国際情勢について考えよう

日常生活に関係ないようで、実はかなり関係ある国際政治・経済の動きについて考えます。

六者会合 1994年を忘れない

2007-02-09 | 地域情勢

今回の六者会合は、これまでのものと違って、米朝の歩み寄りが功を奏し、一定の成果が出ることが見込まれています。報道によると、北朝鮮が原子炉の運転を止めると同時に、アメリカが支援を行なうという基本合意が固まりつつあるようです(関連記事)。しかし同時に、このような事態の急な進展には、どうにも違和感を覚えます。なぜなら、北朝鮮は以前にも似たような状況で国際合意を結び、それを裏で平然と破っていた負の実績があるからです。

1994年、当時のクリントン政権は、核開発を進めていた北朝鮮と、エネルギー支援をする見返りに、核開発を止めるという合意を結びましたが、北朝鮮はほどなくして、この国際合意に違反する形で、核弾頭の開発・製造、およびミサイル技術の輸入・開発を密かに再開していました。国際社会が、このことに気付いたのは、2002年のことでした(参考資料)。

 

ふつう、国際社会というのは、互いの信義に基づいて条約などの合意を結んでいます。そして、もし一方が、合意に違反するようなことがあれば、被害国は加害国に対して、加害国の違反の程度に応じて一定の報復行為(武力によるとは限らない)をすることが許されています。このような相互主義があるから、国際社会では互いが合意を守ることを前提にして、外交交渉ができるのです。

しかし、北朝鮮という国は、自らが破滅しても全く構わないという暴言を吐きながら、国際約束を破るなどして、自国の目的を国際社会の中で推進していく独特の「瀬戸際外交」を厭わない特殊な国です。だから、北朝鮮政府とは、外交の常識、いやそれ以前に、人間としてのコミュニケーションの常識が通用しないという前提を踏まえておかないと、合意以前に、交渉そのものができません。

 

今回の歩み寄りの状況は、かつて1994年に北朝鮮と国際社会が歩み寄りをしたときの状況とよく似ています。六者会合に参加している関係国、また交渉担当者は、このときのことをもちろん覚えており、北朝鮮に常識が通用しないことも、誰よりも良く知っています。ですから、今回の歩み寄りは、絶対に約束が破られないことを担保する核査察のメカニズムなどの構築に合意にしつつあるか、もしくは何らかの大きな政治目的に基づいて、約束が破られるのを半ば承知で約束をしようとしているかのどちらかなのでしょう。

そもそも、今回の歩み寄りは、アメリカの北朝鮮政策が大きく転換したことで実現したものです。これまでブッシュ政権は、北朝鮮との二者会合を徹底的に拒否してきましたが、先月ドイツのベルリンで初めて米朝会談を持ち、そこで基本合意ができたことが、今回の六者会合で交渉が加速している要因です。しかし、ブッシュ政権(共和党)が政策転換を図った背景には、昨年11月のアメリカ議会選挙で、野党の民主党が議会を制したという国内政治の力学変化があります。 ― かつて、クリントン政権(民主党)の対北政策は、結果的に北朝鮮に完全にナメられてしまいました。民主党指導部は、このことを踏まえた上で、ブッシュ政権と政策協議をしてもらいたいものです。


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