熊は勘定に入れません-あるいは、消えたスタージョンの謎-

現在不定期かつ突発的更新中。基本はSFの読書感想など。

ウルフ群島を漂流中~死の島の博士編

2006年03月04日 | Wolfe
『死の島の博士』を読了。姉妹、じゃなくて島医3部作中では
一番ストーリーラインがわかりやすく、深く突っ込まなくても
面白く読める作品だと思う。

ビジネスパートナーを殺害した罪で服役中の男がガンを患い、
その治療法が確立されるまで冷凍保存されることになった。
彼が目覚めたのは40年後。医療の発展でガンは治ったが
不死療法の確立した世界は、どこか奇妙な変貌を遂げていた。
やがて彼は懐かしい本、そして懐かしい人々と再会する。
しかしそれらもまた、奇妙な姿へと変貌していたのだった…。

『アイランド博士の死』を怒れる=イカれる青春小説とすれば、
こちらはビジネスあり不倫ありの、ほろ苦い大人向けロマンスか。
あるいはネガティブ版『夏への扉』といった趣きもある。
『アイランド博士』とは対照的に、こっちはある程度の歳を
重ねている人のほうが、すんなり共感できる点が多いかも。

本を人に見立てたり、不死と芸術の関係に言及してみたり、
やっぱり主人公の記憶があやふやだったりと、ウルフらしい
仕掛けや目くらまし、隠されたテーマなどはいろいろあるが、
読んでいる間にわずらわしくなるほどのものではない。
これなら一般受けも期待できそうな話である。

ただし前2作を読んできた読者にとっては、これがまたもや
正しい意味での「続編」だということがわかるはず。
ラストを読めば、これが3部作の掉尾を飾る作品だった理由も
納得がいくというものだ。
最後に出てくるのは真の意味での「デス博士」なのだから。

付け加えるなら、ここへ『島の博士の死』を加えることにより、
『The Wolfe Archipelago』はひとつのサイクルを形成する。
3部作だけでは線的な流れだった作品群が、人生の大きな輪を
形作るのである。
3部作読了後にもう一度「まえがき」を読んでみると、改めて
ウルフの巧妙な手口が実感できるというわけだ。

ただし、円環にとらわれて抜け出せなくならないように。
この先にはまだまだ「その他の物語」が控えているのである。

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