りなりあ

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約束を抱いて:番外編-幸せへの願い-5・完

2007-03-23 11:35:44 | 約束を抱いて 番外編

◇杏依◇

人を待つのは幸せ。

待つという行為は寂しい感情を伴うと思っていたから、以前は苦手だったけれど、結婚してからは、とても幸せな事だと知った。
今までは、私の事を待ってくれている人がいて、私はその事には気付かなくて、だけど、自分が待つ側の立場になると、これから会う人達の最初の表情が楽しみで、そして少しドキドキする。
「杏依さん、何かしら、これ?」
私達は突然現れたオブジェに驚いていると、料理長が近づいてくる。

「大きなティースタンド、みたいなものですね。お皿をグリーンにします。」
溜息が出た。
「ケーキは一番上?」
「杏依様、目に入ると欲しくなるでしょう。」
とても優しい気遣い…なのかしら?
この上の部分に届く人は限られると思う。
「あ、そうだ。ねぇ、むつみちゃん。涼君がね。」
どうして晴己君じゃなく、私に電話をしてきたのかしら?
「今夜、来てくれるらしいわ。」
むつみちゃんが、嬉しそうに幸せそうに微笑む。
見ていて嬉しい反面、ちょっと不思議な気分。

◇◇◇

緑のお皿に盛り付けられたケーキは、まるで小さな飾りのようで、完成したそれは立派なクリスマスツリーだった。
むつみちゃんのお皿にはケーキが盛り付けられていき、それを軽々と選ぶのは、彼女の好みを全て把握済みの晴己君。
そんな光景を見ながら、サンドイッチを取りながら、橋元君は不機嫌になっていく。
「優輝も、すぐに身長が伸びるよ。」
晴己君の言葉は、嫌味な感じ。
「いい考えだろ、杏依。見たら食べたくなるって騒がれても困るからね。」
勝ち誇ったような晴己君の笑顔に、むつみちゃんは困った顔をして、私は不機嫌になる。
「晴己君って、本当に意地悪だわ。」
1人でブツブツ不満を言っていたら、神様の贈り物のように、私のお皿にホワイトチョコのケーキが載せられる。
「…涼…君?」
「ビターっぽいのもあるけど、どうする?」
見上げると、私には未知の世界に手を伸ばしている人がいる。
「苦いの…苦手です。」
言うと、少し甘めのチョコレートケーキが載せられる。
「ありがとう。涼君。」
「涼。」
明らかに咎める声が耳に届く。
「分かったよ。」
鬱陶しそうに答える声は、続けて小さな声で私に囁く。
「大人気ないのは晴己だと思うけれど?」
思わず笑ってしまった。
今日みたいな晴己君は、珍しいかもしれない。

◇◇◇

とても感情が露になっていると思う。
怒っていたり、笑っていたり。
やきもちや嫉妬や、悔しさや。
そんな想いも全て含めて、この空間を幸せだと思った。
小言も、意地悪な行動も。
愛しているから生まれるもの。
特別な行為や感情は、深く関わる人達だから許される事。
ちょっと意地悪な晴己君。
それに反抗する橋元君。
そんな2人の間で困るむつみちゃん。
彼女と私に優しくする事で、晴己君と橋元君を不機嫌にする涼さん。
全員を呆れたように見て、事態が収まるのを待つ久保さん。
娘の幸せを、一番近くで、そして時には遠くから見つめる碧さん。
客観的に見ると、この雰囲気は異様かもしれないけれど、私達が望む幸せは同じ。
尊くて美しい、新しい恋の幸せ。
この恋を守れるように。
幸せが集まれば、大きな強さになっていく。

彼女が幸せを、その心に抱けますように。

この先も変わらずに、あふれる想いは、幸せへの願い。

 
            ◇◇◇幸せへの願い・完◇◇◇



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