le drapeau~想いのままに・・・

今日の出来事を交えつつ
大好きな“ベルサイユのばら”への
想いを綴っていきます。
感想あり、二次創作あり…

SS-30~ アラン(出会いの日から/最終章)~

2017年07月14日 00時05分04秒 | SS~出会いの日からシリーズ~


~ ア ラ ン (出 会 い の 日 か ら / 最 終 章) ~


『従いましょう、貴女(あなた)の指揮なら……』

天女かと見まごうほどの神々しい貴女の立ち姿に俺は、きっぱりと宣言した。

それは俺の誇りでもあった。

俺達第1班は7月13日のパリ出動のメンバーに選ばれた。
第1及び第4中隊。合計18の班員と副官も含めた将校達をざっと数えると、おおよそ200人近い人数が貴女の直接の指揮の元、パリに向かう。

貴女は、黙ってついてきてくれる兵士はいないのか、と俺達に問い掛けた。

貴女が、パリへ……? 
たった200人の兵を率いる為に連隊長自らが指揮を執る、と。
周囲は一瞬ざわつき、そして……沈黙。

俺は言葉を発した。
それは、勿論俺個人の意思だけではなく選出された2個中隊の総意だった。
周りの連中の意見を聞いたわけでもなく、それは俺の気持ちそのものだったが、俺はそれがみんなの一致した意見だと確信していた。
本来なら一兵卒に過ぎない俺が発言するべき場面でない事など当然知ってはいた。
だが。俺は口火を切らずにはいられなかった。

貴女が、俺達と一緒に明日パリに向かう。
それが意味するところ……。

俺達は――。
俺はその意味を知っていたはずなのに……。


「アラン……」
「あっ……」
薄ぼんやりとした意識の中、俺は、また気を失っていたのかと、目覚めた事で自分の失神を確認させられるという失態を繰り返していた。

「少し強い鎮静剤を使ってもらおう」
心底眠りにつく事が出来ない俺を気遣ってベルナールが今にも医者を呼び寄せかねない勢いで立ち上がった。
「ベ……ル……」
腹に力が入らずか細い声しか出ない。ベルナールは振り向き俺の表情を見入ると、言わんとする事を悟ったようだった。
出会ってまだ数日しか経っていないというのに、この同胞は多くを語らずとも俺の意を察してくれた。
あいつと見間違いそうな黒髪のその風貌に、俺は、その横にあの女性(ひと)がいるような気がして、何度も瞬きを繰り返した。
俺のそんな気持ちまでもが分かったようで、頭を振り振り、
「どうせ……眠れないか?」
優しい口調で訊くベルナールに、俺は小さく頷いた。

……強くなりたかったんだ。

お袋や、妹や……。あいつや貴女や……。
みんな、みんな……守りたかったんだ、俺の手で……。

その手段を、貴女は教えてくれた。

『従いましょう、貴女の指揮なら……』

どんなに悔いても悔い足りない時がある。
なぜ止めなかったんだろう、貴女を……。
いや、あの時、あいつを止めてさえいれば……。

とことんまで貴女に従う事が出来たあいつ。そして、フランソワやジャンや……多くの仲間が俺の元からいなくなってしまった。

俺も……。
俺も、あの時、貴女に従う事が出来ていたなら……。

右腕でそっと目頭を隠す。それを反射条件とするかのように、また涙が溢れて来た。
ベルナールが何も言わずに部屋を出て行く気配が伝わって来た。

なぜ、俺だけが生き残ってしまったんだろう……。

もう何度目になるか数える事さえ出来なくなってしまった自問を、俺はまた俺自身に投げ掛ける。

俺の腕の中で旅立って行ったあいつと……貴女……。

もう、今の俺には守るべき人もいなければ、誰かにとって俺が守りの対象にさえならないと言うのに、なぜ俺は、あの日、貴女やあいつから置いてきぼりを食らってしまったのだろう。


「アラン……」

貴女の声が響く。俺は周囲を見渡すが、そこにはもう誰もいない……。

あと何回同じ夢を見たら、良いのだろう。

貴女の呼び声、貴女の黄金に輝く髪、ほんのりと桃色に染まった頬……。あいつの名を呼ぶ貴女にさえときめきを感じてしまう。

その同じ唇が、俺の名を発する。
俺はお決まりのように、めんどくせぇなぁ、と言いながら振り返る。

貴女が笑っている。
その隣で、あいつも一緒に笑っている。
そして、一瞬見つめ合った二人は、そのまま全く同じ仕草で俺に近づいて微笑みかける。

貴女が俺の名を呼ぶ。俺がめんどくせぇなぁと答える……。
そんな他愛のない日々が、もう戻らないなんて……。

「アラン……」
ああ。今度は今際の際のあいつの、とぎれとぎれの呼びかけ。

そうだ……。
俺はあいつのこの言葉を思い出したくなくて……だから眠りたくないのに……。
また、思い出してしまった。

何の迷いもなくあいつの為に走る貴女の背中を呆然と見つめる俺の腕を握り、あいつは言った。

「アラン……。オスカルの事……」

無駄に流れ出るあいつの血で、それ以上石畳を染めたくなかった。
貴女の、その迸(ほとばし)るほどの生命(いのち)の源を、こんな所で断ち切ってしまいたくなんかなかった。

「ああ、分かったから! もう喋るな。直に隊長がおまえの為に水を汲んで戻って来るから……」
「頼んだ……ぞ……」

近づいて来る足音。
その軽快な足音に安心したかのように、俺の腕を握りしめていたあいつの手がぽとりと落ちた。

ふざけるな、と……。
あの時、そんな事請け負えないとあいつを叱咤していたなら、今この瞬間の俺の居場所も違っていたのだろうか……。

割れるコップ。
泣き叫ぶ貴女の声……。

静寂の中、俺の耳の届いた、たったふたつの音……。


あと、いくつの眠れない夜を乗り越えたら、俺は楽になれるのだろう。
どれだけの苦しみに耐えたら、貴女やあいつの待つ場所に行けるのだろう。

……その時。
貴女から褒められる俺でありたいと思う。

貴女の背中が行く先を示している。
あの日。
パリの街中で怒りを爆発させていた貴女と、そんな貴女を見守っていたあいつ。

あの日の二人の背中が……。
金の髪が、紅の軍服が……。
黒髪と、靡(なび)くお仕着せの燕尾が……。
俺の行く先を教えてくれていた。

強くなりたかった、誰よりも。
その手段を、貴女が教えてくれた。

あいつと貴女の命の重みをこの腕に抱えて、俺は生きて行く。

≪fin≫

【あとがき・・・という名の言い訳】

ご訪問ありがとうございます。おれんぢぺこでございます。
7月14日です……。今年は6月にパソコンが壊れ、7月に入った途端、大雨による災害……と、何やら私の中で落ち着かない事が多すぎました。
仕事面でも、毎年8or9月に職場主催の研修会を行うのですが、今年はその主担当も仰せつかっておりまして……つまりは、ストレスマックス⇒妄想も最高潮……なのですが、実は本日UP致しました話の大筋は1年前、『出会いの日から』構想当初からあった物なのです。書き始めた頃には、いわゆる(去年の!)百合忌に最終話をお届けする予定でした。あくまでも、“予定”です。ところが、長々と進展しないままお付き合いいただいた結果、アランの記念日的な日に投稿する事が出来そうにない状況ばかりが続いてしまいました。
でも、やっぱり。シチュエーションは捨てたくないと(6割がた書き終わってもいたし…)思い直した結果、これは、じゃあ、この日でしょ、と逆に思った次第です。
私は『エロイカ』を途中で挫折してしまったので、実はOA亡き後のアランの事をあまり良く知りません。でも、二人が亡くなった後のアランの気持ちって、もしかしたら他の生き残りキャラよりも共感できるかもしれない、などと思っております。そんなわけで、7月14日にもかかわわらず、あえてアラン語りのOAで、今年の3が日終了でございます。
お付き合いありがとうございました。

