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世界はやがてジャパネスクの時代を迎える(非公式)

すでに「通貨戦争」の対日宣戦布告が発せられた? 円安に沸く日本が気付かぬリスキー・ゲームの内実

2014-02-26 | グローバル・マクロ
2013年2月26日 原田武夫

アベノミクスへの期待から、顕著な円安・株高傾向が続き、金融マーケットは活気を取り戻している。しかし、外交官として日本と諸外国との駆け引きの現場を見続けてきた原田武夫・原田武夫国際戦略情報研究所CEOは、円安に沸く日本に警鐘を鳴らす。現在の円安トレンドは、欧米が仕掛ける「通貨戦争」の前哨戦であり、日本は円高反転を狙うリスクの高いゲームに巻き込まれてしまいかねないというのだ。日本経済復活への期待を抱く企業や投資家は多いと思うが、現在起きている状況を多角的に分析し、バランス感覚をもって今後の戦略を練ることも必要だ。原田氏の持論に耳を傾けてみよう。


「知る者は言わず、言う者は知らず」
円安・株高で浮かれてばかりでいいのか

原田武夫(はらだ・たけお)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)代表取締役(CEO)。東京大学法学部在学中に外交官試験に合格、外務公務員�種職員として入省。12年間奉職し、アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を最後に自主退職。情報リテラシー教育を多方面に向けて展開。自ら調査・分析レポートを執筆すると共に、国内大手企業などに対するグローバル人財研修事業を全国で展開。学生を対象に次世代人材の育成を目的とする「グローバル人財プレップ・スクール」を無償で開講。著書に『ジャパン・シフト 仕掛けられたバブルが日本を襲う』(徳間書店)などがある。


「知る者は言わず、言う者は知らず」

 先日、東京・芝にある芝大神宮を参拝したときに境内で見つけた言葉だ。マーケットと外交、そして国内外情勢の狭間を歩いている私からすると、まさに「そうだ」と大きく頷いてしまう言葉だと思った。

 だが哀しいかな、忙しい日常を過ごしているとどうしてもこのことを忘れてしまう。そして「その発言者が学者として有名だから」「マスメディアが皆、その発言者を取り上げているから」といった理由で、世の中で大勢を占めている議論を鵜呑みにしてしまう。

 特に欲に駆られているときが一番危ない。やれアベノミクスだ、株高だ、円安だなどと大騒ぎしているときこそ、危険なのである。

 一見すると非常に複雑に見える金融マーケットと国際情勢。これら2つに多くの日本人が苦手意識を持つ共通の理由がある。それはどちらも「イロハのイ」を学校で習うことはないという点である。

 そのため、どうしても安易に「専門家」と称する人たちの言葉に頼ってしまう。そうすることによって、失敗してしまってからでは遅いのである。大切なことは、金融マーケットにしろ国際情勢にしろ、「己の頭」で考えること、これしかない。

 しかもマネーは、経済大国・日本にとって基本中の基本であるし、島国ニッポンにとって国際情勢を踏まえないわけにはいかないのだ。

 もっとも「己の頭」で考えると言っても、何も複雑なことをいきなり詰め込めば良いというわけではない。まずは「基本中の基本」を押さえること、これをすべきだ。

 今をときめく「リフレ派」と呼ばれるアカデミズムの住人からは、「とんでもない床屋談義」と言われるかもしれないが、マーケットは閉じられた条件の下で温室培養された実験室ではない。まずは誰しもが肯定しない、しかしそれでいて否定することもできない「事実」から考え始めること。ここから私たちのリテラシー磨きの第一歩が始まる。

知っていそうでよく知らない
為替マーケットの「イロハ」

 たとえば為替レート。第二次安倍晋三政権が成立してから「円安、円安!」とかまびすしい。渋る日本銀行を抑え込んで、いよいよ量的緩和に我が国が踏み込んだから円安になり、インフレになり、全ての問題が解決するような楽観論がメディアを席巻している。

 しかし、そうしたユーフォリア(熱狂的陶酔感)の中だからこそ、「いや待てよ……」と考えることが必要なのだ。

 まず為替マーケットにおける「イロハのイ」を列挙してみる。するとこうなる。

 

●為替マーケットにインサイダー規制はない

 とても単純なことだが、為替マーケットにインサイダー規制は存在しないのである。この点は商品マーケットについても同じだ。「為替マーケットでインサイダー? いったい何のこと?」と思われるかもしれない。この場合のインサイダーとは、金融・通貨政策を決定する政府当局及び中央銀行と密接な関係にある者たちのことを指している。

 たとえば、政策金利について考えてみよう。政策金利とは、その名のとおり政策的な配慮から設定されている金利のことであり、これを引き上げるとその国の国債が買われ、当該国債を買うためにその国の通貨が買われていく。「高金利国の通貨は買われる」という原理原則だ。

