昔から、野球にまったく興味がない。
うちの家族は、関西出身だが全員巨人ファン。
しかしながら僕は、野球中継のせいで観たいテレビが観られないことの方が嫌な子供だった。
子供は野球が好きで当たり前の時代で、「お前、どこファン?」というのが初対面同士の子供のスタンダードな挨拶だった。
「好きなチームはないねん」と答えると、なんだか変な空気になったのを覚えている。
そんなだから、野球というものをじっくりと観たことがない。
にも関わらず、仕事場が東京ドームの近くなのである。
会社から東京ドームまで、徒歩15分足らず。
その気になったら、仕事帰りに巨人戦を毎試合球場で観ることだって可能である。
全国のジャイアンツファンからしたら、うらやましい境遇だろう。
なのに、プロ野球を生で観たことがない。
これって、どうなんだ?と。
東京ドームがこんなにそばにいてくれるのに、何年も手を出さないって、ハア?意味わかんないですけど。
そんなわけで、おとむのその気になったら誰でも簡単にできるけど未体験だった100のこと。
第12回は、生まれて初めてのプロ野生観戦である。
僕が行ったのは、セ・パ交流戦の開幕カードである巨人対オリックス戦。
その日はたまたま、年に3試合しかないという、全来場者に選手がこの日着用しているのと同じデザインの、オレンジのレプリカユニフォームがプレゼントされる日だった。
僕も当然渡される。
レプリカユニフォーム。
俺、一番もらっちゃいけない人間だったと思う。
ありがたみもプレミア感も、全然わからないもの。
球場内に入ると、内野から外野にかけて、客席のほぼ9割がオレンジ色で埋め尽くされている。
巨人ファンのお客さんがみんな、入場時に渡されたこのレプリカユニフォームをさっそく着用して応援しているからだ。
その観客席の光景も、年3回しか観られない特別なものなのだろう。
しかし、僕としては「オレンジやな~」ぐらいの感動である。
たまたま、朝早起きして散歩をしていて背伸びをしたら金環日食見えました、的な。
席は、一塁側の内野スタンドだった。
グラウンド内はよく見える。
ただ、前の座席と自分の座席との隙間の狭さに驚いた。
席に座ったとき、膝がすでに前の席の背もたれに当たっている。
「こんな窮屈なところで、3時間ぐらい観なあかんの?」
そう考えると、気が遠くなりそうになった。
野球観戦は、結論から言うと、最後まで普通に楽しめた。
スポーツって、興味がなくても生で観ていると、それなりに面白味が伝わってくるもんである。
一応家族が巨人ファンなので巨人を応援していたのだが、チャンスが来るとドキドキするし、ピンチになるとハラハラする。
ホームランが出ると興奮する。
選手の名前は全然わからないが、さすがになんとなくのルールはわかるので、ゲームセットまで楽しめた。
スポーツ観戦は、映画や演劇、ライブと違って、客席で自由におしゃべりをしていてもオッケーというのが魅力だと思う。
野球とは全然関係ない世間話で盛り上がってもいいし、話すことがなくなったら、黙って試合観戦に集中すればいい。
これぞ、庶民の娯楽のなせる技。
そんな中、実は僕が東京ドームで生で野球を観戦していて、一番気になったのは、野球そのものではなかった。
最も興味を持ったのは、ビールの売り子さんである。
東京ドームのビールの売り子さんの美人度が、半端ないのである。
売り子さんは、各座席エリアごとに販売区域が割り当てられているようで、僕の座っているまわりにも、常時3人ぐらいのビールの売り子さんが、せっせとビールを売っていた。
どの女の子も、モデルかアイドルか、という顔をしている。
「いやもう、絶対にこれ、顔で採用してますやん」と。
そして常に笑顔を絶やさない。
接客業の鑑である。
彼女たちがすごいのは、顔の可愛さだけではない。
お客さんに常に笑顔で「ビールいかがですかー?」と声をかけながら、大きなタンクを背負って、スタンドを動き回っている。
背負っているビールサーバーのタンクの重さは、15kgもあるらしい。
しかも野球場のスタンドは、縦移動はすべて階段である。
15kgビール入りのタンクを背中に担いで、常に階段の昇降を繰り返して仕事しているのである。
どえらい重労働である。
顔にうっすら汗をかきながら、動きまわって、大きな声をだして、笑顔で懸命にビールを売っているそのけなげな姿には、胸がキュンとしますよ。
