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【血統・配合】キングヘイロー×モガミヒメ牝系 ②モガミヒメ

2017年04月30日 | 血統・配合


『キングヘイロー×モガミヒメ牝系』の第2回は、モガミヒメの血統について考察したいと思います。


まずは、モガミヒメの父カコイーシーズについて。

カコイーシーズは、英国にて2歳時にマイル戦でデビューし3着した後、明けて3歳になってからは10Fの未勝利戦と12FのG3ダービートライアルSを連勝。

その後は芝12F中心のG1路線を歩みますが、2着や3着など、G1のタイトルにはあと1歩及ばずというレースが続きました。

G1勝ちが欲しい陣営は、明けて4歳になったカコイーシーズを米国へ遠征させて芝12FのG1ターフクラシックに挑戦し、見事念願のG1タイトルを勝ち取ります。

その後、米G1のBCターフを9着してからG1ジャパンCに参戦するも、結果は3着。

このレースを最後に引退しましたが、走ったレースのほとんどが芝12Fという馬でした。

彼の血統で注目すべきはNasrullahの4×3のインブリードですが、父内のNasrullahは息子のOn-and-Onを経て、そして母内では娘のMiss Uppityを経てクロスしているのがわかります。

このように、息子と娘を経たインブリードやラインブリードは遺伝効果が高いという考え方があり、私自身も好んで用いる配合手法です。

ちなみに、このNasrullahの血脈に関しては、カコイーシーズの血統内ではNasrullahの母Mumtaz Begumと2代母Mumtaz Mahalがクロスされていません。

そのためか、本来この血脈が伝える素軽く爆発的なスピードは、カコイーシーズのレース振りには見られませんでした。

Nasrullahの血脈はそれ自体が爆発的なスピードを伝えるというよりも、母Mumtaz Begamと2代母Mumtaz Mahalがもたらす影響により、結果的に瞬発力に富んだ爆発的なスピードを子孫に伝えると考えられます。

因って、カコイーシーズのようにMumtaz BegumとMumtaz Mahalのクロスが派生しないNasrullahのみをクロスさせる血統パターンでは、Nasrullahクロスによく見られる爆発的なスピードは遺伝され辛いのではないか、というのが私の見解です。

ただし、馬体のシルエットという観点からすると、カコイーシーズはNasrullahの影響を受けたのかもしれません。

首が太くて重心が低く、胴回りもあってパワフルな馬体に見せるAlydarの仔が多い一方で、カコイーシーズはAlydar産駒にしては素軽く、体高が170cm越えのスラッと伸びた馬体の持ち主でした。

この体型はAlydarより、むしろNasrullahに近く、結果としてAlydar産駒ながらダートではなく芝路線を得意としたのかもしれません。

さて、カコイーシーズにはSickle=Pharamondの全きょうだいクロス6×5もありますが、この全きょうだいはPhalaris×Chaucer牝馬の組み合わせを持つという点で、Nasrullahの2代父Pharosと共通します。



一般に、3/4同血と呼ばれる関係です。

私は、これらSickle=Pharamond≒Pharosによる遺伝的近親のクロスが、カコイーシーズに対して中距離スピードを与えたのではないかと考えています。

ちなみに、Sickle=Pharamond に見られる「全きょうだいクロス」という配合もまた、強い遺伝効果を期待できる手法だとする考え方があります。

カコイーシーズの血統においては、父Alydarの母であるSweet Toothと、カコイーシーズの2代母Miss Uppityとの間にも血統的な相性の良さが窺えます。



Sweet Toothの父は、Nasrullah産駒のOn-and-Onですが、Miss UppityはNasrullahの直仔という関係にあります。

また、Sweet Toothの母Plum Cakeは、Sir Gallahad=Bull Dogの全きょうだいのインブリードを3×4で持っています。

そして、Sweet Tooth自身の代でも、Bull Leaの3×3のインブリードを経てSir Gallahad=Bull Dogの全きょうだいクロスを継続しました。

一方のMiss Uppityは、その母Nursery SchoolがSir Gallahadを2×3のインブリードで持ちます。

それらを踏まえてSweet ToothとMiss Uppityという関係で見てみると、その血統的な親和性がよくわかります。

カコイーシーズが持つこのSir Gallahad=Bull Dogのクロスは、詳しくは後述しますが、マルゼンスキー牝馬に対するニックスの理由の一つになったと考えています。

カコイーシーズ産駒は中央で68頭が勝ち上がっていますが、そのうち実に12頭がマルゼンスキー牝馬との間に生まれた産駒であり、また獲得賞金の比較からみても上位の馬が多いのは注目すべき点です。