 ということは、政策金利の引き上げ・引き下げが間もなく行われることを知っている人物(=インサイダー)は為替マーケットで予め仕込んでおくことが可能なのだ。しかもそうしたとしても、一切インサイダー規制には引っかからない。これが株式とは全く違うところだ。

 

●金融メルトダウンからの脱出のため
主要国全てが輸出増進を図っている

 私は先月、香港で行われたアジア金融フォーラム(AFF)に出席したが、その際、ランチで基調講演をしたローレンス・サマーズ元米財務長官が語ったこんな言葉が忘れられない。

「米国、欧州、そして日本に中国。全ての主要国が今、輸出主導で景気を良くしようとしている。しかしいったい誰が買うのでしょうか、それだけのたくさんの輸出品を?」

 

今や世界中が使いたくて
仕方がない「伝家の宝刀」

 至極単純な事実なのだが、私たちがどうしても忘れてしまうことが1つある。それは「富」とは結局のところ、開放経済の下においては国内でつくったものを国外で売り、国外から得て来るものだということだ。

 だからこそ、政府は貿易政策を決めて物を盛んに輸出しようとする。あるいは関税政策を決めて、逆に富が外に出ていかないようにする。攻める側からすればそうした壁をつくられては困るので、「自由貿易論」を展開する。守る側はそれでは困るので、関税引き下げには応じつつも、事実上の壁である「非関税障壁」を密かに築き上げる。

 すると、攻める側はこれを「規制だ、構造だ」と騒ぎ始め、「構造改革こそ善」という議論を展開する。その繰り返しなのである。

 輸出で有利な立場に立つためには色々な手段があるが、最も典型的なのが自国の通貨を相手国の通貨との関係で切り下げてしまうことだ。いわゆる「近隣窮乏化策」というものである。今や世界中が「この伝家の宝刀を使いたくてたまらないと」いった衝動に駆られている。

 最も安易な手段だからなのであるが、通貨切り下げ競争が始まるとこれを防ぐ側との間で「自由貿易体制」が崩れてしまい、しまいにはヒト・モノ・カネの国境をまたいだ移動はまかりならんということにまでなってしまう。これでは「戦争」の一歩手前なのであって、これは絶対に避けなければならない――。

米欧間で激しく通貨切り下げ競争が行なわれてきたことがわかる
(C)SBIサーチナ株式会社
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 そんなわけで、2010年11月に行われたG20ソウル・サミットの「首脳宣言」では、こうした競争的な通貨切り下げを行わないという約束が明文化されているのだ。

キャリア外交官時代に見た
外国に従い易い日本人の性

「これをやってはいけない」と外国に言われ、ルールが決まってしまうと素直に国内法を整備し、これに従うのが日本人の性(さが)だ。私はキャリア外交官として、外交の現場でそんな哀しい性(さが)を何度となく見てきた。

 逆に言えば、我が国がそうして決まった金科玉条であるはずの国際ルールを真正面から破るというとき、我が国はかなり追い詰められているはずなのだ。まさに「不退転の決意」であって、もはや逃げ道がないから正面突破だ、ということになる。

 しかし米欧は全く違う。何が違うのかと言うと、ルールをつくりながら平然とそれを破るのだ。むろん、表向き政府当局は「ルールの遵守」を謳い、実際そう行動する。だがそのルールにとって「想定外」の出来事の発生をあえて招き、それによる反射的効果によってルールが破られてしまうような事態を創り上げるのだ。

 このとき、米欧諸国はいずれもこう言うはずだ。――「私たちこそ被害者だ。ルールを守りたかったが、想定外の出来事が生じてしまった。遺憾だが致し方ない」

ルールを守った者だけが馬鹿を見る?
「円バラマキ論」に納得してしまう日本人

 結果、ルールを墨守してきた我が国だけが馬鹿を見ることになる。国際ルールを押しつけられた政府当局は、独りだけでその責任を負いたくはないので、都合の良い「アカデミズムの大家」を持ち出す。

「円バラマキ論」をテーマとした「リフレ派」と呼ばれる識者たちが、政府による「円安誘導」のときに駆り出されるのはそのせいだ。

 そして私たちは、新聞やラジオ、そしてテレビ、雑誌や書籍でこうした「エライ先生方」の議論を毎日のように目にし、耳にするので、ついつい何も考えずに思ってしまうのである。「確かにそうだな」と。

 仮にこれが塗炭の苦しみを私たち国民に強いるものであっても、全くもって同じなのである。結果、私たち日本人の富は海の向こうへと次々に流れ出すのだ。そしてまた新たなゲームが米欧によって始められ、我が国がカジノに誘い込まれていく……。

