米下院慰安婦決議ひとまず終息

国際問題分析で定評のある評論家宮崎正弘さんの最新のメルマガによると、マイク・ホンダ議員が執拗にこだわり、中韓系ロビイストの大規模な活動により共同提案者が100名を超え(ワシントン在住のジャーナリスト古森義久さんによれば、本会議採決にかかる目安が100名だという)、懸念が高まっていた米下院の「慰安婦決議案」の採決が当面先送りされることになったようだ。

私も訪米中にお会いしたイノウエ上院議員らの懸命の働きかけもあって、ラントス下院外交委員長が日米関係に配慮して慎重姿勢に転じ、人権派のペロシ下院議長も虐殺の続くダルフール紛争など(過去の事件よりも)現在進行形の人権抑圧をより重視していることが採決延期の要因ともなったようだ。

4月末の安倍首相の訪米がほとんどニュースにならなかったことが、かえって事態を沈静化させたという皮肉な結果となった。この点について、宮崎さんも「蛇足ながら、先の安倍首相の訪米、ワシントンの新聞記事にならなかった。驚くなかれ、ニューヨークタイムズにも訪米の記事がない」と拍子抜けの感想を記しておられる。

たしかに、安倍訪米の直後にワシントンを訪れたから、私自身もワシントンの冷めた空気を体感した。しかし、この冷めた空気はむしろ事態改善の兆しを示すものだった。少なくとも今回に限っては、慰安婦問題でヒートアップする危険があったことを考えると、短期間に「平熱」に戻した日米両政府関係者の努力には率直に敬意を表したい。(加えて、直前に勃発した韓国系学生による銃乱射事件が、韓国系コミュニティを震撼させたことが影響したと指摘する識者もいた。)

マイケル・グリーン前NSC特別補佐官には、安倍訪米に合わせて、慰安婦問題でワシントンポストやCNN、PBS(権威のある公共放送ニュース番組)など複数のメディアから取材依頼があったという。しかし、首脳会談後に連絡があり、インタビュー記事が不掲載になったことが伝えられ、首脳会談を受けての番組出演もキャンセルとなったという。担当者は、異口同音に、安倍訪米があまりにもスムーズに終わったために却ってニュース・ヴァリューがなくなったと伝えてきたという。

メディアの性質を端的に現すエピソードだが、外交場裏では時に「冷めた空気」というのが重要な場合があるということを物語っていると思う。その意味では、メディアに「熱烈歓迎!」などという見出しが踊ったときには逆に警戒しなければならないし、相手国(のメディア)が感情的になっている場合には、その表面的な現象に翻弄されることなく、そんな中でも冷静に両国関係を慮る政治家や有識者に対する働きかけが重要である。たとえば、ネオコンに支配されていた米政府の中にも、パウエル国務長官やアーミテージ副長官など健全な現実派が存在したし、危うい外交を展開する韓国のノ・ムヒョン政権に対しては、野党ハンナラ党を通じての外交攻勢が有効だろう。とくに、国家の意思決定における「復元力」をもつ民主主義国では、こういった複眼思考のアプローチが大切だと思う。
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