暑さが厳しい日々です。
朝倉市では復旧作業どころか、まだ多く残る行方不明の方の捜索さえ難航している状況です。一日も早い発見を願うばかりです。

皆様もどうぞ熱中症、食中毒等々ご注意ください。
またお時間のある時にお立ち寄りくださいませ。



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SS-29~ ピロートーク・Ⅳ(朝まだき・・・②)~

2017年07月13日 00時32分35秒 | SS~ピロートーク シリーズ~


~ ピ ロ ー ト ー ク ・Ⅳ ( 朝 ま だ き ② ) ~



何から手をつけたら良いのか。こんな事では部下に対しての示しがつかないと思い直して、アランが置いて行った日誌に目を通すことにした。
ついてまだ10分も経たないのに、アンドレが来るまでの待ち時間に耐えられそうにない。
今すぐ屋敷に戻り、すまなかったと言った方が良いだろうか?
そんな事を考えながら、日誌を開こうとした瞬間、軽やかなノックの音がして私はドキリとする。
アンドレだ。このノックの仕方はアンドレだ。
だが、私はドキドキをひたすら心の奥に押しやり、はいと短く返事をする。

「急ぐ必要があったなら、先に……」
何だって、おまえはそんなにも普段と変わらない態度が取れるんだ……?
銀のトレイに紅茶を載せて、アンドレは、にこやかにさわやかに現れた。
言い終わらぬうちに、トレイが一旦そこに置かれた事を確認すると、私は思わず立ち上がって後ろから回り込むとアンドレに抱きついた。
「……遅いぞ……」
「え? いや、だから……普段通りの出勤で良いとばかり思ってて……」
私のめちゃくちゃな言いがかりなど慣れっこになってしまっているおまえは、おまえの腹に回した私の指先をポンポンと叩いた。そして、そのままギュッと握りしめると、
「……ホント言うと……」
と、一瞬ためらうように言葉を切ったが、
「……おまえが先に屋敷を出たって聞いて、怒らせちゃったのかなと思って……急いで飛んで来た」
「なぜ、怒る必要がある?」
「えっ……。えーっと……」
「……私は……」
アンドレの背中にギュッと右の頬全体を押しつけてから、
「……おまえの顔を見ること自体が恥ずかしかったんだ」
「……え……」
私の手を握っていた指の力がスッと抜けた。

アランの教えに従っている訳ではない。しかし、こんなにも正直に、素直に私が言っているのに、おまえはほーっと息を吐く。そして言った。
「昨夜の事がお気に召さなかったのかな、とか……色々考えた」
「えっ?」
どういう意味だ、それは?
「男ってさ……」
言いながら、おまえは組んでいた私の指先をそっと外させると、こちらを向く。そして、私を包み込んでしまった。

朝っぱらから司令官室で抱擁するなど……。
自分から先に抱きついた事などとっくに忘れて、まずくはないか、と自問してみる。
「男って?」
言い淀んだアンドレの言葉の先を促してみる。
「うん。男ってさ……。愛する人と一緒になれた後でも、どうしようもない事をグダグダと考えてしまうんだよなぁ」
唇がかすかに髪に触れ、とてもくすぐったい。
「たとえば……?」
「言わせるかなぁ、それを……」

私を抱きしめていた温もりが離れた。
「たとえば……」
アンドレは目で私に着席を促しながら、言葉を続ける。
「俺の愛しい恋人は、果たして満足してくれただろうか、とか……」
「は……?」
満足って、何だ!?
私の表情を見事に読み取ったおまえは、一旦私に背中を向けると、改めて紅茶が載ったトレイを持って来る。

いつものように茶器を机に置きながら、
「慌てて飛んで来たら、ちょうどアランがこれを持って来るところだったんだ。だから、急いで受け取って……」
アランが?
また、アランか。何を考えている? アランは夜勤明けだ。当番であるはずがない。
そんな私の疑問などお構いなしに、なぜアンドレが紅茶を持って来たのかという説明を先にした。だが私は“どうしようもない事”の方が気になってしようがない。
「どうしようもない事って……何だ?」
「えっ……ああ、本当にしようもない事だ」
頭を搔きながら、アンドレは私の左後ろに張り付くようにピタリと立つ。従卒としての位置だ。そして、私が紅茶を啜るのを確認すると、
「美味しい?」
直立不動のまま訊く。ああ、と私はわざと不愛想に答える。だが、
「……おまえが淹れた方もっと美味しいけれど……」
これは事実なので、平静を取り戻した私がそう言うと、
「なかなか素直だなぁ」
朝っぱらから恋人を悩殺してどうするつもりだと腹を立てたくなるくらい、背中をスーッと撫でるような深い甘い声が頭上から響いた。

こいつ……。
私は顔だけで振り返ってアンドレを睨んだ。有耶無耶にするつもりだろう。私の質問を何とかはぐらかそうとしているに違いない。勢いついて出してしまった本音だったが、私に聞かせたのは間違いだったと、その顔が言う。だが、にこやかなその表情にも負けず、私は再度尋ねる。
「どうしようもない事って何だ? 答えろ」
もっと可愛い言いようもあるだろうにと情けなくなりながらも、私の中に普段の私が戻って来たのを味方にして、言い放つ。
「ああ……」
アンドレはしようがないなぁと言った。そして、私の椅子をくるりと回すとその正面に両膝を突き、下から私の顔を覗き込む。

やばい……。それは、反則だ。
正面から見つめられるのは、まだちょっと……。
慌てて顔を逸らそうとすると、頬を両側から挟まれた。ダメだろう、アンドレ。急上昇する熱がおまえに伝わってしまう。
「今朝、おまえが果物しか食べなかったってマリーが気にして俺の所に報告に来た」
ジャルジェ家の使用人は、みんな几帳面すぎるくらいに真面目だからな、とアンドレは笑った。
「俺も言わずもがなだが、な……」
そんな言い方をされるとちょっと悲しい。私達の間の見えない壁を見せつけられているような気持ちになる。でも、それはおまえの誇りでもあるから、しようがない。
「……で、おまえがバタバタ出勤して行ったって、気にしてたから……。挙句に『アンドレご一緒しなくて良かったの』とかアッパーカット喰らわすもんだから、さ……。俺も色々考えてしまったんだ」
「どうしようもない事を?」
そう、とアンドレは深く頷いた。クスリと笑う私の頬を覆う指先がかすかに揺れる。
「どんな?」
「おまえまで……」
大打撃だとアンドレは情けなさそうに笑った。どうも私のパンチも彼の顎に喰い込んだらしい。

ひとしきり笑った後、急に真顔になり、
「笑うなよ」
姿勢はそのまま、おまえは私の顔を見つめている。
「呆れるなよ」
今度は、そう言った。
うん。おまえの言う事だ、笑わないと約束する。コクコクと頷く私に満足したのか、
「さっきも言っただろう? 俺の愛しい恋人は、果たして満足してくれただろうか」
「はっ……?」
すまないが……。言っている意味が分からない。そんな私の表情をおまえは読み取って、
「……そうなんだよなぁ。オスカルなんだよ……」
また、意味の分からない独り言を呟いた。

おまえはコホンと咳払いすると、やっと私の頬から手を離し、立ち上がった。そのまま、窓際に行くと窓から裏庭を見つめている。
私は椅子を更に回し、座ったままおまえの背中を見つめた。
「取り越し苦労だったなぁ」
アンドレ、すまないが、私にわかるように言ってくれないか?

