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レプトスピラ症

2010-04-01 | Leptospirosis
疫学
レプトスピラ症はアジア環太平洋地域において広くみられ、途上国における職業的暴露、流行地域への渡航、余暇活動、野生動物の輸入等によって感染が増加する[3]
汚染地域におけるネズミへの感染は生まれてすぐに成立し、感戦後は持続的もしくは間歇的に尿中に病原体を排出し続ける[10]
途上国におけるアウトブレイクは密集した、不衛生な状態では日常生活と関連して感染が成立する[3]
途上国でも先進国でも、都市部でも田舎でも起きる[1]
レプトスピラのSerovarは全部で200種類以上が25のSerogroupに分類される。ある種は共生もしくは比較的軽度な病原性を示し、宿主となる動物によっても異なる[9]
Speciesは大きく分けて2つ、病原性のLeptospira interrogansと非病原性のLeptospira biflexa[9]
死亡する原因として、診断の遅れ、その他、Serovarによる生来の病原性や免疫病理学的な宿主反応等、詳細の分かっていない理由が考えられる[1]
重症化と独立して関連する因子として、慢性高血圧、慢性アルコール依存症、抗菌薬開始の遅れ、胸部聴診による異常所見、黄疸、乏尿、意識障害、AST高値、高アミラーゼ血症、Leptospira interrogans serovar Icterohemorrhagiaeが挙げられる[4]
発症機序はよく分かっていないが、喀血が主な死亡原因として挙げられる[1]
2002年インドでおきたアウトブレイクにおける282を後ろ向きに調査した研究では、死亡率は6.03%で死亡の関する予測因子として、喀血等の肺合併症、中枢神経の合併症が含まれた[20]
インド北部における急性発熱患者におけるレプトスピラ症の割合は、2004年に11.7%から2008年には20.5%まで上昇、Faine’s criteriaの的中率は88.3%であった[5]
タイにおけるレプトスピラ症の発生数は1995年から2000年にかけて、約30倍増加[11]
レプトスピラ症が減少しているという確証はなく、汚染水との接触を減らすための対策を積極的に講じなければ、昨今の異常気象がレプトスピラ症による問題をさらに悪化させうる[3]

症状・所見・合併症
潜伏期間は約10日、75-100%に突然の発熱、硬直、筋肉痛、頭痛、約50%に嘔気、嘔吐、下痢、約25-35%に乾性咳嗽を認める。その他の主な症状として、関節痛、骨痛、咽頭痛、腹痛等がある[12, 13]
身体所見は非特異的だが、結膜発赤は見落とされがちであり、非特異的な発熱と共に認めれば鑑別診断に挙げるべき。また7-40%の患者に、筋肉の圧痛、脾腫、リンパ腫脹、咽頭炎、肝腫大、筋硬直、呼吸異常音、皮疹等を認める
ほとんどの症例は軽症から中等症であるが、腎不全、ぶどう膜炎、出血、ARDS、心筋炎、横紋筋融解症等をきたすことがある。肝不全は死因として稀であり、呼吸不全、腎不全、WBC上昇(>12900/mm3)、心電図異常、胸部レントゲン異常が死因と関連する[14]
ペルーにおける321人の診断症例において重篤な呼吸器合併症は7人(3.7%)に認め、5人が喀血や多臓器不全のために死亡した[15]

検査所見
WBCは通常10,000mm3以下だが、3,000-26,000/mm3まで範囲は広く、左方偏移が2/3に起きる。尿所見では、蛋白尿、膿尿、顆粒状円柱、尿潜血をよく認める[21]
CK上昇を認めるのは約半数で、診断の有用な手掛かりとなる[22]
約40%は肝機能障害(たいてい<200IU/L)を認め、重症のレプトスピラ症では低ナトリウム血症をよく認める
 重症のレプトスピラ症、ワイル症候群には黄疸をを認め、肝腎機能障害、出血を認める[23]
ときに血清ビリルビンは60-80mg/dLに達する
血小板低下は一般的ではないが、よく解明されていない出血性素因により重症の血小板低下や凝固能異常が起きうる[24]

診断検査
診断は通常ELISA, MAT等によって抗体を確認することで行う。また血液や尿、組織から培養によって細菌を確認、もしくは抗体にラベルされた蛍光マーカーを用いて組織に細菌を確認することによって行う。その他の方法として、PCR検査、免疫染色等がセンターによっては行える[9]
CDCの定義によれば、確定診断は臨床症状の合致(発熱、頭痛、悪寒、筋肉痛、結膜発赤、髄膜炎、皮疹、横断、腎不全、二相性の経過)+検査診断による確定(培養検査での菌の同定 or 2週間以上間をおいたペア血清検査で4倍以上の凝集素価の上昇 or 組織の免疫蛍光による菌の証明)
血液及び脳脊髄液の培養検査は発症から約10日間、約50%で陽性となる。また尿の培養検査は2週目から約30日間陽性となる[13]
MATは一般に発症から約10-12日間で陽転するが、セロコンバージョンが5-7日で起きることもある。また抗菌薬が使用されると抗体反応は遅延するかもしれない[9]
MATの感度は病初期には30%、亜急性期に63%、回復期に76%と低いが、特異度は97%以上と高い[25]
MATは使用するパネルの血清型が一致しないと偽陰性となることがある[26]
ELISA検査はMATよりIgM Abに対する感度が高いため24-48時間早く陽転するが、陰性化するのも早い。感度特異度共に高く、MATと比較して簡易であることからスクリーニング検査として用いられ、疫学調査に用いられうる。しかしながら、偽陰性もあるため完全に信用できるものではない[9]
国内でのELISA検査は2005年8月31日をもって中止となっているため、衛生研究所を通して国立感染症研究所に診断検査を依頼する必要がある。
http://www.medience.co.jp/information/pdf/05-20.pdf

