読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

鹿児島・オトナの遠足2015 (第1回)薩摩魂のこもった郷土料理の数々に、真っ昼間から進む酒

2015-05-10 23:24:41 | 旅のお噂
これまでわたくし、ゴールデンウイークの時期にはそれほど遠出するほうではございませんでした。交通機関も混み合う中、わざわざどこかへ行こうという気にはなれなかったこともありましたが、仕事の都合でまとまった連休が取りにくかったのであります。
ですが、昨年の秋から勤めている今の職場は、ありがたいことにおおむね、カレンダー通りにお休みをいただけるというところ。なので今年のゴールデンウイーク後半の5月3日から6日にかけての4日間、まるまるお休みを頂戴することができました。
それでも最初は、どこかへ旅しようという心づもりはありませんでした。まあ、近場まで日帰りのサイクリングに出かけるぐらいにして、あとは自宅でのんびり読書三昧で過ごそう、というつもりでおりました。
しかし、暑くもなければ寒くもない、せっかくの過ごしやすい時期のまとまった連休です。ここはやはり、ちょっと遠くまで泊まりがけで出かけないともったいない!という気持ちが、少しずつアタマをもたげてきたのであります。かくして、2泊3日の日程を組んで旅に出ることに決めました。ゴールデンウイークの始まる約1ヶ月前のことでございます。
これから何回かに分けて、そのときの旅のお噂を綴ってまいりたいと思います。

行き先はわが宮崎のお隣、鹿児島市ということにいたしました。
ここ数年、毎年のように出かけている場所で、昨年9月にも訪れている鹿児島でありますが、桜島を間近に望む風光明媚さや、西郷隆盛らを生み出した重厚な歴史の厚み、そして山海の幸に恵まれた豊かな食文化に、訪れるたび魅せられている場所でもあるのです。とりわけ、南九州最大という繁華街、天文館界隈には、薩摩伝統の郷土料理をはじめ、黒豚料理、鹿児島ラーメン、白熊といった、鹿児島の美味いものを味わうことができるお店がひしめいているのであります。そしてもちろん、薩摩焼酎を心置きなく味わえる酒場もまた、星の数ほどあるのでございます。
これまでは、1泊2日という、いささか余裕のないスケジュールでしか行くことができなかったのですが、今回は2泊3日であります。天文館をブラつきながら、鹿児島の美味いものをたっぷりじっくり満喫することができると思うと、出かける前から気持ちが浮ついてくるのでありました。
とは申しましても、せっかくの2泊3日という余裕ある日程。天文館界隈での食べ歩き飲み歩きばっかりで終わるというのも、ちょいと人として情けないわけなのであります。中日(あ、“ちゅうにち” じゃなくて “なかび” ですね)には、鹿児島市から少し脚を伸ばした場所まで行くことにいたしました。
さてどこへ脚を伸ばそうか。出発する直前まで迷いました。25年くらい前に訪れて以来の指宿にしようかとも思ったのですが、まだ一度も訪れていなかった知覧に行ってみることにいたしました。

ゴールデンウイークが近づくにつれて、南九州の天気はいささか不安定になってきました。出かける前の週に目にしていた週間予報は、連休後半の天気は良くないとの予想でした。出発する5月4日に至っては雨のマークが。
実はわたくし、昨年も一昨年も、鹿児島へ出かける日は曇りか雨だったのでありまして•••連休後半の天気は良くないという週間予報を目にして、「ああ、今回も天気が悪いのかあ•••。やっぱりオレ、鹿児島に嫌われてるのかなあ•••」と、出発前だというのにちょっぴり寂しい気分になったりしていたのでありました。
そうこうするうち、出発直前になって風向きが変わりました。天候は回復に向かい、4日は晴れるというありがたい展開となり、わたくしは拝みたくなるくらい嬉しくなったのでありました。
とはいえ、前日の3日は夜になっても強い雨が降っておりました。ホントに明日は晴れるのかいな、という一抹の不安とともに、床についたのでありました。

そして、4日の朝となりました。目覚めてすぐに窓の外を見ると••••••雲ひとつない快晴ではございませんか!うほほほ、いいぞいいぞ。
わたくし、ウキウキ気分で足取りも軽く宮崎駅へと向かい、ウキウキ気分で特急列車に乗り込みました。午前7時18分、列車は一路鹿児島市に向けて発車いたしました。



スッキリと晴れた外の景色を見ながら•••朝っぱらからではありますが、買ってきた缶ビールをプチンと開け、心地良い苦味の芳醇なビールを喉に流し込むと、ふう、と一息つきました。旅に出るんだ、というヨロコビが、腹の底からじわじわと湧いてまいりました。



ところが。宮崎市から遠ざかるにつれて、空にはだんだんと雲が多くなり、鹿児島に入る頃にはもうすっかり曇り空。鹿児島はまだ、天候は回復していないようでした。
列車の窓に見えてきた愛しの桜島も、このありさまでした。



ああ•••やっぱりオレは、鹿児島から好かれていないのだろうか••••••。またもアタマをもたげるそんな思いとともに、鹿児島中央駅に到着したのでありました。

さあ、曇り空にガッカリしていては始まりません。ここは鹿児島を代表する傑物たちにご挨拶して礼を尽くし、鹿児島の旅を良いものにしなければ。
わたくし、まずは鶴丸城跡に向かうと、この方のもとを訪ねました。



そう、西郷(せご)どんでありますよ。直立してあたりを睥睨しているこの方のお姿を目にすると、ああ鹿児島に来たんだなあ、という気持ちが高まってまいりますね。
連休中ということもあり、あたりには多くの観光客の皆さんが集まっては記念写真を撮ったりしていて、大いに賑わっておりました。
お次はこの方。鶴丸城跡の中で鎮座しておられる、天璋院篤姫さまであります。