「先に行ったって聞いた時、まず考えたのが、きっと気に入らなかったんだ……って事なんだよなぁ、本当に情けない事に……」
背中を向けたままのおまえの声は向こうを向いているから、当然ややくぐもっている。
「何が?」
「ほらなぁ、オスカルなんだよ……」
また、そんな言い方をする。私を怒らせたいのか。

「つまり!」
いきなり勢いをつけて私の方を向き直ると、
「俺が下手くそだったから、おまえは気に入らなかったんじゃないかって……そんな、どうしようもない事をウダウダ考えてたわけ」

……えっ……?

「下手……だったのかって……?」
「な? オスカルなんだよ、俺の彼女は。……だから、こんな俺の悶々とした気持ちなんか関係なかったんだ」
「自己解決か?」
「う~ん。課題は残るし、研究の余地はあるが……」
……アンドレ……。
何だか、おまえの事が、ものすごく希少価値のある単細胞生物に見えているのは気のせいだろうか? ……と言うか。あんなに気恥ずかしかしくて、おまえの顔を見る事もできないまま屋敷を飛び出した私の気持ちは、何だったんだ……。

……何となく、アランの方が賢くて大人のような気がして来た。
「アランが……」
「アラン?」
おまえは素頓狂な声を上げる。何だって、ここにアランが登場するんだと憮然とした表情になる。そのまま窓枠にもたれかかる。そして、
「そこで会ったぞ。今週は当番だ。さっきも言ったよな? お茶を持って来ようとしてたから……」
「いや。それはおかしいだろう。アランは夜勤明けだ」
私は興奮して立ち上がる。すると、反しておまえは冷静に一拍置く。
「何だって? そんなはずはない。今週は第3中隊が夜勤だから、アランが当番なはずが……」
「だが、日誌を持っておまえより先に……」
平行線の会話に二人同時にハッとなる。

「……ハメられたか……」
呆然と呟くおまえに、私も笑いがこぼれてしまった。
「……みたいだな」
「あ、いや……。ハメられたって、ちょっと違うかな」
アンドレは丁寧に説明を加える。
「アランは明らかに俺の到着を待ってた」
「えっ?」
「……俺が馬を馬場に持って行くのを確認するかのように、厨房の裏口から出て来たんだ」
「わざわざ?」
ああ、とおまえは深く頷いて、
「いったいどこに、隊長の茶を運ぶのに厨房の裏口から出て来る奴がいる?」
その奥には、厩しかない。
「……いないな、通常は……」
アランの他には、と敢えて分かり切った答えを出す私に、アンドレは言った。
「それで納得だ」

うんうんとアンドレは何度も頷く。
渡り廊下まで一緒に歩きながら、アランと交わした会話の内容を私に聞かせるアンドレ。
「あいつが『どうしたんだ』って言うから、俺はてっきり遅くなった事について聞かれてるんだと思って『ちょっと野暮用でな』とか誤魔化したんだが。意外にもふ~んって素気ない返事だけだったんだ」
「何のツッコミもなかった、と?」
「そうなんだよ。おまえ……何があった? アランと……」
「何も……ない」
歯切れの悪い私の答えに、おまえは数歩の距離を縮める。
「馬車から降りる時の様子とか……。まず何よりも俺が一緒じゃないって事とか、見られてたんだな、きっと……」
「みたいだな」

何だか、言ってしまえばそれだけのような気がした。
慌てまくって一人で出て来た私のいつもと違う様子、その上アンドレが一緒ではない。そんな状況を見て、アランはまず私の様子を探る為に、ちょうど夜勤者が持って来ようとしていた日誌を取り上げた。
「いやいや、取り上げたってのは人聞きが悪い」
庇う発言をするアンドレにちょっとむっとして、
「では、言い換えよう。強引に預かった」
「何だかなぁ。どこが言い換えた事になるんだか……」
アンドレは大笑いだ。しかし、アランが取った手段はおそらくそうだぞ。おまえもそれについて異存はないだろう。表現方法には疑問がありそうだが……。
「それで、私の様子を見に来た、と言うわけか……」
「おそらくな……。そして、喧嘩じゃないって悟った」
「うん、そう言ってた。加えてあいつにしては珍しく指南までして行った」
「まあ……」
あんまり言いたくないけど、とおまえは笑った。
「指南と言うより、単にからかいたかっただけなんだろうが……」

「あ……」
私は続きの言葉をどう言おうかと迷っている間に、気づくとまたおまえに包まれていた。
「アンドレ……。この状況はまずくないか……?」
私の意図する所は伝わったはずなのに、アンドレは私を抱きしめる腕を緩めようとはしない。だが。私も、軍服の背中を抱きしめたまま離す事ができずにいた。
「……まずいだろうね……」
「きっと、扉の向こうにはアランが……」
「そうだね。アランどころかおそらく可能な限りの兵士が集められて……」
それでもおまえの腕から力が抜ける事はない。
「そうだとしても俺は構わない。俺が愛しているのはおまえだけだって宣言できる」
「……アンドレ……」
何でそんな凄い事を、何でもない、当たり前の事のように言えるんだ。
「下手くそだったら、とか考えた事は事実だけど……。それ以上に、もうおまえを抱きしめる事ができなくなったらって思ったら、一刻も早くおまえの顔を見たかった」
「……アンドレ……」

扉の外でカタンと音がした。
ああ、連中がお出ましだと思ったけれど、私はしがみついたおまえの背中から、この手を離す事ができなかった。

≪fin≫

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SS-29~ ピロートーク・Ⅳ(朝まだき・・・①)~

2017年07月12日 00時20分42秒 | SS~ピロートーク シリーズ~


~ ピ ロ ー ト ー ク ・Ⅳ ( 朝 ま だ き ・・・ ① ) ~



【最初の言い訳】

3が日でございます。
内容もない、ただ書きたいだけの何の変哲もない日常のだらだらと進むシーンを12、13日に。当初、あまりの内容のなさに、いっそ14日のUPだけに絞ろうかと思ったほどでしたが、この話が蔵の中に残ってしまう事も恐ろしく……。ダーッと読んでいただけましたら、嬉しいです。
そして、『出会いの日から』の最終話を14日にUP予定でございます。こちらは、もう1年計画(!)書き手としては、やっとタイミングがあったと自負しているところでございます。宜しければおつきあいくださいませ。




