第12話「はばたきのとき」
つまるところ今回の12話は、μ'sからの卒業を描いた物語だった。これが最高に熱かった。そもそも、Aqoursは第1話冒頭で千歌ちゃんがμ'sという輝きに憧れたところから始まりました。スクールアイドルであることを尊び、スクールアイドルの飛躍を望んだμ'sの9人の想いと輝きは、解散してもなお多くの人の胸の中で輝き、新たな輝きを生み出し続けている。この事実は第8話でダイヤさんが語ったスクールアイドルのレベルが向上している理由からもわかる。「スクールアイドルがもっと広い世界にはばたいていくこと」――このμ'sの願いはしっかりと叶っていたんです。
『ラブライブ!サンシャイン!!』は伝説的スクールアイドルとなったμ'sの輝きに魅せられ、μ'sのようなスクールアイドルになる事を夢見る少女たちの物語だ。μ'sがいなければ、Aqoursは存在していなかったと言っても決して過言ではない。いえ、Aqoursはμ'sがいたからこそ誕生したのだと断言できるでしょう。
この背景を踏まえると、『ラブライブ!サンシャイン!!』という物語において、μ'sという存在をどのように扱うのかは最も重要なテーマになってくるはずです。だって、前述したようにAqoursの物語を描くうえでμ'sという存在は原点であり、しかしだからこそμ'sを前面に押し出してしまえばAqoursはμ'sに憧れて誕生した数多あるグループの1つでしかなくなる。「Aqoursの物語」を展開していくならば、この点は最も意識しなければいけないところでした。
そこで今回の12話です。予備予選を通過しながらも再び「0」という数字を突きつけられた千歌ちゃんが「μ'sとAqoursの違い」――μ'sというグループの輝きの正体を知りたいと再び東京の地に訪れる決心をする。そして、Saint Snowとの再会と音ノ木坂で見た穂乃果に似た一人の女の子の姿に、千歌ちゃんが出した答えが最高に燃えるものでした。
私はμ'sが大好きです
普通の子が精一杯輝いていたμ'sを見て どうしたらそうなれるのか
穂乃果さんみたいなリーダーになれるのか ずっと考えてきました
やっとわかりました 私でいいんですよね
仲間だけを見て 目の前の景色を見て まっすぐに走る
それがμ'sなんですよね それが輝くことなんですよね
だから私は私の景色を見つけます あなたの背中ではなく
自分だけの景色を探して走ります みんなと一緒に
普通の子が精一杯輝いていたμ'sを見て どうしたらそうなれるのか
穂乃果さんみたいなリーダーになれるのか ずっと考えてきました
やっとわかりました 私でいいんですよね
仲間だけを見て 目の前の景色を見て まっすぐに走る
それがμ'sなんですよね それが輝くことなんですよね
だから私は私の景色を見つけます あなたの背中ではなく
自分だけの景色を探して走ります みんなと一緒に
μ'sに憧れたからこそ、わかった答え。憧れて、憧れて、誰よりも憧れてきたからこそ、誰よりも彼女たちの輝きをを追いかけていたからこそ、μ'sの輝きはμ'sだけのものであって、Aqoursが目指す輝きはAqoursだけのものなんだと。私は私でよかったのだと。そう気付くことが出来た。誰かを追いかけることなく、ただ自分らしく目の前に広がる景色に向かって進んでいく。この瞬間、やっとAqoursはμ'sという存在から「はばたきのとき」を迎えた。これこそが『ラブライブ!サンシャイン!!』という作品の大きなテーマでした。
キラキラ輝くあのアイドルのようになりたいという憧れは、いつだって「アイドル」への第一歩。あの人みたいになりたいという憧憬の想いが何でもない普通の自分を「最高に輝ける自分」へと変わるための力になってくれる。μ'sだってそうでした。A-RISEという存在が、スクールアイドルというものの可能性を感じさせ、μ’sを結成する動機を作った。いつだって憧れることから始まるのです。
でも、μ’sとこれまでのAqoursとの違いは「自分たちの空を自分たちの翼ではばたくこと」だったのでしょう。
継承される物語
その証拠がこの「白い羽」です。『ラブライブ!』2期のエンディング「どんなときもずっと」で用いられていた「白い羽」。TVシリーズ2期ではμ’sのメンバー1人1人がぞれぞれ1歩を踏み出した回でこの「白い羽」を受け取っていました。そして、劇場版の「僕たちはひとつの光」で用いられた際は、脱ぎ捨てられた練習着の上に落ちたこの「白い羽」を誰も拾うことはなかった。それは、もうμ’sが「白い羽」を受け取る側から、これから生まれるスクールアイドルへ届ける存在へと変わったこと――μ’sの物語の完結を象徴するものでした。その白い羽が「Aqoursがどうあるべきか」という問いに自分たちだけの答えを出した千歌ちゃんの下に舞い降りてくるのです。
何も残さなかったというμ’sがたった一つ残したものがスクールアイドルの可能性(=輝き)であり、その象徴がこの「白い羽」なのです。この「白い羽」はスクールアイドルとして自分の空を目指してはばたき始めた者にのみもたらされるものなのでしょう。この脚本と演出の巧さには思わず舌を巻く。きちんと想いは継承されているんです。『ラブライブ!サンシャイン!!』がμ’sからの卒業を果たしながらも、『ラブライブ!』というタイトルを冠する作品なんだと強く認識させられる話でした。
Aqoursというグループの個性――「輝き」を描くうえで今回の内容は外せないエピソードであったことは明白でした。だからこそ、今回のお話は第1話冒頭で千歌ちゃんがμ'sという輝きに憧れた時点でいつか描かれるのだろうと思ってましたけど、ここまで上手く描き切るとは...本当に丁寧な脚本作りに感心させられっぱなし。
よくよく見ればOPでもサビの直前で9匹の鳩が光り輝く太陽を目指してはばたいていくカットがあるし、演出のこだわりが凄すぎるんです。展開は王道だし、待っていたコースのド真ん中なんですけど、160km/hの剛速球で打ち取られるみたいな清々しさ。千歌ちゃんが、いやAqoursという存在がどんな「輝き」を見せてくれるのか、μ’sとは違うAqoursだけの物語をこれからも楽しみにしていきたい。