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デンソー事件と中国人

2007-04-07 17:57:24 | 中国情報
 4月7日の新聞各紙に、デンソーの中国人社員の釈放された記事が掲載されていました。

 あれだけ大量で、且つ重要な技術情報を盗み出されて、何故釈放されるのだ、という不信感を持たれるでしょう。通常48時間の逮捕の後、10日勾留し、一般的にはさらに10日勾留延長されます。4月6日が勾留満期日で、起訴できなかったことから、処分保留のまま釈放されたわけです。
 処分保留という意味が分かりにくいですが、一部の新聞に書かれていたように、不起訴処分となる可能性が高いと思われます。

 不起訴処分は、有罪だけど犯罪内容が軽微だとか、既に社会的制裁を得ている等の理由でなされる起訴猶予処分と、容疑が固まらないので無罪と考えられる場合の本来の不起訴処分とに別れます。
 本件はおそらくは起訴猶予処分と思います。これだけのデータを盗み出してそんなに軽いのはおかしいではないか、というのが世間常識です。ところが、よく新聞を見ると、この中国人は、会社所有のパソコンを無断で自宅へ持ち帰ったという横領容疑で逮捕されています。
  
 データを盗んだのだから窃盗じゃないかと思われますが、刑法の窃盗は、その盗む対象にデータにような情報を含めていないのです。変だと思われるかもしれませんが、罪刑法定主義という刑法の大原則から、刑罰法規の解釈は厳密にされるべきで、類推解釈や拡大解釈が許されないことになっています。

 となると、パソコンが会社に戻り被害も回復しており、さらに本人が新聞報道で広く名前も知られ、会社を解雇されていれば、本人自身、大きな社会的制裁も受けたので、これ以上の厳しい制裁も科する必要がないと判断されると考えられます。勿論、彼は、今後、仕事ビザも取得できず、中国へ帰ることになるでしょう。

 ところで、デンソーの中国人社員は20名以上いるとのことで、その中に、私の古い友人で、元有名大学講師を務めていた中国人が、デンソーに就職して重要部門で働いています。彼は非常に真面目で、有能な男であり、今回の事件で、他の中国人まで、冷たい目で見られてしまうのではないかと心配しています。