掛け布がおまえの方へ引っ張られる感覚がした。私を背中から抱きしめていたその手を離し、寝返りを打つと反対を向いて、寝台の端に寄るのが分かった。
私が一睡もできなかった事におまえは気づいているだろう?
カーテンの僅かな隙間から差し込み始めた朝陽が、起き上がったおまえの影を動かす。
「オスカル……」
ベッドに肘を突き私の方へ顔だけを寄せる。
耳元で小声で名前を呼ばれたが、振り返る事ができない。その理由もおまえは分かっている。
だが、私の名を呼んだおまえもそれ以上何を言ったら良いか迷っているのだろう。そっと、背中を向けたままの私の左頬にくちづけを落とすと、おまえが立ち上がる気配が伝わって来た。微かに寝台のマットレスが音を立てる。そして、衣服を整えている気配。

まだ、行くな! もう少しそばにいてくれと本当は縋りたかった。……だが。上手に甘える手段を私はまだ知らない。
静かに寝室の扉が閉まると同時に私は上半身を起こした。
すまない、慣れない。
……いや、慣れている方が問題だろうな、こういった場合。

……私達は、初めての朝を迎えた。

アンドレの唇が、指先が、その魂の全てで私を愛してくれた。
不器用な私は、おまえの愛にどう答えたら良いか分からなかった。『正解』や『見本』があれば何かが違っていただろうか。やっと気づいた自分の想いに素直になる事に必死だった。それだけしかできなかった。

表面は、いつもと変わらない朝。
身支度の手伝いに来てくれた侍女が、珍しく起こされる前から寝台を抜け出している私に驚き、
「いつもこうだと大変嬉しいのですが」
と、軽口を叩いた。
普段の私の寝起きの悪さは侍女達の間でも有名らしい。
そう言えば、もうずいぶん前。無意識のうちに、起床を促す侍女に枕を投げつけて転倒させてしまった事があった。
次々に整えられていく洗面用具。水面に映った自分の表情が不安になる。

私は……美しいだろうか……。

侍女からリネンを受け取りながら、
「私は疲れたような顔をしていないだろうか?」
つい訊いてしまった。侍女はちょっと顔だけを私に向け、
「よくお休みになれませんでしたか? 特段いつもと変わったようにはお見受け致しませんが。……むしろ、お顔の色はいっそう艶やかに感じられます」
彼女はそのまま、正面を向き直り私の衣類にブラシを当て始めた。
驚いた。一睡もできなかったというのに顔色が日頃より良いとは。

突然。昨夜のアンドレの囁きが耳元に蘇った。

『綺麗だよ、オスカル』

私は、アンドレの為に綺麗でいられる。化粧だとか香水だとか、そんな女らしいものとはおよそ無縁に暮らしてきたが、今、おまえの為に美しくありたいと素直に思える。

「さあ、朝食にお行き下さいませ」
促され、私は立ち上がった。ブラウスの裾を侍女が軽く引っ張ってくれる。
「とてもお綺麗ですよ、オスカルさま」
そう呟くと、彼女は夜具を片づける準備を始めた。
多分、彼女は気づくだろう。不自然に乱れたシーツ。
そして、何よりも。そこに残された彼の瞳の色と同じ色の髪……。微かに残る彼の香り。
私は、部屋を出る寸前に寝室を振り返ったが、彼女はもう何事もなかったかのように私の寝具の片づけを始めていた。

朝食のダイニングにアンドレの姿がない事に、私はホッとした。
今朝までおまえのぬくもりの中にいた。だが、今、おまえの前でどんな表情をしたら良いか、私には分からなかった。だから、そこにおまえがいない事にむしろ安堵した。
……おまえも、そうだったのではないか?

義務のように食卓に着いたものの、食欲は湧かなかった。果物とカフェ・オ・レだけで満たされてしまった。後の準備に行こうとする侍女にクロワッサンはいらないと告げ、一旦自分の部屋に戻る。
もう、侍女の姿はなかった。
出仕までの時間にアンドレと会わずに過ごすのは、そう珍しい事ではない。その事に、ほんの少しの寂しさと安堵感が入り混じる。アンドレも彼なりの用意があるのだから仕方ない。
ゆっくりと窓辺で侍女が準備したお茶を飲んでいると、やがて馬車の準備が整ったとアンドレか侍女が告げに来るだろう。私は、いつものように軍服を着て、姿見で身だしなみを確認する。そして、いつもと変わらずに出仕する。
いつもと何も変わらない日常が、今日も始まるはずだ。

マイセンの茶器を手にしたものの、視線の持って行き場がなく、ふと寝室の入り口に眼が行ってしまう。……あの扉の向こうに、凝縮された愛の世界がある。
またしても、頬が火照ってしまう。
つい、駆け寄って扉を開けた。
ついさっき、侍女の手によっていつものように整えられた寝台。おまえの香りも白いシーツと一緒にここから持ち出されたと思うと、寂しくなってしまった。と同時にどうしようもない恥ずかしさが全身を襲った。

昨夜の私は、おまえにふさわしかったか?

嫌だ! このままいつものようにおまえに会う事ができない。

気がつくと、私は走り出していた。
逃げよう!
――― 何から? なぜ!?
自分でもよく分からないが、とにかく、今、おまえの顔を見る事はできない。

幸いな事に玄関の車寄せに、まだおまえの姿はなかった。
「すまない、ジル。大急ぎで出してくれ」
近づきながら私は、御者に大声で告げた。
侍女と語らっていたジルは、慌てて御者台に上がったが、
「アンドレがまだですが……」
と、そこにいない彼の名を口にした。
「良い。先に行くと言っておいてくれ」
私は慌てて駆け寄って来た数人の侍女に言い残すと、自分で馬車の扉を開け踏み台も使わずに飛び乗った。
ジルは慌てて馬車を駆る。激しく鞭打つ度に馬車のスピードが上がる。門を出て、公道に差し掛かったところで私は小窓を叩き、御者台のジルに、
「もう良いよ。スピードを落としてくれ」
そう言うと、ジルは私の気まぐれだとでも思ったようで一瞬当惑の表情をこちらに向けたが、畏まりました、と礼儀正しく返事をすると馬を宥めた。

やがて、いつもより早く兵舎に到着した馬車を認め、数人の兵士が慌てて迎えに集まって来た。ダグー大佐も傷めた腰を擦りつつ、車寄せに走り寄って来る。
さすがに、飛び出すわけにもいかずジルが踏み台を用意してくれるのを待った。別にジルの要領が悪いわけではないと分かっているものの、アンドレの手順の良さとつい比べてしまう自分に笑ってしまった。
皆が一斉におはようございます、と私に頭を下げる。
私は、習慣となってしまった、
「私の馬車が着いたからといって、自分のやっている事の手を止めてまで迎えに出なくて良い」
少々無愛想に言い放つ。
「いや、しかし、隊長。物事のけじめとして……」
厳しい階級制度の元で成り立っている我々軍人の性か、ダグー大佐は几帳面に応答した。
「隊長こそ、そろそろ慣れていただきませんと……」
父より高齢の私の部下は、私を諭すように笑った。そして、当然、
「今日は……アンドレは……?」
そこにいるはずの従卒の不在を訝しんだ。

「あ……」
私はとっさに嘘を吐く。
「屋敷内の雑務が追いつかず……遅れて来る……かな……。あ、いや……来ないかな……」様相は普段通りなのに、なぜか歯切れの悪い私に、大佐が首を傾げているのが分かった。
歩は何の変わりもなく進むが、司令官室の扉を開けるダグー大佐の立ち位置さえ気に入らない。あいつは、扉を狭めて2歩ほど中側……つまり今の大佐の位置よりももっと右に立つ。人ひとりやっと通れるくらいだ。だが、そうすると、背中の向こうから入り込んで来る朝陽の眩しさから私を守る事ができるはずだ。
そんな些細な、日常のアンドレの何気ない心配りに、こういう時改めて気づかされる。
私がいつものように、机後ろの窓から裏庭を眺める様子を確認すると、副官以下はそれぞれの持ち場に戻って行った。