治療・予防
主要な抗菌薬はテトラサイクリンとセフェム系[1]
ほとんどのレプトスピラ症はself-limited であり、ペニシリン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、エリスロマイシン等が利用されるが、軽症患者に対する抗菌薬使用の利益に関しては議論の余地がある。
ドキシサイクリン 100mgx2/day使用による治療を評価したRCTでコントロール群と比較して2日間罹病期間を短縮し、尿中に排泄される病原体を抑制した[16]
ペニシリン600万単位による治療を評価したRCTでコントロール群と比較して数日間の発熱期間短縮、血清クレアチニン値高値期間の短縮、入院日数の短縮を認め、尿中に排泄される病原体を抑制した[17]
予防ワクチンは存在せず、衛生状態に大きく依存する[1]
 ペニシリン600万単位をセフトリアキソン1g、セフォタキシム1gx4、ドキシサイクリン100mgx2のそれぞれと比較した研究では、全ての治療は同等であった。しかし、約25%にリケッチア症の重感染もしくは単独感染を認め、そのような症例においてはドキシサイクリンやセフォタキシムと比較してペニシリンの効果が優位に低かった[18, 19]
ドキシサイクリンによる予防内服は洪水による暴露後の1つのRCTで、臨床もしくは検査診断されたレプトスピラ症を減少させなかった[2]
暴露前にドキシサイクリンを軍の兵士に対して内服させたRCTでは、検査で診断された兵士においてオッズ比は0.05と低かったものの、蓄積されたデータはオッズ比0.22(95%CI 0.01-0.36)と有意な減少を示さなかった[2]。また吐気や嘔吐等の軽症の副反応は、有意差を認めないもののドキシサイクリン内服群でオッズ比11と高かった[2]。
週1回ドキシサイクリン200mg内服による予防治療は、嘔気や嘔吐を増加させ、臨床もしくは検査によって診断されるレプトスピラ症を減少させるかどうかは不明確である[2]

台風Ondoy, Pepeng
台風Ketsana (ondoy)が2009年9月26日にルソン島、マニラを来襲、12時間で1ヵ月分の降雨量を記録し、過去40年で最悪の洪水被害をもたらした[7]
マニラの約80%が浸水し、400万人を超える市民に影響した[7]
別の台風Parma(Pepeng)が10月3日に停滞し、新たに238,429人に被害をもたらした[8]
台風Ondoy, Pepeng に政府が支出した費用は105,050,474.92PhP[6]
2009年10月1日から12月19日までのマニラ市内にある15のセンチネル病院で2299の症例と178の死亡症例が報告[6]
メトロマニラ郊外(Region I, II, III, IV-A and CAR)では1090症例、71の死亡症例が報告[6]
10月16日から11月19にかけて、NCRとRegion IV-Aにおいて421642人に対してドキシサイクリンの予防投与を実施[6]

References:
[1] Ajay R Bharti, Lancet Infect Dis 2003
[2] David M Brett-Major, Cochrane 2009
[3] Ann Florence B Victoriano, BMC ID 2009
[4] Cécile Herrmann-Storck, EID 2010
[5] Sunil Sethi, PLoS NTD 2010
[6] Glenn J Rabonza, NDCC Republic of the Philippines 2009
[7] OCHA, 3 Oct 2009
[8] NDCC, 5 Oct 2009
[9] WHO, ILS, 2003
[10] Acha PN, Zoonoses and Communicable Disease Common to Man and Animals, 3rd Pan American Health Organization, Washington, DC, 2001, p. 157.
[11] Sejvar J, Southeast Asian J Trop Med Public Health 2005
[12] Bertherat E, Am J Trop Med Hyg 1999
[13] Katz AR, Clin Infect Dis 2001
[14] Dupont H, Clin Infect Dis 1997
[15] Guerra H, Clin Infect Dis 2005
[16] McClain JB, Ann Intern Med 1984
[17] Watt G, Lancet 1988
[18] Panaphut T, Clin Infect Dis 2003
[19] Suputtamongkol Y, Clin Infect Dis 2004
[20] Pappachan MJ, Natl Med J India 2004
[21] Berman SJ, Ann Intern Med 1973
[22] Johnson WD Jr, JAMA 1975
[23] Farr R, Clin Infect Dis 1995
[24] Chierakul W, Clin Infect Dis 2008
[25] Cumberland P, Am J Trop Med Hyg. 1999 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10586903.1
[26] Murray CK, Trans R Soc Trop Med Hyg. 2011 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=21334705

国内ワクチン
http://www.lilac.cc/~infinity/blog_im/index.php?view-center=Blog::Entry.html&entryID=4eb19eccd66a2

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