がんばれナラの木

震災にあわれた東北地方の皆様を力づけたくて
The Oak Treeを地方ことばに訳すことを始めました

「私も一言!」(NHKラジオ第一)

2011年08月01日 | 放送
2011年8月3日、「私も一言!」
早川信夫(NHK放送総局解説委員室解説主幹)
有江活子(キャスター)
高槻成紀(麻布大学教
授)
 
早川:高槻さんの専門は野生動物保全生態学。野生のシカの生態にくわしく、東日本大震災で被害を受けた地域、とりわけ宮城県を中心に、長年にわたってシカやカモシカの生態研究に取り組んできました。そんな高槻さんのもとに届いたのがこれから紹介する一編の詩でした。今日はこの詩をめぐるお話です。
 有江:詩のタイトルは「ナラの木」。ジョニー・レイ・ライダー・ジュニア、日本語訳は高槻成紀さん、朗読はオオノ カツロウ・アナです。

<朗読>

 有江:「ナラの木」お聞きいただきました。じわじわと自信が湧いてくる、そんな一編の詩ですね。
 早川:そうですね。「根っこを張っている」というところがすごく響いてくるという感じがします。
 有江:高槻さん、この詩にどんなふうにして出会われたのでしょうか。
 高槻:3月11日のあの大震災のときに私はほんとうにショックを受けたんです。そうした中、野生動物の研究者がメーリングリストを作っていて、いろんな意見を交わすんですけど、その中にアメリカのダイアナさんというクマを研究している人からこの詩が送られてきたんです。英語のものだったんですが、それを誰かが訳さないかということになりました。私は詩を訳すことはしたことはないので、「誰かが訳すんだろう」と思いながら読んでみたのですが、すごく感動的だったので、思わず訳したいと思った、いや訳したいというより、するするっと出てきたというか、そんな感じでした。それでメーリングリストに「こんな意味みたいだよ」と送ったんです。
 有江:その詩がみなさんにジワジワと広まっていったわけですよね。
 高槻:そうです。ちょっと意外だったんですが、私の訳を読んだある山形の人から庄内のことばで送り返されて来たんですね。これがいいんですよ。私のよりよっぽどいい。その詩を読んだとき、東北の人には東北のことばで聞いてもらうのがいいと思って、今度はその訳を流したんです。そしたら、次から次に津軽とか南部とか、いろいろな所から送られてきたんです。そのそれぞれがとても魅力的でした。
 早川:そういうふうに東北のことばに直したものが魅力的に感じられたのはどうしてなんでしょうか。
 高槻:この詩が歌っているのは北アメリカにあるナラの木なんですが、ナラの木はヨーロッパにもユーラシアにも、温帯の広い範囲にあります。(魅力的に感じられるのは)東北の風土がナラの木にふさわしいということがあると思います。私は東北に長くいたので、詩を読んだときにナラの木の薄緑色が浮かんだんですが、同時にナラの木のもつ風や雨や火などに強い性質と、震災にあってもあのように耐えて不平も言わずにおられる東北の人の心情が、私の中で重なって感動したということがあります。
 有江:実際に東北のさまざまなことばに訳されたということですが、どのくらいのことばに訳されたのでしょう。
 高槻:20近くです。
 有江:それではそのうち盛岡版をお聞きいただきましょう。朗読は小野寺瑞穂さんです。

<朗読>

 有江:高槻さん、とってもやさしいんですけど、力強さが感じられるものですね。こうしたいろんなことばに訳される広がりをどんなふうに感じておられますか。
 高槻:3月下旬にライダーさんから届いて私が訳したとき、その翌日に庄内のが来たんですが、2、3日たつと津軽から来て、それから山形の置賜という地方から来て、それから盛岡という具合に来ました。来るたびに読むのが楽しみで、それぞれに違っていて、表現力が標準語にない豊かさをもっているんです。それは東北の人が自然に近い生活をして、冬を耐えるというようなことがあるから、それを表すことばも発達したのだと思います。そういう意味で、ひとつひとつが感動的でした。ある人は電話で津軽訳を読んでくださったんですが、私は涙が止まらなくて、なんでことばにこんなに力があるのだろうと思いました。
 早川:東北の人たちにしてみますと、ちょうど震災のあと、新緑の季節を迎えましたけど、まさにナラの木の新緑って黄緑色というのか、萌葱色というのか、目に鮮やかに飛び込んで来たという印象をもちますが、それが今年被災地を訪れても同じように咲いていたなということが印象に残っています。東北の人はこの新緑をどういう心情で受け止めたのでしょう。
 高槻:心の中は本当のところはわかりません。私も先週東北に行って来たのですが、町が破壊されて、瓦礫で戦場みたいになっています。その傷跡が深ければ深いほど、そのすぐ横にある緑がよけい美しいんです。毎年毎年紅葉して、葉を落とし、冬のあいだずっと耐えながら、春になると一斉に芽生えるわけです。今年の緑も去年のと同じんだけど特別新鮮に見えたと思うんです。その新緑をみてがんばろうと思った人も必ずいると思うし、この詩はそういうことも表現していると思います。
 早川:私も東北の人間なんですけど、いろんなことばで書かれていますが、訴えて来るものがありましたね。
 有江:ことばがぴったりするというのもあるんでしょうけど、この詩に描かれている情景に深く感じたところもおありなんでしょうね。
 高槻:そうですね。これは私にとって不思議な体験でした。私はふつうの日本語に訳したんですが、ライダーさんの詩の精神が、稲光のように東北の人の心にバーンと訴えたと思うんです。というより、東北の人がこれを理解してしまったと思うんです。それで自分のことばで表現することによって閃光がスパークしたという気がしたんです。ことばのもっている強さを実感しました。
 早川:最後になりますけど、高槻さんご自身、今後被災者の方々を支えるためにどんなことに取り組みたいと思いますか。
 高槻:今回、思いもかけない形で、詩を訳すということでも支援ができるということを体験しました。できればこれを継続したいし、これを出版したらという話も聞いています。もしアメリカのほうから許可がもらえたり、日本の出版社が支援してくだされば、もう少し広い形で目にふれることができます。また、声で聞いてもらったりできればいいなと思っています。
 早川:どんなふうに広がっていったらいいと思いますか。
 高槻:この詩自身のもっているパワーがあれば、水が砂に滲みて行くように自然に広がるだろうと思います。だから無理に「これはすごいんだぞ」という気はあまりなくて、広がるなら広がるだろうと思うんです。ダイアナさんとも「自然体でいこうよ」と話をしています。
 早川:ありがとうございました。
 逆境だからこそみえる。原発事故を心配して東京に避難している子供たちは1000人を超えています。そうした子供たちの学習支援をしている若者の人たちから話を聞きました。「先生、このごろ、震災を経験してよかったと思えるようになった。勉強することが初めておもしろいと感じられるようになったから。」そう子供から言われて感動したということでした。被災地にとどまっている子供たちを含め、子供たちは一生のうちに経験できないようなことを経験して、これから生きてい行くために糧になる多くのことを学んでいます。逆境のなかでこそ見えることがあるのではないか。大地に根を張ったナラの木ばかりでなく、これから根を張ろうとしている次世代のナラの木も育っているような気がしました。

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