物書き同盟。作品列伝

物書き同盟に寄せられた作品掲載。

無題

2005年05月28日 | 千景♪
君に出会ったのは
 公園の階段の途中
 何故かスーパーの袋に入れられ
 他の兄弟3匹と捨てられていた
 ニャン子

 それからが大変だった
 休みに入ったばかりなのに
 旦那は病院巡り
 
 君以外の子は
 大分体力的にも弱っていて
 助からないかもと
 お医者さんに言われたよ

 できるだけの事をしてやろうと
 その日から、交代での子育てが始まった

 でも・・・・
 実際、一番初めに弱ったのは君だった
 気付いた時は既に・・・

 今は何の苦しみも無い
 天国へと旅立っただろうか
 他の兄弟達をも
 見守っていて欲しい

 ごめんね・・・・
 次に生まれて来る時は
 お母さんとずっと一緒にいるんだよ

○○○大魔導士モンテウィルドー(その6)  

2005年05月28日 | 彦♪
モンテは湖の畔に立っていた。
 あの後、ヴォーグとバンダは逮捕されてしまった。
 モンテの放った術は滝を遺跡もろとも吹き飛ばしたのだ。
 盗掘だけならまだしも遺跡を破壊してしまったとなれば、もはや揉消しは不可能。領主により捕らえられしまったのだ。
 余罪が有り余るほど出てくるのは確実なので、おそらく彼らが日の目を見ることはもうないであろうが、そんなことはモンテには何の関係もないことだ。
「さて」
 モンテは用意しておいた杭を湖岸の目立つところへ打ち込むと、板を打ち付けた。
「これでよし」
 そう満足そうに呟き湖を後にした。

『モンテ湖
 大魔導士モンテ・ウィルドーにより造られし湖』

 かつて滝であった場所に立てられた看板。

 巨大な魔力を操る○○○大魔導士モンテ・ウィルドー。
 彼の世界制服を目指す旅は続く。



○○○大魔導士モンテ・ウィルドー(その5)  