 この2つの、誰も否定することのできない「事実」を重ね合わせたとき、いったいどんな近未来が見えて来るのだろうか。

 昨年暮れ、民主党の野田佳彦前総理大臣が衆院解散総選挙を宣言し、安倍晋三総裁の率いる自民党の優位が報じられるにつれて、為替レートが円安・ドル高/ユーロ高へとぶれて行ったことは記憶に新しい。

 安倍晋三総裁は「安倍晋三総理大臣」となり、そこでの政権公約であったデフレ脱却のため、量的緩和を強力に推し進める政策を実際に執行し始めた。為替レートがますます円安へとぶれていったことは、読者もご承知のとおりである。

 むろん、安倍政権のお歴々は鼻高々といった感じである。だが、そのことに大いなる不安を感じるのは私だけだろうか。

 なぜならば、国際ルールを押しつけられ、ギリギリまで追い詰められた我が国がいきなり逆襲に出るとき、外交の現場で米欧がいつもとる手があるからだ。それは「まずは我が国に勝たせる」というやり方だ。

緒戦はわざと勝たせるものの……
太平洋戦争を「通貨戦争」に当てはめる

 このことが一番わかりやすいのが、太平洋戦争の緒戦であった「真珠湾攻撃」である。1941年12月8日に行われたこの攻撃によって、旧日本軍は大勝。国内世論は「勝った!勝った!」と色めき立った。

 だが、そのわずか半年後に行われた1942年6月初旬の「ミッドウェー海戦」で、我が国の連合艦隊は大敗北を喫することになる。様々なミスが重なった結果であったが、虎の子の空母を数多く撃沈された我が国は、制空権・制海権を共に失い、その後3年間にわたり苦しい戦いを強いられることになる。そして原爆2発を投下されるに至って、「敗戦の日」を迎えたのである。

 緒戦で勝利した旧日本軍がとった手段、それは機動部隊による奇襲戦法だった。つまり、空からの戦いで我が国は勝利したわけであるが、ミッドウェー海戦ではまさにその「空からの戦い」で大敗北を喫したのである。同じやり方を今度は米軍からされて、日本は負けたといっても過言ではない。

 このことを、現在進行中の我が国を取り巻く「通貨戦争」に当てはめてみるとどうなるか。安倍政権はいわば猛烈な口先介入を行い、円安誘導を行った。政府関係者はこれを「デフレ脱却のための措置を講じ、その意思を表明しただけで、為替操作には当たらない」と繰り返している。

 だが、こうした詭弁が厳しい国際場裏で一切通用しないことは、その後の、とりわけ欧州要人たちの発言からも明らかだ。1月に開催された世界経済フォーラム(ダボス会議)で、メルケル独首相は「円安に対する懸念」を表明。続いて2月には欧州議会の場でオランド仏大統領が「欧州も為替政策を執行していくべきだ」と発言。

 これに続けて欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁も、「急激なユーロ高進行をウォッチしている」と言い出したのである。これで何も起きない、起こされないと考えるのがおかしい。

G20の共同声明による縛り
ほくそ笑む米欧の「次の一手」

 外交の現場感覚から言ってまず考えられるのが、2月15日にモスクワで開かれた、G20財務大臣・中央銀行総裁会合の「共同声明」による縛りだ。

「円安展開は日本も為替操作によるものではないと説明している。疑わしいが、しかし一応は信頼しよう。いずれにせよ、G20ソウル・サミットの首脳宣言に立ち返って、競争的な通貨切り下げは止めることをお互い確認しよう」と話し合いが行われ、ホッとした我が国は二つ返事でこれに応じた感がある。

 だが、これを見てほくそ笑む米欧には、「次の一手」がある。何らかの「市場外」「想定外」の出来事が発生するのを看過し、それが延焼していくのを慌てふためいたふりをして事実上放置するのである。

 この「市場外」でありかつ「想定外」の出来事はむろん、ドル安・ユーロ安へと為替レートを反転させる。急激な円高展開を前にして、これまでの凱旋気分から我が国の状況は一変。「いったい何が起きているのかわからない」と阿鼻叫喚の事態に陥るはずだ。

 ここで言う「市場外」「想定外」の出来事が何になるのかが、1つにはカギを握って来る。中東における本格開戦なのか、イタリアなど南欧諸国のデフォルト・リスク拡大なのか、はたまた米国債の格下げ騒動なのか、あるいはこれら全部なのか。想像は尽きず、予め決め打ちすることは不可能だ。

 とりわけ気になるのが、今週27日から始まる、2002年にデフォルトとなったアルゼンチン国債の取り扱いを巡るニューヨーク控訴審裁判所での公判の行方だ。その債務交換を拒むヘッジファンドによる提訴を受けての公判だが、仮にこれでアルゼンチン政府が敗訴となれば、そのデフォルトへの急転換が現実味を帯びてくる。

