読了しました、村上春樹の最新作『1Q84』。
読み始めたばかりのときに、予想外にスリリングな展開で
ミステリやSFとしても読めそうな感じ、と書きましたが、
やはりミステリやSFといった、
ジャンルごとの枠組みで捉えられるような物語ではありませんでした。
主人公が二人いて、章ごとに交代で二人のそれぞれの視点でそれぞれのストーリーが語られる。
一人は20代後半の女性で、恋人や伴侶に暴力を働く男たちを専門に暗殺するという
裏の顔を持っている。
もう一人は同じ年頃の男性で、小説家志望の予備校教師。
女性はあることがきっかけで、最近自分が知らないうちに、
いままで生きていた世界とは別のパラレルワールドに
入り込んでいるのではないかという疑いを抱く。
一方、男性は、懇意にしている編集者から頼まれて、
ある16才の少女が書いた小説をリライトして新人賞に応募するという
詐欺まがいの行為を不本意ながらすることになる。
それぞれのストーリーがスリリングで個別でも面白い上に、
物語の最初のうちはまったく見えないこの二人の関係が徐々に明らかになってきて、
関連性がなさそうだった二つのストーリーもだんだんリンクしてくるところが
とても面白かった。読んでてドキドキした。
だけどね、それがメインじゃないんだよね。
そこ、じゃあないんだよね。
じゃあどこなんだ、といわれると、ネタバレせずに話すのは難しいんだけど。
ほかの多くの小説とはちがって、
私たちが暮らす現実世界の一部を切り取って物語っているのではなく、
どこかちがう銀河系の「春樹星」で起きている出来事を読んでいるみたいだった。
村上春樹の本の中にしかない世界。
だから、ふつうの解決はない。
美しき暗殺者を主人公にしたサスペンス小説なら、
難しい仕事を与えられたヒロインがいかにしてそれを成功させるか、
あるいは失敗して窮地に陥ったところからいかにして脱出するか、
そんなところが描かれる。
出版界を舞台にした詐欺事件を題材にとったミステリなら、
詐欺行為が暴かれて大事件に発展し、それに絡んだ殺人も起こったりして、
巻き込まれた主人公がいかにしてそれを解決するかといったところが描かれる。
それにパラレルワールドも絡んでいるなら、
パラレルワールドに入り込んでしまた理由が明らかにされて、
最終的には主人公が元の世界に戻るまでが描かれる。
『1Q84』には、そういうわかりやすい「解決」はない。
一連の出来事が起こる大本となっているある存在についても、
それがその世界に存在することはすでに前提として物語の中にあって、
その正体がなんなのか、なんのための存在なのか、
その存在はなんのためにこういう出来事を起こすのか、
一切語られないまま話は終わる。
だけど、それが「腑に落ちな」くないんだなー。
ああそうか、そういうことなんですね、そうですか……
って、すごく落ち着いた、深い気持ちで最後本を閉じることができるの。
結局わからないことだらけなんだけど、
お茶を濁された、謎だけ提示して解明されないまま終わられちゃった、
という不満は全くない。
これ以外の展開はありえない、これはこういうふうに終わるのが完璧な形、
って思えちゃう。
すごいなぁ。
決して「リアル」ではないんだよね。
リアルではないのに、遠くはない。
ぐぐっとこちらの心の中に迫ってくる。入り込んでくる。
現実にはいそうもない登場人物たちなのに、読んだあとも私の中で生きている。
息をして、存在してる。
外形的なことを言うと、文章がものすごく上手なので驚きました。
物語中に出てくるある小説を読んだときの主人公の感想が語られる中で、
その小説がどんなだったか描写されてる部分があります。
以下にその部分だけ抜粋します。
「その文章は一見したところシンプルで無防備でありながら、
細かく読んでいくと、かなり周到に計算され、
整えられていることがわかった。
書きすぎている部分はひとつもなかったが、それと同時に、
必要なことはすべて書かれていた。
形容的な表現は切り詰められているものの、
描写は的確で色合いが豊かだった。
そして何よりもその文章には優れた音調のようなものが感じられた。」
これ、そのまま『1Q84』の文章に言えることやないかい!と思いました。
すべての文節において最適な言葉が選ばれて最適な箇所にはめられて、
それが最適な長さで最適な語順で文章に組み立てられ、
その文章たちがまた最適な順番で組み合わされて段落をつくっている。
単語ひとつ、助詞ひとつ、別のものと代える余地が見当たらない。
精密に一分の隙もなく組み立てられた超精密器械を見ているよう。
リズムも整えられているから、読んでて心地いい。すいすい読める。
