日本の美術館・世界の美術館

私が訪ねた美術館の報告。

岡山県立美術館 燐票大展覧会

2005-05-10 11:14:59 | Weblog
★ 岡山県立美術館
★ 2005年4月26日(火)~5月29日(日)
★ 650円
★ マッチラベル

岡山県立美術館は、岡山駅から市内電車に乗り、城下で降り北に少し入った所にある。今、マッチラベルの展覧会が開催されている。マッチラベル7万5千点が奥村氏より寄贈されたのを記念して行われている。折りしも日本でマッチが製造されて今年は130周年に当たる。もともとスウェーデンで製造されたものを輸入していたので、マッチは高価なものだった。フランス帰りの清水誠が、初めて国内で製造して以来、マッチは製造の8割が輸出されるようになり、明治から大正・昭和へと重要な輸出産業として成長した。

燐票とはマッチラベルのことで、燐寸とはマッチのことである。マッチの製造者はマッチのラベルを非常に大切にした。というのは、マッチは外見だけでは品質がわからないために、消費者はラベルでその良否を選択する。そのため、ラベルは品質を保証するものとして大切にされ、その多くが、商標として登録された。これを商標登録マッチという。商標登録マッチ以外のマッチには輸出用のマッチとか、広告用のマッチも含まれる。輸出用のマッチには相手国の好むデザインを、国内向けには消費者の注目を惹くものを用意した。

展示室に入ると、なつかしいたくさんのマッチラベルが飾ってある。ラベルはマッチ箱から剥がされ、台紙に貼られている。マッチ箱のまま置いておくと、燐で黒く汚れてしまうからだ。見渡すと、赤いラベルが多い。これは、明治時代は赤い色が流行したからということと、赤い染料が外国から安く手に入るようになったことと相俟っている。

先ずは「商標登録マッチのコーナー」。題材はいろいろである。日の出とか手ぬぐいを被った女とか、特別に意味はなさそうだ。いずれも丁寧に作られている。各製造所が何種類も作っている。
それから「商標登録以外のもののコーナー」。32冊のコレクションには、干支、動物、植物、人物、道具、建物、日の出、惑星、地球、乗り物、釈迦、仏像、お多福やキューピー、兜等など何でもありだ。

その中の動物にはえび、ザリガニ、猪、戌、蝶、かたつむり、鶏、猿、兎、鼠、猫、ライオン、象、鷺、鷲、鷹、狐、鴉、虎、羊、金魚、蛇、駱駝、蟹、鯉、貝などがある。
兎の絵柄では、「魚を釣る兎」、「宝を運ぶ兎」、鼠では「葡萄を食べる鼠」、「猫を人力車で運ぶ鼠」、猫の絵柄はたくさんある。「日傘をさす猫」、「花と二匹の猫」、「兎と猫」、「金魚を捕る猫」、「秤に載った猫」、「橇に乗る猫」、「お茶を点てる猫」。猫好きにはたまらない絵柄だ。可愛らしさに思わず笑ってしまう。

インドに輸出されたこともあって、象の絵柄は多い。「曲芸をする象」、「虎と喧嘩をする象」、「おもちゃになった象」、「船積みされる象」、「シーソーをする象」、「鮒に乗った象」などなど。果物には柘榴、西瓜、パイナップル、団栗、枇杷など。花は桜、鈴蘭、牡丹、菊、芙蓉、朝顔、薔薇など。
輸出用のマッチは、貿易の仲介をしている華僑が、相手国の好むデザインを指示していた。現在でいうアートディレクターのような役割をしていた。インド向けには象、マハラジャ、中国向けには唐子、牡丹、欧米向けには婦人、植物など。

とにかくあらゆるものが描かれている。中には想像上のものもある。買い手が好んで、興味を持つものなら何でも描こうというその商魂。しかし。そこにはデザインがあるのだ。どれをとってもユーモラスで可愛い。龍だって、ライオンだって、鼠だって、象だって皆かわいい。おもわず集めたいという欲望に駆られる。

このマッチラベルを描いたの誰だろう。小さなラベルの上にきっちりと細密に描いてある。細くて網目のような線。これを描いたのは浮世絵師だと言われている。そうと知るとなるほどと納得がいく。浮世絵の衰退によって活動の場を失った浮世絵師達がマッチラベルに活路を見出した。それ故か浮世絵で培った技法なのだろうか、細部まで行き届いている。そして絵師自身も工夫をこらし、楽しみながら描いたのではないだろうか。

別の展示室には新作マッチが展示されている。38人の現代作家のものと、雪舟・武蔵の水墨画2点を合わせて40点である。
全体を通してみると。並べ方とかレイアウトにもう一工夫が欲しいと思う。