1983年創刊 月刊俳句雑誌「水 煙」 その2

創刊者:高橋信之
編集発行人:高橋正子

作品七句②/2008年1月号

2007-12-06 15:56:39 | 本文
式部の実
平田 弘
金柑は実る数多の昼の星
純白に輝くうれし今年米
黄を放つ実る榠樝の枝強き
うろこ雲綿摘む畑の白冴えて
式部の実しだれる枝に珠となり
秋空にビルを切り取り澄み渡る
ふさふさと尾花輝く月明かり

松手入
宮本和美
ポンズとは愉快な響き焼秋刀魚
リズムよき鋏の進む松手入れ
鼻筋の通るマネキン冬着売り
丸かじり出来ぬ悔しさ林檎剥く
蟷螂のまなこ残して枯れにけり
どの道をとるも木犀香り濃し
喪の家に柿が静かに熟れいたり

水車小屋
祝恵子
ふいにきてとんぼう窓より帰りゆく
学級田踊り出しそな案山子たち
朝摘みの秋菜さっそく浸す水
変形の七色ガラスにりんご盛る
鬼灯の朱色のままに篭にあり
水車小屋池に映して秋茜
りんどうと果実一盛りレジへ置く

月明かり
大給圭泉
にぎわしく鳴き声のして実南天
十三夜想うに大仏月明かり
青空へ祭り太鼓を打ち込みぬ
影と共帰る露地道十三夜
コスモスにいよいよ深き空の紺
介護道今年も木犀漂えり
掃き寄せる間もこぼれつぐ金木犀


一湾の星
篠木 睦
連結器ごとんと高き秋の空
すっきりと目覚めし朝の鵙高音
一湾の星濃くなりぬ宵の闇
モンゴルの闇の平原十三夜
遠山に雲凛々と秋深し
一湾の風乗換えて鷹渡る
浜風に強く弾けし鳳仙花

大花野
澤井 渥
伊勢湾へ裾広がりのいわし雲
辻一つ違えて出でし大花野
干す胡麻へすぐに伸びくる山の影
蜜蜂が揺らすコスモス日本晴れ
枝越しに見える青空松手入れ
秋高し土蔵の窓の開けてあり
数珠玉に花ある事を知りにけり

彼岸花
尾 弦
連山の輪郭しかと秋高し
青々とインク滲ませ秋更くる
灯さるるショーウィンドウや冬近し
すこし欠けすこし優しき月のぼる
秋天に鋼の梁を架け渡す
暮れて猶蘂凛々と彼岸花
虫の音に夜風の軽くなりしかな

大聖樹
黒沼風鈴子
パソコンを閉じて月光高きより
ポインセチア緋のネクタイを選びけり
カーペット敷き長き季の始まりぬ
ケータイの画面はみ出す大聖樹
初時雨挿絵まできて読み止まる
冬薔薇や館は左右非対称
フロアーの隅明々と夜業かな


武相荘
渋谷洋介
紫の色透きとおる式部の実
武相荘柿高々と掲げられ
真直ぐに一輪挿しの石蕗の花
袴着の孫の凛々しく育ちけり
からからと風に追われる栃黄葉
十三夜写経始めは妻の筆
地を払う桜紅葉の垂れかな

ハロウィン
安藤かじか
鈴なりの柿も天城も透きとおる
虫の音を歩みて川のざわめきへ
訓練の号令月の夜に高く
注連縄の四手の白さを新涼に
掃き清められ土の香の秋祭
秋冷へふわり駆け出すバレーの子
ハロウィンのかぼちゃの灯る温泉宿

肱川
井上治代
さわさわとひとかたまりの竹の春
落鮎のせばりの漁の賑わいぬ
人参の間引き楽しや鵙日和
秋祭り神輿を担ぐ子等の笑み
新調の靴軽やかに花野道
秋澄むや花には軽きみ空あり
肱川の流れ豊かに櫨紅葉

ひとつ星
小西 宏
黄落の一筋の道抜けて空
狩り終えて山静かなるぶどう棚
秋の日を惜しむ芝生のポップコーン
ポプラ高く風かがやかせ秋の雲
渡りきて雁草上に日を浴びる
ひとつ星秋の青さの匂いけり
湯に入れば桧の香り十三夜


