作家 小林真一のブログ パパゲーノの華麗な生活

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【 不毛地帯(1) 】

2009-12-25 11:26:33 | 02 華麗な生活


フジテレビで毎週木曜日の夜に放映されている「不毛地帯」
というドラマを楽しみにしている。このドラマはいうまでもなく
山崎豊子さん原作の、同名の著作を映像化したもので
今回のは二度目となり、主だった俳優たちが全部
入れ替わっている。

中心人物の壱岐正は実在した元大本営参謀将校で、
昭和三十年代に入ってからソ連抑留を解かれ舞鶴港に帰国、
二年間の浪人生活を経て、当時の伊藤忠商事に勧誘されて
商社マンとなる。
こともあろうに、最も近代化が遅れていた繊維部門に配属されて、
社内で飛び交う用語も理解できず大いに苦しむ姿が、
昭和三十二年に同業の商社に入社したボクの当時の戸惑いと
ダブって見える。

ドラマで壱岐のライバル役・鮫島が登場するが、彼は旧日商で
勇名を馳せていた海部氏がモデルである。他社の人ながら
商社マンの鑑のように聞かされ、いずれは彼のようにと意気込んだ
覚えがある。ボクの商社マン生活は二十年あまりでピリオドを
打ったが、壱岐・鮫島とまではいかずとも、他の業界なら許される
はずもなかった筈の破天荒の数々をやらかし、そうした日々を
描くべく『炎の商社マン』を上梓した。続けて出した七冊の著作で
2008年の世界最多ノベル作家のタイトルをギネスブックから
頂戴する幸運に浴すことになった。

ドラマで壱岐を演じる唐沢が、終始元軍人を意識しての固い
人物像に徹しすぎ、らしくないと嘆いていたのだが、17日放映の
場面から一転して唐沢ならではの本領が発揮されはじめた。
小雪という女優には、いかなる男であろうとトリコにされざるを
えなくなりそうな、魔女的な妖艶さがあって、壱岐の陥落も
やむをえないと同情する。小雪の演技特に眼の力には脱帽。

ひとつ注文がある。唐沢演じる壱岐は滅多なことで笑顔を
見せないが、日本人社会ならまだしも、ニューヨークの社長の
地位についたからには、スマイルはもとより、ユーモアを巧みに
取り入れた会話をこなさないと、欧米人は決して心を許してはくれない。
フォードのことかと思わせるフォーク自動車の会長が初対面の
壱岐(それもニコリともしない)に委任状を渡すはずもなかろう。

ライバル鮫島は前述の通り同業他社の独身寮生の間でも
評価抜群であった旧日商(岩井と合併する前の)の海部氏が
モデルだが、後に国会に証人として呼ばれ尋問を受ける立場
になって、署名をする段に及び持った万年筆をぶるぶる
震わしたのは失態であったし、後輩の憧憬を一身に受ける
立場が失墜してしまった。それが76年のことで、ボクは二度目の
ヨーロッパ勤務を命じられてウィーンに赴いた。

商社マンに限ったことじゃなく、男がひしめくところ、常にジェラシーの
渦が巻き、派閥つくりに狂奔する連中が現れる。
このドラマでも里井・一丸といった、副社長クラスがそれぞれ
画策を行なう場面が描かれ、岸部一徳の好演技が光っている。
それに対し大門社長の存在感がいささか弱い。
伊藤忠の越後正一社長はもっと目立った人であった。


                        パパゲーノ



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