りなりあ

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約束を抱いて:番外編-幸せへの願い-2

2007-03-19 12:53:33 | 約束を抱いて 番外編

◇涼◇

予定がなくて暇だと思うと、起きるのが面倒だった。

カーテンを開けると寒々とした木々が目に止まる。
部屋から出て1階に行くと、家は静まり返っていた。
冷やされてしまった室温が、誰もいない事を告げている。
優輝は、彼女との待ち合わせに向かったのだろう。
両親は、久しぶりに2人で食事をすると言っていたから、今夜は遅くなるだろう。
祖父母は昨日から旅行に出かけていて、この家には俺しか残っていない。
さすがに24日に誰かを誘えないと思い、昨夜は数人の友人と飲み歩いた。
目覚めると、既に昼を過ぎている。
冷蔵庫を開けて水を飲む。
適当に食べられそうな物を胃に入れて、テレビをつける。
ざわざわと騒がしい番組は、忙しそうに画面の中を人が動いているが、内容は全く耳に入ってこない。
テレビの音だけが響く家は妙で、普段の騒々しさが消えた家は居心地が悪い。
携帯電話を見ると着信が残っていて、その名前を見て溜息が出た。
暇だから電話でもしてみようと思っていたら、手の中の電話が振動する。
「おはよ。今、起きたでしょ?」
電話の向こうで響く声は、あまり聞きたくない声だった。
「昨日は明け方まで飲んだんだって?涼ったら、最近変よ?今まで彼女が途切れる事がなかったのに。まさか今日も予定がない…とか?自分が暇だからって、あまり私の彼を連れ回さないで。」
寝起きで聞かされる勢いのある小言は、二日酔いの頭に直接響く。
「御心配なく。今日はお2人で、ごゆっくり。」
電話の主は、名目上は“元彼女”。
俺が初めて付き合った相手で腐れ縁と言うのが正しい存在。
付き合ったといっても、当時俺達は中学生で健全な付き合いだったし、その期間は3ヵ月と短い間だったので、実際に元彼女と表現できるほどでもない。
だけど、その後の付き合いを考えれば、彼女に対してが一番真剣に向き合っていたように思う。
期間は短くても。
「みんなで飲もうって言ってるんだけど、来ない?」
こんな風に、さりげない優しさも彼女は持っていて。
「弟君に彼女が出来たらしいわね?」
何も話していないのに、今の俺の状況を何故か知っているのも、いつもの事。
「大丈夫、涼?」
彼女は以前住んでいたマンションが同じだった。
だから、優輝と卓也のことは、近所の噂で耳に入っているはずだ。
「弟君なら大丈夫でしょ?テニス続けているし頑張ってる。きっと、大丈夫よ。」
優輝が転校した事も、テニスをやめた事も、試合に勝った事も、彼女は知っている。
「私は涼が心配よ?そろそろ弟離れしたら?」
「…うるさい。」
電話の向こうで、小さな笑いが洩れたのが分かった。
「来ないの?」
「今日は、予定があるから。」
そう言って電話を切る。
彼女の言うように、優輝は大丈夫だと思う。
俺が考えているよりも、優輝は強いようだ。
だけど、優輝だけが強いわけじゃなく、周囲の人に支えられて、ここまできたのも事実。
卓也が優輝を責めない事も、晴己が優輝を認めようとしている事も。
誰もが自分の中にある弱さと戦って、負けないように傷つかないように、大切な人を守る為に強くなっていく。
それが分かっていながらも、俺は自分の中に彼らのような強さを見つける事が出来ず、どうにも気持ちが落ち着かない。
携帯から1つの番号を探す。

優輝と彼女は、晴己の家に到着したのだろうか?


                  ◇加奈子◇へ続く



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