水川青話 by Yuko Kato

時事ネタやエンタテインメントなどの話題を。タイトルは勝海舟の「氷川清話」のもじりです。

BBC『SHERLOCK(シャーロック)』第二話についても、ネタバレで騒ぐ

2011-08-23 21:29:00 | BBC「SHERLOCK」&Benedict Cumberbatch

追記あります

第一話放送の狂乱に引き続き、第二話「The Blind Banker」についても騒ぎます。といっても、全体の総評も書いた昨夜のエントリーと違って、第二話についてはそんなにたくさん書くことがない……(ごほごほ)。むしろ本筋以外のところがすごく面白いので、第一話でシャーロックとジョンが好きになった人には、十分楽しめるはず……(ごほんごほん)。

プロデューサーいわくこの第二話は、「ゆるく『踊る人形』をもとにしてる」とのこと。

まあねえ。原作の「踊る人形」は、黙って座ってるワトソンが何を考えてるかホームズがいきなり当てるオープニングが有名で、すごく好きなのだが、それは使われなかったのが残念。あのままやっても映像的にはダレるが、このコンビで観てみたかった。いずれにしても、「踊る人形」は暗号解読ものとしてとても有名。「英語で最も多用される文字はE」という原則を私も子供の頃にこれで習った。習った知識を役立てる機会はまだないが。

プロットをかいつまめば、女性の過去に暗い影を落とす犯罪組織(原作ではシカゴ・マフィア)が暗号を使って女性の今の幸せを脅かし、あげくには関係者が次々と殺されていくというもの。だまされて巻き込まれてしまう善良な依頼人が、とても気の毒なのだ。

グラナダ版ホームズでも映像化していて、あの50分程度の尺にはちょうどいい分量の話だった。「SHERLOCK」は90分なので、ちょっと間延びした感じは否めず。「シャーロック・ホームズと中国3000年の死の秘宝と蜘蛛男と青龍刀」的な超キッチュな展開になっているのは……これはまあ、もともとホームズってそういうテイストの娯楽小説だしぃと私が言い訳をしてどうする。だって、「ま、まだらの紐だ!」ですよ? 「地獄の魔犬だ!」ですよ? ホームズものというのは、水も漏らさぬ緻密なプロットを芸術品のように鑑賞するものではなく、めったやたらな娯楽性をドキドキわくわくと楽しむものなので、そういう意味では子供の頃からホームズを読んでいた私が、長じて歌舞伎にハマッたのも当然のなりゆきといえる……か?

ホームズ自身がめったやたらと「これは科学だ!」と強調するのに、それを記録しているワトソンが「メロドラマ」に仕立ててしまうせいだ、とも言える。「SHERLOCK」でも同じような苦情をシャーロックが繰り返している。

いずれにしても、ジョン・ル・カレ作品や「第一容疑者」のような、緊迫するリアリティの作品群と、ホームズはそもそもの成り立ちが違うのだあ!ということで、二話の感想終わり……ではなく。

「密室もの」と聞いてときめく好事家には楽しいかもしれないが、ストーリーについてはこれ以上あまり言うことがないので、ゲラゲラと楽しいディテールについて。

 

○ 作中でシャーロックが書き込んでいるサイトや、ジョンが書いているブログが、実際にウエブに上がっていて普通に読める。もちろん番組が作っているもので、第三話までのネタバレありなので要注意だが、物語と実に巧みに絡んでいて、シャーロックの「FORUM」のやりとりや、ジョンのブログのコメント欄が実に秀逸。そのジョンのブログによると、この第二話は二人の最初の事件から約二カ月後の話。赤の他人からいきなり同居人になって二カ月近くたちました、というその関係性の変化が、実に微笑ましい。

○ スーパーの無人レジで機械と格闘するジョン。これはマーティン・フリーマンのファンには嬉しい。映画「The Hitchhiker's Guide to the Galaxy」でも、あちこちで機械と格闘するマーティンがいました。

○ ジョンが機械と言い争いする間、謎の刺客と格闘するシャーロック(これに似た本筋と無関係な派手な格闘シーン、グラナダ版でもあったような気がするのだけど、思い出せない)。これで台所のテーブルに刀傷がついたのをハドソンさんはとても気にしてます。ワトソンのブログでもわざわざコメントしています(ちなみにワトソンのブログでは、ハドソンさんはお隣の「ターナーさん」のパソコンから入力しているので、名前がMarie Turnerになってる。スタッフ、オタク過ぎ)。

○ とはいえ、同居人とはいえ、自分のカードを使ってもいいよと言うものかね? まあこれが後になって伏線として活きてくるわけだけど。

○ 私も留学時代にハウスシェアの経験があるけど、みんな自分の分の買い物は自分でしていた。こうやってスーパーの買い出しは誰の番だとか(二人のサイトにあるように)牛乳を買いに行くのは誰の番だとか、そこら辺でもめてるあたり、こいつらすでに「家族」ですな(笑)。

○ 「I need to go to the bank」という言い方は、「銀行に行かなくては」という直訳の意味よりむしろ、「お金おろしてこなきゃ」という意味合いで日常的に使う表現。なので話の流れからして、ジョンがそう思うのは当然なんだけど、行った先はおっとどっこい。

○ ここでシャーロックの「大学時代の知り合い」が出てきたから、私は「これはMusgrave Ritualなのかな」と勘違いした。またこの知り合いがイヤな奴で! 