自分で引き出した椅子に腰かける。
常日頃なら絶妙のタイミングでアンドレが引いてくれるのに、と思うとまた溜息が出た。
勝手に羞恥心を覚え、ひとりで屋敷を飛び出して来たのに、と悲しくなって来た。
勿論、アンドレが出勤して来たら顔を合わせるのだから、と今度は後悔が襲ってくる。何も避けるかの如く出て来なくとも良かったのに、と少し反省する余裕もできた。

「……アンドレ……」
口を吐くのは彼の名前。
「……早く来い……」
我ながら、良くもここまで我儘になれるものだと笑いが出て来る。


アンドレの不在を聞きつけた当番兵が、そろそろお茶を持って来るだろう。気をつけておかなければ、彼らに、こんな心もとない表情を見せるわけにはいかない。
私が出勤してしばらくすると、日頃ならアンドレがお茶を取りに行くのに、現れないのを不審に思った厨房のマダムかもしくは当番兵自身が準備をしているに違いない。
私は己を叱咤する為に頬を軽くパンパン叩いた。

すると、それにタイミングを合わせるかのように乱暴に扉が叩かれた。
「隊長、今日はアンドレがいないって本当すかぁ」
最悪のタイミングだ。
図っていたに違いないと思ってしまうほどの間合いで、アラン・ド・ソワソンの登場だ。手に日誌を持っている。昨夜の夜勤報告のようだ。
「あ、いや……。いないわけではない……」
ダグー大佐に言ったよりももっと歯切れ悪く、私はアンドレの不在の言い訳をする。
「まさか“持って来る”のを忘れちゃったんじゃないでしょうねぇ」
持って来るとは、何と言う言いようだ。無礼千万。
そんな私の気持ちがそのまま表情になったようだ。アランは、おっとぉと笑って、何を考えているのか机に身を乗り出すようにしながら、正面から私を見つめた。

止めろ。朝っぱらから、私を怒らせたいのか!?
心の中で、舌に載せる言葉を思い浮かべてみた。だが、不思議な事に挑発するかのようにニヤッと笑うアランにさえ、なぜか私はイラつかなかった。
それどころか、視線をどこに置いたらよいのか戸惑ってしまう。正面にいるアランの横で、いい加減にしろと宥めるように笑っている、そこにいるはずのないアンドレが見えた。
「……アンドレ……」
まずいと思った時には手遅れだった。
私の口からは、愛しい、今すぐに会いたい彼の名がついて出てしまった。

「喧嘩……じゃなさそうだな」
アランは、呆れたという顔をして、その場を離れた。両手を頭の後ろで組み、今にも口笛でも吹き出しそうな雰囲気で、部屋の中央の応接セットのテーブルに腰を下ろし、足を組んだ。そして、
「あ、いや。むしろ、本物の喧嘩、か……」
「本物の喧嘩って、何だ?」
下手に喋るとボロが出そうな気がしたが、私はついついアランに聞き返した。

アランは何でもないっすよと言い、ニヤリと笑った。
そして、無言のまますっと立ち上がると、手に持っていた日誌を私が座る執務机に放り投げると、
「素直になんなきゃいけない時ってのは、タイミングを逃すとこじれるばかりですよ」
そう言い放ち、振り返りもせず、出て行った。

おまえは……。
何を知っていて、私に諭すような口を利く?
素直になるとはどういう事だ?
だいたい、私達は、だな……。何と言うか、もうおまえ達が知っている私達ではない。

何せ、昨夜、私はアンドレのものに……。
……ダメだ。やはり、赤面するばかりだ。

アンドレ、早く来てくれ……。

≪continuer≫
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SS-28~ Requiem ~

2017年07月09日 03時10分26秒 | SS~読み切り小品~


~ R e q u i e m ~



空は青かった。

オスカルはその腹を蹴ると、慌てて付き従うアンドレを引き離しにかかるかのように一心不乱に馬を走らせた。
「待て、オスカル……」
最早、幼馴染の声はかすかに聞こえる程度だ。

緑を走り向ける。さらに奥まった森を越す。
乱暴な走らせ方をして、馬がかわいそうだと思い直し、やがて当て続ける鞭を下ろした。
泉の畔に着くと、手綱を頃合いの樹に結わることもせず、さっさとブーツやストッキングを脱ぎ捨て、足を水に浸す。
ズボンの中にしまい込んだブラウスの裾が、通り過ぎる風でかすかに膨らむ。また天気が変わるのだろうかとオスカルは空を見上げた。雲の流れが速い。
この上、まだ雨が降ったら、と憂鬱さが増す。

ひんやりとした水の冷たさに、心も平静を取り戻して行く。
「探したぞ……」
アンドレの言葉に驚くこともせず、一瞬振り返ったがオスカルはそのまま動こうとはしなかった。
「ちゃんと手綱を結えないと、馬は何にびっくりして暴れ出すか分からないだろう」
諭すように言いながら、その手はオスカルの馬と自分の馬、両方の手綱を木の二股に括りつける。

アンドレは一旦指先を水に浸すと、どさっとオスカルの横に腰を下ろした。
手に持っていたリネンをオスカルの膝の上に放り投げ、
「いい加減、止めろ。意外と水は冷たい。体まで冷えたら事だ」
ぶっきらぼうに言いながらも、その言葉からは深い愛が届く。
「ああ……」
オスカルも返事はするが、体勢はそのまま。
「アンドレ……」
そっと、恋人の名を口にする。
「ん?」
「アンドレ……」
だが、呼びかけた方も、呼びかけられた側もその続きはない事を知っている。

「水が綺麗だ……」
アンドレが半ば強引にオスカルの左足を水から引っ張り上げながら言う。やや体が左に傾く不自然さに対してさえ抵抗する事はなく、オスカルはリネンで自分の左足を拭きながら、右足は手伝ってもらうことなく水から引き上げる。
「……こんなに綺麗なのに、な……」
「……ああ……」
ポンポンと拭き終わった白い足。オスカルは元のようにストッキングとブーツを履く。
こんなに綺麗な水なのに、とオスカルはもう一度言った。
「何十と言う命を飲み込むんだな……」
「ああ……」

待ちかねていた2週間の休暇を得て、小旅行の途中でやって来た村では、昔ジャルジェ家に仕えた奉公人が、友人と共同で葡萄園を営んでいると聞いていた。
ヴァンが好きで、その知識にも長けているオスカルは、アンドレから誘われるまま、そこを訪れた。
しかし、ヴェルサイユの屋敷で聞いていた様相と違う。
葡萄に適した豊かな台地。そびえ立つ山は緑豊かで、すぐ近くを流れる川の水は澄んで、ヴァンを醸造するにも最高だと、出発の数日前にアンドレは我が事のように自慢した。
ところが二人が目にした村は、地面がむき出しになった山、氾濫した跡を残す川。葡萄畑は支柱がなぎ倒され、人々は疲れ果てていた。