こちらもまた、「薩摩おごじょ」にふさわしいような凛とした表情が、実にいいですねえ。天気にいちいち一喜一憂しているような情けないオトコ(オレのことなんだけど)に「あなた、そんなことではいけませんことよ」と叱咤されているかのようで、背筋が伸びるような気持ちがしたのであります。
そしてもう一ヶ所。西郷どんや大久保利通らの人材を育てるとともに、薩摩藩の近代化に尽力した名君、島津斉彬公を祀る照國神社(ここはやはり「國」の字で表記しておきたいところであります)に立ち寄り、斉彬公にもご挨拶をしておくことにいたしました。
「斉鶴」という、文字通り鶴が羽ばたくような形が見事な木の横を通り、境内へ。




境内にもまた多くの観光客がおられて、それぞれのお願いごとをしておりました。わたくしも、今回の鹿児島旅が良きものとなるよう、3日間のご加護を斉彬公にしっかりとお願い申し上げたのでありました。

お参りを済ませると、時刻はそろそろお昼どきという頃合いとなっておりました。さあ、鹿児島入りして最初のお食事ということにいたしましょう。わたくし、照國神社からもほど近いところにある薩摩郷土料理のお店「熊襲亭」に入りました。創業から50年近くになる老舗であります。



このお店に立ち寄るのは3度目であります。「正調」を謳う伝統の調理法によって作られ、供される薩摩料理の美味しさに魅了された上、グループ客や宴会にも余裕で対応できそうな大きなお店でありながら、わたくしのような一人客にも丁寧に接してくださるところに惚れ込み、すっかりお気に入りのお店となった次第なのです。
もちろん、お好みの料理を単品で味わうこともできるのですが、ここでのオススメは様々な薩摩料理を味わうことができるコースであります。予算に合わせてさまざまなコースを選ぶことができるのですが、わたくし今回はちょっと奮発して、黒豚しゃぶしゃぶのついたコースを注文いたしました。



まず並んだのが突き出しと前菜盛り合わせ、さつま揚げ、そしてキビナゴの刺身です。揚げたてのさつま揚げはそのままでも美味しくいただけますが、わさび醤油につけていただくとまた美味し。キビナゴの刺身に添えられた酢味噌には辛子も加えられていて、かすかな辛味が淡白なキビナゴを引き立ててくれます。これらだけでも十分お酒が進むというのに、突き出しと前菜盛り合わせがまた、お酒を進ませようという気まんまんの佳肴ぞろい。最初に飲んだ生ビールはたちまちなくなり、早くも焼酎の水割りへと進んだのであります。ええ、真っ昼間から、でありますよ。
そしてついに、メインともいえる黒豚しゃぶしゃぶとのご対面であります。



鍋の中の昆布ダシが煮える間に賞味したのが、薩摩半島南部の枕崎獲れのカツオたたき。好物でございますから、もう一切れ一切れを愛おしむように味わいましたよ。
で、鍋が煮えたところで黒豚をしゃぶしゃぶして頬張りました。噛むたびに、お肉の旨味がじわじわ、じわじわと口いっぱいに広がってきて、いやあ、これはもう絶品でありましたよ。
ここにきて、焼酎の水割りもなくなってしまいました。いくらなんでも、真っ昼間から酔いどれるワケにはいかんだろう•••いやいや、せっかく鹿児島の美味いもんを満喫しに来たんだから、もう一杯くらい焼酎飲んでもバチは当たらんだろう•••。ほんの少し、アタマの中でせめぎ合いはしましたが、結局もう一杯、焼酎の水割りを注文したのでありました。うーむ、恐るべし薩摩料理。



もう一品の黒豚料理は「とんこつ」。骨つきの黒豚を味噌や焼酎などを合わせた調味料で長時間煮込んで作られる料理で、柔らかくなった骨もコリコリといただくことができます。これまた、焼酎が進む一品であります。



仕上げにいただいたのが、さつま汁と「酒ずし」。酒ずしは、ごはんと地酒を1対1の割合で混ぜ合わせ、魚介類や山菜などの具を入れて一昼夜寝かせて作るという「熟れずし」の一種です。口に運ぶと、地酒の香りがふわりと広がるという、実に薩摩らしいお鮨であります。鶏ガラのダシで作ったというさつま汁も、素朴ながらしっかりした美味しさでしたね。



そして最後にデザートとして出されたのが、さつま芋で作られた芋ようかん。ベタつかない程よい甘さが好ましいお菓子でありました。•••いやあ、今回もたっぷりしっかり、堪能させていただきましたよ。
お会計のとき、お店の方がレジで渡してくださったのが、ご当地生まれの「ボンタンアメ」でした。



鹿児島の外でもお馴染みであるお菓子ですが、手にするのはけっこう久しぶりでありました。お店の心遣い、とても嬉しく思いましたねえ。
薩摩の歴史と風土が育んだ食材と調理法で作られた薩摩郷土料理を、細やかなおもてなしと気配りで供する•••。薩摩の魂を舌と心で感じさせていただき、大いに満足してお店を後にしたのでありました。•••ちょっとばかり、真っ昼間からほろ酔い加減ではございましたが。
お店を出てからふと路上を見ると、マンホールの蓋が目に止まりました。



その中心には•••なんと、島津家の家紋である「丸に十字」の紋様が!こういうところでも薩摩の歴史をアピールしているとは。うーむ、恐るべし鹿児島。
空模様はまだ曇ってはおりましたが、どうやら雨の心配はなさそうでありました。


(次回につづく。ひとまず、全6回という予定でお伝えしていくつもりです)




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