さて、ここからはモガミヒメの母モガミポイントの血に注目してみましょう。

モガミポイントは、2歳時の新潟芝1000Mでデビューして、見事に新馬戦を勝ちました。

次戦のG3新潟3歳Sで5着して以降、しばらく勝ち鞍から遠ざかりましたが、3歳になってからダ1400Mで2勝目を挙げて、同年の弥彦特別(900万下、芝1600)でも勝ちました。

その後も特別レースで入着などしましたが、結局この3勝で引退しています。



彼女の母系を見てみると、まず2代母クリヒデの血統に注目できます。

クリヒデはアウトブリード配合ではあるものの、英3冠馬のRock Sandを6×4、英チャンピオンサイアーのDesmondを5*6×6のクロスを持っています。

この2つの血脈は、大種牡馬St. Simonでつながります。

すなわち、Rock Sandの母の父がSt. Simonであり、DesmondはSt. Simonの直仔という関係です。

クリヒデは、牝馬ながら天皇賞・秋を制して最優秀古牝馬に輝いていますが、その勝負根性と底力には、St. Simonの血脈が少なからず影響したのかもしれません。

そのクリヒデにボールドラッドが交配されて生まれたのが、モガミポイントの母ポイントメーカーです。

ボールドラッドは2歳戦の成績が傑出していて、ホープフルSやフューチュリティS、シャンペンSといった米国2歳戦の重要レースで勝っています。

その血統は、英ダービー馬のMahmoudとMumtaz Begumの近親クロスを3×3で持っていて、ボールドラッドの早熟で爆発的なスピードはまさにこの近親クロスにあると考えられます。

ただ、娘のポイントメーカーの世代では、この近親クロスはプールされました。

このように、クロスを1世代(ポイントメーカー)離れて次の世代(モガミポイント)でまた強化するという配合手法は、往々にして良い結果を生みます。

ポイントメーカーの代でプールされたボールドラッド内のMahmoud≒Mumtaz Begumの血脈が、Mahmoudを含むNorthern Dancer系のマルゼンスキーと配合されたことで、モガミポイントの代で再び早熟性を与える爆発的なスピードが強化されたのではないしょうか。

モガミポイントが2歳の新馬戦で勝ち上がった理由は、このダイナミックなスピード血脈の強化に起因しているのかもしれません。

Northern Dancerとボールドラッドは、それぞれの血統を注意深く見てみると、多くの血脈を共有しているのがわかります。



まず、互いにMahmoudを持ち、そこにMahmoud≒Mumtaz Begumの関係が加わります。

さらに、直父系にNearcoも持つ点も共通しています。

そして、最も重要なことは、このなかにNative DancerとBold Rulerのニックスが存在することです。

Native Dancerの3代父Sickleが、Bold Rulerの3代父Pharosと同じくPhalaris×Chaucer牝馬の組み合わせであることは前述しました。

さらに、Native DancerとBold Rulerは、母父がともにDiscoveryである点で共通しています。

このNative Dancer/Bold Rulerのニックスをはじめとして、ほかにも類似する血脈を互いに持ち合うことにより、Northern Dancerとボールドラッドの組み合わせは産駒に質の高いスピードを伝えました。

実際、ボールドラッド牝馬から生まれた活躍馬は、Northern Dancerを内包する種牡馬を父に持っていることが多いのです。

ちなみに、ボールドラッド同様にBold RulerとPrincequillo牝馬の組み合わせで生まれたSecretariatもまた、Northern Dancerの血を受け継ぐ馬とニックスの関係にありました。

この組み合わせからはハイクラスのステークス勝ち馬が出ていて、Chief’s CrownやStorm Cat、英ダービー馬のセクレトなどが良い例です。


さて、最後にモガミヒメ自身について考察します。

彼女は当場生産馬ではありませんが、縁があって当場で繫養することになり、多くの勝ち馬を生産してくれました。

現在は繁殖活動を引退していますが、25歳になった現在でも、元気な状態をキープしています。

モガミヒメの血統で注目すべきは、彼女の世代で初めてクロスされたTom Foolです。

Tom Fool自身は2歳時から多くのレースを制した快速馬で、3・4歳になってからも一線級で活躍したように成長力と底力も持ち合わせていました。



Tom Foolの父Menowも2歳での成績が卓越していて米2歳牡馬チャンピオンになりましたが、モガミヒメの母父マルゼンスキーはこのMenowを4×4で持っていて、マルゼンスキーの圧倒的なスピードはこのMenowクロスが影響しているかもしれません。

