社長ノート

社長が見たこと、聞いたこと、考えたこと、読んだこと、

天声人語 朝日新聞

2015-09-24 04:48:15 | 日記
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 子どもの頃、家の近くにごく小さな本屋さんがあった。ふだんは少年漫画誌くらいしか買わなかったが、ある時から毎月、漱石全集の配本を受け取りに行くようになった。いつも渋い顔で店番をしている老主人が、この時はなぜか上機嫌だった。
 街の本屋さんに学んだことは多い。中学高校の頃に通った店では、顔見知りになった主人が時々お薦めの本を教えてくれた。「これは名作だから読むといい」。知的な背伸びの勧めだったのだろう。そんな書店が少なくなって久しい。
 「本屋さんの逆襲」が話題になっている。村上春樹さんの新刊が10日に発売された。初版10万部のうち、9万部を紀伊国屋書店が買い切った。独り占めするのではなく、他の書店にも回すが、買い取りだから返本はきかない。賭けである。
 勢力を増すネット書店に対抗するためという。今回、アマゾンなどに流れるのは5千部程度。多くの読者は通販ではなく、街場の「リアル書店」まで足を運ばなければならない。どんな結果になるだろう。
 電子書籍の脅威もあり、紙の本の苦境は続く。大型店勤務が長い田口久美子さんの『書店不屈宣言』は、きっぱり言う。「本はかたちがあってこそ本だ」。紙とインクでできたモノなのだ、と。
 紙の本で育った者として深く賛意を表したい。私たちの生活圏の中にある書店こそ、紙の本の「命綱」だという主張にも。目当ての本を手に入れるだけの場所ではない。書店は、未知の書物との魅惑的な出会いの場でもある。

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