正直、ビールの売り子さんが視界にかぶって、バッターボックスの打者の姿が全然見えないときが多々あるのだが、それでも全然かまわない。
エドガー・ゴンザレスの顔より、売り子さんの顔である。
ビールを買う客のほとんどはおっさんなので、体力的な重労働に加えて、さらに“コンパニオン的接待”という業務が加わる。
野球を観に来て異常にハイテンションだったり、逆に不機嫌になってる酒飲みのおっさんほど、たち悪い接客相手はいないだろう。
実際、売り子さんにやたらと話しかけて、半分からんでるようなおっさんを何人も目撃した。
そんな野球おやじ相手に、ニコニコと笑いながら接客しているビールの売り子さんの仕事ぶりは、まさに“スポーティーな水商売”といっていいだろう。
俺、体力的にも精神的にも、こんな仕事絶対無理やなあと思った。
それにしても、売り子さんの「一杯でも多くビールを売るぞ!」という気迫がすごい。
調べてみたら、東京ドームのビールの売り子のバイトは、東京ドームが雇っているのではなく、各ビール会社ごとに独自で売り子を採用しているとのこと。
だから、売るビールのブランドによって、制服も違うわけだ。
バイト代は、固定給約2000円+歩合給。
詳しくはわからなかったが、1杯800円のビールを売って、10%前後が、売り子さんの取り分のようである。
頑張って売ると、1ゲームで150杯ぐらい売れるらしい。
逆に、サボって楽すると、タダ働きである。
限られた時間の中でどれだけ売ってみせるか。
さらに、競合のビール会社の売り子との、客の取り合い。
ビール会社も、可愛い子の方が、売り上げ成績がよくなる。
だから、売り子さんは美人揃いなのだ。
制服が、ミニスカートだったりショートパンツだったりするのも然り。
自分の販売エリアが決まっているので、その中で、常連のお客さんを作り、“ご指名”してもらえるぐらいになる、カリスマ売り子さんもいるそうだ。
もはや、「嬢王グランプリ」の世界。
東京ドームのビールの売り子さんのさわやかな笑顔の裏側には、熾烈な女同士の、そしてお客さんとの、さらに己との闘いがあったのである。
働くって大変だよ。
おとむはまた一皮剥けた。
うちの家族は、関西出身だが全員巨人ファン。
しかしながら僕は、野球中継のせいで観たいテレビが観られないことの方が嫌な子供だった。
子供は野球が好きで当たり前の時代で、「お前、どこファン?」というのが初対面同士の子供のスタンダードな挨拶だった。
「好きなチームはないねん」と答えると、なんだか変な空気になったのを覚えている。
そんなだから、野球というものをじっくりと観たことがない。
にも関わらず、仕事場が東京ドームの近くなのである。
会社から東京ドームまで、徒歩15分足らず。
その気になったら、仕事帰りに巨人戦を毎試合球場で観ることだって可能である。
全国のジャイアンツファンからしたら、うらやましい境遇だろう。
なのに、プロ野球を生で観たことがない。
これって、どうなんだ?と。
東京ドームがこんなにそばにいてくれるのに、何年も手を出さないって、ハア?意味わかんないですけど。
そんなわけで、おとむのその気になったら誰でも簡単にできるけど未体験だった100のこと。
第12回は、生まれて初めてのプロ野生観戦である。
僕が行ったのは、セ・パ交流戦の開幕カードである巨人対オリックス戦。
その日はたまたま、年に3試合しかないという、全来場者に選手がこの日着用しているのと同じデザインの、オレンジのレプリカユニフォームがプレゼントされる日だった。
僕も当然渡される。
レプリカユニフォーム。
俺、一番もらっちゃいけない人間だったと思う。
ありがたみもプレミア感も、全然わからないもの。
球場内に入ると、内野から外野にかけて、客席のほぼ9割がオレンジ色で埋め尽くされている。
巨人ファンのお客さんがみんな、入場時に渡されたこのレプリカユニフォームをさっそく着用して応援しているからだ。
その観客席の光景も、年3回しか観られない特別なものなのだろう。
しかし、僕としては「オレンジやな~」ぐらいの感動である。
たまたま、朝早起きして散歩をしていて背伸びをしたら金環日食見えました、的な。
席は、一塁側の内野スタンドだった。
グラウンド内はよく見える。
ただ、前の座席と自分の座席との隙間の狭さに驚いた。