聞くところによると、数日前まで降り続いた雨で山の斜面は崩壊し土砂となって崩れ落ち、多くの家屋を飲み込んだ。水は逃げ場を失い、村中が水に浸かった、多くの人が命を落とした、と村の重役は淡々と話した。
壊滅状態の葡萄畑からは当然収入を得る事は出来ない。村の多くの収入源は葡萄栽培だと聞いた。人々はどうやってこの先の生活の糧を見つければ良いのだろう。
懸命の捜索をしているが、まだ見つからない人がいる。その上、差し掛かっている雨雲の動き次第では捜索も中断せざるを得ない。
そこまで聞いたところで、オスカルはいたたまれなくなって、その場から飛び出した。

風が次第に強くなってくる。
「……雲が……」
アンドレが空を見上げて、呟いた。オスカルも同じ方を向く。
「また、降るのか?」
「ああ、黒い雲が向こうから……」
指さすこともなく事実を確認するアンドレの胸に、オスカルはいきなりその頭を預けた。

「もっと早くに知っていたら……」
後悔の言葉だった。
何ができたわけでも、何かが変わっていたわけでもないと分かっている。
だが、せめて……と思う。理由のわからない悔いは心の中に残る。
「……そう言うと思ったよ」
「自然の力には勝てないのだな」
「そうだな」
アンドレは恋人の頭を包み込む。

「人間は無力なのだな。自然の前では……」
「そうかもしれない」
アンドレは土地の人々の心痛を慮るオスカルの優しさが悲しかった。
大貴族の令嬢として生まれながら、あまりにも多くの事を、普通に過ごしていれば知らなかったであろう事を気づき、学び苦しんでいる。そんな稀有な恋人の頭をいつまでも撫で続けた。

休暇が明けると、慌ただしい現実が戻って来る。
悲しみは悲しみとして忘れる事はできないが、日々の任務は考える時間を与えてくれない。
生きなければならないのだと、別れ際に村の人々が言っていた。
残された者は、失った人の分まで生きなければならないと誓うかのように、自分に言い聞かせるかのように言っていた。
その言葉にオスカルは、少し救われたような気がした。

その日、屋敷の用事でパリに行っていたアンドレは、戻って来るなりオスカルの部屋を覗いた。恋人同士になってからは呼ばれない限り、オスカルの部屋を訪れなくなった彼にしては珍しい事だとオスカルは喜んで招き入れた。しかし、
「いや……執事さんに呼ばれてるから長居はできない……」
きっぱりとそう言い、これを渡したかっただけなんだ、と微笑んだ。
「ちょうど寄った店で見つけた。……モーツァルトの新曲だ」
「えっ……」
「……と言っても、まだ完成していないらしいが……」
タイトルだけはずいぶんと早くから決まっていたそうだ、とアンドレは説明しながらその新譜をテーブルの上に広げた。オスカルは興味深げに見入る。
「レクイエム・・・・・」

立ち上がったオスカルはヴァイオリンを手にすると調弦を始めた。
目の色が変わったのがアンドレにも分かった。そんなオスカルの様子をずっと見つめていたかったが、執事をいつまでも待たせるわけにもいかないと思い直し、そっと扉を閉める。
オスカルは視線の片隅でアンドレが出て行くのを見ながらも、楽譜立てにインクの匂いが漂って来そうな真新しい楽譜を立てる。

いつまでもヴァイオリンは鳴り響いた。
何度も何度も同じ旋律を奏でるオスカルは、きっと名も知らない亡くなった人々の事を思っているに違いない。
雑事をこなしながら、アンドレは耳を澄ましていた。

≪fin≫


【あとがき・・・という名の言い訳】

ご訪問ありがとうございます。おれんぢぺこでございます。
蒸し暑い夏の日々。皆様、お変わりなくお過ごしでいらっしゃいますか。
7月に入り、予想していた台風は大きく外れてくれてほっとしたのもつかの間、3が日に向けた予定を妄想していた真っ最中に、警報を告げる携帯のアラーム音がけたたましく鳴り響きました。大雨警報。テレビではアナウンサーが「命を守る行動を」と何度も呼びかけていました。
またしても、九州のおへそ部分での自然災害。災害に遭われた方に、心からのお見舞いを申し上げます。
職場の物資集めも具体的に品物が指定され、コ〇ト〇の大量買いトレぺが役に立ちます。(『役に立つ』って不謹慎な表現ですね、すみません)
幻聴の如く耳の奥で未だにアラームが鳴り響いています。
お天気はまた下降気味との事。どうかこれ以上の被害がない事を願うばかりです。

被災地への思いーー。なかなか言葉にするのは難しく、今回もオスカルさまのお力をお借りしました。同じ気持ちの方がいて下さる事を祈ります。
尚、『レクイエム』に関しまして、以下にウィキペディアから抜粋しました説明文を添えております。ご参照ください。

・・・ レクイエム ・・・

1791年作成。モーツァルトの遺作。死後弟子によって補完、発表されたが、当初、死の床でもその作曲を続けた事から死の世界からの使者の依頼で自分のレクイエムを作曲していたのだ、という伝説が流布した。
ところが、1964年になってから、アマチュア音楽家・ヴァルゼック伯爵が、1791年2月に亡くなった妻の追悼の為にモーツァルトにレクイエムを作曲させたというのが真相だったと判明。
伯爵は当時の有名作曲家に匿名で作品を作らせ、それを自分で写し取って自分名義で発表するという行為を行っていた。

またお時間のある時にお立ち寄りくださいませ


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SS-27~ お衣裳部屋から愛を込めて・・・③ ~

2017年07月04日 22時43分46秒 | SS~お衣裳部屋から愛を込めて・・・~


~ お 衣 裳 部 屋 か ら 愛 を 込 め て・・・ ③ ~



女官が抜き出し壁に貼ったワードローブブックの中から王妃の意中のローブを読み、それを狙ってダーツを投げるという事を、ジェローデルと交互にではあるがオスカルはもう何日か繰り返していた。

夜会用の候補として並べられた7着のローブはデザインも色もバラエティーに富んでいた。
「恐れながら……」
その日も当然ワードローブブックの中から選択すると思っていたオスカルは大いに慌て、言いかけたが、続きの言葉は王妃に遮られた。
「言いたいことはわかります」
答えつつ、扇子を顔の前でパタパタと揺らした。
「でもね。ごらんなさい、オスカル。ちょっと私が口を滑らせてしまったら、こんなに大勢の方が、あなたの凛々しい姿を見たいと言って集まってしまったのですもの……」
尚も扇を揺らす王妃は実に楽しそうだ。
「しかし、陛下。万が一にも大切なお衣装を傷つけてしまいました時には……」
「あら!」
なぜか逆に王妃は目を輝かせる。
「その時には、オスカル! そのローブはあなたに差し上げるわ」

右手の親指と人差し指で両目の上瞼を押さえ、オスカルは気持ちを落ち着かせようとした。
人目に晒されること自体には慣れてしまっている。しかし、衆人環視の中、王妃のローブに向かってダーツを投げる日が来ようとは想像できるはずがない。
皆に良く見えるようにとの王妃の配慮の結果だと女官長が説明をつけ加えた。
「あなただったら、どのローブを着た女性をエスコートしたいか、という目線で選んでちょうだい」
謎かけのような言葉を掛けられ、王妃が直々に1本のダーツをオスカルに手渡した。

