りなりあ

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約束を抱いて:番外編-はじまり-後編

2007-04-02 13:33:11 | 約束を抱いて 番外編

並べられている料理は次から次へと優輝君のお皿に移動し、そして食べられていく。
本人曰く、あまり美味しくないらしいけれど、堪能しているように見えるのは、私だけなのかな?
「むつみ、今日も英語?」
「うん。」
私がここに滞在する間、はる兄は私に英会話の勉強を勧めてくれた。
私は今日家に戻るから、この朝食の時間が一緒に過せる最後の時間で、今度会えるのは年が明けてから。
ほんの少し離れてしまうだけなのに、それが寂しくて、もっとここに残りたいと思ってしまう。
学校が始まるのを待たずに約束すればいいと分かっている。
考えてみれば、優輝君と私が自分達で約束をして会った事は、ないのかもしれない。
春休みの時は、テニスコートに行けば会えると思って、私は毎朝通った。
最後の日に夏に会う事を約束したけれど、結局、それは果たされる事はなかった。
テーピングの為に優輝君が保健室に来てくれるようになったのも、なんとなく、という感じ。
テストの為の勉強も涼さんが話を進めてくれたし、イヴも新堂の家が招待してくれた事。
こうして数日間ここで過しているのも、母が留守にしているからだし、和枝さんにお休みをとってもらう為。
英会話の苦手な私の為に、先生を呼んでくれて新堂の家で勉強できるようにしてくれたのも、はる兄。
結局、周囲の人の協力で、優輝君と会える事が可能になっている状態。
私は嬉しいけれど、優輝君はどう思っているのかな?
いつも、私ばかりが追いかけている状況で、優輝君は鬱陶しいと思っているみたいだし、嫌がられていると分かっているけれど、傍にいたいと思う気持ちは消えてくれない。
邪魔になりたくないから、食事の時間ぐらいなら許されるかな、と思っているけれど、もしかするとそれも鬱陶しいのかもしれない。
「むつみ。」
名前を呼ばれて優輝君を見ると、食欲旺盛な彼の手が何故か止まっていた。
「今日、帰るんだろ?」
「うん。」
優輝君は、もう食事が終わったのかな?
私も朝食を食べなきゃいけないのは分かっている。
家政婦さん達が遠巻きに見ていて、困っているのを感じる。
「明日は練習、昼までだから。」
優輝君の気持ちが掴みきれていなくて、私との気持ちに温度差があるのは分かっている。
贅沢になっていく自分が情けないし、少し怖い。
「終わったら、会いに行くから。」
優輝君の言葉が私の心を満たしてくれる。
今は、前ほど嫌われているわけではなさそうで、傍にいる事は許される、かな?
「優輝君。」
言いたくて、音になりそうな想いを心に戻す。
好きだと言うと迷惑そうで、あまり言わない方が良さそう。
「なに?」
不思議そうな優輝君の瞳が、私に問いかける。
「待ってるね。何が、食べたい?」

窓の外の冷たい気温が、昇り始めた朝日に温められる。
冷たく凍えた冬の空気の中でも、木々は目覚め始める。
動き始める時間と目覚め始めた心が調和していく。

はじまりを告げる音が耳に届く。


今日は、とても暖かくなりそうな気がする。

              

             ◇約束を抱いて-はじまり-完◇



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