遠太鼓
柳原美知子
秋冷の朝の空気を遠太鼓
木犀の香入れて朝のスープ作る
ガラス器に金木犀の香を積めり
摘み菜を抱え来る道水匂う
祭支度終えて水音高き里
鰡跳ねて月光纏う十三夜
深谷へ青空沈め夕紅葉

吾亦紅
島津康弘
風音の谷かけくだり葛の花
吾亦紅の括られてあり古戦場
朝露を踏むはみそぎを受くごとし
秋霖の天空翔る鳴門橋
爽籟に鬨の声きく一の谷
秋光のかげりて須磨の蓮生院
敦盛の兜の朽ちて秋時雨

芙蓉の実
かつらたろう
秋耕の畝の高さや鍬の音
教会の戸を開け放ち秋晴るる
ふた葉菜に高低ありぬ鉢の中
櫨紅葉日暮れて湖面にルアー曳く
絮を見せ弾けんばかりに芙蓉の実
冬立つや尼の雲水街を往く
抜くごとに微かに香る菜を間引く

白秋忌
國武光雄
鐘の音に紅葉の揺るる観世音寺
青空に揺らぎ軽やか秋桜
秋深し看らるる人も看る人も
深みゆく秋や諸味の仕込み蔵
蒼天に桜紅葉のひらひらと
燈火親し押し花跡のある詩集
帰去来の斉唱響く白秋忌


朝霧
大多和幸子
 平成十八年病室にて
移ろいの秋色揺れぬ病窓に
一面を染めて秋陽の美しき
目覚めれば空あかあかと今朝の秋
朝霧の森は記憶の魁夷の画
耳に入る朝靄弾く鳥の声
治療決まる草木枯れそむ十月尽
桜紅葉背にして医師の説明す

風にまかせて
松本和代
風吹けば風にまかせて竹の春
話し合う鳥の声聞く今朝の秋
木犀の香りの包む庭のあり
鶏頭の紅の明るき夜の庭
捥ぎたての紫光る葡萄かな
コスモスの向うに遊ぶ児らの声
ゆったりと鳶飛び交う秋空に

雪吊支度
宮島千生
無骨なる指触れさせて真弓の実
鷹の爪折ればさらさら金の種
弓袋を担ぐ少女ら秋澄めり
八十六段登れど秋天なお高し
児ら流す友禅秋の川を染む
尖塔の白き十字架蔦紅葉
柱積み雪吊支度の兼六園

蕎麦の花
小口泰與
雨降りて凛と咲きたる赤き蕎麦
浅間より恵みの日なり蕎麦の花
稲の穂や畦に吾が影あるがまま
田の中に直列に生ゆ曼珠沙華
松虫や今朝の浅間の彫り深し
日をつれて池に浮き立つ紅葉かな
まさおなる池に落ちたり丹波栗

石榴の実
飯島治蝶
秋空へ紙鉄砲の音響き
霜降や億光年の澄みし星
秋うらら子ら次々と滑り台
児の絵よりはみ出す真っ赤な石榴の実
児ら秋にアンデルセンの童話かな
朝顔の種児の手よりこぼれけり
一葉に多彩な色混ぜ柿紅葉

糸電話
松本豊香
コスモスの揺れし教室九九響く
山寺の太鼓響かす秋の風
木犀の香りの満ちし朝の部屋
糸電話秋風押して聞こえおり
新米をもみの香りと炊き上げる
落葉踏む音軽やかに子の走る
愛犬の眠りし土に柿実る

稲を刈る
高橋秀之
さくさくと紅葉踏みしめ子ら歩く
ビル谷間響く子の声稲を刈る
一本のススキ集まり面となる
秋晴れの海岸線をひた走る
秋うらら海辺に園児の声響く
稜線が青と紅葉切り分ける
秋晴れが転ぶ子の顔明るくし

吊し柿
丸山草子
朝顔の実の黒々ときっちりと
リリリリと虫の音今を菊の中
月掲げ銀杏黄葉の大き影
日暮れまで稲刈る音の遠くより
どの柿もまるく陽を受く吊し柿
いっせいに小鳥来る朝湯沸く音
照葉して紅透きとおる吾子の頬