また、Tom Foolの母父はBull Dogですが、これはカコイーシーズの血統内において強い影響を与えている血脈でもあります。

これらのことから、モガミヒメの血統におけるTom Foolの血脈は、非常に重要なポジションを占めているのではないかと推測します。

次に、モガミヒメの持つAlydarとNijinskyのニックスについても触れておきましょう。



Nijinskyの父Northern DancerとAlydarは、Native DancerとNearcoをいわば“逆配合”の形で持っていて、特にNative Dancerが息子と娘を経てクロスされていることは重要だと考えます。

また、AlydarとNijinskyの母系にはどちらもBull Leaのラインが入っていて、このBull LeaもAlydarとNijinskyの組み合わせでは息子と娘を経てクロスされます。

このように、血統的相性の良さが窺えるAlydarとNijinskyの組み合わせですが、実はチャンピオン級の馬がほとんど出ていないのが現状です。

馬体面か、もしくはAlydar系にしばしば見られる激しい気性が関係しているのかもしれません。

ただ、この組み合わせから多くの勝ち馬が出ているのも確かで、このAlydar/Nijinskyのニックスの延長として、それぞれの息子であるカコイーシーズ×マルゼンスキーという成功パターンが生まれたのです。

モガミヒメの血統では、父カコイーシーズの代でインブリードされていたNasrullahの血が4*5×5というラインブリードの形で継続されました。

そして、カコイーシーズ内ではなかったNasrullahの母系のMumtaz BegumやMumtaz Mahalが、モガミヒメの代ではしっかりクロスされています。

これにより、本来Nasrullahが伝えるスピードが少なからずモガミヒメに遺伝されたと考えています。

Tom Foolが伝えるパワフルなスピードとは異なり、Nasrullahのクロスは早熟性と素軽いスピードを与えてくれます。

この血脈はカコイーシーズの代で息子と娘を経てクロスされていて、その遺伝効果はモガミヒメの世代でもかなり大きいと考えます。

Tom Foolクロスを持ちながら、どちらかといえば素軽いタイプに見せるモガミヒメの馬体は、このNasrullahクロスに起因するかもしれません。

実際、モガミヒメは父カコイーシーズの馬体に似たところがあります。

前述したように、カコイーシーズはAlydar産駒の割りには素軽く、スラッと伸びた馬体の持ち主でしたが、それはNasrullah4×3のインブリードが影響したとも考えれらます。

そして、そのクロスを継続したモガミヒメもまた、父似の馬体に出たという考え方は可能だと思います。

そのNasrullahと近親関係のあるMahmoudは、モガミヒメの代ではクロスされずにプールされました(モガミヒメの母モガミポイントはMahmoudクロスを持ちます)が、それが逆にモガミヒメに対してNasrullahの影響をストレートに伝えたようにも思えます。

そのため、モガミヒメが繁殖牝馬になった際には、今度はMahmoudを強化しNasrullahを抑えるという配合手法も有効だと考えていました。

このように、ある血脈をクロスさせたりプールさせたりという配合パターンは、配合における緊張と緩和という点から好ましい手法だと思っています。

Princequilloの血脈についても、彼女の母モガミポイントの代では4×4でクロスしていましたが、モガミヒメの代ではプールされました。

このラインも、モガミヒメの配合相手を探す際には強化すると面白いと考えていました。

もう一つ、モガミヒメの血統で特長的なのが、彼女がクロスで持つTom FoolとNijinskyの母Flaming Pageの関係です。



このTom Fool≒Flaming Pageは、モガミヒメの母父マルゼンスキーが持っていた相似クロスでもあります。

Tom Foolの父MenowはFlaming Pageの母父でもあり、またTom Foolの母の父Bull Dogは、Flaming Pageの3代父にあたります。

このMenowとBul Dogのクロスが、互いに息子と娘を経てクロスされるのも個人的には興味深い点です。

Tom Fool≒Flaming Pageは、カコイーシーズ×マルゼンスキー牝馬の配合では必ずできる相似クロスであり、この組み合わせがニックスになる要因の一つになったと考えます。

Tom Fool≒Flaming Pageの相似クロスを形成する血脈の一つであるBull Dogが、カコイーシーズの血統でも重要な存在であることは既述の通りです。

NasrullahクロスやTom Fool≒FlamingPageなど、モガミヒメの血統を総合的に判断すると、彼女の血統はスピード優位の血統パターンなのだろうと結論付けて、その後の配合に活かすことにしました。

このような血統背景を持つことで、モガミヒメは地方競馬ながら2歳戦から活躍して、現代日本のスピード競馬においても繁殖牝馬としてコンスタントに勝ち馬を送り出せたのだと思います。

次回の『キングヘイロー×モガミヒメ牝系』は、最終回としてキングヘイロー×モガミヒメ牝系の配合から生まれた馬たちを取り上げます。


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