテーブルにまとめて並べられている。それを見ているうちに、以前このブログで取り上げた本のことを思い出した。題名は思い出さなかったがどういう本かは覚えていたので、こう若い店員さんに聞いてみる。「ニーチェをフランスのモラリストとして捉えて、今はアメリカの大学で研究しているフランス人が書いた本はありませんか」 と。その店員さんがどうしてよいのか困っていると、後ろの方で仕事をしていた老練の店員さんがそれを聞いていたらしく、音もなく棚からその本を取り出し持ってきてくれた。
いずれの店員の応対も本当に気持ちよく、その余韻を楽しみながら再び雨の街に出ていた。