職人芸の極地です。
いままで読んだ中で一番「芸のある」文章だと思いました。
ものすごーく売れてる本ですから、逆になんとなく遠ざけたい人もいるかと思います。
(私がそうです。飛ぶように売れてるベストセラー本てなかなか手に取れません。)
だけど、これを遠ざけてたら損ですよ。
ブームが去ったらこっそり読んでみるかななんて思わずに、
ぜひ、いま! すぐ! 読んでみてください。
「謎を残す」「見る人にゆだねる」タイプの作品が苦手な人もいると思うけど
(私がそうです。きっちり全部解決して終わってよー!ってすぐ思っちゃう)、
「そういうのもアリかな」と思える作品があるとしたら、これです。
敬遠してたら損です。だまされたと思って読んでみてください。
読み始めたばかりのときに、予想外にスリリングな展開で
ミステリやSFとしても読めそうな感じ、と書きましたが、
やはりミステリやSFといった、
ジャンルごとの枠組みで捉えられるような物語ではありませんでした。
主人公が二人いて、章ごとに交代で二人のそれぞれの視点でそれぞれのストーリーが語られる。
一人は20代後半の女性で、恋人や伴侶に暴力を働く男たちを専門に暗殺するという
裏の顔を持っている。
もう一人は同じ年頃の男性で、小説家志望の予備校教師。
女性はあることがきっかけで、最近自分が知らないうちに、
いままで生きていた世界とは別のパラレルワールドに
入り込んでいるのではないかという疑いを抱く。
一方、男性は、懇意にしている編集者から頼まれて、
ある16才の少女が書いた小説をリライトして新人賞に応募するという
詐欺まがいの行為を不本意ながらすることになる。
それぞれのストーリーがスリリングで個別でも面白い上に、
物語の最初のうちはまったく見えないこの二人の関係が徐々に明らかになってきて、
関連性がなさそうだった二つのストーリーもだんだんリンクしてくるところが
とても面白かった。読んでてドキドキした。
だけどね、それがメインじゃないんだよね。
そこ、じゃあないんだよね。
じゃあどこなんだ、といわれると、ネタバレせずに話すのは難しいんだけど。
ほかの多くの小説とはちがって、
私たちが暮らす現実世界の一部を切り取って物語っているのではなく、
どこかちがう銀河系の「春樹星」で起きている出来事を読んでいるみたいだった。
村上春樹の本の中にしかない世界。
だから、ふつうの解決はない。
美しき暗殺者を主人公にしたサスペンス小説なら、
難しい仕事を与えられたヒロインがいかにしてそれを成功させるか、
あるいは失敗して窮地に陥ったところからいかにして脱出するか、
そんなところが描かれる。
出版界を舞台にした詐欺事件を題材にとったミステリなら、
詐欺行為が暴かれて大事件に発展し、それに絡んだ殺人も起こったりして、
巻き込まれた主人公がいかにしてそれを解決するかといったところが描かれる。
それにパラレルワールドも絡んでいるなら、
パラレルワールドに入り込んでしまた理由が明らかにされて、
最終的には主人公が元の世界に戻るまでが描かれる。
『1Q84』には、そういうわかりやすい「解決」はない。
一連の出来事が起こる大本となっているある存在についても、
それがその世界に存在することはすでに前提として物語の中にあって、
その正体がなんなのか、なんのための存在なのか、
その存在はなんのためにこういう出来事を起こすのか、
一切語られないまま話は終わる。
だけど、それが「腑に落ちな」くないんだなー。
ああそうか、そういうことなんですね、そうですか……
って、すごく落ち着いた、深い気持ちで最後本を閉じることができるの。
結局わからないことだらけなんだけど、
お茶を濁された、謎だけ提示して解明されないまま終わられちゃった、
という不満は全くない。
これ以外の展開はありえない、これはこういうふうに終わるのが完璧な形、
って思えちゃう。
すごいなぁ。
決して「リアル」ではないんだよね。
リアルではないのに、遠くはない。
ぐぐっとこちらの心の中に迫ってくる。入り込んでくる。
現実にはいそうもない登場人物たちなのに、読んだあとも私の中で生きている。
息をして、存在してる。
外形的なことを言うと、文章がものすごく上手なので驚きました。
物語中に出てくるある小説を読んだときの主人公の感想が語られる中で、
その小説がどんなだったか描写されてる部分があります。
以下にその部分だけ抜粋します。
「その文章は一見したところシンプルで無防備でありながら、
細かく読んでいくと、かなり周到に計算され、
整えられていることがわかった。
書きすぎている部分はひとつもなかったが、それと同時に、