アンドレの忠告に従ってオスカルはミドルスタンスで立つ。何も考えずに1本を投じ、矢が当たった物を着ていただく方がはるかに楽だと思い直した。どれにも当たらないという状況さえ避ける事が出来れば、本心はどれに当たっても大差ないと胸を押さえ深呼吸すると、中央を目指し構えた。
皆が固唾を飲んで見守る気配が伝わって来た。重苦しいというと大げさだが、そこにだけ異質の空気が流れていた。

タン、と鈍い音を立てダーツは濃いグリーンのローブに刺さった。
何の歓声かは不明だが部屋全体にどよめきが起こる。
「まあ! 素敵な選択ね、連隊長」
王妃は珍しくも役職でオスカルを呼び、優雅に拍手した。
「もったいのうございます」
とにもかくにも1投目で王妃のお眼鏡に適う選択ができた様子に、オスカルはほっとした。
「本当はね、オスカル」
嫁いで来た頃のような、きらきらと輝く瞳を向け、王妃は言葉を続ける。
「もっと沢山のローブを並べて、矢が当たったものから順に除いて行って、最後に残った物を着る、なんて方法も考えなくはなかったのよ」

オスカルは、ぐらりと足元が揺れる錯覚を覚えた。
そして同時に、早くこのゲームを止めさせねばと思った。単純に馬鹿馬鹿しいなどと呆れているだけでは済まない事のようだと判断した。そして、このように、自分の楽しみは次々に思いつくのに、その視点がいっこうに市民の暮らしに向いていない国母のお遊びに加担している自分に、罪悪感を覚えた。

そっと矢を引き抜くアンドレの背中を見ながら、フェルゼンはいつアメリカから帰って来るのだろう、と突然その柔和な笑顔が脳裏に浮かんだ。イギリスからの独立を懸けて戦っているフェルゼンの様子はなかなか届いて来ない。
退屈や淋しさから逃れるかの如く取り巻きを引き連れて次から次に遊び呆ける王妃の噂が海の向こうにまで届いているのではないだろうか、とオスカルは停止したはずの思考の片隅で、考えてはいけない事に思いを馳せた。
「……オスカル……」
引き抜かれた矢を渡しながら、明らかに我を失っているオスカルにアンドレが小声で呼びかける。
「ああ、Merci」
「どうした? ぼーっとして……」
「あ、いや……。何でもない」

フェルゼンが帰って来たら王妃も少しは変わるだろうか、とオスカルは再び迷路に入り込みそうな自分を急いで止めた。王妃様はお召し替えだと告げる女官長の声が耳に届いた。オスカルの放った矢によって選ばれたローブの準備も整った。
引き上げる皆の動きと共にオスカルもその場を去ろうとした。しかし、また王妃に呼び止められ、着替えの最中もその場にいる事になってしまう。

ギュッと締め上げられるパニエに悲鳴を上げながら、王妃がいつものようにオスカルの腕を掴む。
「ねぇ、オスカル。この苦しみが分かる?」
「あ、いえ。申し訳ございません……」
最早慣用句と言っても過言ではない。
「オスカル……」
ポケットを整えつつ王妃は尚も言葉を続ける。
「こんな苦しい思いをしながら、女は綺麗になっていくのよ。覚えておきなさい」

無意識に違いないが、ローブを纏いながら王妃が掛ける言葉は、オスカルの中に眠っている感情を揺さぶる。
着飾る事は苦しさを伴うが、その出来上がりは誰もが目を見張る。ましてや王妃の色の白さはどんなローブをも際立たせている。
控えていた女官の一人が失礼します、と言いながら胸衣と上着、スカートを慎重に針で留めていく様子を見ながらオスカルは王妃の立場を自分に置き換えてみる。
王妃が言う綺麗になる為の苦しみをきっぱりと拒絶しながらも、いつか……と思う。いつの日にか、この想いを隠し覆すことができなくなり、ローブを身に纏う日が来るのかもしれない、と。
そんな日が来たら、自分は素直にその感情に従うのだろうか? 
着々と仕上がって行く王妃の後ろに控え、オスカルは考えていた。

ほーっという溜息と共に、王妃がオスカルの方を振り向いた。
「ああ、オスカル。そんな深刻な顔をするのはやめてちょうだい」
その言葉にオスカルはハッとする。何という失態。王妃の前で完全に我を失ってしまっていた。
「冗談よ」
王妃は、オスカルの表情をどう解釈したのか、既にいつものように入念に姿見に映る自分に見入っている。女官に何やら1~2言命じた後、
「間違ってもあなたにローブを着ろ、などと命令するつもりはありません」
オスカルが、それに対し何と答えようかと迷っている間に王妃は言葉を継いだ。
「勿論、あなたがローブを着るのならぜひ一度見てみたいという気はありますよ」
「それは……」
オスカルの口から、その続きの言葉は出なかった。
全面否定できなくなってしまった。
「でも、やはりあなたは軍人。……今着ている紅の軍服こそがあなたの正装です」
「……ありがとうございます……」
他の言葉などあるはずもない。今現在のオスカルにとって、何よりの賛辞である事に違いはなかった。

憂鬱をそのまま引きずって屋敷に帰り着く。軽い夕食もそこそこに、幼馴染を自室に呼ぶと、オスカルは宮中での、アンドレがジェローデルや他の貴族たちと去った後の様子を話して聞かせた。耳を傾けていたアンドレは、
「……だからって、どうしようもないだろう?」
あからさまに呆れたという表情で呟いた。オスカルの対面に腰かけ寛いでいたアンドレは、よいしょっと言いながら立ち上がると、オスカルの部屋の居間の吐き出し窓を閉め、部屋中の戸締りを確認して回る。
思ったままを幼馴染相手に愚痴る時のオスカルは、とても宮中の羨望のまなざしを一手に引き受ける近衛連隊長と同一人物とは思えないほど幼く、可愛らしかった。もちろん、そんな形容をオスカル自身に聞かせようものなら、手当たり次第にグラスや皿、果てはランプに至るまで、その辺の物が自分めがけて飛んで来る事態は避けられないであろう事をアンドレは十分すぎるほど知っていたので、
「いくら王妃様が退屈しのぎから言い出した事だとしても、おまえだって納得して始めたんだろう?」
「納得ってなんだ……」幼子のように頬を膨らませながらオスカルは「意味が分からん」といじけたように呟いた。
「意味?」
「言葉の意味じゃないぞ! 納得したわけじゃない」
「ああ、分かってる。そうツンケンするな。納得っていう表現が気に入らないなら、おまえは嫌々ながら仰せに従ったって言い換えるか?」
「不敬だ、アンドレ」
ああ言えばこう言う、と笑いながらアンドレは、揺り椅子の座面に足を挙げ膝を抱え込むオスカルに、
「少佐は、どんなふうにお考えなんだ?」
一番気になっていた事を訊いた。オスカルは心底意外そうに、
「……何でここでジェローデルが出て来るんだ」
尚も頬を膨らませる。