2005年05月28日 | 彦♪
最奥部には一つの石棺が安置されていた。
「この中に・・・」
 バンダが息を呑む。
 だがモンテはそれをあっさり否定した。
「残念だがまだ先があるみたいだな」
「どういうことだ?」
 モンテが踵で石棺の周りの床を叩いた。
 ガッガッ
 カンカン
 石棺の前部に比べ後部のほうで甲高い音が鳴る。
「おそらくこの下に地下へと続く道があるのであろう」
「つまりこの石棺は地下通路への入り口を隠しているというわけか」
 バンダが石棺の蓋を外そうと力を込めるがまったく動く気配は無かった。
 見た目にはさほど重そうな蓋ではなかったが、四人がかりで押そうが引こうがびくともしなかった。
「いったいどうなってるんだ?」
 大きく息を吐きながらバンダがその場にへたり込む。
「当たり前だ。魔法で封印してあるものがそう簡単に開くはずがあるまい」
「そういうことは先に言え!」
 バンダはモンテを睨みつけるが、まったく気にする様子も無くモンテは石棺を調べ始めた。
「それで・・・・どうすれば開けることが出来るんだ?」
「うむ、ここに窪みがあるであろう。おそらくここに何か魔法石のようなものを入れるのであろう」
 バンダは再び石棺に近寄りモンテの指した場所を調べる。
「つまりなにか、その『鍵』が無ければこれを開けることは出来ないと?」
「いや、そんなことは無い」
 モンテの言葉に首を傾げるバンダ。
(四人がかりでも開かない、鍵も無い、この状況で他にどういう方法があるというのだ)
 だがモンテは平然と言い切る。
「鍵が無いのなら壊すしかあるまい。ただその先がどうなるかはわからん」
 バンダが息を呑む。
 これまでの経緯から正当な手順を踏まずに踏み込めば仕掛けられているだろうトラップが発動するのは明らかであったからだ。
「開けることは可能だ。だがわし一人ならともかくそなた達の命までは保障できん」
 その言葉に静まり返るバンダたち。
 既に二人の仲間を失っているだけにその恐怖心は現実感として襲ってきたのである。
 だがバンダは一緒に来た仲間を呼び寄せ指示を出した。
「お前達は入り口まで引き返せ。もし私が戻ってこなければそのまま屋敷に戻り事の次第をヴォーグ様にお伝えしろ」
 戸惑いの表情を見せていた男達であったが、彼らとて所詮金で雇われただけでヴォーグに対して忠誠心を持っているわけではない。わずかな金にこだわって命まで落としてはたまらないと、リーダーであるバンダの言葉をこれ幸いにそそくさと引き下がっていった。
「さて・・・」
 仲間が全て見えなくなったのを確認してバンダは懐から皮袋を取り出した。
「これで私の護衛を引き受けてもらえないか。お前の実力ならば全員は無理でも一人くらいなら何とかなるだろう」
 そそ皮袋にはヴォーグから貰った前金とほぼ同額と思われるほどの金貨が詰め込まれていた。
「・・・・・よかろう。わしの傍を離れる出ないぞ」
 モンテが呪文を唱え始めると、先程ゴーレムを素手で砕いた時とは違い腕そのものが黒く染まり始めた。
「ふん!」
 その拳を石棺の蓋の中央、ちょうど窪みの部分に叩きつける。
 ピカッ!
 強烈な光が周囲を包み込む。
 バンダが再び目を開けた時には・・・、
「おい、何も変わらないではないか」
 石棺はぶち壊れるどころかひび一つ入っていなかった。
「蓋を押してみろ」
 モンテの言われるままにバンダが石棺の蓋に手をかけると、石の重みはあるものの先程とは比べものなら無いほど軽くすんなり開いてしまった。
 モンテは巨大な魔力をぶつけて力技で結界をぶち破ったのだ。
 石棺の中から地下へと続く階段が現れた。
「ほ~、心地よい瘴気じゃ」
 とても人間とは思えないセリフを吐くモンテ。
 長い階段を下ると整備された上の空間とは異なり、それなりに踏み均されてはいるもののまさに『洞窟』というこじんまりした空間が現れた。
「ふむ、これは宝物庫というよりは魔導の研究室といった趣だな」
 モンテが興味深げに辺りを見回す。
 バンダも辺りを弄るが魔導知識の乏しい彼にはどれがどのくらい価値があるものなのかはわからなかった。
「なにか目ぼしい物はあるのか?」
「ふ~む、どうやらここの持ち主だった者はオリハルコンの研究をしていたみたいだな」
「オリハルコン!」
 バンダの目が輝く。
 オリハルコンといえばかなり希少金属である。ゆえにその採掘は厳しい管理がなされている為、闇ルートではかなりの高価で取引されていた。
「正確に言うとオリハルコンの合成を試みていたようだ」
「オリハルコンの合成だと! そんなことが可能なのか?」
「無理だな」
 あっさりとモンテが答える。
