水川青話 by Yuko Kato

時事ネタやエンタテインメントなどの話題を。タイトルは勝海舟の「氷川清話」のもじりです。

・左か右か 続

2005-04-12 22:25:53 | きものばなし
つい先日、「はやく単衣が着た~いい!」と騒いでいた自分が嘘のような、今日の東京のおお寒い。

なぜ着物は、襟のあわせが正面から見て「y」の形になる着方が正しいとされ、なぜこれを「右前」と呼ぶのか。話題を続けます。

善きサマリアびとの友人に引き続き、親切な人たちにいろいろと教えてもらってホクホクしてるので。

まず友達が、昨年9月24日付「週刊朝日」の記事を送ってくれた。題名は「着物の左前、なぜそこまで嫌われる?」。なかなか面白い記事だった。それによると「明日香村の高松塚古墳(8世紀前後)の壁画、『飛鳥美人』と呼ばれる女人像の着物は『左前』」。日本で着物の打ち合わせが「右前」(=「y」)と決まったのは西暦719(養老3)年に元正天皇が出した「衣服令」がきっかけだそうな。

「衣服令、左前」でググったら、詳しい記事がわんさか出てきたので、詳しく知りたい方はそちらをどうぞ。日本の律令制の成立と共に、官位と合わせて服制も正式に決まっていく過程でのことだそうな。

さらにこの週刊朝日記事から引用すると、

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衣服令が出る直前に遣唐使が帰国していることから、当時、世界の最先端の文化を誇っていた唐が「右前」を採用していたので日本もそれにならった、という説が有力である。当時の朝廷は何でもかんでも唐のマネをしたがったらしい。

ちなみになぜ、唐では左前を嫌ったかというと、中国の北方騎馬民族が馬の上で矢を射るとき、服が邪魔にならないよう左前を愛用していたことから、左前イコール野蛮な民の文化という発想だったらしい。中国哲学を代表する書物、孔子の「論語」には「四夷左袵」という言葉もある。つまり「野蛮な地は左前にしている」という意味である。


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なるほど~。

では、(しつこいけど)なんでこの「y」の合わせ方を「右前」と呼ぶのか。「前」という言葉の定義が問題(だからわたしは誤解していた)じゃないのかと書いたところ、ブログ「持続する夢」のこやまさんが、わざわざメールを下さった。許可をいただいたので、一部ご紹介すると、

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「前」という言葉には「過去」という響きを最初に感じます。そのため、まず右手を動かして引き寄せるという動作が「右前」なのだと、自然に解釈していました。

(そういえば「先ず」という「先」という言葉にも、将来という意味と、その逆がありますね)

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なあるほどおお!!! 「前」は位置関係の「front」ではなく、時系列の「before」「previous」「first」の意味の「前」、つまり「先」ですかああ! 

最初に(先に)体にくっつける側が右だから、「y」=「右前」。逆に死装束は、先に体に左側をくっつけるから「左前」。なんだ、すごい分かりやすいじゃないか。

そういえば「前」と「先」は意味の互換性が高いです。「さきの副将軍水戸光圀公」と格さんが言うのは「前の」という意味だったと思う。そして「前」と同様「先」にも、時系列の意味の「before」のほかに、位置関係の意味の「front」の意味もある。これってまた語源的に調べれば、「先」と「前」の関係、面白そうだなあ。

脱線しました。ともかく、なんで「y」を「右前」と呼ぶのかで議論した同僚も、この説明にはすんなり納得しました。こやまさん、ありがとうございました。

(ちなみに今この記事を書いていて、上で「あわせが正面から見て『y』の形になる着方」と書いたとき、ふと別のことを思った。もしかして「y」を「右前」と呼ぶのは、正面から見てのことじゃないか? 正面から見れば「右が前」だもの。でもこれを言い始めると、やっぱり自分で着る時に混乱する。特に私は。だから追求しない)

(我が身を振り返ってみれば、そういえばわたしは左右の認識能力どころか、図形認識能力が極端に低かった。中学生の時点ですでに幾何は脱落しかかってたから……。平面でも混乱するんだから、立体図なんかになった日には……。多面体の展開図なんか、ぜっったいにムリ。でも絵は描ける。パースもとれる。つうか得意。なぜ。あと地図も読める。つうか得意。なぜ。でも右を指しながら「左!」と言ってしまう。わけわからん)

さらに、わたしが二度と死装束で外に飛び出していかないよう、ありがたいアドバイスも。こやまさんからは「右利きでいらっしゃるなら、仕上げのチェックには胸元に何か入れる動作をされてみるのがいいと思います」と。やはりメールを下さった、かわうそさんからも「右手が入ればよし、で確認してます」と教えていただきました。なるほど~。わたしのように鏡を見ると混乱する人間には、とても嬉しいアドバイスでした。

みなさんどうもありがとうございます。嬉しいです。おかげさまで、これで今回の「左前事件」をトラウマにしないで、これからも着物姿で町に飛び出していくことができます。こないだは着物姿のまま、お魚くわえたドラ猫ならぬ、迷い猫ポスターの写真そっくりの猫を追いかけたし(結局は別猫だったけど)。今後もがんばります。

あと、この「右前」「左前」の話題、「私はこう」「私はこういう経験が」という情報交換が楽しそうなので、コメント受け付けます。よろしかったらどうぞ(といっても最近、gooのサーバが夜はやたらめったら重いので、書き込めなかったり消えてしまったりしたら、本当にごめんなさい)。