家庭内別居

5月中旬

初夏の風もさわやかになりつつある頃
満開だった桜もいつしか葉桜となり、かざす手も手のひらも青く染まる。

すがすがしい風が夏の匂いを含んでいるようにも思え
五月晴れの空に心も弾む人が増えた。

しかし
浮かない顔でため息を一つついているものもいる。

イモ子ママだ。

寂しげな顔で、遠くを見つめ、また一つ、ため息をついた。

「ママーーーどうしたの？」
娘のベーグル子ちゃんの声にハッと我に返る。

ダメダメ、私がこんな顔してちゃ！
そう自分自身に言い聞かせると、くるりと笑顔になり
「ううん、何でもないわよ。今日のお夕飯なににしよっか？」
と
極めて明るくふるまった。
すると
「お夕飯には・・・
Ｓパパは・・・
かえってくるの？」
遠慮しがちに長女Iちゃんが聞いた。
優しく、人の心に敏感な子だから、なにか気づいているのかもしれない・・・

「ママーーーなんでＳパパは家にいないの？」
ベーグル子ちゃんも泣きそうな顔で言った。
本当のことを言うべきか、子供たちを不安にさせないよう嘘をつくか。
イモ子ママは迷った。
しかし、動揺した気持ちをぐっとこらえて
「Ｓパパは大好きな機械に乗って、お歌でも歌っているころだから大丈夫よ」
毅然にふるまい、子供たちの手を取り
一緒にお夕飯を作りましょうと促した。

ごく普通のビギン家族だ。

つい先日まで幸せなどこにでもある家庭だったのだ。

ところが
最近、家庭内別居が続き、会話も少なく、食事の時間以外、顔を合わせない日が続いている。

息子である、U太ろう、miyaおも帰ってこなくなった。

U太ろう・・・
あなたの車はあるのに、どこに行ったの？
miyaお・・・

玄関には靴だけが残っていたけど、どこにいるの？

あんなに
仲良く過ごしていた日々がもうずっと遠い過去のことだったかのように・・・

そこに
「やっほーー元気？」
と
昭和のアイドルが歌番組に出演した時のような登場の仕方をした人物がいた！！！！

シャチョ大伯父さまだ！！！！！！
ビギン家族の実権を握っている本家の長である。

「大伯父さま
うちの主人は、まだ帰ってこられないのですか？」
イモ子ママが不安げに尋ねた。

Ｓパパ、息子たちはこの大伯父さまからの指示のもと、仕事に出ている。

「まだ始まったばかりだ。
今の時期は男は現場で仕事を覚えなければならない。
何事も経験だ。」

そうよね
私のこと嫌いになったんではないわ
家庭を顧みなくなる人ではないもの。

きっと仕事が落ち着けば、昔のように笑顔の絶えない家庭に戻るはずだわ。


「オレがいなくなっても、仕事ができるようになってくれ・・・」

そんな・・・
大伯父さまにはいつまでも元気でいていただきたいわ。
引退なんて考えたりしないでください。

私たち
シャチョ大伯父さまに
ついていきますから！！！！！！

イモ子ママがそう言うと























「だってオレG・W・は海外旅行するのが夢なんだもーーーーーん、テヘ☆」
しーーーーーーーーーーーーーーん

ど・どこの農家が農繁期のＧ・Ｗ・に旅行なんていけるっつーーーーんですかーーーーーーーーーーーーー

「オレだって人並みの幸せが欲しいよーーーーーーーーー」
まださつまいもだって植えていないのに、のんきなこと言ってないでくださいよーーーーーーーーーー

と
いうわけで
農園ビギンは現在、会社内別居状態
男性陣は田んぼ仕事、女性陣は畑仕事に追われています

顔を合わすのはお昼休みの食事くらい

隠し撮りすることさえ叶わない片思い

田植えとワタシ
どっちが大事なのよ！！！！
なんて野暮なことは言いません（当然、田植えだ）

miyaくんには私より先に田植え機に乗ることを譲ってあげていますの（社長から許可が出なかっただけ）

Ｓ氏はトラクターの中でカラオケの練習をしている頃でしょう

まだまだ田植えは始まったばかり！！！！！
1ヶ月くらいは忙しい日々が続きますが、女性陣はしっかり畑を守らなきゃね

ちなみに
寒がりな私と暑がりなＳ氏

ずっと前
「ねーーーねーーーー私とＳくんが一緒に住んだら
体感温度が違い過ぎて
家庭内別居になっちゃうよねーーーーー」
と
冗談っぽく言ったら






「一緒に住むことがあり得ないね」



と
冷たく切り返されました・・・

もーーーーーぅ
いけず！！！！（古！！！この言い方！！！）