京都大大学院医学研究科の萩原正敏教授(化学生物学)らの研究チームは4日、ダウン症で知的障害を引き起こす原因の一つとされる遺伝子の働きを抑制する新たな化合物を発見したと発表した。ダウン症の胎児を妊娠している母マウスに投与したところ、胎児の脳構造の異常や学習行動が改善したことを確認した。ダウン症などの染色体異常を調べる出生前診断を受ける妊婦が増えているが、今回の研究は胎児期に治療できる可能性につながる成果という。論文は近く米科学アカデミー紀要に掲載される。口腔内カメラ
ダウン症は最も多い染色体異常とされ、約1000人に1人の確率で発生する。23対ある染色体のうち21番が1本多い3本のため遺伝子が過剰に働いて神経細胞が誕生しにくくなり、知的障害などにつながることが多い。根管長測定器
研究チームは、神経細胞を作り出す神経幹細胞の増殖を促す化合物を717種類の候補から探し出し、「アルジャーノン」と命名。ダウン症の赤ちゃんを妊娠した母マウスに、妊娠中期(妊娠10~15日目)に1日1回経口投与した。この結果、胎児には大脳皮質が通常より薄くなるダウン症の特徴が出なかった。迷路の正しい道を覚える出生後の学習行動実験では、通常のマウスと同程度に正しい場所を覚えていた。
チームによると、アルジャーノンが遺伝子の過剰な働きを抑制するため神経幹細胞が正常に増え、脳構造の異常や学習行動の低下を改善させたとみられる。ダウン症の人のiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った神経幹細胞も、正常に増えることを確認した。今後は神経細胞が関与している脳梗塞(こうそく)やアルツハイマー病、パーキンソン病も対象に研究を進める。萩原教授は「安全確認のハードルが高く、出生前治療に対する社会的な合意も必要だ」としている。