杉浦 ひとみの瞳

弁護士杉浦ひとみの視点から、出会った人やできごとについて、感じたままに。

・慰安婦判決、被害は「破局的体験後の持続的人格変化」と認定

2009-03-29 04:48:30 | 従軍慰安婦
3月26日に、中国海南島のいわゆる慰安婦事件の高等裁判所での判決がでました。この事件は、慰安婦事件最後の裁判といわれている事件です。

この事件について、東京高等裁判所第21民事部は、
被害女性らが、精神被害であるPTSDをこえて、「破局的体験後の持続的人格変化」(国際疾病基準ICD-10)に罹患しており、その被害は重篤で、既に償われたとか癒されたとかいうものではない」と強い調子で、被害の重さを認定しました。

この「破局的体験後の持続的人格変化」をきたすような侵害のストレスは,個々人のもつ個別の脆弱性を考慮する必要がないほど極端なものでなければならない、つまり、個人の持つ個性を凌駕するほどのどのような者にとっても過酷なものであることが必要とされています。

たとえば、ナチスの強制収容所体験,拷問,大惨事,人質になるあるいは殺害される可能性が切迫している持続的な捕らわれの身であることなどの生命を脅かす状況に持続的にさらされるなどが、これまで例示としてあげられていました。

この疾病は、ヨーロッパでは,ナチスの収容所の生存者の研究から知られるようになったのですが、日本の精神医学では、ほとんど知られていない症例で、今回この被害が認められたことから、被害女性等がおかれた状況の過酷さと人間としての尊厳を失わされるほどの非人間的なものであり、そのための被害が、まだなお存続していることがわかります。

私自身、当初、女性等の被害については、強姦のひどいものという程度の認識でしたが、実は、親家族から引き離され、窓もない狭いくらい部屋に入れられ、食事も満足に与えられずに、いつ帰れるともいつ殺されるとも知れない状態におかれた被害の大きさは、人としての尊厳を失わせるに足るものだったわけです。


なお、判決の結論自体は、被害者等の損害賠償を認めないものでした。
それは、彼女たちが有した請求権は、戦後の中国と日本との交渉の中で「放棄された」という理由からです。
いずれにしても、被害女性に対して、国として責任を果たしてほしいと思います。

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