ニガイメ記

文章が苦手なので、イメージ写真でお茶をにごす日記
・・・の略。

初一念

2006年12月10日 | NATURA

国立歌劇場開場四十周年記念『元禄忠臣蔵』、3ヶ月連続上演もいよいよ大詰め。
今月もチケット完売、満員御礼だ!

「吉良屋敷裏門」「泉岳寺」「仙石屋敷」「大石最後の一日」の4篇。
長丁場を覚悟していたのだが、12時開演、15時40分終演・・・意外と短め。
「吉良屋敷裏門」と「泉岳寺」を連続して、合わせて40分で片づけてしまうという、大胆なカット!
勝鬨あげて、内匠頭墓前に焼香して、以上。・・・って感じ。使者に遣られる寺坂吉右衛門や脱盟した高田郡兵衛は出てくるけど。単純に原作本のページ数を数えたら、この2篇とあとの2篇の分量はほぼ同じ。上演時間や劇的効果を考えたら、ラストの名作「大石最後の一日」をクライマックスにもっていくための、これが現実的な処理なのかな。「大石~」にも通例どおりのカットはあったし。
「泉岳寺」は、討入直後の義士たちの心境やら人間模様やらが描かれ、内蔵助が「武士の一分」を説いたり、内蔵助の離縁した妻子のその後が語られたり、いろいろな要素を含んだ一篇だが、そのあたりは岩波文庫の原作本にて味わっていただくとして。そう、今回の観劇をきっかけに原作にも接するのはよろしきことかな。楽しく有意義な読書になると思いますよ。

今月の内蔵助役は幸四郎。「裏門」~「泉岳寺」あたりは位取りだけでなんとかなるところだが、期待以上、十二分に大きい。かなり時代劇風な感触だが、巧い。
今回の幸四郎は実に気が入っている。セリフの強さがふだんと違う、と感じた。体を揺すった感じの、へんに低い声を響かせようとした、何か含ませたような抜けの悪い思わせぶりな発声、・・・ではなかった。感情をリアルに乗せた直截的なセリフ回し、時に叫びに近いほどのよく響く声。断然、この方が良く伝わる。観客は引き込まれる(今までもごくたまにこのような幸四郎に遭遇した)。

以前、幸四郎で「大石最後の一日」を見たときは、どうにも陰気で楽しめなかったのだが(やっぱ吉右衛門の方が上だなぁ、と思いつつ)、今回は感動した。熱い内蔵助だ。もともと巧い人だけに、のめりこんで熱演した時の訴える力は凄い。
おみのと磯貝のくだりが本日のクライマックス。ここは正直「なんだかなぁ・・」と思ってしまうこともあるシーンだが、今回は私も感動。すすり泣く客、多数。おみのの芝雀、磯貝の信二郎が良かったこともあるが。特に芝雀は体当たりの熱演。
幕切れもややユニーク。これで初一念が届きました、を「届きましたー!!」とクレッシェンドで万感の思いをこめて歌い上げる。引っ込みもどことなく感情を引きずった感じ。達観した風では無かったな。場内大拍手だが、ここは観終わったあと少し「?」を感じた。幸四郎流の「解釈」なのでしょう。
「大石~」は連作中「御浜御殿」と並んで単品での上演頻度の高い作品だが、こうして通し上演の中で見るとまた趣きが変わって見える。ひとつ挿入された恋のドラマが際立つ。

「仙石屋敷」では三津五郎(伯耆守)が期待どおり。
他、長くなるので具体的なことは割愛するが、とにかく今月はベテランから若手まで全般的に良かった。配役に穴無し。まだ8日目だが、プロンプ無しでセリフが全く滞らなかったのは嬉しいことだ。

ま、「元禄忠臣蔵」全作通し上演などという、たぶん今後はありえぬだろう大イベントを楽しむことができてとても幸せです、と簡単にまとめる。


camera: Fuji NATURA BLACK F1.9  film: Agfa OPTIMA PRESTIGE400

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