席に座ったとき、膝がすでに前の席の背もたれに当たっている。
「こんな窮屈なところで、3時間ぐらい観なあかんの?」
そう考えると、気が遠くなりそうになった。
野球観戦は、結論から言うと、最後まで普通に楽しめた。
スポーツって、興味がなくても生で観ていると、それなりに面白味が伝わってくるもんである。
一応家族が巨人ファンなので巨人を応援していたのだが、チャンスが来るとドキドキするし、ピンチになるとハラハラする。
ホームランが出ると興奮する。
選手の名前は全然わからないが、さすがになんとなくのルールはわかるので、ゲームセットまで楽しめた。
スポーツ観戦は、映画や演劇、ライブと違って、客席で自由におしゃべりをしていてもオッケーというのが魅力だと思う。
野球とは全然関係ない世間話で盛り上がってもいいし、話すことがなくなったら、黙って試合観戦に集中すればいい。
これぞ、庶民の娯楽のなせる技。
そんな中、実は僕が東京ドームで生で野球を観戦していて、一番気になったのは、野球そのものではなかった。
最も興味を持ったのは、ビールの売り子さんである。
東京ドームのビールの売り子さんの美人度が、半端ないのである。
売り子さんは、各座席エリアごとに販売区域が割り当てられているようで、僕の座っているまわりにも、常時3人ぐらいのビールの売り子さんが、せっせとビールを売っていた。
どの女の子も、モデルかアイドルか、という顔をしている。
「いやもう、絶対にこれ、顔で採用してますやん」と。
そして常に笑顔を絶やさない。
接客業の鑑である。
彼女たちがすごいのは、顔の可愛さだけではない。
お客さんに常に笑顔で「ビールいかがですかー?」と声をかけながら、大きなタンクを背負って、スタンドを動き回っている。
背負っているビールサーバーのタンクの重さは、15kgもあるらしい。
しかも野球場のスタンドは、縦移動はすべて階段である。
15kgビール入りのタンクを背中に担いで、常に階段の昇降を繰り返して仕事しているのである。
どえらい重労働である。
顔にうっすら汗をかきながら、動きまわって、大きな声をだして、笑顔で懸命にビールを売っているそのけなげな姿には、胸がキュンとしますよ。
正直、ビールの売り子さんが視界にかぶって、バッターボックスの打者の姿が全然見えないときが多々あるのだが、それでも全然かまわない。
エドガー・ゴンザレスの顔より、売り子さんの顔である。
ビールを買う客のほとんどはおっさんなので、体力的な重労働に加えて、さらに“コンパニオン的接待”という業務が加わる。
野球を観に来て異常にハイテンションだったり、逆に不機嫌になってる酒飲みのおっさんほど、たち悪い接客相手はいないだろう。
実際、売り子さんにやたらと話しかけて、半分からんでるようなおっさんを何人も目撃した。
そんな野球おやじ相手に、ニコニコと笑いながら接客しているビールの売り子さんの仕事ぶりは、まさに“スポーティーな水商売”といっていいだろう。
俺、体力的にも精神的にも、こんな仕事絶対無理やなあと思った。
それにしても、売り子さんの「一杯でも多くビールを売るぞ!」という気迫がすごい。
調べてみたら、東京ドームのビールの売り子のバイトは、東京ドームが雇っているのではなく、各ビール会社ごとに独自で売り子を採用しているとのこと。
だから、売るビールのブランドによって、制服も違うわけだ。
バイト代は、固定給約2000円+歩合給。
詳しくはわからなかったが、1杯800円のビールを売って、10%前後が、売り子さんの取り分のようである。
頑張って売ると、1ゲームで150杯ぐらい売れるらしい。
逆に、サボって楽すると、タダ働きである。
限られた時間の中でどれだけ売ってみせるか。
さらに、競合のビール会社の売り子との、客の取り合い。
ビール会社も、可愛い子の方が、売り上げ成績がよくなる。
だから、売り子さんは美人揃いなのだ。
制服が、ミニスカートだったりショートパンツだったりするのも然り。
自分の販売エリアが決まっているので、その中で、常連のお客さんを作り、“ご指名”してもらえるぐらいになる、カリスマ売り子さんもいるそうだ。
もはや、「嬢王グランプリ」の世界。
東京ドームのビールの売り子さんのさわやかな笑顔の裏側には、熾烈な女同士の、そしてお客さんとの、さらに己との闘いがあったのである。
働くって大変だよ。
おとむはまた一皮剥けた。