杉浦 ひとみの瞳

弁護士杉浦ひとみの視点から、出会った人やできごとについて、感じたままに。

・知的障がいある方が犯罪を犯したとき ~ 事件は事件のみにあらず

2008-03-02 00:36:57 | 障がい問題
「息子が警察に逮捕された」電話相談が来ました。
親御さんの心配は、通常親が考える『刑務所へ行くのか、執行猶予になるのか』ということ以前の息子の警察での生活です。
手錠をかけられ怯えきって震えていないだろうか。
「お前がやっただろ」と言われ、警官の目をのぞき込むようにしながら「はい」と答えていないだろうか。
自分がいじめられないですむ術を子どものころから覚えてしまった息子があわれにも警察の言うなりになっていないか。
他の留置者にいじめられていないか。

障害のある人の事件相談は、法的な処理だけでは解決しません。
刑事事件の加害者になったときには、まずは本人の不安をとりのぞくことが必要で、そのためには頻繁に足を運ぶことが必要になります。会っているときは少しほっとしても、その後、理屈で安心感を持ち続けるのはむずかしい場合が多いからです。

 次に警察に障害のある人のことを理解させることです。
最近は理解のある警察官も多く「ここにいるより早く帰ったほうがいい」と早期に釈放されるケースもあります。「訳がわからないから捕まえておこう」というやり方は少なくなっています。
しかし親から直ちに彼の特性を聞き出して、警察に伝えることは必要です。
また、これを機会に障害のある人のことを被害者にも理解してもらうことを心がけます。転んでもただ起きない、という発想です。

ある痴漢事件の被害者が女子中学生でした。
学校は保護者に「不審者出没」の連絡網を回します。
そこで、事件終了後その中学校に面談を申し入れました。「彼は危険性のない素直な青年です。純粋に女生徒に近づきたかっただけです。そして、女性とつきあう機会に恵まれないのです」と伝えました。学校は事情を知り少し安堵してくれたようでした。

また、被害者の親御さんにも彼のことを伝えました。「障害のある人とは知らなかった。その人の親御さんは大変なんだろう。」と逆に親の立場で理解して下さいました。被害が重大でなければ、理解してくれる被害者もわりと多いです。みな人の親だからでしょう。
こうして社会の不安と障害ある人への偏見を払拭し、むしろ理解してもらう機会に転化することです。

そして、最後に彼の問題です。
作業所などを探し、彼の居場所を見つけ、支援者を確保することは大切です。親御さんの支えの場ともなります。それでも、同じ彼に何度か警察に呼ばれることもあります。異性に関心のある彼の自然な思いをどうしたらいいか。まだ対処の糸口が見つけられないでいます。

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8 コメント

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頑張って下さい。 (山崎正幸)
2008-03-02 03:43:26
 お久しぶりです。大変なお仕事が多いのですね。弱者のために働く弁護士さんは私の周辺には、あまりいないと思います。いつも感心しております。頑張って下さいませ。
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ありがとうございます (杉浦ひとみ)
2008-03-03 01:01:24
山崎さん、ありがとうございます。
体に気をつけながら頑張りたいものですね。
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私も応援しています! (bando)
2008-03-03 07:54:55
こんにちは。私も応援しています!
この記事には関係なく、あらためて言うことでもないのかも知れませんが、山崎さんのコメントを読んで私も何となく伝えたくなりました(^_^;)。

弁護士さんって、どうもお金持ちってイメージが多くの人にあると思うんです。だのに困って助けを求めたら正規だと物凄い料金を取られてしまう。物凄い料金がかかっても自分の主張が通るかどうかは分からないしで・・・。とにかく尊敬を受けるには不利な立場だと思います。多分今の制度だと一般的な業務をこなしているだけだと人からの尊敬は受けにくいと思います。もう少し気軽に弁護士さんにお願いできる社会制度が構築されるといいなあといつも思っています。

物凄い料金:私基準ですみません・・(^_^;)。


今後も応援していますね!
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悩んでます (鉄甲機)
2008-03-03 23:07:22
>学校は保護者に「不審者出没」の連絡網を回します。
 うちでもありました。単なる声かけ事例だったのですが、事情を聞いてみると軽度の知的障碍の方で、しかも"被害者"の女生徒の近所に住んでいたのです。女生徒は彼の顔も存在も知らず、不審な人から声をかけられたと慌てて家に帰り、そういう騒動になりました。
 障碍を持つ方々が社会のなかで普通に暮らしていくには一家庭・一団体では力不足、やはり社会全体で支える必要があります。そのためには障碍を持つ方々の顔・名前・障碍の程度を知り、顔なじみになることが必要ではないかと思うのですが、プライバシーの問題や逆に差別を生むのではないかと危惧する声もあり、何が正解なのかはまだわかりません。学校でも保護者から「あまり自分の子ども(の障碍)を知らせて欲しくない」という意見もあります。
 特に、以前に大阪八尾であったような事件があると「障碍者=怖い」のイメージが広がりそうで悩んでいるところです。
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はじめまして。 (友さん)
2008-03-04 19:03:38
嬉しい事です。ちょっと元気でました。
知的障害者の問題行動が地域で、迷惑をかけ色々と大変でもあります。
「転んでも起きない」
問題が起こったら、理解してもらうチャンス!と思っています。
実際は、問題を未然に防がないといけないんだが・・・。
私のブログにて、引用させて下さい、お願いします。
時間の関係で、事後承諾でよろしいでしょうか?
すみません。

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ありがとうございます (杉浦ひとみ)
2008-03-04 22:36:18
bandoさん、応援ありがとうございます。
鉄甲機さん、現実には悩ましい問題がおおく、特に学校の先生とか、まして親、かかわることの多い方の大変さは、外から見ているのとは違います。
その大変さを共有できることからはじめないとと思います。

友さん、ブログに引用していただくのはまったく問題ありません。
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ありがとう。 (友さん)
2008-03-05 01:08:08
今から、アップさせていただきます。
よろしかったら、お読みください。ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
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面白いもので (鉄甲機)
2008-03-05 19:38:28
障碍を持つ子どもと同じクラス・同じ学年の子どもたちとでは、ほとんど問題は起きません。他クラス他学年の子どもと問題が起こる場合が多いのです。同じクラスの子どもが関わっているような場合でも、その発端は他学年他クラスの子どもだったりする場合が多いです。
 障碍を持つ子どもと長い時間を一緒に過ごし、障碍の程度やその子の様子を知り、何よりもその子が自分なりに一生懸命頑張っている姿を見てきた子どもたちは、障碍を持つ子どもを友達として受け入れてくれます。傍目から見て「これはさすがに怒るだろう」と思ってしまう場合でも見事に受け流して、暖かい雰囲気を作っていくところを見ていると感動してしまいます。
 この子たちがこのまま成長して、地域全体で障碍者を支えていく社会を作っていってくれるよう、私も微力ながら支え続けていきたいと思います。
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