「ここにあるものも殆どが失敗作だ。中には見本に使ったのだろう、本物のオリハルコンも混じっているがな」
「そ、そうか・・・」
 意外にもあっさり現実を受け入れるバンダ。
「オリハルコン以外にはなにか無いのか?」
「・・・・自分の取り分か?」
 モンテの言葉にバンダの顔が引きつる。
「な、何のことだ?」
 モンテは先程バンダから受け取った金貨の入った皮袋を取り出す。
「あのヴォーグとかいう小者が必要経費としてこんな大金を認めるとは思えんからな。適当に金になるものを見繕ってあの男に渡し、本当に価値のあるものは手元に仕舞い込む。先程部下をわざわざ遠ざけたのもその為であろう?」
 バンダが腰の剣に手をかける。
「止めておけ、わしはお前が何をしようと関知するつもりは無い。わしが請け負ったのはここの調査だけだからな」
 バンダは剣から手を離し、改めて問いかける。
「それでなにか無いのか?」
「うむ、無いこともない」
 モンテは指差す先に黒く光る水晶玉のようなものが奉られていた。
「これは?」
 バンダはそれを手に取り確かめる。
「それはドラゴン・オーブと言ってな。ドラゴンを鎮める為のものだ。なかなか手に入らない一品だぞ」
「ほ~」
 バンダがにやりと笑う・・・・・が直ぐにその笑みが引きつる。
「ドラゴンを鎮める・・・・?」
 モンテがコックリと肯く。
 慌ててそれを元のところに戻すバンダにモンテが止めを刺す。
「手遅れだ」
 ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・
 地面が大きく揺れだす。
「どうやら目覚めてしまったようだな、逃げるぞ」
「先に言え!」
 来た道を急ぎ引き返すモンテとバンダ。
「な、何があったんですか?」
 ようやく入り口まで辿り着いた二人に、待っていた男たちが問いかける。
「ドラゴンだ! ドラゴンを目覚めさせてしまった」
『!』
 思わず言葉を失う男たち。
 次の瞬間、滝の上部に巨大なドラゴンが姿を現し、モンテたちのほうを睨む。
「俺たちを狙っているのか!」
 バンダと男たちがとっさに剣を抜く。
 もちろんそんなものがドラゴンに通じる筈はないのだが、もはや冷静な判断を出来る状態ではなかった。
そんな中一人落ち着いてモンテが呟く。
「ふむ、どうやらこれを狙っているようだな」
 そういってモンテが懐から取り出したのは例のドラゴン・オーブであった。
「要るか?」
 モンテがバンダにオーブを差し出す。
「要るか! そんな物捨ててしまえ!」
 バンダが叫ぶ。
「そんな勿体無い事が出来るか」
「命あってのものだねだろう!」
 だがモンテは動じる事無く、そのオーブを高々と掲げた。
「ドラゴンよ、我に従え、さすれば汝の力を封じ込めたこのオーブを返そうではないか」
『ふざけるな』
 周りを包む大気全体から伝わるような低い声が響く。
『我が力を用いた結界は既に解き放たれた。たとえオーブに籠められた力などなくても貴様らを八つ裂きにするくらい瞬きをする間も必要ないわ!』
 ドラゴンは妖獣の中でも知能が高い種族である。種類にもよるが人の言葉を使う物も数多くいるのだ。
「そうか、ならば仕方あるまい」
 モンテはオーブを懐にしまい、呪文を唱え始める。
『愚かな、人間ごときの使う術が我に通じると思うてか!』
 ドラゴンが嘲笑う。
 だがドラゴンは見誤っていた、モンテという男の力を。
『魔界の扉よ、わが前に開け・・・』
 モンテの手の中に黒い光が集約していく。
『魔界を統べし王の怒りをもちて、全ての物を永久なる暗き世界へと導け』
 その圧倒的魔力に気付きドラゴンが襲い掛かってくるが・・・。
『魔覇皇滅波』
 モンテの呪文が完成し、暗黒の光束が解き放たれる。
 ブフォー!
 だがその暗黒の光束はドラゴンを直撃することなくその片翼だけを吹き飛ばし、滝へ直撃する。
 術の失敗!
 バンダたちの頭の中にこれから訪れるであろう『死』という文字が浮かぶ。
 だがモンテは何故か笑みを浮かべていた。
 片方の翼を失いバランスを崩したドラゴンがモンテの前に降り立つ。
『名はなんと言う?』
 低い声が響く。
「我が名はモンテ・ウィルドー」
 モンテが再びオーブを取り出すと、ドラゴンはそれを口に咥え飲み込んだ。すると吹き飛ばされてしまった翼がみるみる再生し始めた。
『我が名はコイーバ。我が力が必要な時はその名を呼ぶがよい』
 ドラゴンはそう言い残すと大きく羽ばたき天空へと消えていった。
 彼らは知能の高い種族である。
 自分を確実に仕留める事の出来る相手に敵対するほど愚かではないのだ。
 もちろんモンテはその事を理解したうえで、『わざと』術を外したのだ。