(2012年7月追記。「Hawking」を見直していて、「んーこの役者さん、見覚えあるなあ、誰だろう」(しばらくして→)「ああ!」というAh-ha momentが。この「大学時代の知り合いセバスチャン」を演じるBertie Carvelは、「Hawking」でベネディクト演じるスティーブン・ホーキングの大学のお友だちジョージでした。最近では舞台「Matilda」でオリビエ賞受賞。「We were at uni together(大学で一緒だったんだ)」っていう「シャーロック」での台詞が偶然だったら、そりゃすごい。

○ シャーロックとジョンの関係が「Friend」か「Colleague」か、そこが問題だ。シャーロックは今まで「this is my friend」と紹介できる対象がいたかどうかもわからないので、大学時代の知り合いにジョンを「friend」と紹介する心の内が切ない。あっさり「colleague」と否定されちゃうし(T^T)。この場面で「friend」をそんなに強く否定するジョンはなに、レジでのことの八つ当たり? お金を下ろしに行くのかと思ったら、また引きずり回されてるから?

○ 探してる相手のマンションに不法侵入すべく、「ハーイ」と瞬時に軽くて今どきの30代ヤッピーに変わる演技が素晴らしい。ホームズと言えば変装なわけだが、今作では付け鼻やカツラを使っての変装は止めようと決断したと、第三話のコメンタリーでも話していた。おかげで、ルパンみたいな顔マスクべりべりべりではなく、役者の演技力で「変装」する様が観られて、役者好きには眼福。

○ それにしても、221Bとこのシティバンカーのマンションの落差! 億単位の金を動かす今どきな金融関係者のステレオティピカルな億ションって、万国共通なのか。万国共通の味気なさなのか。あのブドウはそんなに酸っぱいのか。

○ シティ関係者の自殺はよくある話だって……(苦笑)。

○ 「ペンをとってくれないかと言ったんだ」「え、いつ?」「一時間くらい前に」って、おい(爆笑)。

○ 一貫して、タクシーで移動する場面の撮り方が美しい。ゆき過ぎるロンドンの街並みが車窓に映し出されていく絵は、本当にきれい。

○ トラファルガー広場をナショナルギャラリーに向かって歩きながら「絵については専門家の意見がいる」と言うのだから、美術館に入るのかと思いきや……のこの外し方がステキ。そして、こうやってバンクシーもどきというか(最近話題の)Chavっぽい連中やホームレスをネタ元にしてるのは、原作のホームズが浮浪児たちを「The Baker Street Irregulars」として使っていたのとよく似ている。

○ まったく余計なお世話ですが、殺されたトレーダーの美人秘書アマンダ役は、ベネディクトと大学時代からずっとつきあって一緒に住んでいた恋人、オリビア・プーレットです。撮影当時はまだつきあっていたはずだが、今年3月に破局報道が。まったく余計なお世話だな。

○ 中華街でお食事。ジョンだけ。ラストの朝食も同様。グラナダ版ではワトソンはよく食事をするがホームズは食べ物を一切口にしない、たとえ同席していても食べないというのが(一部で)有名だった。「シャーロック」でも今のところその様子。

○ ジョン・はい、気になる女性にはグイグイいきます・ワトソン。チャンスは逃しません。原作でも2話目の「四つの署名」で知り合った女性とさっさと結婚しましたからなあ。

○ 暗号のカギが本のページにつながるという解読法は、「恐怖の谷」より。「誰でも持っている本」というのは、今作では「ロンドンAtoZ」だったが、「恐怖の谷」では「ホイテカー年鑑」だった。

○ 今作のホームズはロンドンを訪れる罪もない観光客に恨みでもあるのか。一話でタクシーを強襲されたアメリカ人といい、AtoZを奪われるドイツ人といい。

○ ちなみにこのエピソードについてジョンはブログで、「まるでジェームズ・ボンドものみたいだった」と。対してシャーロックは「なんだそれは! あっちに走ったこっちに走ったって、それだけか。推理はどうした、推理は! どこに行くべきか僕がどう推理したかだろう!」とコメント欄でいたくご立腹。そしてそういうジョンとシャーロックのやりとりにいきなりコメントでからんでくる、気持ち悪い奴……。

○ 31歳独身、猫と暮らし始めました検死官(?)モリー・フーパーの片想いブログを読んでしまった後で観ると、彼女の場面はどれもあまりに切ない (T^T)。シャーロックが自分にかまってくれるのは何か狙いがある時だけって、わかってるんだもの。サラと友達になれるといいのに。

たくさん書くことがない、と書いた割にはたくさん書いてしまった。さて、明日は早くもファーストシーズンの最終話。可愛くて不気味で面白いっすよー!!!