「少佐は初めから関心なさげだったからな」
オスカルは、アンドレの言葉にチラリと視線を送った。
「あいつは、今日、控室に引き揚げた私に『簡単に終わらせる方法はございます』と言った」
「……そうか……」
アンドレは、オスカルの顔を正面から覗き込み、
「おまえは……」
続きの言葉を発しようとしたが、アンドレは言い直す。
「おまえも……過ぎたお遊びだと思っているんだよな?」
念を押す。
「何も……。そこまで深刻には考えてなかったが、な」
オスカルは正直なところ、と言い、笑った。
ギュッと力任せに割るピスタチオの殻がテーブルの上一面に散らばる。
「少佐は……職務に忠実だからな……」
「これも仕事のうちだ」
「じゃあ、割りきってつき合えば良いじゃないか?」
散らかった殻を手で寄せ集めながら平然と言うアンドレに、オスカルは視線だけで反発した。
「やはり、最初の段階でお止めするべきだった」
ふさぎこんだオスカルの声音に、
「数日楽しまれたら終わると思っていたのにな……」

またもピスタチオに手を伸ばしながら、
「おまえ……」
オスカルがふとアンドレを正面から見つめる。
「ちゃんと祈ってるだろうな?」
「ああ」
アンドレは大真面目に答える。
「毎晩、忘れずに。もうそろそろ神に俺の声が届いても良い頃だろう」
アンドレはそう言うと、手際よく片づけを始めた。
「今日は、もう、遊ぶ気分にはならないか?」
気分転換でもと思い遊戯室に誘ってみるが、軽く首を振るオスカルにお休みを告げると部屋を後にした。

その日。
これから国賓との晩餐に出席しなければならないという王妃のローブは、ジェローデルが投げたダーツによって、黒に近いほど濃い紫のローブデコルテに刺さった。
これから窮屈と退屈を同時に味わうことになる為、不機嫌さを隠そうとしない王妃の気持ちからは、もっと優しい、自分自身を包み込むような淡い色を要求しているように感じていたオスカルは、その選択の危うさに、一瞬チラリとジェローデルに視線を送ったが、当の少佐は平然としている。
「……そうね……」
自分から言い出したとは言え、と王妃はお衣裳部屋に向かおうとする女官を止めた。

しばらく顎の下に手を当てて悩んでいた王妃だったが、
「……あなたは、どう思って?」
突然やや声高に言うと、その視線はアンドレに向けられた。
身分や立場からすれば、近衛連隊長とは言うものの一介の伯爵家の跡継ぎに過ぎないオスカルに対してでさえ直接の下問は窘められて然るべきはずだった。だが良くも悪くもざっくばらんな王妃の性格は、単純に、わざわざ時間を割いて人伝で訊かなくとも直接話した方が早く、正確なはずというもっともな理由で周囲の者の助言は退けられて来た。しかし、まさか女官達の遥か後ろで息を潜め佇む従者に直接の言葉掛けがあるなどとは、と誰もが驚いた。

「は……あの……」
一瞬、声が向けられた方向にはいたものの、自分への下問であるはずがないと思ったアンドレはきょろきょろと周囲を見渡すが、明らかに自分に向けられた視線に、今度は慌ててオスカルを見入る。オスカルはお答えしろと目で促す。
「あ、あの……私は……」
「こちらに来て……」
王妃はそう促す。それは、今度はアンドレがダーツを投げろという意味だと誰もが解釈した。女官長が、王妃からダーツを受け取り、アンドレに渡す。
アンドレはまたも縋るような眼で主を見つめるが、オスカルは慌てる事なく、平然として動く気配もない。

アンドレはダーツとジェローデルとオスカルを代わる代わるに見つめる。当然、ジェローデルの表情からは何の感情も読み取れない。オスカルは先ほどと同じように目で語りかける。おまえの良いようにしろ、と。アンドレは右手に持ったダーツを一旦スッと下ろし深呼吸すると、やがて覚悟を決め慎重に構えた。

「……本当に良かったのかなぁ?」
アンドレは、キュッと音を立てて、バレルを握りしめた。
「……ああ。王妃様は、お遊びでローブを選んではダメだ、もう止めると笑っておっしゃたではないか」
力強く頷くと、オスカルは1投目を放る。その吹っ切れた迷いを証明するかのように、ダーツはまっすぐに飛んで行くと、20のトリプルに刺さった。
「何て事だ……」
アンドレは、いきなり最高得点を出し拳を握りしめるオスカルを見つめ、大仰に頭を抱えて見せた。
「幸先良いなぁ」
オスカルは他人事のような言い方をしながらも、大いに満足して満面の笑みを見せる。
「そりゃあ……少佐に感謝しなくちゃな」
「あ……? ああ、そうだな。おまえにも……」
道化となった男二人の心中に気づいていたのかと、情けないようなそれでいて嬉しい気持ちを噛みしめながらアンドレは言った。だが、
「俺は、違うだろう」
「いや。やっぱり、おまえがジェローデルと同じローブに刺したからこそ、王妃様もお諦めになった」
「でも、やっぱり最初の勇気は少佐だ」
オスカルは不思議そうにアンドレを見つめ、いやに肩を持つなぁと笑った。

そりゃそうだろう、とアンドレはスタートラインに立つと、グラスを傾けるオスカルを振り返った。
数日前。簡単に終わらせる方法はございますとジェローデルは告げた、とオスカルは少々ぶっきらぼうにアンドレに説明した。
ジェローデルはオスカルが悩んでいる事に当然気づいていた。オスカルが、遊び感覚で公式行事のローブを選ぶ王妃に苛立っている事を見抜いていた。
だが、王妃のその心の奥の淋しさが分かるオスカルは進言できなかった。どこかで自分自身を知らず重ねてしまっていた。
常にそば近くにいるジェローデルには、そんなオスカルの辛さが伝わって来ていたのだろう。だから、わざと王妃が気に入らないローブにダーツを刺したのだ。

オスカルは、ジェローデルや自分の複雑な心の中までは知らないだろうと、アンドレは大きく盤から外れたダーツを抜きながら、知らず笑みが漏れた。
計算したわけではない。ただ、ジェローデルも自分もオスカルが辛い表情を浮かべるのを見たくなかった。それだけだ。

オスカルが嬉しそうに笑った。そんな笑顔を見られる自分は果報者だとアンドレも笑った。いつまでも、こんな飾らない、素のままのオスカルを見つめていたいとアンドレは心の底から思った。
「もしも……」
アンドレは、やや重たいバレルに持ち替えラインに立つとオスカルの方を向いた。
「何だ?」
含みのあるアンドレの言い方にオスカルは挑発するかのように首を傾げる。
「もしもおまえが、ローブを着る事があったなら……」
「なにぃ……?」
オスカルは、目を見開く。
「俺がダーツで選んでやるよ」
怒りを露にするオスカルに向かって、アンドレはにっこりと微笑んだ。

≪fin≫

【あとがき・・・という名の言い訳】

ご訪問ありがとうございます。おれんぢぺこでございます。
今回の話は、途中、コメント欄にも書きましたが、りら様のブログネタからヒントをいただいたものです。りら様、しょっ中ネタをパクッてしまうおれんぢぺこを広いお心でお許しくださいまして、ありがとうございます(今後もよろしくお願いします)。
本編中、F氏登場させた関係でアメリカ独立記念日の7月4日のUPを目指しましたが、間に合いませんでした。本当に、無計画なのはいつもの事とは言うものの、情けないです。
それなのに、3が日も目前です。
何をしよう? どうしよう???
妄想は、常に全開、暴走中です。おつき合いいただけましたら嬉しいです。

暑さや、台風に加え、今年は外来種の危険な蟻の事…心配は尽きませんが、皆様、どうぞお体にお気をつけてお過ごしください。
またお時間のある時にお立ち寄りくださいませ。

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