○○○大魔導士モンテ・ウィルドー(その4)  

2005年05月28日 | 彦♪
二日後、モンテは件の滝のところに来ていた。
彼の傍らにはバンダと数人の男たち・・・おそらくモンテの見張り役を兼ねた荷物運び係といったところであろう。
洞窟の入り口には警備兵はおらず鍵も外されていた。
おそらくヴォーグの手の者がある程度の金を握らせたのであろう。
遺跡の管理は国の管轄である。調査が終わるまでその警備も国兵が行なうわけだが、実際いつになったら調査が入るのか分かったものではないのだ。
そんな状態なので、当然、警備にまわされる兵は余剰人員。とりあえず配置しておいて、あまり不平不満がたまらないうちに替わりの者を送り込むといった感じなのである。
中には使命感に燃えてる者もいるが大概はこの通り金を握らせればこの通りである。
例え調査が入って盗掘が明らかになっても
『私のときは異常ありませんでした』
 と白を切ってしまえばそれまでである。
 結局、有耶無耶のまま不問に付されてしまうのである。

洞窟の中は入り口こそ狭かったがしばらく歩くとかなり開けた空間が広がっていた。
床はきちんと整備されており、両脇には人の背丈の二倍はあろうかと思われる色々な神像がずらりと立ち並んでいた。
死臭の漂う空間をバンダたちが熾した火が照らし出す。
「うっ・・・」
 一緒に来た男たちは思わず目をそむけた。
 辺りに転がる白骨化した死体、身に付けている衣服から古代人のものではないことは明らかであった。
「明かりを消して伏せろ!」
 モンテが叫ぶ。
 ヒュッ!
「グウァア!」
 遅かった。
 明かりを持っていた男の一人が飛んできた銛により串刺しとなって息を引き取る。
『敵か!』
 バンダが声を潜め周囲の気配を探る。
「その心配は無かろう。おそらく熱に反応して銛が飛び出す仕掛けをしてあるのだろう」
 モンテが術を使い、光を生み出す。
『お、おい』
「心配ない。この光は熱を生み出さん」
『しかし・・』
 バンダが再び周囲の様子を探るが攻撃を仕掛けてくる様子は無かった。
「しかしよくわかったな?」
 服についた埃を払いながらバンダが問いかける。
「転がっている死体の腹に銛、そしてその手には松明と来れば容易に想像はつく」
「しかし光に反応するという可能性もあったのではないか?」
「そんなことをしたら誰も入って来れないではないか。入り口のところになんら仕掛けは無かった。ここの造りから言って『元使用者達』が魔法を使えるのは明らかだ。となれば魔力の光を使用するであろう。奴らとこの暗闇では辛かろう」
モンテはただ淡々と説明した。
(この男、思ったより・・・・)
 バンダは少々驚いていた。
 モンテの事を単なる食い詰め魔導士だと思っていたのだが、その観察力・分析力・行動力は、裏の世界で生きてきたバンダから見ても十分なものであった。
「おや?」
 モンテの生み出した模倣の光が消える。
「どうしたんだ?!」
 再び暗闇と貸した空洞内にバンダの声が木霊する。
「うむ、うむ、どうやら別の罠があったようなので光を消した」
「そ、そうか・・」
 胸を撫で下ろすバンダであったが、無情にもモンテの言葉は続く。
「間に合わなかった」
 ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
 両脇に並んでいた神像が動き出しモンテたちに襲い掛かってきた。
「ウギャー!」
 仲間の一人がゴーレムと化した神像に踏み潰される。
「ふむ、かえって明かりを消したのが災いしたか」
「落ち着いている場合か!」
 ズシン、ズシンと足音が木霊する中、モンテに突っ込みを入れるバンダであったが、そんなことを気にするモンテではない。
「過ぎたことを言っても仕方あるまい」
 再び明かりが灯される。
『うげっ!』
 男たちが絶句する。
 襲い掛かってきた神像(ゴーレム)は一体や二体ではなかった。左右に並ぶ二十体以上の神像が全て動き出していたのだ。
幸い石で出来た神像は動きが緩慢な為その攻撃を避ける事自体は難しくは無かったが、その硬い肌に持ってきていた剣や槍が通じるわけも無くバンダたちはひたすら逃げ続けることしか出来なかった。
しかし、この男は違った。
「ふん!」
 モンテの拳がいとも簡単に神像を砕く。
 もちろんいくら鍛えてるとはいえ硬い石肌を素手で叩けば拳を傷める可能性があるので、魔法で拳の周りに風を纏わせているのだ。
「付いて来い!」
 モンテはそう叫ぶと空洞の奥に向かって走り出した。
 慌ててモンテに続くバンダたち。
 神像たちの足元を縫い、何とか最奥部に辿り着く。
「どうするつもりだ?」
 バンダの質問には答えず、モンテは呪文を唱え始める。
『万物に宿りし精霊達よ、その力我に貸し与えん。
 渦巻く風の刃となり全ての物を塵と化せ』
 高密度の風が集まり景色が歪む。
『扇風刃』
 風が一定方向に高速回転し始める。
それはまるで鑢の刃が付いたスクリューのように触れるものを塵とかす凶悪な術であった。
ガガガガガガガガガ
次々と神像たちが塵と化していく。
基本的にゴーレムには恐怖心などは存在しない。
『侵入者を殲滅する』という目的がある以上、たとえ目の前で仲間が破壊されようとも、その対象であるモンテ達の方へ向かってくるのだ。
豪快な破砕音の後、大量の砂塵が残されていた。
こういう世界に生きている以上色々な魔導士を見てきたバンダであったが、ここまで強力無比な魔法を使える魔導士は初めてであった。



