おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「イッツ・オンリー・トーク」 絲山秋子

2011年01月17日 | あ行の作家
「イッツ・オンリー・トーク」 絲山秋子著 文藝春秋社 11/01/17読了 

 はからずも、フィナーレでグッと来てしまった。

 今まで、芥川賞系の作品って、今一つ、心揺さぶられないというか…私のシュミじゃないな―と思うことが多かった。表題作品の「イッツ・オンリー・トーク」も、客観的には「上手いなぁ」「こんな複雑な感情を、こんなシンプルなフレーズで言い表せるなんてスゴイ」と心打たれつつも、物語の中に強烈に引きずり込まれる臨場感はなくて、ちょっと物足りない印象。

 ところが、併録されている「第七障害」という短編には思い切りハマりました。静かに、淡々と展開する物語で、強烈な吸引力は感じなかったけれど、気づいたら、私は向こう側の世界にいました。
 
 「第七障害」とは、馬術の障害競技の7番目の障害。主人公の順子は競技の途中で、障害の飛越に失敗して、馬共々、派手に転んでしまう。前脚を骨折した馬は、競技馬として復帰することができないばかりではない。3本の脚で立とうとすれば体のバランスを崩し、他の脚にも負担が掛かって痛めてしまい、結局は生きていくことができない。転倒事故の直後、馬は安楽死処分に処された。

 「自分のせいで馬を死なせてしまった」。順子は、罪悪感から、それまで済んでいた群馬の地から逃げだし、つきあっていた男からも逃げだす。でも、逃げても、逃げても、罪悪感が薄れることはない。罪と向き合うことでしか、罪悪感から解放されることはないのだ。
 
 順子の再生の物語であり、順子を再生に導く乗馬仲間で4つ年下の篤との純愛の物語でもある。

 ある意味、予定調和な結末であり、多くの読者が予想するであろう通りのあまりにも普通のハッピーエンド。それなのにジワリとした幸福感に満たされる結末だった。有川浩のベタアマ物語以外で、純愛ストーリーにこんなに素直に心揺さぶられたのは初めてかもしれない。


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