必要なことはすべて書かれていた。
形容的な表現は切り詰められているものの、
描写は的確で色合いが豊かだった。
そして何よりもその文章には優れた音調のようなものが感じられた。」
これ、そのまま『1Q84』の文章に言えることやないかい!と思いました。
すべての文節において最適な言葉が選ばれて最適な箇所にはめられて、
それが最適な長さで最適な語順で文章に組み立てられ、
その文章たちがまた最適な順番で組み合わされて段落をつくっている。
単語ひとつ、助詞ひとつ、別のものと代える余地が見当たらない。
精密に一分の隙もなく組み立てられた超精密器械を見ているよう。
リズムも整えられているから、読んでて心地いい。すいすい読める。
職人芸の極地です。
いままで読んだ中で一番「芸のある」文章だと思いました。
ものすごーく売れてる本ですから、逆になんとなく遠ざけたい人もいるかと思います。
(私がそうです。飛ぶように売れてるベストセラー本てなかなか手に取れません。)
だけど、これを遠ざけてたら損ですよ。
ブームが去ったらこっそり読んでみるかななんて思わずに、
ぜひ、いま! すぐ! 読んでみてください。
「謎を残す」「見る人にゆだねる」タイプの作品が苦手な人もいると思うけど
(私がそうです。きっちり全部解決して終わってよー!ってすぐ思っちゃう)、
「そういうのもアリかな」と思える作品があるとしたら、これです。
敬遠してたら損です。だまされたと思って読んでみてください。
「結局それってどういうこと?納得できない~~~」
的なモヤモヤをりんさんが訴えて
私が
「まあまあ りんさんや。考えるでない。感じるのじゃ」と
諭す…かっこよく諭す。
…というパターンだと思ってたのに!
なんだ いけるんじゃん 村上春樹(笑)
そうそう。そういうんでいいと思うんだ。
私も「1Q84」の感想もとめられたら困るんだけど
「なんとなく分かった気がする」って言うと思う。
そして 春樹さんの文章にもあてはまるあの描写
私は特に
>書きすぎている部分はひとつもなかったが、
それと同時に、必要なことはすべて書かれていた。
これが まんま彼自身の核なんだろうなあ と思った。
春樹星 クセになるんだよ
帰って来れなくなるんだよ
羊の着ぐるみ来た男 とか
でっかいカエルとかも住んでるんだよ
カエルくんは片桐くんとつるんで
この世界を救ったりするんだよ
・・・いいべ?(笑)
それにしても
私が15年以上かけてようやく掴んだ
春樹さんの凄さの理由を
君は たった一冊(上下)で掴んだんだね…
むかつきます(笑)むかつきパブやれよっ
「1Q84」は村上作品の中でも
面白い作品だと思います
どこがおもしろいかというと
「青豆」の描き方がすごくおもしろい
今までの村上作品には登場しなかったパターンの女性だと思います
その青豆がお話をぐいぐいひっぱって言ってる
強くて、ナイーブで、変人で
とても魅力的な人物が
村上作品を最初から読んでいるけど
りんさんのいう
「村上星」はデビュー当初から存在していたのだけれど、どうやらそこには「男子」しか住んでいなかったように思う
春樹さんの成長とともに、少しづつ女性もぽつぽつと表れだしてきて、今回のこの作品です
りんさんが初めて読んだ村上春樹はかなり熟成された村上春樹なんですよ
>それにしても
私が15年以上かけてようやく掴んだ
春樹さんの凄さの理由を
君は たった一冊(上下)で掴んだんだね…
そーだよねー
さすがりんさん
熟成されている作品とは言え、ここまで文章で適格に表現できるってスゴイです
「1Q84」は続編が書かれていますので楽しみにしてます
けれど「腑に落ちない」内容になることは、必須です
それにしても
私が15年以上かけてようやく掴んだ
春樹さんの凄さの理由を
君は たった一冊(上下)で掴んだんだね…
>正直りんさんがこういう感想をもつとは思わなかったよ!(笑)
にゃはははw
うん、基本的にはこういう感想持たないニンゲンです。
だけどここ1、2年くらい、
たまにこういう感想を持てる作品に巡り会うようになりました。
「わかんなくてもいい、わかんないところがいい」
っていう感想を。
~桃戸さん
そうかぁ、いままで春樹星には男子しかいなかったのかぁ。
だから昔読んだときにいいと思えなかったのかなぁ。
えっ、続編があるの!?
作品の雰囲気からいって季節は秋冬の感じなのに設定は春夏だから、
「んー…秋冬の青豆やふかえりを読んでみたい」
とは思っていたけど、
ストーリーとしてはもうあれで完璧に完結してる気がしてたんだよね、私は。
続編があるのかぁ。
舞台は同じ「1Q84」だけど、
春夏とはちがう登場人物になるのかな。