○○○大魔導士モンテ・ウィルドー(その3)  

2005年05月28日 | 彦♪
予想通りというべきか、依頼主のヴォーグあからさまに不機嫌そうな顔をしていた。
 もちろんそんなことを気にするモンテではない。
 朝食として出されたパンとスープをあっという間に平らげてしまった。
「んん、そろそろ話しに入りたいのだが・・」
 大きく咳払いをしてからヴォーグが切り出す。
「この街から少し離れたところに大きな滝がある。その裏側に洞窟があってな。その奥には古代の遺跡が在るといわれておる。そこをそなたに『調査』してもらいたい」
「なんだ、盗掘か」
 ヴォーグが選んだ言葉をモンテがあっさりと切り捨てた。
 ヴォーグのほほがピクピクと痙攣する。
 古代遺跡というのは全て国で管理するものと定められていた。
 発見者には国から褒賞金と調査権が認められている。ただし調査権といっても国が遺跡を調査する際に同行できるという参加権に過ぎない。
 つまり個人が単独で古代遺跡を『調査』するということはありえないし、立派な犯罪なのである。
「それで何故わしにそのような依頼を?」
 モンテの言葉に非難めいたものは無かったのでヴォーグは同類(?)とみて話しを続けた。
「何度か人を雇い送り出したのだが・・・帰ってきた者はほとんどおらん。どうやらトラップのほかにガーディアン(守護者)がいるようなのだ」
「ほ~」
 モンテがにやりと笑う。
 彼の経験から言って、そういう遺跡の奥にあるのは単なる宝物ではなく、魔導的価値が高いアイテムが眠っている可能性が高いことを知っていたからだ。
「そこでじゃ、魔導士であるそなたに白羽の矢を立てたというわけじゃ」
 もちろんヴォーグもそのことは承知していた。
 一般人には魔導アイテムの価値というのは分かりにくい。そこで知識のある魔導士が必要となったのだ。そしてそれは例え失敗しても後腐れの無いモンテのような流れの魔導士が最適なのである。
「前金だ!」
モンテの前に布袋に入った金貨が置かれる。
 その金額はけして十分とはいえなかったが、魔導アイテムに興味をそそられたモンテはそれを懐に仕舞った。
 契約はこれで終わりである。
 元々が違法行為である、契約書などというものは存在しない。
 まかり間違ってモンテが捕らえられるような事があってもヴォーグは一切関知しない。またモンテも故意に裏切りでもしない限りヴォーグとの関係は否定する。
 それが慣習であった。
「警備兵はどうする? 問答無用でしばき倒してよいのか?」
「それは問題ない。こちらで手を打とう。後の細かいことはバンダに聞くといい」
 ヴォーグはそう言い残すと億の部屋へ引っ込んでしまった。
 代わりにモンテをここへ連れてきた男がモンテの前に立つ。
「バンダと申します。こちらの準備が整い次第、宿のほうへお迎えにあがります。それまでに準備のほうをよろしくお願いいたします」
 バンダはそう手短に言うと、宿の名と場所が記された紙を差し出した。
 ほんのわずかな仕草である。しかしそれはモンテにとってその男が表の人間でないということを理解するのには十分であった。
 もっともモンテにとってそれは興味を引くものではなかった。
 相手が善であろうが悪であろうがそれはモンテにとって本当に『どうでもいい事』なのだ。
 極端な話、相手が魔族であってもかまわないのだ。
 モンテの判断基準は単純だ。
『魔導士に生まれたからは世界制服するのが定めであり義務である』
 このわけの分からない信念の元に行動している彼にとってそれが有益それとも阻害なのかが問題なのである。
 今回はその目的の為の旅の途中で路銀が尽きた。そこへ収入の当てが出来た。だからこの依頼を受けた。
 モンテにとって本当にその程度のことなのである。