いつも行く酒屋の少し手前に、いつの頃からか魚屋ができていたのは知っていた。
一般的な魚屋のように店先をオープンにして営業していない
黒いショーウインドウで閉ざされており、中の様子が伺いしれない怪しい魚屋なのだ。
前々から中がどうなっているのか、気にはなっていたが、取り立てて魚屋に用があるわけでもなく、なんとなくそのままになっていた。
先だって後輩から、
「中で飲めますよ。」
との情報が。
なにー!
そうと聞いちゃ、行かないわけにもいくまい。
恐る恐るドアを開けてみた。
魚屋としてのアイテムが・・・ほぼない。
フローリングのフロアにいくつかのテーブル。
奥にはカウンター。すでに酔客が二人座っていた。
さらに奥には厨房が見える。
魚屋らしき景色は僅かにこれだけ。
これだけが一番奥の隅っこに見えた。
フェイク魚屋。
そうとしか言いようがないではないか。
首をかしげながらカウンターに座る。
「へい、らっしゃい。何にしやす?」
トロ箱コーナーから魚を選んで、刺身にしてもらったり、焼いて貰ったり、或いは陳列ケースの惣菜を選んで、それを器に盛って貰ったりというシステムらしい。
無論、凝った手間のかかる料理はやっていない。
さらに、早朝からの本来の魚屋としての仕入れ業務があり、8時で閉店するとの事。
魚屋が経営する居酒屋は珍しくはない。
だが、ここの場合はちと違う。
あくまで魚屋の店内の一画で、客に酒を飲ませているというだけである。
ただ、その一画がスペースの大半であるだけだ。
現に、私らが食事をしている間にも、魚だけを買っていく本来の正統な客も来店している。
私らが異分子なのだ。
まずは、お通し代わりにと総菜コーナーの豆腐ステーキをリクエスト。
ちゃんと、温め直しもしてくれて、お皿に出してくれる。
ガンモをフライにしたものだが、これがなかなかに旨い。
続いて、トロ箱に立派なアサリが見えたので、酒蒸しを。
言う事なしだ。
こうなってくると、ビールでは相手不足だ。
日本酒が欲しくなる。
地酒の庭の鶯大吟醸。
タイラギの貝柱。
筑後の人間にとって、貝柱と言えばタイラギである。
ただし、有明海のタイラギは全く取れなくなっている。
別の産地の物だろうが、無い物ねだりをしても仕方がない。
ホタテにはないコリコリとした歯ごたえが堪らない。
白子ポン酢
旨いぜ!
太刀魚の炙り。
これは大将が勧めるから炙ってもらったが、刺身のままがよかったかな。
この他、ナマコ酢なども注文。
帰りに惣菜をいくつかお土産で買って、飲み代まで含めて4000円かからなかった。
安い!
しかも魚屋だからどれも新鮮。
もっと早く知っとけばよかったよ。
良い店、みぃーーけっ!