 なぜこれが重要なのかというと、かつての「メキシコ債務危機」と構図がよく重なるからだ。アメリカの強力な後押しで経済開発協力機構(OECD)に加盟したメキシコには当時、「新興国」として投資が殺到した。しかし1994年になって、同政府発表の主要な経済データが何と虚偽であったことが判明。怒涛の勢いで資本の逃避が始まり、12月には「メキシコ債務危機」となった。

 市場ではこれを受けて、ドル安へと急展開した。なぜならば、「メキシコが危機ならばアメリカに飛び火する」と考えられたからである。やや遅れて発生したこの急激な円高は「テキーラ効果」と呼ばれたが、1995年4月19日に「1ドル=79円75銭」にまで到達。当時の自社さ政権は大混乱に陥った。

 日本政府は武村正義大蔵大臣(当時)をワシントンに急遽派遣した。「何とか円安に戻してほしい」と懇願する武村蔵相を出迎えたロバート・ルービン米財務長官(当時)は、涼しい顔で「我々には何もできない」と言い切ったのである。その結果、円高局面は持続した。かの有名な「慇懃なる無視」(ビナイン・ネグレクト)政策である。

メキシコの先進国クラブ入りは早い
でも、アメリカの圧力だから……。

 一連の出来事を「単なる偶然だ」と思われるかもしれない。しかし私は入省したての1993年当時、OECDを担当する国際機関第2課に所属し、「メキシコ加盟」のプロセスをつぶさに見ることのできる立場にいた。

 そこで省内関係者たちは、異口同音に「メキシコを先進国クラブ入りさせるのは早過ぎるのではないか。だがアメリカからの圧力だから……」と述べていたことを、今でもはっきりと覚えている。その後起きたことに、アメリカの密やかだが強烈な国家意思を感じた我が国政府関係者は、私1人だけではなかったと思う。

 ここで浮かび上がる「構図」を、今のアルゼンチンに当てはめてみるとどうなるか。つい10年ほど前にデフォルトになったはずのアルゼンチンは、今や「G20」の一国として処遇されている。当然、そこにはアメリカを中心とする西側諸国が盛んに投資しているが、その一方でこの2月には国際通貨基金(IMF)より消費者物価指数を巡る改竄疑惑を指摘され、データの再提出を命じられているのだ。

 そこに来て、ニューヨークにおける訴訟騒動なのである。しかも厄介なのは、かつてデフォルトになったアルゼンチン国債を大量に持っていると考えられるのが、歴史的にも同国と関係性の強いイタリア人たちだということだ。

 そのため、仮にアルゼンチンが再度デフォルトとなれば、アメリカだけではなくイタリアにも「飛び火」するのである。まさに「ドル安・ユーロ安」のダブル・ショックへの導火線だ。

 仮にそうなった場合、ダンディな出で立ちで先のG20会合に登場し、メディアの注目を集めた麻生太郎財務大臣が、米欧に急派されるはずだ。しかし、そこで米欧のカウンターパートたちはこう言い切るかもしれない。――「G20モスクワ会合での合意を踏まえれば、残念だが人為的に円安への誘導はできない」。

 そうなれば、まさにビナイン・ネグレクトの再来だ。今度は「タンゴ効果」とでも呼ばれる中、強烈な円高が事実上放置されることになる。

すでに金融マーケットにおいて
「対日宣戦布告」が発せられた

 だからこそ、「疑いようのない2つの事実」に立ち返る必要がある。そして歴史的に、米欧が我が国をどう処遇してきたのかを振り返ってもらいたい。

 そうすれば、こうした米欧による無言の大戦略を知り、あるいは察したインサイダーたちが今、為替マーケットで「円安の続伸」ではなく「円高への急転換」にこそビッドしていることを悟るはずなのだ。そして気付くのである。「2月15日にG20の場で、金融マーケットにおける対日宣戦布告が発せられたのだ」と。

 むろん、予算委員会もたけなわの今、急転直下の展開に慌てふためくであろう安倍政権は、さらなる緩和措置を講じ、それが歴史的なバブルへとつながっていくはずだ。

 そう、この「日本バブル」への自らの追い込みこそ、米欧の狙いなのだとすれば、輸出主導による景気回復の宛先人が一体誰なのかも、すぐにわかるのである。間違いなくそれは我が国であり、だからこそアメリカは環太平洋経済連携協定(TPP)への安倍政権のコミットメントを強く求めているわけだ。

「知る者は言わず、言う者は知らず」――私たち日本人1人1人が「言わずとも知る者」にようやくなったとき、この「日本ゲーム」には終わりが訪れるのかもしれない。

 

http://diamond.jp/articles/-/32507



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